社団法人私立大学情報教育協会
平成16年度第4回経営工学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成16年10月25日(月)午後6時から午後8時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:渡辺委員長、玉木、米内山、細野各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1.  経営工学カリキュラム調査について

前回の委員会にて、ITを活用した経営工学教育プログラムの刷新、教育内容の質的向上のためのFD、および今後の委員会活動に関して玉木委員より下記の提案がなされた。

1) 企業が求める経営工学の学部卒業生、修士修了者の人材像(知識、スキル、態度)と学習目標の設定
2) これからの経営工学のカリキュラム体系の策定と有効性の検証
3) 実践教育、実践力要請のための実習科目の充実のためのコンテンツの共有化
4) 経営工学分野の授業と連動したインターンシップ、調査実習に関する基本プログラム
5) 経営工学分野以外を含めたFD、SDに対する研修プログラムの開発と講習会の実施
6) 各大学でのFD、SDに基づいたIT実践教育を推進する組織体制づくりのガイドラインの策定

今回の委員会では、2)の提案の実現に向けて、委員校及び主要大学の経営工学カリキュラム、及びMOTカリキュラム、JABEE評価基準、外国大学の経営工学カリキュラムを収集し、比較分析を行うこととした。

(1) JABEEの評価基準

まず、渡辺委員長より、JABEEにおける経営工学の分野別要件に関して下記の旨の説明がなされた。

JABEEにおいて経営工学としてどのように対応していくべきか、日本学術会議の経営工学関連の分科会において平成10年度より検討が開始された。そこでは具体的な分野別要件を検討する前に、3大学のカリキュラム調査を行い、仮の分野別要件を考案した。
・ 次に諸外国の大学のカリキュラムや資格認定制度を調査するともに、産業界からも現行の経営工学教育に対する意見を求めた。
・ 2002年度に分野別要件を制定された。最新版は2004年度版であるが、2002年度版と比較すると、補足説明が抽象化されており、経営工学のみならず社会工学教育も評価対象に含まれた。
・ 2004年5月の時点で認定されたのは、早稲田大学理工学部経営システム工学科と鳥取大学工学部社会開発システム工学科である。
・ 本年度より、認定されたコースに対して、技術士の一次資格認定が免除されることとなった。

以上の説明を踏まえ意見交換したところ、下記の旨の説明があった。

・ 大学院に対する認定も検討をしているが、建築分野のように、学部と大学院教育が一体化されており、認定基準の切り分けが困難であるケースもある。ABET では大学院教育に対しては学部とは別の基準を策定している。

・ 日本と米国ではエンジニア資格制度が異なり、米国ではPE、FEの資格試験を受けるためには、ABETに認定された大学教育プログラムを卒業していなければならない。また、エンジニアの資格保有者は専管業務を担うことからも、社会的地位が高い。日本においても、今後は技術士の地位を高める意味を込めて、JABEEが設立されたという側面がある。

・ 他の工学は、目に見える固有技術を専門とする専管業務を担うことが可能な一方、経営工学の専門性は総合的な管理技術であるが、目に見える形で業務に繋がることができない。

(2) MOT

次に玉木委員より、MOTプログラムに関する資料の提出と新しい経営工学教育のあり方について下記の旨の説明がなされた。

以前述べたように、経営工学は、プロダクト・ライフサイクル・マネージメント(以下PLMと略)の創造、企業創造のプロセスをマネジメントするための学問である。経済産業省のパンフレットによると、MOTのコアプログラムとしては、テクノロジーマネジメントコア、ビジネスマネジメントコア、MOTイントロダクションの三段階が想定されており、経営工学分野の該当するのはテクノロジーマネジメントコアである。従来の経営工学教育は、テクノロジーマネジメント、特にオペレーション・マネジメントに偏り過ぎていた。経営工学は、オペレーション偏重にならず、将来的にはMOTに繋がるような、PLM、新しいものづくりを創造できるようなカリキュラム体系にすべきではないか。

青山学院大学は、MOTに採択されたが、そこでは育成すべき人材像として、情報戦略プロデューサーを提案しているが、それはCIOと現場の技術設計者をつなぐ役割を担う人材である。経営工学でもまさに、個々の固有技術を管理、プロデュースすることのできる人材を育成すべきではないか。

以上の説明について、下記の旨の意見があった。

・ コア・カリキュラムを考案する上で、MOT的な方向性も重要であるが、一方学部教育ではJABEEによる認定プログラムも無視することはできない。しかしながら、JABEEの評価基準に縛られすぎると教育内容も制約されるし、またMOTも各校カリキュラムの統一化はされていない。
・ MOTは、工学系とマネジメント系から派生した学校の間には、カリキュラムの差異が大きい。工学系ではテクノロジーマネジメントコアに偏重しがちであり、マネジメント系ではビジネスマネジメントコアに偏重しがちである。

(3)外国大学のカリキュラム

次に、事務局より用意された米国大学の経営工学カリキュラムを検証した。なお、用意されたのは、カリフォルニア大学バークレー校、コロンビア大学、ジョージア工科大学、ワシントン大学、スタンフォード大学(Undergraduate〜Doctorコースを含む)、MIT(Leaders For Manufacturingプログラム )のものである。
比較したところ、ジョージア工科大学のカリキュラムは、伝統的な経営工学的カリキュラムであり、コロンビア大学は伝統的カリキュラムに立脚しながら、MOT的な科目も導入している。スタンフォード大学は、UndergraduateコースからDoctorコースまで網羅的に科目が紹介されていることから、経営工学からMOTに該当する科目まで体系化されている。MITはLeaders For Manufacturingプログラムのカリキュラムであることからも、他のMOTとは独自な科目構成がなされている。
以上について、下記の旨の意見があった。

・ スタンフォード大学のカリキュラムは、学部から博士課程までを含めているとは言え、日本国内の一大学では到底網羅できないほど科目数が包含されている。日本においてカリキュラムの豊富化を図るのであれば、大学間連携して、カリキュラムを共有すべきではないか。
・ 本委員会としても、大学間連携の基盤となるプラットフォームの提案や共同実験の場を設けることは可能ではないか。
・ 一大学でカリキュラムを充当できないとすれば、社会との連携を考えるべきではないか。即戦力を持つ学生を育成するためには、社会を一つの教室の場と想定して、教員はコーチに徹し、社会にあるケースを素材としながら授業を運営すべきである。
・ 経営工学は実践的な学問であるから、教える内容が現場で生かされなければならない。つまり、マネジメントに関する固有技術を有する人材を育成しなければならない。そのためには、座学の講義だけではなく、企業人と連携した実習の充実を図るべきである。

(4) 今後の作業について

今後の方針としては、コア・カリキュラム構築に向けて、委員各位、自身の考える(育成すべき人材像を踏まえた)経営工学カリキュラムを、技術士法の5項目に分類・階層化し、そこから一つの体系を抽出していくこととした。