社団法人私立大学情報教育協会
第1回英語教育IT活用研究委員会議事要旨

T.日時:平成15年12月5日(金)午後6時〜8時

U.会場:私情協事務局会議室

V.出席者:北出委員長、安間、鈴木、小林、原田、山本、ルースベン=スチュワート、田中各委員、
        井端事務局長、木田

W.検討事項

1.今後の委員会活動内容について

議事に先立ち、井端事務局長より平成15年度私情協事業計画書をもとに、本年度委員会の活動指針等に関する説明があった。要旨は下記の通り。

「COLの実施等、年々教育評価への機運が大学内外で高まっている。英語教育では、センター試験にヒアリングテストが採用されるなど、従来の文法を中心とした教育内容が変容しつつあり、大学においても、学生が卒後に日常英会話程度できる英語能力を涵養することが求められている。教材のレベルで言えば、テキストを中心としたものから音声動画像を活用したものの需要が今後益々求められていくはずである。本委員会としても、教育評価を意識しながら、学生個々の英語能力を向上させるためのIT活用方法を年次的に計画いただきたい。」

次に、山本委員より、配布資料をもとに今後の取り組むべき課題に関して説明があった。

次に、各委員より委員会の取組や自身の大学・授業での取り組みについて報告があった。

北出委員長

「本委員会は、前身の英語情報教育研究委員会が発足してから9年ほど活動を続けている。これまでは、ITを活用した授業モデルプランを報告してきた。当初はITの普及度も低かったため、我々の報告内容も先取的なものと言えたが、昨今の教育現場におけるITの急激な普及、技術革新に鑑みると、たとえ委員会が今後授業モデルを提案しても通用しないように思われる。今後委員会としては、授業モデルではなく、また別の方向性を探っていきたい。」

安間副委員長

「本委員会は、語学教員のIT化への支援を目的として活動してきた。今までであれば、ハードウェア、ソフトウエアを購入するということのモデルを検討すれば良かったが、今後は大学の枠を越えた知識の共有化が求められていく。具体的な方向性は今後検討していくが、ネットワーク化ということが一つの重要なポイントではないか。」

鈴木委員

「これまで4年間、高等教育研究改革推進事業の一環として、付属高校の学生の学習支援、教育研究所内での教員間の情報共有、教育支援を目的としたシステム構築の研究を行っている。今後のIT活用方法として重要と思われるキーワードは、ネットワーク化だと思う。例えば、インターネットを通じて学生自身の学習成果を公開し、知識・情報を共有した上で意見交換の行い、その過程の中で更に学習していくというケースが今後益々増えてくると思われる。そのような状況下での教育支援システム、例えば情報の整理や管理を可能とするシステム(機械的な意味ではない)が必要となるのではないか。」

田中委員

「本大学では、英語教育のモットーとして『いつでもどこでも自分のペースで』を掲げ、バーチャルワールドと実世界とを結び付けて英語の重要性を実感してもらうよう努めている。また、セルフラーニング室(PC室)を朝から晩まで開放し、学内に留まらず他大学とも繋がりを持つようお勧めリンクなどを提示している。今後は学生自身の学習成果などを学外にもプレゼンテーションできるような仕組みを考えていきたい。」

小林委員

「英語教員が中心となって、アナログビデオをデジタル化したコンテンツをサーバー内に蓄積しているほか、自動採点可能なドリルシステムを活用している。今後は英語のみならず他の語学教員とも協力して活用していくことにしている。コンテンツを作成する上での問題としては、使用するビデオ素材に著作権があるため安易に用いることのできないことが挙げられる。なお、LMSも来年度全学的に導入する予定であり、教員間あるいは教員と学生間の交流を深めたいと考えているが、個人で行うには時間がないのが現状である。」

ルースベン=スチュワート委員

「北陸大学に赴任して9年経つが、4年前から自分のWebサイトを授業に活用して、課題等を全てWebに掲載している。他の外国語学部の教員は授業にITを活用していないのが現状である。しかし、世界中の語学教員に対して教育へのIT活用に関するオンラインアンケートを実施した結果、CALL教育には興味を持っているものの、なかなか実施するには至らないという回答が多かった。このことから、英語教員の教育支援として、例えばオープンソースのLMSを活用することが考えられるのではないか。」

 以上の意見から得たポイントとして山本委員より、「@教員一人で全てのことをやるには限界があるため、協同しながらものごとを構築する必要がある ALMSやe-Learningを用いて学習させるだけでなく、それを通じてコミュニケーション能力の育成を促進する教授法が必要となる」という二点が挙げられ、また、安間委員より、語学教員がIT化されない要因として、学内のサポート体制が充実されていないという問題点が提起された。これに対し、委員より下記のような意見があった。

  • 教員は、システムやインターフェースの煩わしさが要因で、PCやIT関連の機器を活用しないのではないか。そのようなシステムやインターフェースの簡便さなど、瑣末なことを解決するだけでも十分な支援活動といえる。(鈴木委員)
  • 立教大学では、教材の作成やトラブルに対してメディアセンターの職員が比較的支援してくれる。ITの活用を促進するには、教員と職員の連携体制が必要となる。うまくいけば、職員と協力して教材を作成する体制を整備することも可能ではないか。(小林委員)
  • 従来の教授法は、教員が学生に一方的に知識を授与するというスタイルであったが、IT時代は情報が豊富で、教員がいなくても学生はある程度自主的に知識を獲得することも可能である。そのような中、単に授業でPCを使っても従来の教授法では教育効果は上がらないと思われる。今後ITを活用したいと思っている教員に対しても、教授法を変える必要性を説いていかなければならない。(ルースベン=スチュワート委員)

以上ITを取り巻く各大学の環境や教員について意見交換を行い、改めて山本委員より提案事項に関して補足説明いただいた。要旨は下記の通り。

「この提案の一つの背景として、文部科学省が策定した「英語が使える日本人」の育成のための行動計画にもある通り、海外で活躍できる人材育成を目標とした英語教育を念頭に置いている。また、本年度から、中高の英語教員に対し5カ年計画による集中的研修が実施され、5年後には彼らから教育を受けた学生が大学に入学してくる。それ故、大学の英語教育も英語によるコミュニケーション能力の育成を目的としなければならない。

もう一つ、語学教員が積極的にITを活用しないのは、ITを活用した英語教育の教育効果が測定されていないことが要因であると考えられる。ただ単にITを活用するだけでは効果は向上せず、従来の一方通行的な教授法を変革しなければならない。この2点が今後の大学における英語教育を考える上で重要となるのではないか。」

以上の説明に対して、下記のような意見があった。

  • コンピュータと英語教育について議論すると、コンピュータを活用して英語教育を如何に変えていくかということに論点が絞られてしまう。むしろ、IT化やネットワーク化が前提となった社会を基盤として、英語教育はどのように変革可能であるかということに論点をシフトチェンジすべきではないか。(鈴木委員)
  • ITを活用して英語教育を改革しようとしても、結局ネイティブの教員による英語教育に勝るものはない。しかし、ネイティブの教員だけでは文法力やコミュニケーション能力を育成するのは難しいので、それを補足するために日本人の教員やITが必要となる。今後は英語教育をそのように階層化していく必要があるのではないか。また、他の学問分野では、座学のみならず、学生への動機付けとして、実社会におけるフィールドワークなどを導入している。英語教育でも、そのような実社会との接点を導入していく必要があるのではないか。(井端事務局長)
  • 経営学部では空き店舗を活用して経営活動を疑似体験させているが、英語教育においてもコミュニケーション能力育成のために、実社会での体験学習が必要となるが、外国人教員数にも限りがあり、学生に留学させることにも費用的に問題があるので、バーチャル形で補完する必要がある。ただし、それを如何に評価していくのかということは、今後の課題であろう。(田中委員)
  • TOIECで高得点を取ったからとはいえ、学生に目に見える形で成果物が与えられるとは限らないが、English for e-mailやEnglish Communicationなどの授業では、実際に外国人と英語でコミュニケーションすることで、目に見える形で成果が現れ、学生のモチベーションの向上にも繋がる。ITを活用する以前に、そのような学生のための環境づくりが必要となり、また教員の英語教育に対する基本的な考え方を変えなければならない。(山本委員)
  • 山本委員の提案では、今委員会としてすべき具体的な活動内容が見えてこない。今まで各委員から提起された問題は、教員が積極的にITを活用しないということや、教材の収集が困難であるということである。それであれば、支援体制の充実を図るための方策を委員会として考えたり、あるいは教員が簡便に活用できるシステムを構築したりすべきではないか。(鈴木委員)
  • 基本的なことであるが、コンピュータを活用しなくても語学教育は可能であるという地平から考えなければならない。現にITを活用していない教員の中には、IT化への支援やこのような委員会を必要なものとは考えていない人もいるはずである。しかし、一方ではITを活用した方が、教育効果があると考える教員もいるので、彼らを対象として、特別な支援体制を必要としないLMSなどを提供することは可能ではないか。(ルースベン=スチュワート委員)

以上の議論を踏まえた上、次回委員会では、継続して委員会の具体的活動内容について検討することとした。なお、委員各自、それぞれA4用紙一枚程度に提案を取りまとめ、12月13日までにメールにて事務局宛に送信することとした。