社団法人私立大学情報教育協会
平成17 年度第2 回経営工学教育IT 活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17 年平成17 年7 月12 日(火)午後6 時から午後8 時まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:渡辺委員長、越島、玉木、後藤、細野、冬木各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1.求められる経営工学出身者の人材像について

前回の委員会において、経営工学出身者の人材像・スキルを、業種別に考案することとなり、委員各位より素案を作成いただいた。

細野委員

細野委員の案では、まず想定する業界として、日本標準産業分類の全て(A〜S)の業種が対象とされた。その理由として、これまで経営工学は製造業、メーカー中心に出身者を輩出してきたが、大学における教育内容の変革や社会のニーズの変容に鑑みると、今後はあらゆる業種において活躍できる人材を育成することが求められることが挙げられた。また、各業種の中において、経営工学の担う役割は、作業の方法や仕事の進め方の効率化を図るためのワークシステムの構築や、情報システムの分析・改善・設計に関する技術であるとの説明がなされた。

具体的な人材像としては、最終的には事業の基本構想や企業戦略の立案・指揮を担うトップ層、その前段階として各業務別新規戦略の立案を担うマネージャー・リーダー層を目指すこととした。

必要なスキルについては、前回提出されたMOT に関する資料をもとに考案されたスキルと、JABEE の経営工学の標準的授業科目などを参照しながら、委員会の目的に沿った分類とスキルを検討すべきであるとの提案がなされた。

越島委員越島委員の案では、まずChemical Engineering Progress より抜粋いただいた産業界の要求事項について紹介がなされた。それぞれの要求事項に対してプロジェクト関連、プロセス関連、その他(技術者倫理等)の分類が施されているが、先端的な技術より一般的なコミュニケーション能力や問題解決能力を求める内容が多い。次に化学工学会が調査した、プラント建設プロジェクトにおけるプロジェクト・エンジニアの具備すべき条件について報告がなされた。技術上の基礎知識としては化学工学を頂点に、機械工学、工業化学、計装工学、電気工学等多岐に亘っており、1 人のエンジニアがカバーすることは不可能であると思われるが、管理上の基礎知識では、プロジェクトマネジメント、コスト・エンジニアリング、システムズエンジニアリング等はまさに経営工学的な知識が求められている。このことから、各産業セクターを横断して、管理上の知識・技術として経営工学的センスを求められていることが伺えるのではないか、との指摘がなされた。

次に、プロジェクトマネジメント教育の現状について報告がなされた。プロジェクトマネジメント学科を卒業した学生の就職先は流通系、製造系、IT 系等多岐に亘っており、職種についても学生時代の専攻に関わらず、技術企画、技術営業など多彩である。さらに転職を図る者も年々増加しており、特に他業種に転じる傾向が強いが、これはプロジェクトマネジメントを学んだ学生が、業種を問わず通用する管理技術・知識を身に付けている証左ではないか、との概説がなされた。

最後に、技術を事業の核とする企業の将来像と、それに適合するための経営工学教育、育成する人材像について報告がなされた。今後企業は、次世代の事業を継続的に創出し、持続的発展を維持していくことが不可欠であり、そのためには創造的かつ戦略的な経営、さらにはプロダクトライフマネジメント全般に亘る企業責任を強化しなければならない、との指摘がなされた。具体的には、分野の異なる様々な技術の統合化、組織や人、物、資金の有効活用、エンタプライズ・プロジェクトマネジメントが必須である。以上に鑑みて、経営工学教育でも、社会や企業活動における問題解決を図るため能力の育成を図るため、文系(経営学、社会学)と理系の学際的な分野の統合が必要であること、また基礎知識を実践的な応用分野への橋渡しを行うために、技術経営を学部教育に導入すること、さらに国際的な文化や言語に関する知識の習得のために、人文・社会科学分野との連携することが提起された。

以上を踏まえて、次の育成すべき3 つの人材像が紹介された。

・企業における技術開発や新規事業開拓などの経営活動において
→企画立案、戦略分析などの基礎知識を有し、研究段階から商用化・事業化にいたる
事業運営(マネジメント)に対応できる人材

・経営活動において
→企業全体のプロジェクトマネジメントの観点から、プロジェクトの優先度や投資効果な
どを分析し、代替案の検討ができる人材

・21世紀の社会変革を見据え
→企業の付加価値創出と持続的発展をめざすべき、複合的な学問領域を横断的に連
携し、問題解決を図る人材

渡辺委員長
技術は、固有技術と管理技術の二分化することが可能である。特に製造業や情報産業においては、求められる固有技術は業種によって異なるものの、事業部門の編成など企業間で類似していることから、そこで求められる管理技術にも共通性のあることが推測される。そして、管理技術を教えることのできる学問は、経営工学だけである。以上を踏まえて、総合的な能力と個別的な能力・知識を列挙した。総合的な能力としては、@製品企画から消費後の処理までのライフサイクルを統合的に管理運営する能力、Aライフサイクルを考慮した事業戦略を立てる能力、B自社の固有技術を見極め自社の方向性に見出す能力、C管理技術、情報技術を有効に統合的に活用する能力が挙げられた。個別の能力。知識については、問題発見能力、問題解決能力、プロジェクトをマネジメントする能力、危機管理、変動への対応能力、グローバルな見方、知財の開発、評価・、運営に関する能力、コミュニケーション能力等が挙げられた。

冬木委員
学力、モチベーションともに多様な学生が多数いるという現実を踏まえて、システム思考のできる人材の育成を経営工学は目指すべきであると提案したい。システム思考とは、個々の要素(例えばヒトモノカネ)を個別に考えるのではなく、ヒトモノカネの全体的な流れやサイクルを俯瞰しながら、目標到達の方法を考えることである。これまで経営工学は、カリキュラムにしても個別知識を寄せ集めた観が強く、学生の興味を惹き起こすことができなかった。今後は個別の科目において、「何を」教えるかだけでなく「どのように」教えるべきか検討すべきではないか。

以上の各委員による報告を踏まえて自由討議したところ、下記の旨の意見があった。

・ 現状の経営工学教育はシステム的ではなく、個別技術を断片的に教えており、他の科目との関連性について全く触れないことが多い。学部学科レベルで、カリキュラムを編成する時点で全体的なコンセプトを明確化する必要がある。

・ 教員は、自身の専門外の分野を教えることを厭うが、目標に見合う人材を育成するためには、教員も専門外の分野を自ら学習しながら教えていく必要があるのではないか。

・ システム理論やシステム思考は、学問の理論的根拠や核と称されることが多いが、必ずしも計量的、科学的手法によって確立されているとは言い難い。それを大学で学問として教育することができるのか、疑問の余地がある。

・ 企業の戦略には、まず全社戦略があり、その下に事業戦略、更に機能戦略と細分化していくが、経営工学は、これまで機能戦略の中の「ものづくり」だけに終始していると思われていた。経営工学を魅力ある学問とするためには、プロダクト・ライフサイクル・マネジメントの上流部分(製品企画、事業戦略)から下流部分(製品設計後の顧客サービス)の一連のプロセスをマネジメント、評価するための技術を教える必要があるのではないか。

以上、次回委員会では、9 月17 日に開催される経営工学会において、企業人に対して経営工学出身者に求める人材像と学習目標を調査するための、質問項目を検討することとした。なお、玉木委員には、各委員の提出された人材像をもとに、質問項目を作成いただくこととした。また、それとともに18 年度発刊の報告書に向けての授業モデルの検討にも入ることとした。

2.サイバー・キャンパス・コンソーシアム・メールマガジンについて
本年度より、サイバー・キャンパス・コンソーシアム事業を再構築することとなった。具体的には、これまでの大学による登録制参加を廃止し、国公私立大学問わず多くの教員をサイバーFD 研究者として登録し、ネットワ−ク上でオ−プンに教育改善に関するフォーラムに参加できるよう、制度改革を図ることとなった。また、事業内容としても、本委員会での議論された教育改善に関するトピックスを、サイバーFD 研究者に対してメールマガジンで配信するほか、分野別に優れたIT活用授業をWeb 上でアーカイブ化し、教育業績としての教員の努力も併せて紹介するなど、見直しを図ることとなった。それに伴い、各学問分野別に運営委員会を設置することとなり、今年度より本委員会委員に就任いただく佐々木桐子氏、中島健一氏、小池稔氏に運営委員として就任いただくこととなった。

3.その他
玉木委員より、日本経営工学会第28 期企画・行事委員会に関する紹介がなされた。第28 期の活動テーマが「産学官連携による経営工学におけるIT を活用した実践教育(仮)」であり、本委員会の活動内容とも類似していること、また渡辺委員長、玉木委員が行事委員会に参画していることから、今後非公式に情報交換等図ることとした。