社団法人私立大学情報教育協会

平成17年度第4回経営工学教育IT活用研究委員会議事概要

T.日時:平成17年10月15日(土)午後5時30分より午後7時30分まで

U.場所:私情協事務局会議室

V.出席者:渡辺委員長、越島、玉木、米内山、細野、佐々木、小池各委員、井端事務局長、木田

W.検討事項

1.経営工学出身者の人材像と学習目標の設定について 〜大学外の企業人の意見を参考に〜

玉木委員より、9月17日に開催された日本経営工学会企画・行事委員会についての説明がなされた。ここでは、「産学官連携による経営工学における人材育成と実践教育」をテーマに掲げており、最終的には資格試験制度の指針や試験問題への提言を目標としている。本委員会の研究テーマと共通する側面が多いことから、相乗効果を得るためにも両委員会での議論を相互にフィードバックすることにしている。

さて、今回の企画・行事委員会では、本委員会で検討されてきた経営工学出身者の人材像に関する資料を叩き台として意見交換したところ、大阪府立大学の竹安教授より「経営工学出身者は企業でもあまりスポットライトを浴びることが無い」、「専門性のインパクトが弱い」、「社会的に認知されることが必要」であることから、「高度なシミュレーション構築力、解析力、最適化手法などを駆使することが可能な専門性の強化」、「現代の企業ニーズを取り入れた教育・研究内容、マーケティング部門への人材輩出などの新分野開拓」が必要であるとの意見があった。

さらに、東京工業大学の青木氏より、本委員会での資料に対しては、「経営工学のアイディンティについて触れて無い」、「卒業直後の人材像にするなど短期的な視点に限定すべきである」、「達成可能な目標にした方が良い」などの意見があった。

次に、玉木委員より、上述した意見を反映した「求められる経営工学出身者の人材像」の補足修正案を提出いただいた。主な変更点としては、「育成対象者を学部卒業生、大学院修士卒業生の二つに分類し、それぞれに対して必要な技術・知識を列挙したこと」、「経営工学出身者の人材像として、技術を固有技術と管理技術の二つの観点から捉えることが可能なこと」を付加したことが挙げられる。なお、本資料には、企業のプロダクトライフサイクルマネジメント、バリューチェーン、エンジニアリングチェーンの相互関連図が合わせて掲載されている。

以上の玉木委員の説明を受けて、自由討議したところ、下記の旨の意見があった。

  • 竹安教授が指摘したとおり、経営工学やプロジェクトマネジメントの専門性はインパクトが欠ける。プロジェクトマネジメントには、PMIやP2Mの認定資格があるが、数十万円を代償に講習会を受講すれば、誰でも取れるレベルのものであり、なかにはプロジェクトマネジメントの実務経験がなくても取得できる資格もある。
  • 一級建築士と二級建築士の間には、携わることのできる業務内容に確固とした差異があるが、経営工学にはそのような法律的根拠に基づく専管業務は無い。それ故学会レベルでも、資格試験の出題問題を提言や、経営工学特有の資格制度を設置することを政府に訴える必要があるのではないか。
  • 経営工学関連では技術士の資格もあるが、これを有していても特別な専管業務は無い。現状ではコンサルタント業務に携わる技術者が主に取得するが、果たしてそれが実務上の権威として機能しているのか疑問である。実務で生かすためにも、PMIのようにポイント制にして、資格取得後も継続的に学習するよう制度設計する必要があるのではないか。
  • 民間企業の管理職の方と話をすると、昨今経営と固有技術を結びつける人材が欠如していることから、改めて経営工学出身者に対するニーズが高まっていることが窺える。今こそ経営工学を社会的にアピールすることが可能な時機ではないか。
  • 最近のipodブームを眺めると、消費者は単に製品の機能だけでなく、その製品を所有・使用することによる生活の文脈化を求めている。つまり、自分のライフスタイルを特徴づけるために製品を所有・使用する傾向が高い。経営工学はこれまで「モノづくり」だけを考えてきたが、消費者のニーズに鑑みたマーケティングも考慮しないと脚光を浴びることは無いのではないか。
  • 玉木委員の相互関連図も、「モノづくり」的な要素が強いので、PLM上の商品企画の箇所に、顧客のライフスタイルを提案するニュアンスのチャートを加えた方が良い。つまり、新しい経営工学に求められる、「持続的に新製品を市場に投下するビジネスプロセスモデル」、「市場における価値創造のプロセス管理」、「製品の機能以外の付加価値を高めるマーケティング技術」を明示しなければならない。この図に従えば、「M(management)」することに加えて「C(creation)」することが求められている。
  • 経営工学の基礎的な体系は、1970年代の完成している。昨今のカリキュラムは、むしろこの体系を切り崩して新しい科目を付加してきた印象がある。土台が頑丈であるからこそ、上部の重みを支えることが可能であると考えれば、新しい経営工学も、従来の基礎的理論の「学習」と並行して問題解決型のケースを「学問」として取り組まなければならない。そして、今や基礎的理論の「学習」はe-Learningを活用することで補えるのではないか。
  • 玉木委員の図は企業の実態を敷衍したものであるが、これに対して経営工学的なフィルター(知識、技術、分析手法、計画方法、設計方法、管理方法など)を通して切り分けて、さらに再整理する必要がある。そうすることで、製造業のみならず、サービス業にも適用可能な経営工学の姿が見えてくるのではないか。

以上を踏まえ、次回委員会では、「経営工学と資格制度のリンク」と、「人材像と科目・キーワードのマッピング」を図ることにした。なお、「経営工学と資格制度のリンク」は渡辺委員長、「人材像と科目・キーワードのマッピング」は委員各位に担当いただくことにした。

2.報告書について

学系別教育IT活用研究委員会では、18年度11月に報告書を刊行することにしている。報告書では、一委員会につき3〜4つのITを活用した授業モデルを紹介する。具体的には、一学期またはセメスター中の、ある一回分の授業におけるITを活用した授業モデルを報告する。

それを受けて、本委員会では現在検討している経営工学のカリキュラム体系から、いくつか具体的な科目を抽出し、各委員が実践されているITを活用した授業とのマッチングを図ることにした。