社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第5回医学教育IT活用研究委員会議事概要
T.日時:平成18年3月14日(火)午後6時から午後8時まで
U.場所:私情協事務局会議室
V.出席者:内山委員長、増田、中木、吉岡、渡辺、井端事務局長、木田
W.検討事項
1.18年度発刊予定の報告書の授業モデルについて
前回の委員会では、18年度発刊の報告書の授業モデルとして、@基礎知識供与のためのIT活用、APBLにおけるIT活用、BOSCEにおけるIT活用、CEBMにおけるIT活用の4パターンを報告する方向で検討することにした。そこで、今回は@について中木委員より、@、A、Cについて渡辺先生より実践例を報告いただき、授業モデルの妥当性を勘案することにした。
(1)渡辺委員による報告
渡辺委員より、関西医科大学における@基礎知識供与のためのIT活用、APBLにおけるIT活用、CEBMにおけるIT活用について報告いただいた。要旨は以下の通り。
@ 基礎知識供与のためのIT活用
講義資料、画像、シラバスをイントラネット上で公開しているが、これは著作権的にグレーな素材を用いている教員がいることから、内部公開に留めている。しかし、法医学のように典型症例も一部公開しているものもある。このようにオンライン上に教材を掲載した経緯としては、基礎医学を中心に授業時間が削減されたことから、そのフォローアップのために開始したことがきっかけとなっている。
学生からの評価も概ね好評である。特に学外でも自宅にPCのある学生にとっては、いつでも予習復習することができると評判である。反面、このように自学自習環境を整備すると、学生が授業中にノートを取らなかったり、出席率が悪化したりすることが危惧されるが、出席率に関してはオンライン上に教材を掲載した以後の方が良くなった。
A PBLにおけるIT活用
関西医科大学では、導入チュートリアルとして1年次、臓器別チュートリアルとして3、4年次(26コース)、クリニカルクラークシップを基本とした臨床実習として5、6年次(全臨床科目+学外臨床実習)の3ステップで、PBLを導入している。ここでは3、4年次の臓器別チュートリアルに焦点を当て、報告いただいた。
○ チュートリアル支援用教材をイントラネットに公開
・ コアタイム用資料を、シナリオの展開に合わせてサーバーにアップロードする。
・ チュートリアル全室にPCを設置。
・ フリービームによるホワイトボードキャプチャー
⇒ 機器の不具合により現在はホワイトボードをデジカメで撮影
・ 最終的には学生が議論をまとめ、pptを用いて発表する。
○ Webページ
・ チュートリアル専用のWebページを構築。
・ シラバス、関連画像、講義ノートを掲載する。講義ノートは、8割5部の授業に関してアップロードされている。来年度では100%を目指す。
○ クリニカルクラークシップ
・ オーダリング、電子カルテの閲覧参照(キャンパス間含む)。
・ 診療画像と映像の閲覧(キャンパス間)ex.放射線画像、手術映像、眼科画像、バイタル
B EBMにおけるIT活用
3学年4〜6月医療情報学Uの一部で実施している。具体的には、EBM体験実習および診療データのロジスティック解析を組み合わせた演習を行う。この授業の狙いは、学生に対してデータに基づいた医療へのハードルを低くすること、データに基づく医療の利点と留意点を、実際にEBMを体験することで理解してもらうことにある。(具体的なシナリオは配布された資料を参照されたい。)
○ EBMの進行方法
1.シナリオ提示
2.問題の定式化
3.資料の検索収集
4.資料の批判的吟味
○ IT活用方法
・ 学生は図書館でMedlineやUPtoDateなどのオンラインDBを用いて情報検索する。
・ EBMの数値データをサーバーからダウンロードさせ、統計ソフトJMPを用いて解析させる。
○ EBM体験演習のねらい
EBM演習の適時性を考えると、研修医レベルがふさわしいと思われるが、ここで3年生にあえて体験させる理由として、以下のものが挙げられる。
・ 医学統計学と公衆衛生学(疫学)で学習していることの意味をわかってもらう。
・ EBMの実践方法自体は「難しくない」ことを体験してもらう。
・ 体験を通じて、用語等に親しんでもらう(統計への拒絶反応の軽減)
・ 統計の「穴」を実際に体験して、統計データ盲信の危険性を実感してもらうとともに、適切な統計手法の重要性を認識してもらう。
・ EBMが「向く」疾患と「向かない」疾患が区別できるようにする。
以上の報告について、下記の旨の意見があった。
○ コンテンツのアップロードは誰が担当しているのか。
⇒ 最初の1年間は、渡辺委員自身が作業を担当していたが、2年間からは学務課の協力を得ている。アップロードのみならず、WordファイルのPDF化などもお願いしている。
○ PBLのシナリオ作成は、何人ぐらいの教員が携わっているのか。
⇒ 最初は50人ぐらいの教員が集まり、夏のFD合宿で一斉に作成した。その後はコアとなるシナリオができているので、PBL担当責任者の教員2名とコースリーダー1名、各講座の主委任教授によってシナリオの見直しや改正を図っている。
(2)中木委員による報告
中木委員より、薬理学の学習効果向上に向けた教育システムの活用事例について報告いただいた。要旨は以下の通り。
○ 薬理学学習の流れ
予習用にWebCTに授業用資料、一年間の学習内容をまとめたテキスト、関連画像をアップロードしているが、実際に予習する学生は4〜5名程度である。そこで、学生には予習はせずとも必ず復習するよう、一問一答形式の薬理学練習問題をオンライン上に用意している。この練習問題は国試とは直接連動していないが、内容的には類似した記述式の問題である。
○ 試験問題の管理
・ 帝京大学では、大学の意向により試験問題を国試の形式に沿ったものとしているが、薬理学ではマルチプルチョイスの方式を採用している。
・ 試験問題を学生に返してしまうと、代々その試験問題が学生に受け継がれてしまい、ヤマを掛けて試験を受ける学生が出てくる。そのため、試験問題を試験後に回収しようとするが、今度は復習ができないとの不満が生じる。そのような問題を解消するために、Endnoteを用いた試験問題のデータベースを採用した。
○ Endnoteによる試験問題の管理
・ もとは文献管理のためのソフトであるが、詳細な条件検索が可能であり、かつ出力項目、形式を自由に設定できることから採用した。
・ 約2000題プールされた試験問題から、分野、識別指数の範囲、正解率、出題実績に関する条件を指定することが、条件を満たした問題が自動的に抽出される。
・ 学生の試験結果も自動的に表示される。その試験結果は学生宛にメールで送信する。なお、試験問題は返却しないが、その代わりに試験結果にendnoteのドリル番号を付与することによって、自らの弱点を確認できるようにしている。なお、ドリル番号の付与は手作業である。
○ Endnote導入後の効果
・ 学生にとっては、2000問もの試験問題をいつでも学習できることから安心感を与えるとともに、試験後に間違えた問題のドリル番号を教えることで、弱点の補強につながる。教員にとっては、良問を蓄積することができる。
・ 学習効果としては、システム採用前と採用後を比較して、採用後には60点以上を取る学生の割合が1割ほど増加した。
以上の報告を受けて協議した結果、18年度発刊の授業モデルとして、渡辺委員にはEBMにおけるIT活用方法として、中木委員には基礎学力補充のためのIT活用方法として、事例として紹介いただくことにした。また、第3回の委員会にて報告いただいた渋谷まさと氏の事例も、基礎学力補充のためのIT活用方法として紹介いただくことも確認された。
なお、OSCE、PBLに関しては、現状では優れたIT活用方法が見出せないことから一旦保留することにした。そこで、他のIT活用方法を紹介すべく意見交換したところ、本協会主催の全国大学教育IT活用方法研究発表会にて発表された、慶應義塾大学高橋孝雄教授の「患者データベースを用いた臨床実習システム」が推薦された。そのため、次回委員会では高橋教授をお招きし、事例紹介いただくことにした。
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