社団法人私立大学情報教育協会
平成17年度第5回経営工学教育IT活用研究委員会
T.日時:平成17年12月10日(土)午後4時から午後6時まで
U.場所:私情協事務局会議室
V.出席者:渡辺委員長、越島、玉木、細野、中島、佐々木、小池各委員
井端事務局長、木田
W.検討事項
1.報告書の授業モデルについて
(1)求められる経営工学出身者の人材像とカリキュラム
前回に引き続き、日本経営工学会企画・行事委員会の研究「産学官連携による経営工学における人材育成と実践教育」に関する資料と、経営工学と資格制度に関する資料をもとに議論を行った。
まず、渡辺委員長より資料説明がなされた。渡辺委員長に用意いただいたのは、経営工学分野の関連資格を取りまとめた資料と、各資格の試験概要に関する資料である。
経営工学分野の関連資格としては、@JABEE、A技術士、B中小企業診断士を挙げることができる。
JABEEについては、認定プログラムが認定されると技術士補の資格を取得し、それによって技術士の一次試験を免除できる。経営工学の分野別要件としては、具体的な科目名は敢えて挙げず、「経営管理に関する原則・手法に関する知識および活用能力」、「数理的な解析能力」、「情報技術を活用、応用する能力」、「工学、経済学、経営学などの関連分野に関する基礎知識」など一般的な表記をとっている。
技術士については、一次試験と二次試験を段階的に合格しないと取得することができない。経営工学部門の一次試験科目は、専門科目、基礎科目、適正科目、共通科目の4科目が課せられている。経営工学に特化したのは専門科目であるが、出題範囲としては「経営管理」と「数理・情報」しか記載されていない。しかし、これまでの出題傾向に鑑みると、前者ではIE、QC、EE、VE、納期管理、設備管理など、後者では統計、OR、信頼性などが出題範囲に該当すると思われる。なお、一次試験は先述した通り、JABEEにより認定したプログラムを卒業した学生は免除される。二次試験では、必須科目として経営工学一般と選択科目が課せられる。選択科目としては、生産マネジメント、サービスマネジメント、ロジスティクス、数理・情報、金融工学が挙げられている。しかしながら、実務経験最低4年を経た者でないと受験資格は得られない。
さらに、経営工学に関連する技術士の部門として、総合監理技術部門も挙げられる。総合監理技術部門の二次試験は、必須科目として総合技術監理一般に関する問題と、選択科目として各技術部門及び選択科目に対応した選択科目の内容と同一事項の問題が課せられる。つまり、各技術部門の二次試験を合格していないと総合監理技術部門を受験することができない。
中小企業診断士の資格については、18年度より試験制度が改正されることに伴い、試験科目も一部見直されることになったが、経営工学に関する科目としては、17年度以前と同様に、一次試験のうちの運営管理(オペレーション・マネジメント)、経営情報システムが該当する。
以上の説明を受けて自由討議したところ、下記の旨の意見があった。
- 例えば建築業務に携わる者は、従来の一級建築士の資格のほかに、技術士の建築設計部門、さらに総合監理技術部門を取得することで、コンサルタント業務へのキャリアプランを導くことができる。建築のほかにも、専管業務に携わる者にとって技術士の資格は魅力的であろう。
- 技術士の試験範囲を見ると、基礎科目ではアルゴリズムや情報ネットワーク、適正科目では技術者倫理など時代の趨勢に適した問題を出題していると思われ、むしろ専門科目の出題範囲は旧態依然としている印象を受ける。
- 経営工学に関連すると、この他にプロジェクトマネジメントの資格がある。アメリカでは、PMI(Project Management Institute)の資格の有無によって、政府系プロジェクトへの参画が左右される。それを受けて日本でもP2M(Project-Program Management)資格制度が設けられている。
- JABEEの分野別要件や技術士の出題範囲を見てもわかる通り、昨今経営工学と情報分野がオーバーラップしている。大学の現状に鑑みても、学科名称を経営工学科からシステム工学科へと変更している傾向が強く、今後ますますその拍車が掛かると思われる。しかしながら、経営工学で情報分野の固有技術を教える訳にはいかず、あくまでも経営工学的思考の対象が情報であるに過ぎない。そのように考えると、本委員会で経営工学の教育内容を検討するに際しても、情報分野の教育内容に関しては、敢えてあまり触れない方が良いのではないか。
次に、玉木委員より、日本経営工学会企画・行事委員会の研究「産学官連携による経営工学における人材育成と実践教育」に関する資料説明がなされた。
はじめに、大学9校における経営工学科のカリキュラム表について説明がなされた。この表は、列見出しに大学名、行見出しに分野(数学、確率・統計、物理、化学、機械、電気、メカトロニクス、力学、語学、解析、経営、財務・会計、生産管理、マーケティング、オペレーションズリサーチ、生産管理、マーケティング、ロボット技術、人間工学、IT、実習)を置き、升目には分野に該当する科目名を配したものである。この表により、各大学の経営工学科の重点分野を把握できるとともに、人材像と科目をマッピングする際に有益であるとの補足説明がなされた。
次に、求められる経営工学出身者の人材像と今後のあり方に対する企画委員からのコメント集について説明がなされた。
コメント集には、前回紹介いただいた竹安教授(大阪府立大学)、青木氏(東京工業大学)に加え、勝呂氏(TSCコンサルティング)、神谷氏(トヨタ自動車)、河野教授(慶應義塾大学)、唐澤氏(データ・ケーキベーカー)、野尻氏(日揮情報システム)、山下氏(日本総合研究所)からのコメントが付加されている。なお、各氏のコメントは玉木委員より配布された資料を参照されたい。
この資料について意見交換したところ、下記の旨の意見があった。
- 竹安教授が経営工学の現状についてネガティブであるのに対して、トヨタ自動車の神谷氏が経営工学のアドバンテージを説いているのは興味深い。
- 神谷氏には、トヨタでは海外経験時には全セクションを網羅することが多く、今後管理技術を要する部署や人材が能力を発揮することになると述べているが、全セクションを管理する技術、まさに経営工学の固有技術と言えるのではないか。
- 経営工学は局部的な最適化ではなく、まさに全体を俯瞰した上での問題発見・解決能力や思考プロセスを育むことを目的としている。それ故、報告書を作成する上でも、単に教材を寄せ集めるだけではなく、委員会としての育成すべき人材像や思想に基づいた教育方法を紹介すべきである。
次に、越島委員より資料「経営工学系コアカリキュラム(案)」について説明がなされた。
この案は、マイケル・ポーターのバリューチェーンに、エコロジカルサポート活動(具体的には3R処理、エコエンジニアリング、エコマネジメント)を加えて拡張し、それに基づきバリューチェーンのエコノミックサポート活動、プライマリ活動、エコロジカルサポート活動の各要素と大学の既存科目名称の対照表と、各要素間の関係性を考察するための表から構成されている。詳細は配布された資料を参照されたい。
既存科目とバリューチェーンの各要素の対照表と玉木委員に提出いただいた大学別カリキュラム表を比較すると、サポート活動とプライマリ活動の関連性についてあまり教えられていないことが窺える。「経営工学は、個別要素の専門家の育成を目指している訳ではないし、股今後経営管理や経営企画に携わる人材育成を目標とするのであれば、科目間連携は所与の前提として教えられるべきである」との点が強調された。
(2)ITを活用した授業モデル
はじめに、玉木委員より青山学院大学AMLUプロジェクトのサイバーマニュファクチャリング演習について紹介がなされた。サイバーマニュファクチャリング演習では、各単元を縦割りではなく、実際の業務プロセスに従い、それぞれ関連付けながら教育している。教育方法としては、各単元演習の講義と実習において、学習管理システムを用いて、シミュレーションデータやモデリングツールの動画像配信、メンターを交えた学習コミュニティの形成、出席・成績管理を行っている。詳細は玉木委員より配布された資料を参照されたい。
次に、佐々木委員より、ITを活用した教育事例について紹介がなされた。はじめに、教育現場で抱える問題点として、学習者側、教員側がそれぞれの問題点を整理した上で、両者の解決を図るための手法としてITを活用するに至ったことが説明された。
まず、学習者の抱える問題点「教室の中だけでは(授業内容を)捉えにくい」を解決するために、Web上に仮想工場のシミュレーションモデルを掲載し、授業時間外の自学自習環境を整備した。
次に学習者の抱える問題点「(授業で学んだことを)現実にうまく反映できない」を解決するために、学生の身近な例として、学食を対象としたシミュレーションモデルの構築を行うことにした。学生それぞれが構築の過程で発生する問題を共有するための交流の場として、掲示板も設置した。この掲示板では、問題解決のための意見交流のほかに、学生の作品を交互に発表することも目的としているが、現状では意見交流に留まっている。
なお、教育効果の面では、定量的な解析は行っていないものの、2004年度(学習の場のみ)と2005年度(学習の場+交流の場+発表の場)の自由記述式のアンケートを比較したところ、「達成度」「感動」「嬉し」といったキーワードが多く見受けられた。
佐々木委員の紹介について「学食のシミュレーションを通じて学生に期待する教育効果は何か」といった質問がった。これについては、「シミュレーションモデルを構築することではなく、実際に学食に対して改善案を提案したいと考えるが、時間の都合上そこまでは至っていない」との回答があった。
2.その他
次回委員会では、人材像を集約するとともに、人材像・科目・授業モデルのマッピングを図ることにした。
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