社団法人私立大学情報教育協会
第2回経営工学教育FD/IT活用研究委員会議事概要
T.日時:平成19年8月3日(金)午後3時から午後5時まで
U.会場:アルカディア市ヶ谷私学会館
V.出席者:渡辺委員長、細野、後藤、佐々木、中島、小池各委員、玉井、千葉各氏(三菱商事)、寺島氏(富士通)、井端事務局長、木田
W.検討事項
1.経営工学教育における産学連携授業に向けて
はじめに、井端事務局長より、2006年に発刊した報告書「ファカルティ・デベロップメントとIT活用」の概要と産学連携プロジェクトの概要について説明がなされた。
次に、渡辺委員長より、日本経営工学会作成の小冊子に基づき、経営工学の研究対象・学問内容について説明がなされた。また、2001年度にJUKIと教材を共同作成した旨、4年生の卒業研究に関する概要について説明がなされた。要旨は以下の通り。
- JUKIとの共同による教材作成は、JUKIの社員研修でも活用することを条件として実現できたプロジェクトである。教材の目的は、現場の映像を見せることで学生の問題発見能力を育成することにある。しかしながら、このような現場の映像は教員1人の力では収集できないので、今回のプロジェクトには期待したい。
- 4年生の卒業研究においては、自動車メーカーや測量機器メーカーの工場、キャラクター製品の物流センターなどの現場に学生を行かせた実績がある。ここに挙げた企業は主にものづくりメーカーであるが、経営工学はものづくりのみならず、サービス産業における管理技術等も研究対象としている。しかし、管理技術を可視化することは難しいので、今回のプロジェクトではヒトの動きやモノの流れを把握できるようなものづくり産業を個人的には想定している。
次に、細野委員より、資料「産業界との教育連携による「業務理解の経営工学視聴覚教材」の開発に関する試案について説明がなされた。要旨は以下の通り。なお、詳細は配布された資料を参照されたい。
- 今回のプロジェクトでは、少なくとも委員会の委員、将来的には日本全国の教員が共同利用できるような、動画・アニメーション等の教材を企業の方と共同作成したいと考えている。
- 経営工学は、渡辺委員長の仰る通り、元々はメーカーの製造現場を研究対象としていたが、今日ではサービス部門や情報システム部門など、あらゆる部門において経営工学的な要素が応用されている。例えば商社や金融業においても業務の改善のために、経営工学が応用されていると言っても過言ではない。
- そこで、今回は企業で行われている「仕事」や「業務」を単位的に分解し、その単位ごとに映像化して学生に見せて、各部門においてどのように仕事がなされているのか理解させたいと考えている。
- 配布資料における教材の基本要素を共通フォーマットとして、業態業種部門問わず様々な教材を作成できれば理想的である。
- 教材の作成手順としては、ゼミ生が現場を見学させていただいた上で、教材のイメージやシナリオを考案し、共通理解が得られた時点でデータを提供いただきたいと考えている。
次に、玉井氏より、三菱商事の業務過程の概要について説明いただくとともに、細野委員の説明に対するコメントがあった。要旨は以下の通り。
- 三菱商事の業務範囲はエネルギーから食品、ITまで多岐に亘っているが、本体の機能が薄くなっており投資会社的な性格へと移行しつつある。現在所属するICT事業本部を例にとっても、システムの要件定義、設計開発、運用保証を行うのは事業会社であるITフロンティアが行い、我々としては主に事業会社の経営企画、クライアントに対する業務改善のコンサルティング・提案営業を行っている。
- 三菱商事本体の業務では、提案営業で使った資料などに顧客情報が含まれるケースが多く、社外に持ち出すことは難しい。むしろ事業会社の流通メーカーなどの方が協力を得られると思う。協力を依頼する際には社会貢献の一環としてお願いするのか、あるいは見返りとして業務改善に協力するということであれば交渉しやすい。
- 特に流通業など興味深い業種ではないか。クライアントのなかで、在庫管理の効率化を図るために、需要予測のエンジンを活用している企業がある。そういった事例は教材化しやすいのではないか。
次に、寺島氏よりこれまでの議論を踏まえてコメントをいただいた。
- 扱う題材は学生の親しみ深いものの方が良いのではないか。コンピュータの部品に関する需要予測と言っても、学生には想像のつかない話のため興味を喚起しないように思われる。むしろ(できるかできないかは別として)携帯電話などを題材とした方が学生の受けは良いと思う。
- 当社においても顧客の業務改善等行っているが、先ほどの話にもあったように、顧客の事例を勝手に外部に持ち出すことはできないので難しい。社内で学生が興味を持ちそうな題材の事例があるか、一度検討させてほしい。
続けて、自由討議をしたところ、以下の旨の意見があった。
- ある特定の企業との連携を模索した際には、その企業の顧客に関するデータやノウハウが外部に漏洩しないよう注意をしなければならない。
- ただし、例えば東芝の電量計のように、30年以上前から生産されていて現在も使用されているようなものであれば、題材として提供いただけないだろうか。その意味で逆に自動車会社からの協力は無理だろうと考える。
- 題材とする製品が何であろうと構わない。とにかく教材を活用することにより、どのような業務をどのようなデータを使って何をやろうとしているのかを明らかにしたいと考える。つまり製品を勉強するのではなく、仕事そのものを勉強させたいと考えている。それ故、どの会社でも普遍的に行われている業務プロセスのケースをできるだけ多く集めて、例えば製品間、業種間での対比などできるようになれば理想的である。
- 産学連携により教材を作成するのみならず、それを活用して学生の記憶に残るような授業を創り上げたい。何かと学生の質ばかりが原因であるように言われるが、ただ講義するばかりではなく、授業中に意外性を盛込むことによって、卒業後も記憶に残るような授業を実現することができるはずである。
- 授業でサプライチェーンについて教えているが、サプライチェーンは学生には想像できないほど複雑な構造をなしており、15分間のビデオでその手法を学ぶことは生産系と違って難しい。
- 営業系の仕事に関する教材を作成するのは比較的容易いのではないか。営業マンが顧客の要望を聞き出し、ガントチャートや設計図を描いて可視化していると思うが、仮に授業で学生にガントチャートを描かせるとしても、身の回りの事例、例えば学園祭の企画でガントチャートを描くというような内容であれば教員でもできるが、企業レベルの事例となると手に負えない。それ故、小さい情報システムでも構わないので、例えば商店街でWebサイトを立ち上げる事例を収録したビデオがあれば、学生がガントチャートを作成するにあたっても現実味を帯びたものとして捉えるようになると思う。
- サプライチェーンのような総合的・連携的な手法や概念をビデオ化するよりも、もっと個別的でシンプルな事例の方が、素材的に扱えて汎用性も高い。今回のプロジェクトでは、授業の導入部分、学生の動機付けを高めるようなコンテンツを作成したい。
- 将来的には、収集した素材をサーバーに蓄積し、キーワード検索が可能になるようシステムを設計した方が良い。
- 単に教材を作成するだけではなく、教材を作成する上での苦労や企業との交渉過程などもモデル化できれば、委員会外の教員にも産学連携のノウハウを伝えることができるのではないか。
以上の意見を踏まえ、三菱商事には、流通業者あるいは小売業者のなかで協力いただけそうな企業を紹介いただくこととした。また、富士通には今回の議論を踏まえて社内で協力可能性を検討いただくこととした。また、委員会としては細野委員を中心として、提供を望むデータや手法や理論を教える際に欲しいネタの具体化を図ることとした。
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