社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第4回物理学教育IT活用研究委員会議事概要
T.日時:平成17年12月21日(水)午後3時より午後5時まで
U.場所:私情協事務局会議室
V.出席者:藤原委員長、川畑副委員長、徐、太田、藤原、寺田各委員、井端事務局長、木田
W.検討事項
1. 「私立大学教員による授業改善に関する調査」物理学担当教員の回答結果について
藤原勉委員より、標記調査における物理担当教員の回答内容の分析結果を報告いただいた。
○ 回答者数について
物理学科に所属する教員の回答数は197名、応用物理学科に所属する教員の回答数は16名、合計213名であった。
○ 設問3について
設問3は、今後2年以内に実現したい授業形態を、1〜10の選択肢から3つ選び優先度の高い順に回答するものである。3つの優先順位のいずれかに、「1.動機付けを徹底し学生が主体的に学ぶ授業」と「7.授業中の学生の反応を捕らえ、理解度に応じた授業」を選択する教員の数が特に多かった。その他には、「2.事前事後学習の徹底」、「4.教員と学生、学生同士の対話を重視した授業」、「5.シミュレーションによる疑似体験を駆使した授業」を選択した教員の数が目立った。
○ 設問5について
設問5は、授業におけるIT活用の現状と今後2年先の計画を、IT活用の内容別(16問)に回答するものである(選択自由記述混合)。
現状については、「(1)Webページに授業の狙い、進め方、学習方法、課題学習の内容など掲載」を実施している教員が最も多く、全体の55%を占めた。続いて「(6)概念理解のためのシミュレーション機能の活用」を実施する教員の数が多かった(38%)。
2年後の計画については、現状と同様に「(1)Webページに授業の狙い、進め方、学習方法、課題学習の内容など掲載」が最も多かった(80%)。その後は、「(2)教材、資料、小テスト、練習問題のWeb掲載」が70%、(6)概念理解のためのシミュレーション機能の活用」が58%、「(8)音声、動画、写真の駆使」が55%と続いた。
IT活用内容の具体的記述については、記述された内容が多岐に亘るため共通的なものを抽出することは難しいが、「(9)理論と実際のマッチング」、「(11)学習成果をネットワーク上で発表し、意見交流による講評の実施」、「(12)TV会議やオンデマンド方式の共同授業」について記述する者の数が多かった。
以上の報告について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。
○ 物理学の授業で学ぶことの動機付けを高めるためには、具体的にどのようなことが可能であるか、今後検討すべき課題である。
○ 物理の動機付けを高めるために考えられることとして、日常的な現象をわかりやすく説明すること、また各種マスコミでも取り上げられる宇宙などを題材とした授業を行えば、学生の興味を惹くと思われる。
○ シミュレーションの活用や動画像の活用を今後活用したいと回答する教員が多いが、ただ見せるだけでは効果は無い。教員が見るべきポイントなど的確に指摘することで、初めて効果が生まれるものである。
2. 報告書の授業モデルについて
(1) 対面授業における授業モデル
徐委員より、授業モデル「科学するこころの習得を目指したRealityある物理学教育のために」について報告がなされた。今回提出いただいたモデル案は、前回の案に授業書サンプル、具体的なIT活用方法、評価方法を加えたものである。
授業書サンプルは前々回提示いただいた「力積」である。IT活用方法としては、演示実験やまとめを解説するサポート・システムとして動画・スライド同期教材、LMS付属の掲示板を用いた質疑応答フォーラム、マウスの速度・加速度を表示するFlash、Javaを用いた波の動き、フーコーの振り子のシミュレーションなどが挙げられた。
評価は、LMSのアクセス頻度や小テストの正答率、学生アンケートにより実施する予定であるが、学生アンケートのフォーマットはまだ決まっていない。
以上の報告について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。
○ 松浦委員の授業モデルと重複する部分もあるので、最終的には双方の趣旨を差別化した方が良い。
○ シミュレーションを表示するときは、その背景にある物理の理論を提示できるような仕組みが必要ではないか。例えばここで紹介いただい たフーコーの振り子のシミュレーションでは、コリオリの力が隠れてしまい、学生には表面的な理解しか得られない可能性がある。
○ 動機付けに関連して言えば、学生に自ら考えさせるような教材が必要ではないか。シミュレーションでも単に地球における物理法則を提示するのみならず、例えば宇宙などの極限的な条件の下で実験した場合の結果を考えさせるためには、それこそシミュレーション教材の効果が発揮できるのではないか。
以上の意見を踏まえ、徐委員にはシミュレーション教材に関して再検討いただくことにした。
(2) 実験における授業モデル
川畑副委員長より、授業モデル「ITを活用した学生物理学実験テキスト」について報告がなされた。今回提出いただいた資料は、前回まで報告を踏まえ教材の趣旨や内容、授業での活用方法、評価方法を文章化いただいたものである。要旨・構成は以下の通りである。
1. はじめに
昨今学生は、単に手順に従って実験操作や数値解析を行うばかりで、実験に対する理論的考察ができない。当初は事前学習として実験テキストを読ませていたが、文章を読むことを厭い、結局事前学習をしないまま授業に出てくる学生も多い。そこで実験内容をわかり易く解説するためのマルチメディア実験テキストの作成を試みた。
2. マルチメディア実験テキスト(偏光)
2−1.基礎的事項の復習
東京工芸大学には高校で物理を履修しなかった学生が2割程いるため、 基礎的事項の解説も含めている。
2−2.法則の視覚化
マリューの法則を説明するため、2枚の偏光子を用いて、一方の偏光板を回転させた場合の透過強度の変化をイラストで提示する。
2−3.ビデオクリップ
実際にデモンストレーションした映像を提示する。
2−4.実験手順
静止画像により、実験の一連の手順を説明するとともに各ポイントでの課題を提示する。また、教室でデモンストレーションするには時間が掛かる実験を各自で確認するよう指示もしている(ex.偏光子を回転させながら空を眺めた場合の明るさの変化や、携帯電話の液晶画面を偏光子を通して眺めた場合の消光)。
2−5.自己診断とレポート作成
テキストを読んでも内容を把握できない学生がいることも考慮して、テキストの後半部には穴埋め問題を用意している。答えはテキスト内に書かれている。また、実験後にレポート提出を課しているが、なかには実験の考察方法がわからない学生がいるので、ステップごとに考察課題を設けている。
3. ディスカッション
本教材を活用した学生の反応は、来年度前期の授業で確認するが、ここでは考えられる課題を提示した。主な課題としては、教員の意図が学生にストレートに伝わらないこと、学生の理解度に合わせて説明を階層化すること、動画を見る場合の集中力を高めるためにテロップを挟むことが挙げられた。
以上の報告について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。
○ 理解度把握のための小テストは、Web上で自動集計できるようなシステムがあれば、より効果を発すると思われる。
○ 教員が学習環境を整えても、必ずしも学生が予習復習をするとは限らない。そこで、事前学習しないと授業に参加できないよう、何らかの 強制力を働かせる必要があるのではないか。
以上の意見に関連して、太田委員より、甲南大学にて導入した自学自習システムの紹介がなされた。このシステムは、学生のアクセスログの管理から小テストの自動採点、成績管理も可能である。それ故、教員は個々の学生の事前学習状況や、テストの回答状況を確認しながら授業を行うことができる。
ここで、太田委員より、川畑副委員長の授業モデルにて本システムを応用することが提案され、今回の委員会終了後、太田委員より川畑副委員長に開発業者のM2Mを紹介いただくことにした。
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