社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度第5回物理学教育IT活用研究委員会議事概要
T.日時:平成17年3月18日(金)午後2時から午後4時まで
U.場所:私情協事務局会議室
V.出席者:藤原委員長、川畑副委員長、松浦、志田、徐委員
W.検討事項
1. 報告書の授業モデルについて
(1) 物理学講義の授業モデルについて
松浦委員、これからのIT活用をともなう物理教育のモデルについて報告いただいた。
これからのIT活用をともなう物理教育のモデル
○ 全体的な方向付け
- 多様な学生の個性を生かす教育と、多様な人間がともに生きること、さらに環境と共生するための教育や科学技術が求められている。
- 大学では、マス対象ではなく個を対象としたきめの細かい教育が求められている。また、以前大学においては特殊な専門知の習得が目標とされていたが、高等教育の大衆化に伴い、理科学習の補強と統合にシフトチェンジした感がある。
- それ故に、個の自己教育にもとづく自立を支援することが、大学教育の担う役割の一つとなった。
○ IT活用物理授業の基本的な考え方(ブレンディング)
- 指導の核は対面指導であるが、個々の学生に対して指導することは時間的に困難である。そこで、学生の進捗管理や授業外の学習時間を確保させるために、e-Learningを活用することが望ましい。
○ 初頭物理教育の教育目標
- 理工系に共通的に必要な数理的処理技術の実践的習得。
- ギャップを生め、知を連結する物理の習得。諸分野の知識との関連性や、日常的な現象を物理学的に判断する能力。
○ ブレンディング教育でのe-Learningの扱い方
1. 対面授業に1対1対応:体面授業の予復習や課題の提示、解答収集に利用。
2. 焦点を絞った対面指導よりも、広く一般的な学習を行う:体面授業とは予復習コンポーネントで接続する。
3. 教員固有の有効な授業ノウハウのオンライン化:対面とWebで特徴ある教育ノウハウを反復する。
※ 松浦委員は、2のタイプのモデル化を検討。
○ e-Learningのシステムの課題(求められる機能)
・ 学習者自身が学習項目の選択、目標を設定でき、それに対する達成度やスケジュールの調整支援可能なシステム
・ 全体の中での学習項目の位置付けの表示や、学習履歴や理解度の連結グラフの表示が可能なコンテンツ群
・ 教員−学生間のコンテンツを通じた情報交換の促進機能
・ 学習者のパフォーマンスと内的変化の両面の情報を生かしたレスポンスを提示する機能
・ 同時にログインしている学習者のパフォーマンスを可視化するマルチユーザーアプリケーション→協調学習
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以上の説明をもとに意見交換したところ、下記の旨の意見があった。
- 確かにe-Learningによって、学生に対するきめの細かい指導は可能であるが、松浦委員のように一人で管理運営を行っている場合、過渡な労力を要するのではないか。また、教員がお膳立てをしても学生の集中力が持続しないも考えられる。この二点をクリアするための方法も検討した方が良い。
- 確かに学生はGW明けから中弛みしてしまうが、予めそれを想定した上での授業モデルを検討している。
- 報告書の想定している読者層は、必ずしもITの利用が得意な教員と限定していない。それ故、松浦委員のように、教員個人で高度なシステムを構築している例を読んでも、敷居が高いと思われる可能性もあるので、理想の授業実現に向けての教員の限界や、必要とされる支援体制なども付言していく必要があるのではないか。
次に、徐委員よりRealityのある物理学について説明いただいた。近畿大学では、多様な学生の能力に対応するため、理数系基礎科目においてカリキュラムを再編することとなった。ここでは、徐委員の担当される物理科目「力学」についての、教育目標、到達目標、授業モデル、理想的な授業パターン、ITの活用方法についてリストアップいただいた。
「力学」
教育目標
科学は全て実験科学であることを理解する。自然現象は基本法則によって支配されており、基本法則には例外がないことを認識し、力学の基本法則とは何かを理解する。
到達目標
1) 単純な力学現象をモデル化し運動方程式を書き下せる。
2) 単純な運動方程式を解き、解の物理的意味を説明できる。
3) 念力、テレポーテーションなどの超能力が力学の基本法則に反することを説明できる。
授業モデル
導入用演示実験またはシミュレーション → 講義 → 演習 → 身近な具体例 → まとめ → 復習と確認のためのe-Learning
例:力積
1. 演示実験:ストローとマッチ棒の吹き矢による実験
2. 講 義:運動方程式、運動量変化と力積
3. 演 習:吹き矢の筒の長さLと飛び出す矢の初速度vの関係を求めよ。
4. 身近な具体例:遠距離砲ほど砲長が長い、効率的な投球動作とはボールを長く押すこと、飛び降りる際の膝の曲げによる衝撃の吸収、ボクシングのスウェーバック防御、キャッチボールの際のグラフさばき・・・
5. ま と め:力は運動量の変化を引き起こすが、運動量の変化量に比例するのは力ではなく力積である。
理想的な授業パターン
導入用演示実験またはシミュレーション → 講義 → 演習 → 身近な具体例 → まとめ → 復習と確認のためのe-Learning
ITの活用
1. PIP(Person in Presentation)コンテンツ=ビデオ+シミュレーション
2. 協調・協同学習空間 → マルチユーザ・アプリケーション
3. 物理基礎チェックe-Learningサイト
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なお、近畿大学工学部では、9月にe-Learningを導入を予定しているが、同時にコンテンツ作成システムの導入も検討している。
以上の説明について、下記の質疑応答及び意見交換がなされた。
Q1.e-Learningでは授業中の理解度把握も予定しているか。
A1.使用する教室にPCが設置されていないので、予定は無い。
Q2.基礎チェックは事前事後いずれに用いる予定か。
A2.事前事後いずれにも対応可能であり、学生には随時利用させることにしている。
また、藤原委員長より、16年11月に私情協が実施した「私立大学教員による授業改善に関する調査」の設問「2. 直面している問題点」、「3. 今後2年以内に実現したいこと」に挙げられた項目を参考にしながら、各委員担当の授業モデルの対象科目においても、具体的な教育目標とその到達に向けた学習方法提案されたい、との提案がなされた。この提案を踏まえ、次回以降の委員会から、具体的な授業イメージを各委員に考案いただくこととした。
2. その他
次回委員会では、Learning Management Systemの研究のため、私情協の賛助会員Blackboard Japanよりヒアリングを実施することとした。
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