社団法人私立大学情報教育協会

平成16年度第4回英語教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成16年11月27日(土)午後2時から午後4時まで

U.場所:私学会館アルカディア市ヶ谷7階会議室

V.出席者:北出委員長、安間副委員長、山本、田中委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

(1) 英語教育におけるコア・カリキュラムの提案について

 中教審高等教育審議会の「我が国の高等教育の将来像」において、学問分野別のコア・カリキュラムの作成が提起されていることを踏まえ、IT活用を前提としたコア・カリキュラムの作成を検討することとした。具体的には、大学卒業後までに身に付けるべき最低限の知識や技能を目標として掲げ、その目標の到達に向けて必要とされる教育方法、特にITを活用した方法をリストアップすることとする。

 まず、今回出席いただいた各委員より提出いただいた資料をもとに、コア・カリキュラム作成への意見・提案を説明いただいた。

田中委員

1991年の大学設置基準の大綱化が契機となり、カリキュラムが各大学の裁量に一任され、英語教育も多様化へと方向転換を迫られたが、一方では、高校学習指導要領の変更と少子化による大学の入学試験の多様化により、入学する学生の学力低下が顕著となり、大学においてリメディアル教育を施す必要が生じた。さらに、高校の授業時間が削減されるなか、2002年の英語が使える日本人育成のための行動計画では、中高教育に対しては日本人に求められる英語力の目標が具体的に提示されているが、大学教育に対しては仕事で英語が使える人材育成をする観点から達成目標を各大学独自で設定することとされている。

 そのため、現在大学では国際理解、教養教育、専門教育のための英語教育など、大学間で目標や教育内容に統一性がなく、今後も個々の大学が実態に応じて目標を設定し、実践していくであろう。また、大学評価の導入により、短期的に教育効果の現れる教育内容を採用する傾向に拍車を掛けることが予想される。

 以上のことから、大学間の統一的なカリキュラムの構築は困難ではないか。

以上の意見に対して、下記の意見があった。

  • 日本以外の諸外国では、国家戦略として英語を第二外国語として習得させようと努めており、それは中高に限らず大学も戦略の中に組み込まれている。日本でも、国際社会・地域社会で活躍できる人材を育成するために、最低限身に付けるべき知識やスキルに関するフレームを提示することは必要ではないか。勿論個々の大学の教育目標や戦略もあるので、そのフレームを採用するか否かは裁量に任せればよい。
  • 大学によって学生の置かれている環境や能力は一様でないので、教育目標を標準化することはできないが、例えば個々の具体的なスキルがリストアップされた共通フレームの枠内で、学部学科ごとに到達度を設定することは可能ではないか。少なくとも大学外の人から見て、具体的に何ができるのか判別できる、Cando Statement的な評価基準を設定することは可能であるし、英語教員の社会的責任でもある。確かにTOEFL、TOEICの点数は一つの品質保証的な意味合いを帯びているが、その点数から具体的に何をすることができるのかはわからない。
  • これまでの学生の能力を評価する基準としては、Achievement TestとProficiency Test の二つがあった。TOEIC、TOEFLは後者であるが、観点別の評価項目が欠如しているので、それを補う形の評価基準項目を作成すればよいのではないか。
  • 教養英語に限らず実用英語のコア・カリキュラムも検討すべきでは無いか。
  • 将来自分の仕事に役立つ英語を習得するために、専門科目担当の教員が英語を教えているケースがあるが、語威力は見についても、文法力、コミュニケーションスキル等の基礎力の無い学生は付いていけず、所謂教養英語からやり直すというケースもある。専門性以前に基礎的能力を評価するための基準を検討するべきではないか。

次に、山本委員より、知的英語コミュニケーション能力に関する評価項目とコアカリキュラム(案)について説明がなされた。なお、案は下記の通りである。

趣旨

大学及び大学卒業時において必要とされる知的英語コミュニケーション能力の範囲を確定し、それぞれの知的能力の成熟度を観点評価することによって、必要な学習コンテンツと教育方法を策定してコアカリキュラムとする。

1.Proficiency Scale の設定

習熟度のスケールは一般に評価され使用されているTOEIC・TOEFL・STEP等を横軸に使用、それぞれの目的と相関関係も表示する

2.Intellectual Skillsの設定

縦軸に知的英語コミュニケーション能力の範囲である評価分野と評価項目の基準を設定、クロスレファレンスには観点別の評価ガイドラインを表示する。

3.教育方法とコンテンツのガイドライン設定

項目別に、各評価ガイドラインに対応する一般的な教育方法の事例とコンテンツを提示してコアカリキュラムのガイドラインとする。

4.Self-evaluationの設定

評価ガイドラインは、学生評価とともに、学生自身の自己評価としてCan-Doリスト機能を工夫する。

5.マトリックスの構成図





6.評価分野と項目の設定

評価分野01<日常的・学術的な文字情報を的確に理解する能力>

1−1.新聞の記事を素早く読み、その内容を理解する能力(速読と理解)

1−2.小説や雑誌等を楽しんで読み、その内容を理解する能力(楽読と理解)

1−3.専門分野の論文や教科書を的確に読み、内容を纏める能力(熟読と理解)

1−4.その他

Rubric Scale (観点別評価項目 1.2.3.4)

評価分野02<日常的・学術的な音声情報を的確に理解する能力>

2−1.テレビのニュースを的確に聞き取り、その内容を理解する能力(視聴力と理解)

2−2.ラジオのニュースを的確に聞き取り、その内容を理解する能力(聴覚力と理解)

2−3.映画やドラマを楽しんで鑑賞し、その内容を理解する能力(鑑賞力と理解)

2−4.専門分野の口頭発表や授業を的確に聞き取り、その内容を纏める能力(critical listeningと理解)

2−5.その他

Rubric Scale (観点別評価項目 1.2.3.4)

評価分野03<日常的・学術的な情報検索・収集によって問題を解決する能力>

3−1.ネットワークを活用し、的確な文字・音声情報検索・収集を行なって問題を解決する能力(ネットワー 

    ク検索による情報収集と理解)

3−2.様々な活動を通じ、的確な文字・音声情報検索・収集を行なって問題を解決する能力(様々な活動によ 

    る情報収集と理解)

3−3.その他

Rubric Scale (観点別評価項目 1.2.3.4)

評価分野04<音声発話による日常的・学術的なコミュニケーション能力>

4−1.学校生活・家庭生活・社会生活などの日常生活場面において、対人的に十分なコミュニケーションが

    可能な能力(会話と交渉)

4−2.授業や学会などの学術的場面において、多人数の前で考えや思想を伝達できる能力(口頭発表能力)

4−3.授業や学会などの学術的場面において、多人数の前で質問や議論ができる能力(交渉能力)

4−4.その他

Rubric Scale (観点別評価項目 1.2.3.4)

評価分野05<文字発信による日常的・学術的なコミュニケーション能力>

5−1.学校生活・家庭生活・社会生活などの日常生活場面において、対人的に十分なコミュニケーションが

    可能な能力(Emailなどコレスポンデンス能力と交渉)

5−2.授業や学会などの学術的場面において、考えや思想を論文として伝達できる能力(作文発表能力)

5−3.その他

Rubric Scale (観点別評価項目 1.2.3.4)

評価分野06<異文化環境での日常的・学術的なコミュニケーション能力>

6−1.内外の異文化環境において自文化を十分に伝達することが可能な能力(自文化伝達と異文化理解)

6−2.国外の異文化環境において他文化を十分に理解することが可能な能力(他文化理解と異文化理解)

6−3.その他

Rubric Scale (観点別評価項目 1.2.3.4)

この案に対して、下記の旨の意見があった。

  • 評価分野03、06は、他の評価分野の下位区分として設けても良いのではないか。
  • この評価項目は理念的であり、今後各評価分野をより細分化していく必要がある。例えば評価分野01−1で言えば、「読む速度」を更に下位項目として追加していくべきである。

次に安間委員より「IT活用を前提とした大学英語コア教育の最低達成目標(案)」について説明がなされた。案は下記の通りである。

IT 活用を前提とした大学英語コア教育の最低達成目標(案)

目標設定の要点

・“Can do”型命題であること.

・スケーラブルな能力尺度ではなく,目標達成/非達成の2範疇に識別される言語使用活動であること.

・目標達成/非達成の2範疇設定が客観的になし得ること.

*印は在学中達成目標項目,無印は入学時達成目標項目


音声言語

英語は強勢言語であることを理解している.

情意表現(疑問・感嘆など)に関わる超文節素性の機能を理解し使用できる.


書記言語

綴字から発音(強勢を含む)を予測できる(ある程度の規則性があることを理解している).

アルファベットを読み書きできる.(英和辞典・英英辞典をスムーズに引くことができる.)

日本語のローマ字表記ができる.

*標準的なパラグラフ構造を理解する.

*標準的なパラグラフ構造に従ってパラグラフを書くことができる.

*Scanning, skimming, inferencing それぞれについて,操作内容を理解しかつ初級レベルの操作技術を習得する.


語彙

語彙が階層構造をなし,かつネットワーク化されていることを理解している.

文脈から語彙の意味を推測するストラテジーを獲得している.

1500語程度の基礎語彙を産出でき,2000語程度の語彙を理解している.

*3000語程度の基礎語彙を産出でき,5000語程度の語彙を理解できる.(英語専攻はそれぞれ5000語・10000語)

*別表に挙げる機能・概念の表現を習得し使用できる.(具体例は未設定)


統語能力

動詞が特定の数と種類の argument を統率することを理解している.

修飾の概念と個別の修飾方法を理解している.

英語が,日本語のように話題化型言語ではなく構造型言語であることを暗黙に理解し,それに基づいて言語を産出できる.

ディスコース対応

*文脈に従ってレジスターを変えることができる.

*英語文化圏で期待されるディスコースを理解し使用できる.

背景文化知識

英語が母国語および第2言語として使用される地域を理解している.


別表1(機能の範疇)

メッセージを発する

説明する

解説する,名乗る,言い訳をする

宣言する

約束する,承認する,主張する

要求する

行動を要求する,意見を求める,情報を尋ねる

提案する

行動を提案する,なだめる

感情を表現する

メッセージを受け取る

聞き返す

了解する


別表2(概念の範疇)

個人的情報

名前,年齢,生没年,身体的特徴(性別を含む),所属,職業,関係

衣食住行動,精神活動

社会環境に関わる情報

時刻・時間,天気・気候,土地の形質

ビジネス・生産活動・教育・研究開発の情報

産業,趣味,技能,役割,目標,生産性,達成度

伝達,獲得,喪失,廃棄,変更

価値・評価に関わる概念

意義,価値観,道徳・倫理

肯定的評価,否定的評価

この案に対して、下記の旨の意見があった。

  • 語彙に関しては、市販の単語帳を読んで覚えればよいから必要ないのではないか。
  • 学生は個々の単語の意味は把握していても、単語の総合的な側面や文の構造が理解できていないために躓くことがある。しかしそれはTOEICやTOEFLのProficiency testで測定できるのではないか。

 以上、まずは山本委員の案を本委員会のコア・カリキュラムへの提案として、今後ITを活用した授業との関連性や個々の評価項目の具体化を検討してくこととした。