社団法人私立大学情報教育協会
平成19年度第1回会計学教育FD/IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成19年6月6日(水)午後1時から午後3時まで

U.場所:私立大学情報教育協会事務局会議室

V.出席者:岸田委員長、高松、阿部、黒葛、金川各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1.「ファカルティ・デベロップメントとIT活用」の刊行について
  事務局より、18年11月に報告書が刊行された旨の報告がなされたともに、委員会への謝辞が述べられた。また、事務局にて取りまとめた第1章の概要についての説明がなされた。
  さらに、関連情報の提供として、平成19年6月1日に発表された教育再生会議の第二次報告(「社会総がかりで教育再生を」)についての説明がなされた。この報告では、大学の取り組むべき課題として5つの提言がなされている。提言1では、教員の教育力向上のためのFDの義務化や教育手法に関する研修プログラムの開発、提言2では企業や社会との連携の強化、提言4では国公私を通じた大学地域コンソーシアムや大学院の共同設置、提言5では国立大学の改革として、人事給与システムの見直し(教育・研究業績の給与への体系、学長選挙の廃止、学長のリーダーシップの発揮)が謳われている。

2.会計学における産学連携教育の具現化に向けて
  事務局長より、産学官連携サイバーユニバーシティ構想の概要と、本委員会の活動内容として、会計学における産学連携教育の実現に向けて検討されたい旨の説明がなされた。説明の後、岸田委員長、黒葛委員、阿部委員より、産業界に求める教材コンテンツの要望について、資料に基づき説明がなされた。
岸田委員長の案は、企業が取引先の経営状態を把握するために会計情報(財務会計情報、貸借対照表、損益計算書)をどのように利用しているのか、企業の方に話していただくコンテンツで、会計的素養を身に付けることを目的とした「会計学」の授業において活用することを想定している。
黒葛委員の案は原価計算における「製造工程」の概念を企業の方に平易に説明いただくコンテンツで、2年次配当の会計情報論において活用することを目的としている。
阿部委員の案は、簿記が企業の経理業務やビジネスの現場においてどのように活用されているのかを実録乃至はアニメーションで説明するコンテンツである。特に学生がイメージを持っていない、実物の小切手、手形やその使用方法などを紹介していただきたいと考えている。なお、このコンテンツは入門簿記の授業で活用することを想定している。

以上の説明を踏まえて自由討議したところ、以下の意見があった。

  • 帳簿が広く活用されていた時代は教員も企業の経理活動を想像することができたが、もはや帳簿を付けている企業も少数になりつつあり大半の企業ではで会計情報システムを導入しているが、果たしてそのシステムがどのように運営されているかについて教員は把握したい。授業を行ううえで教員にとっても会計実務の現場を教えてもらいたいと思う。
  • 現在のシステムは、従業員に極力画面上での入力作業を少なくするよう構築されており、例えば製造業であればICタグで物流管理をしており、リーダーに読み取らせれば全ての作業が終わってしまう。そうなると、却って映像として提供できる情報が限られてします。
  • 会計情報を作るのではなく、財務分析を行う際に会計情報をどのように活用しているのかを企業から情報提供いただくことはできないか。会計情報の作成と利用の局面に分けて考えると、日本の会計学教育は会計データの作成に偏重してきたが、むしろ今後は会計データを利用することを重視すべきである。仕訳帳が読めなくてもBS/PLが読めれば良いのではないか。
  • 教育再生会議の報告に、人材のニーズ等について大学と企業が意見交換する場を提供するとかかれているが、まさにこの委員会がそのような場として機能するのではないか。大学の会計教育観と企業の要望は必ずしも一致したものでなく、そこを摺り合わせることが連携の第一歩となるのではないか。ここで教材のことについて議論していてもあまり意味がないのではないか。
  • 例えば企業の経理部長にインタビューしてみると、経理部に配属される人材に求める能力は特にないと言われる。毎年各部署から人事に対して配置人数は要求するが、特に能力面での要求は上がらないと言う。大学の会計教育に対しても特に要望はないという。このような大学と企業の間のミスマッチを解消することがまずは必要であり、そのためには委員会としても各企業の経理担当者にインタビューする必要があるのではないか。
  • 企業が学生に対して要求する能力の水準が不明瞭である。現在の学生は、親のリストラなどを目の当たりにしている場合もあり、将来に不安を抱いている。そのような学生に対して意欲を向上させるためにはやはり企業からの協力が必要であると思う。
  • 今回各委員より提出いただいた資料では、まだ企業側に協力を依頼するには弱いように思える。企業側がどの程度の労力を裂いて協力するのかを理解させるためにも、提供いただきたい情報や、情報を利用する期間や頻度、どのようなシナリオで授業を行い、どのようにコンテンツを活用するのか、詳細化していただきたい。
  • 岸田委員長の構想にある、取引先の経営状態を判断するための会計情報の利用方法を、外部に出してもらうことは難しいのではないか。
  • 初対面の企業の方にそのような情報を提供いただくことは難しい。ましてやカメラを回してしまえば、言葉を慎重に選ぶし場合によっては企業名を出すなと言う話にもある。特に大企業であればあるほど難しい。私情協の賛助会員から協力を仰げない場合には、各委員が個人的に付き合いのある企業の方に頼むしかないのではないか。
  • 機密情報を出してもらうのはどの企業にお願いしても難しいと思うが、既に公開されている自社の財務情報(売上高、営業利益、経常利益など)をもとに、どこに着目して財務分析しているのかを聞きだすことは可能ではないか。アニュアルレポートのような内容でも、作成した本人に話してもらうことは説得力がある。

 以上の意見を踏まえて、次回委員会までに委員各位より産業界に求める教材の内容、授業での利用方法(含授業1コマのシナリオ)、使用頻度など、詳細化していただくこととした。また、可能であれば椎名副委員長に紹介いただいた日立製作所の方をお招きして、協力の可能性を打診することとした。

3.その他
  事務局より、本委員会の活動として、産学連携の推進のみならず、会計学教育に今後必要とされるFDのあり方について議論いただきたいとの説明がなされた。