社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第3回化学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年11月5日(土)午後4時30分から午後6時30分まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:小中原委員長、高野、及川副委員長、堀合、梅村、木村各委員
  井端事務局長、木田

W.検討事項

1. 産学官連携による安全教育に関する授業について

 前回の委員会にて、18年度発刊を予定している報告書の授業モデルの一つとして、産学官連携による化学実験・安全教育の授業が提案された。それを踏まえて、今回は高野副委員長より授業モデル案を提出いただき、それをもとに意見交換した。高野副委員長による授業モデル案は、下記の通りである。

題目:安全・安心の社会における社会と連携する大学:
    インターネットによる「化学物質の取り扱い方法と安全教育」シンポジウム
形式:シンポジウム(1回のみ)、1時間程度
実施日:2006年7月頃(授業の一環)

ねらい:化学物質の取り扱い方法と安全教育における、危険情報の表噴火と産官学連携網の強化のあり方について議論を深める。さらに、日常の安全教育を補完するために、ネットによる現場情報という非日常的な手法を用いて、学生に「化学物質の取り扱い方法と安全教育」を印象づけ理解を助ける。キーノート、基調講演、現場(事業所)事例紹介、大学での事例紹介、討論

対象:私情協加盟大学の教員・院生・学部生、事業所の社員
手法:音声を伴うインターネットの配信手法
内容:
キーノート 危険情報の標準化と産官学連携網の強化(5分)
基調講演1 安全・安心の科学技術;文科省(5分)
基調講演2 大学におけるPRTR法;経産省(5分)
事例紹介1 労働安全としての安全教育;事業所1社(10分)
事例紹介2 化学薬品取り扱いと安全教育;大学3校程度(15分)
       (未定)
討論 (20分)

後援:文部科学省、経済産業省、厚生労働省、環境省

メモ:社会との連携という意味では、もっと連携の具体的なイメージが必要だし、事業所1社では不足。また、大学の事例内容も問題。IT活用がインターネットだけではだめで、データベース情報や連携網方法などでの「提案」が必要。「対象」をさらに広げてオープンにするかどうかの検討。

 実施日については、正規授業内に組み込むことは調整困難であることから、学生の集まりやすい前期試験の直前としたことが補足説明としてなされた。また、具体的な基調講演者として、文科省科学技術政策企画官、経産省化学物質管理課長を検討している旨の説明がなされた。さらに、産業界からの事例紹介として、授業モデル案に記載された事業所とは別にもう1社打診をしているが、企業は失敗事例を外部に出すことを厭うのでこれ以上の協力を得ることは難しいかもしれない、との説明がなされた。

 以上の資料、説明をもとに意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

  • 今回の企画は、テレビ会議システムまたはインターネット会議システムを用いたリアルタイムの遠隔授業を想定されているが、基調講演や事例紹介は後日オンデマンド・コンテンツとして活用することも可能である。
  • 学生は日常的な話題はすぐ忘れてしまうが、この企画のように、テーマ及び授業形態も非日常的なものであるから、学生に大きなインパクトを与えることが期待できる。

 本企画に関連して、堀合委員より、高圧ガス保安協会より作成された、高圧ガス安全教育用ビデオの紹介がなされた。このビデオは、過去に城西大学で液体窒素の製造所の免許を取得するために購入したものである。収録時間は1テーマにつき30分程度である。

 以上を踏まえ、企画の具体化を図るために、次回委員会でも継続して検討することにした。

 

2. 化学実験動画・試験問題データベースについて

 はじめに、化学実験動画データベースについて検討した。前回の委員会では、ビデオファイルのフォーマットをMPEG2にすることが提起されたが、MPEG2はCDやDVDからビデオとして再生することには適しているが、Windows Media Playerによって再生不可能であり、かつ加工することも困難であることからネットワーク上で配信することには適さないとの意見があった。そのため、ファイルサイズは大きくなるが加工・編集することの利便性に鑑みて、MPEG1にすることにした。
  次に、授業中に動画を用いた場合の教育効果の評価方法について意見交換したところ、まだ絶対的な評価方法は確立しておらず、現状では内観法に則るほかに最良の方法はないとの意見があった。一方で、動画の活用動機付け、特に実験では実験手法・手順の理解を促すことに効果があるとの意見があった。そのため、報告書では、動画を活用した際の教育効果を記述する際には、厳密に統計化、定量化することは避け、動機付けや口頭説明の省略化などに力点を置くことにした。
  今後のスケジュールとしては、担当委員は3月末にドラフトを作成し、18年度前期の授業で実際にコンテンツを活用し、その効果や学生の反応を検証することにした。

 次に、事務局より、試験問題・演習問題データベースについて報告がなされた。前々回の委員会では、化学構造の検索を可能とするために、CASの検索システムをプログラムとして組み込むべきとの意見があったが、そのためには数千万単位の費用が必要となることから断念し、当初予定していた通りテキストレベルでの検索システムを採用する旨の説明がなされた。その他の機能については、前々回の委員会から特に変更点はなかった。
  意見交換したところ、(1)問題の難易度を示すために☆印を付けた方がよい、(2)問題提供者のモチベーションを高めるためにも、各問題に対するコメント機能など何らかのフィードバックを与えるような仕組みが必要である、(3)実験動画でも言えることだが、サイトを開設しただけでは提供者を募ることは難しいので、委員会としてデータベースを用いた実際の授業モデルなどを提示する必要がある、などの意見があった。
  これらの意見を踏まえ、継続してシステム構築を進めることにした。


3. その他
  事務局より、18年度発刊予定の報告書のテーマについて下記の旨の説明がなされた。

 今回の報告書では、単にITを活用した授業事例の紹介に留まらず、5年先を見据えた内容としたい。具体的には、中教審大学分科会の答申「我が国の高等教育の将来像」において、今後10年?20年のうちに各学問分野別のコア・カリキュラムを作成することが提言されたことを踏まえて、コア・カリキュラムを想定し、具体的な教育目標の達成に向けて有効な教育方法を紹介することにしている。そこで、本委員会でも、化学分野におけるコア・カリキュラムの枠組みを検討いただきたい。
 
以上の説明に基づき意見交換したところ、下記の旨の意見があった。

 

  • 化学の科目は細分化しており、コアとなす科目を抽出することは難しい。
  • 教養課程・基礎科目レベルであれば検討すること可能だが、それを公表しても各教員に受容される見込みは低く、場合によっては多方面から批判される可能性が高い。
  • コア・カリキュラムよりも、安全教育などホットな話題の方が、多くの教員の関心を惹くことができる。
  • 単にITを活用した授業モデルを掲載しただけでは、ITを活用しない教員の関心を惹くことはできない。コア・カリキュラムが難しいのであれば、化学教育に対する本委員会の基本方針を総論として説明する必要がある。これまでの委員会の議論を振り返ると、安全教育のような「社会現場に必要な化学」と「教養としての化学」の二つの側面から、IT活用方法を検討してきたのだから、それを総括することは可能ではないか。

以上の意見を踏まえ、本委員会の報告書のテーマとしては「教養としての化学」と「社会現場に必要な化学」を採用し、その趣旨説明は小中原委員長に担当いただくことにした。