社団法人私立大学情報教育協会

平成16年度第5回機械工学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年3月16日(水)午後3時から午後5時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:曽我部委員長、角田、青木、田辺、河端各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

  • 機械工学教育における産学連携授業について

 前回の委員会において、曽我部委員長、田辺委員より17年度の授業での実施を想定した、産学連携型授業モデルを紹介いただいたが、今回はより詳細な案を提示いただいた。また、青木委員より、産学連携型授業の実践例を紹介いただいた。

田辺委員

有限要素法の授業において、産業界の製品開発の場における有限要素法の応用実例を企業技術者からネットワーク紹介いただくことにより、学生の動機付け、学習意欲の向上を図ることを目的とする。

授業運営方法

(1)教材データベースを用いて様々な産業界での適用例を紹介

(2)有限要素法を利用して設計を行う企業技術者による15分程度ミニ講義

(3)講師−学生間の質疑応答、講師による助言、励まし。

授業内容

授業科目:有限要素法(3年後期、12月)

有限要素法の製品開発への応用の現状について(90分授業)

  • 製品開発における有限要素法の応用10分
  • 教材データベースを用いた産業界での適用例の紹介10分
  • 産業界(高速鉄道)での利用の現状(ミニ講義)

@(財)鉄道総合技術研究所の第一線研究者によるミニ講義(15分)

  • 新幹線の開発における有限要素法の利用
  • 様々な鉄道の問題の解明や対策に利用

A学生からの質疑応答(5分)

(4)有限要素法の概要40分

(5)その他、まとめ10分

※なお以前田辺委員が同様の授業を実施した際には、テレビ会議システムを活用したが、今回は簡便化を図るために、インターネット会議システムを使用することを検討している。

以上の案に対して、下記の旨の意見があった。

  • 遠隔会議システムを使用するのであれば、講師同様に他大学の教員・学生も同時参加することが可能であるから、複数の大学から参加を募っても良いのではないか。通常の授業期間では、大学間でカリキュラムの調整が必要であるが、例えば夏期、冬期の特別授業という形式で実施すれば、大学間の調整も軽減するだろう。また、学生間でディスカッションを行えば、よりモチベーションを向上することが期待できる。
  • 更に講義風景を録画することによって、優れた教材としても利用可能である。また、それを教材データベース上に登録することで、教材の充実化を図ることも可能となる。

以上を踏まえ、実験授業では、複数大学の参加を想定して、企画を継続して検討することとした。

次に、青木委員より、2002年に実施した特別講義「新しい市場を創造するためのエンジニアのための賞品開発処方」に関する資料について説明があった。

この授業は、日本大学芸術学部非常勤講師の馬場氏を特別講師として招聘して実施した。馬場氏は、元々は大手企業の商品デザインを手がけるプロダクト・デザイナーであったが、現在は企業コンサルタントを務めている。ここでは、エンジニアが得意としないデザインと商品開発について、泥臭い現場の話を織り交ぜ講義いただいた。

以上の説明について、下記の旨の意見があった。

  • JABEEやABETからは、日本の工学教育に対して、工業デザイン教育が弱いと提言されている。このような授業を継続的に実施するためにも、企業の協力は不可欠である。
  • 米国では、大学と地域企業の連携が盛んに行われている。例えば企業から与えられたテーマに対して学生が課題に取り組む問題解決型の授業が実施され、さらに必要な技術者の派遣から資金提供まで企業の支援を受けることができる。日本の企業においてもこのような風土を定着させるために、産学連携授業を草の根レベルで実施していくとともに、アピールしていく必要があるのではないか。
  • 今回田辺委員の企画された授業も、年間1〜2回の実験授業として想定されているが、準備、企画、交渉期間に鑑みると即時的に実践可能な授業とは必ずしも言えない。今後恒常的に実施していくためにも、委員会として長期的な視座のもとに戦略を立てる必要がある。
  • 以前から話題に出ているように、リタイアされた方々は時間的余裕もあり、大学教育のサポーターとしてうまく機能すると考えられるので、人材情報を体系化することが望まれるが、個人情報保護法が施行されると、大学で個人情報をデータベース化することが難しくなる。そこで、私情協が大学間で共通利用可能な人材データベースを構築することが適切ではないか。
  • データベースの箱を構築することは可能だとしても、中身の人材情報を私情協で収集することは困難である。文部科学省と関係機関との連携を図る一方で、委員会としても各委員の知己の方を招聘して、裾野を広げていく必要がある。

次に、曽我部委員長より、ITを活用した振動工学の授業モデルについて報告があった。

振動工学は3年生を対象とした授業である。今回のモデルでは、全14回の授業項目とともに、各回の教育目標、IT活用方法、期待される教育効果が併記されている。

2.機械工学教育のコアカリキュラムについて

前回の委員会において、中教審大学分科会の答申「我が国の高等教育の将来像」において、各学問分野別のコアカリキュラムの作成及びコアカリキュラムの実施状況と大学評価の有機的連動が提言されたこと、また、18年度発刊予定の報告書において、機械工学分野においてもコアカリキュラムを意識して、学習項目ごとに教育目標を明示して、その到達に向けた効果的なIT活用モデルを提言することが事務局より説明された。今回は、コアカリキュラムについて、自由討議を行った。主な意見は下記の通りである。

  • 大学における機械工学のカリキュラムは、社会が期待する内容と乖離がある。例えば安全設計工学などは社会においても重要な科目であるにも関わらず、実施されなくなりつつある。よって、社会の意見を反映するという意味では、コアカリキュラムは必要だろう。
  • コアカリキュラムは、教育内容の標準化を目的としていると考えられ、技術者教育の国際的な質的同等性の確保を目的とするJABEEと軌を一にすると思われる。しかし、一方で高等教育の将来像では、高等教育の個性・特色の明確化を謳ってもいる。整合性の無い主張が並列されていると、大学に混乱を招くだけではないか。
  • 本委員会で総括的なコアカリキュラムを提案することは不可能である。だから、報告書で紹介する授業において、最低限身につけるべき技能や目標を明確することで対応すべきではないか。

以上、コアカリキュラムとIT活用の関連性については、以後継続して検討することとした。また、委員各位コアカリキュラムへの提案、意見等次回委員会までに持参いただくこととした。