社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度第1回物理学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成16年5月8日(土)午後2時30分から4時30分まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:藤原委員長、川畑副委員長、松浦、満田、志田、徐各委員
井端事務局長、木田

W.検討事項

1. 物理学教育情報技術活用研究集会を振り返って。

2004年3月に開催された標記研究集会の参加者リスト及びアンケート集計結果が事務局より提出された。最終的に参加者数は56名であり、アンケート有効数は42件であった。次に、プログラムに対する感想及び講演内容に関連したトピックスについて下記の旨の意見が交わされた。

<特別講演について>
・ e-Learningへの組織的な取り組みや専門教育への活用は非常に刺激的であった。
・ 千歳科学技術大学のように、高大連携により組織的にe-Learningを共有する例は稀有である。例えば遠隔授業による高大連携などは実施されているが、正規授業としてではなく、総合的科目の中で実現され、また目的としては高校生への学習の動機付けという側面が強い。
・ 今回はリメディアル教育におけるe-Learningの活用を中心に報告されたが、リメディアル教育のように限られた期間で集中して学習するためには非常に効果的である。専門科目のように継続的な学習が必要な科目に対しては、学習者の内的動機を高める工夫も必要だと思う。
・ 例えば最近の学生は計算力が低下しているが、単に計算の解法を教えて身に付くものではなく、何度も練習することが必要である。そのような練習のためにe-Learningを活用することには効果があると思う。逆に対面で教育した方が効果的な性質のものもあるから、e-Learningと対面授業での教育内容を棲み分ける必要がある。
 

<特別講演について>

・ 小中高校時にける物理の学習時間は年々低下しており、そのため大学に皺寄せが生じ、例えば物理未修者に対する補講など余儀なくされているが、正規授業内では時間的に不可能であり、e-Learningを活用して授業時間外学習することが望ましいが、リメディアルの必要な学生ほど学習しない。これは大学だけの問題ではなく、初等中等教育のあり方にも関わる問題である。
・ 小松川先生のように、作成したコンテンツを中学高校に対してオープンに利用していけば、数年後の教育水準が向上することも期待できるのではないか。

<全体の感想について>
・ 参加者の中には、自分の体験を話したい人も少なからずいると思うので、終了後懇親会を設けてもよいのではないか。
・ 参加者に対して有益な情報が何であるのかまだ見えてこない。例えば小松川先生の講演は好評であったが、組織的な連携が成立していることに対して感動したと言う意見が概ねであり、参加者の多くは個人的に努力しているが限界を感じている人が多いように思われる。そのような教員達に対し、有益なIT活用方法を提供すべきかまだ不明瞭である。

2. 今後の委員会活動について

 事務局より、16年度事業計画をもとに、今後の委員会活動の方針等について下記の旨の説明がなされた。

 「事業計画の冒頭にも書かれている通り、今後は教育でのIT活用に留まらず、ITを活用した教育内容の質的保証が求められる。そのためには、コンテンツの質的通用性とともに、そのコンテンツを活用する教員の授業方法や大学の組織的な支援体制が求められる。18年度には報告書を上梓する予定であるが、今後は報告書の内容も睨みながら、教育の質的向上のためのITを活用した授業モデル構築に向け必要な実験や調査等実施いただきたい。また、本年度は加盟大学・短大の全教員を対象としたIT利用調査も実施することにしており、その調査結果等も活用いただきたい。」

 「また、2004年度から大学評価が義務付けられるが、第三者評価により教育内容の仔細を評価することは物理的にできない。むしろ本委員会のような機関が中心となって、教員間での教材・授業内容の公開と相互評価することこそが教育の質保証に通じると思われる。松浦委員の研究集会での報告のように、まずは教員による教材の開示と共同利用することの可能な仕組み作りが必要である。また、大学に留まらず社会からの協力も得て、例えば物理学の応用事例を社会の専門家から授業中に説明してもらうことや、そのような素材を収集して共同利用する仕組みの整備も求められるのではないか。」

 「研究集会のアンケート結果から、教員のIT活用レベルは様々であり、それを前提とするのであれば、報告書の内容も、松竹梅のように高レベルな活用事例から教員個人レベルで対等可能な事例など、様々な事例を紹介しても良いのではないか。」

以上の説明を踏まえ今後の活動方針や報告書のテーマについて意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

・ 良質なシミュレーションを作成して、学生に強いインパクトを与えたとしてもそれだけでは教育の質は向上しない。また、計算力を向上するためにシステマティックなコンテンツを用いて学習させ、テストの点数が向上したとしても、必ずしも教育の質が向上したとは言い難い。学生に対して何を教えたら役に立つのか、ということが一番の問題であって、それは学習者のレベルによっても様々な階層があると思われる。
・ センター試験の受験者数のうち、化学と生物履修者は増加している一方で物理は減少しているが、工学部で最も必要な科目は物理である。そのような状況下で物理教育の質を保証するために、e-Learningを活用する余地は十分あると思う。
・ リメディアル教育としてのe-learningの活用と対面授業の連携を踏まえなければならない。たとえ良質のコンテンツを用意しても、学生が使わなければ意味はない。報告書では、良質のコンテンツのイメージと、それを活用していかに学生の意欲を向上させて授業を展開していくのかという雛形を提供できれば理想である。
・ 物理教育におけるIT利用の利点としては、物理現象の視覚化が可能となったことと、局地的な知識を共有可能になったことが挙げられるが、特に後者は重要である。コンテンツの質向上を検討することも必要だが、それをいかに流通させ多くの人に利用してもらうのかも考えなければならない。
・ コンテンツをWebに公開するだけではなく、相互利用・相互評価、公開促進させるための仕組みが必要である。
・ 教員の業績評価は論文の引用数で決まるが、教育コンテンツの使用頻度による評価制度も必要ではないか。

 以上を踏まえ、次回委員会では18年度上梓予定の報告書のテーマを、委員各自より提案いただくこととした。