第４分科会 大学図書館が取り組むべき学習支援・教育支援の探求
運営委員 久保田 学（早稲田大学）
川崎 安子（武庫川女子大学）
アドバイザー 中林 雅士（明治大学）
１．分科会のねらい
学生に主体的、自立的な学びを身に付けさせることが喫緊の課題となっており、その解決に向けて専門性を有する図書館に多くの役割が期待される。図書館職員が教員や他部局と連携しながら学生に基礎的な学習技法を身に付けさせるなど、学習支援活動の一翼を担うことが期待されている。また、教員のニーズを把握し、教育コンテンツのアーカイブ化やデータベース化、情報提供元との交渉による電子教材の整備や共同開発を行うなど、ICT の観点から教育支援活動に関与することが不可避となってくる。これまでの図書館業務について管理重視の業務から、自立学習を支援する業務と教材整備を支援する業務に転換していくことが期待されている。
本分科会では、図書館が教員及び他部局と連携して行う学習支援、教育支援の可能性を考察する中で、自大学における問題抽出と課題解決にあたって備えるべき視点を獲得することを目指す。
２．討議テーマ
- 図書館が担うべき学習支援を確認する。
初年次教育の課題である学習技法の取り組みに向け、図書館としてどの様な役割を担うべきか省察し、具体的な学習支援の範囲・内容について意識合わせする。 - 電子書籍を活用した新たな教育支援のあり方を考える。
電子書籍の適用範囲が広がってきた。これを利用した共同学習モデルの構想なども提案され新たな可能性も見えてきた。大学が保有する教材の電子書籍化について、実現に向けた課題と可能性を検討する。 - 他部局や教員と連携した組織的な学習支援体制を考える。
教育支援・学習支援の発展的な提案を行うために、教員や他部局との連携のあり方を考える。
３．獲得目標
- 学習支援に立脚した図書館サービスを具体的にイメージすることができる。
- 教育支援として電子教材を整備・充実することの重要性を認識し、図書館として果たすべき役割を考えることができる。
- 自大学における問題抽出と、課題解決に向けた図書館の役割と責任について認識できる。
４．概要
（１）全体的な流れ
�〇�前研修
研修会当日を迎えるにあたり、自大学の現状と課題を紹介するレポートの作成と、創造技法を用いたグループ討議を行うため、討議テーマに即したニーズカードの作成を参加者全員に課し、メーリングリストを活用して交換した。この段階で18個ものニーズカードが寄せられ、参加者の積極的な姿勢がうかがえた。これにより研修会では、スムーズに討議を始めることができた。
�∋�例研究
図書館と、情報関連部門の立場から2大学の事例紹介を行った。
��グループ討議
参加者数が4名であったことから、運営委員とアドバイザーもメンバーとして加わり、計7名1グループとなって大学図書館が取り組むべき学習支援・教育支援について創造技法を用いて討議を行った。
�ぅ瓠璽螢鵐哀螢好箸砲茲觧�後研修
研修会では、創造技法に基づき6項目の目的関連図が完成したものの、時間の都合で各々の実現案は４項目までしか作成できなかったため、残り2項目についてもメーリングリストを通じて作成し、すべての目的・目標に関して実現案を完成させることを事後研修とした。
（２）事例紹介
� 嵳�用者ニーズへの対応−ICTの活用−」
中林 雅士（明治大学 学術・社会連携部 図書館総務事務室）
�◆崛甍霤賃膤悗両霾鷁戎篆並寮�について」
久保田 学（早稲田大学 文学学術院事務所）
全体会において情報を戦略的に活用し公表することの重要性を学んだ上で分科会では、従来の既成概念から一歩踏み込んだ、図書館の利用履歴データをも含むあらゆる情報の利活用とともに、教職協働および他部署連携による新たな図書館サービスの創出が求められているのではないかとの結論に至った。
具体的に事例紹介では、明治大学の中林氏より「大学と学生が図書館に求める機能とは何か？」を意識して、常に変化する利用者ニーズを的確に捉える必要があるとの指摘がなされ、実際にICTを活用した3種のサービスモデルが提示された。
【利用者ニーズの類型】
�� 授業に関連する資料を知りたい
・ サービスの現状
シラバス参考図書、参考文献リスト、パスファインダーなどの作成。
・ ICT活用事例
図書館と授業をNDC分類でつなぎ、授業情報から資料を探す仕組みを再構
築。エビデンスとして、学生納付金に対する図書費・貸出資料額を算出
して提示。
�� 電子書籍を授業で活用したい
・ サービスの現状
日本では課題山積。電子化しただけでは学習支援にならない。
・ ICT活用事例
ソーシャルリーディングによって読書体験を共有させ、読者をつなげる試みを実践。電子書籍を使った授業モデルのプラットフォームを図書館が提案。
�� どんな本を読めばいいのか知りたい
・ サービスの現状
実際のところ学生は、何の本を読めばいいのかわからない。このような学生の内在的ニーズに図書館は応える必要がある。
・ ICT活用事例
学生活動のすべてに資料を関連付ける。つまり、学生の活動履歴を活用して
データマイニングを行い、教育支援へと発展させる。
さらに、図書館員に求められる役割・資質として、以下の4タイプを提起された。
・ インテグレーター： 新しいサービスを計画・設計し、実現させる
・ プロデューサー： 新しい企画のために必要なものを準備し、全体を通じてプロジェクトを円滑に進める
・ キュレーター： 自らの資産を活用、再評価し、利用者に提案する
・ エデュケーター： 自らの資産を活用して、教育活動を実践する
また、早稲田大学の久保田氏からは、早稲田大学における情報化推進体制について紹介があった。システム開発に関する意思決定の一元化と、指揮命令系統の簡素化を図るために情報関連組織の再構築を2003年７月に行い、情報関連機能と人的資源を集中させることによって、学生・教職員に対する最適な情報環境の提供を実現した。
これらの事例は、図書館サービスの新たな可能性を示唆するものであり、その後の討議を深める貴重な先例となった。
（３）討議内容
最初に、全体会および分科会での事例研究をふまえてディスカッションを行った。創造技法「WISDOM」に則り、討議テーマに関連したニーズカードの内容を検討した結果、テーマを「学生の視点で見た理想の大学図書館」と定め、ニーズのグループ化を図った。これにより、現状と到達目標の両方に焦点を合わせながら、新しい大学図書館をイメージしつつ、6項目の目的関連図を作成することができた。その内容は導入教育に始まり、他部署との連携による教学データの有効活用、社会人基礎力を涵養するための支援サービスなどにより、大学の個性に合わせた図書館づくりを推進するものである。人も予算も十分ではない業務環境の中で、固定観念から脱却し、自由な発想によって改革案を創出する楽しさを味わえた。
事後研修を含め、最終的には6つの目的・目標すべてに対して具体的な実現案を提案することができ、参加者にとっては貴重な経験になったと思われる。
５．まとめ
（１）分科会のねらいに対する結論
研修終了時、参加者には「自己評価シート」の記入・提出を求めた。集計した結果、本分科会が掲げた3つの目標達成度は以下のような状況であった。
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・学習支援に立脚した図書館サービスを具体的にイメージすることができる。 ＜達成：75％ まあまあ：25％ どちらとも：0％ あまり：0％＞ ・教育支援として電子教材を整備・充実することの重要性を認識し、図書館と して果たすべき役割を考えることができる。 ＜達成：25％ まあまあ：25％ どちらとも：25％ あまり：25％＞ ・自大学における問題抽出と、課題解決に向けた図書館の役割と責任について 認識できる。 ＜達成：25％ まあまあ：75％ どちらとも：0％ あまり：0％＞ |
やはり、電子教材の整備に図書館が主体となって参画することに対しては想像の域を出ず、発展的な役割を認識するには十分な結論を導き出すことができなかった。他方、学生を自立的な学び手へと転換させるため、図書館が担うべき学習支援機能を具体化することに対しては積極的な取り組み姿勢がうかがえ、満足度の高い成果を確認することができた。
（２）討議テーマに対する結論
初日の全体講義では、情報の客観性と信頼性の確保が不可欠であり、これからは機関レベルのIR（Institutional Research）が必要であるとの方向性が示されたが、図書館も決して無関係ではなく、図書館員自身が情報の価値を認識し、効果的に集約・管理・分析した上で、大学の教育・研究活動に資する活動を実践していかなければならない。
図書館を核にした学習支援体制の構築は、多くの図書館員が望むところである。つまるところ図書館には資料と情報と人的資源があり、学生をはじめとする利用者に対して、いかにそれらを魅力的に提供するかという一点に注力することにほかならない。今回提示された実現案はいずれも、各大学が抱える課題の解決に向けた実行可能な具体策となっており、「すぐにでも実践してみたい」と表明する参加者もいたことから、主催者側が企図するところは十分に伝わったのではないかと推察する。
そして最終日に、第2分科会と合同で成果発表を行ったことが奏効した。「教育支援」という同じ目的を有する他部署との相互評価は、図書館だけでは気づかない新たな視点を獲得することができ、教員および他部局と連携して行う学習支援、教育支援に関して図書館の役割と責任を改めて認識することができたと思われる。
ただ、電子書籍を活用した教育モデルの創出に関しては、我が国においてはいまだ黎明期であり、今後も引き続き検討が必要であることが確認された。
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