応用コースの報告概要

 
 本協会では、大学職員に求められる情報活用能力養成を支援するために二つの研究講習を実施している。一つは、職員の共通能力として情報活用能力を高めるための「基礎講習コース」、二つは、教育改革の推進や人材養成支援に必要不可欠なコーディネート力やマネジメント力の向上を目的とした「応用コース」である。本協会の社会的役割に鑑み、非加盟の私立大学・短期大学も参加対象とし、研修の成果をすべての私立大学の教育支援活動、人材育成支援活動にフィードバックすることを目指している。本年度の「応用コース」は、平成21年11月11日(水)〜13日(金)の3日間、静岡県の浜名湖ロイヤルホテルにおいて開催し、94大学、賛助会員企業7社から160名が参加した。

 本コースでは、まず講義を通じて情報化戦略に関する基本的な考え方を整理した上で、情報ネットワーク技術(ICT)を活用した先進事例に触れ、情報化戦略を進める際に職員が備えるべき視点について考察を行った。続いて、大学改革に関する諸課題に対応した六つのテーマ別分科会に分かれ、少人数グループでの討議を通じて戦略的な情報活用モデルの創出に挑んだ。以下に全体会、事例研究、分科会の順に概要を報告する。なお、分科会の詳細は各分科会のページに掲載した。

全体会概要

1.応用コースの趣旨説明


 冒頭、講習会運営委員長の木村増夫氏(学校法人上智学院)から本研修会の趣旨説明が行われた。「大学が社会の要請に応えるには、私たち職員一人ひとりが教育改革や人材育成支援の担い手として十分な資質を備え、それを不断に磨いていかなければならない」という語りかけは、参加者の心に深く響くものであった。さらに、「分科会での討議にあたっては全体像を考え、分解して考え、そして異なる視点を組み合わせて考える“集団思考”のメリットを大いに活かしてほしい」というメッセージは、参加者の主体的な学びへの意欲を喚起するものであった。

2.大学情報化の基本的認識の共有講義

 
 運営委員による三つの講義を通じて、大学情報化に関する基本的な認識を共有した。

 はじめに、梶田晶子氏(東海大学)から、大学改革を推進する上で「情報」が持つ価値と、これを活用する際に備えるべき視点が示された。続いて、山崎達朗氏(芝浦工業大学)から、教育の質保証を実現するツールとしてのICTの有用性と可能性が示された。最後に、斉藤和郎氏(札幌学院大学)から「PDCA」のプロセスに基づき、職員が新たな価値創造に関与する意義について解説が行われた。

3.ICT活用の先進的事例紹介(事例研究)


 ICTを活用した先進的な事例紹介を受け、発表者との質疑応答を通じて取り組みの背景にある本質的な課題を探求し、大学職員が果たすべき役割について考察する機会を得た。

「自律的学習者の育成に向けた学習活動支援とFD活動」

 講師:高木 功氏(創価大学経済学部教授)

 創価大学では、「自律的学習者」としての基礎力を養成するためのプログラムに取り組んでいる。そして、学生の成長過程の掌握と適切な指導体制、初年次教育におけるFDの推進と学生との協同を推進するため、ポートフォリオの全学的導入を進めている。参加者は、学生を自律的な学び手に変革する組織的な教育支援のあり方について考察し、そのツールとしてのポートフォリオの意義について理解を深めることができた。

「ICTを活用した教育の国際化」

 講師:山本英一氏(関西大学外国語学部教授)

 関西大学では「CEAS」というe-Learningシステムを活用し、「学ぶ」、「語り合う」、「実践する」というアプローチで「総合的留学教育」を展開している。参加者は、現実の場面での“コンテキスト”を備えた実践的な学びの場を提供することの教育的意義について認識を深めるとともに、このプログラムを支え、推進する体制について教員と職員の協働という視点から考察を行った。

分科会

   全体会に引き続き、分科会形式によるテーマ別討議を行った。各分科会ともメーリングリストでの事前研修を取り入れ、先進的な実践事例の紹介を織り交ぜながら、討議の活性化を図った。各分科会の討議内容ならびに最終結論は後述する。

研修成果


 本コースが掲げる四つの全体目標について、参加者の自己評価を集計したところ、達成度は次のような状況であった(研修終了時に回収した「自己評価シート」から有効回答を集計)。

・大学教育を取り巻く環境の変化について認識を深めるとともに、今まで気づかなかった自大学の現状や課題を発見する

 <達成できた…80.0% 達成できなかった…0.0% どちらでもない…20.0%>

・これからの大学職員に求められる役割を大学の教育目標との関係から捉えなおし、大局的な視野でコーディネートやマネジメントに関わろうとする意識を獲得する

 <達成できた…76.8% 達成できなかった…0.7% どちらでもない…22.5%>

・大学の情報化を推進しようとする際に向き合わなければならない人的、組織的課題を認識するとともに、これを解決する上での視点を獲得する

 <達成できた…76.1% 達成できなかった…0.0% どちらでもない…23.9%>

・ここで培った他大学職員との人的ネットワークを活用し、研究講習会終了後も自大学の課題解決にあたっての情報収集や意見交換を行う場を形成する

 <達成できた…80.7% 達成できなかった…0.7% どちらでもない…18.6%>

 以上のように「コーディネートやマネジメントに関わろうとする意識の獲得」や「組織的課題への認識と解決へ向けた視点の獲得」のポイントが若干低いが、所期の目標は概ね達成されたと考える。一方で、2割程度の参加者がそれぞれの目標について「どちらでもない」と回答している。この要因を探るため、「自己評価シート」の詳細な分析を行い、例えば全体会と分科会との連携、あるいは分科会におけるテーマ設定の妥当性や討議の流れを支援する運営委員の働きかけなど、改善すべき課題を明らかにすることが求められる。

 なお、講習会終了後も、五つの分科会ではメーリングリストを通じた事後研修に取り組み、参加者が自らの成長を振り返ったり、自大学における業務遂行に役立てたりする場を提供している。この取り組みはまだ緒についたばかりではあるが、本講習会が真に実践的な人材育成プログラム、つまり研修成果が業務に活かされるプログラムに発展するためには、分科会討議で培われた人的ネットワークを研修要素に組み込んだ継続的なプログラムの展開が必要と考える。今後、事後研修の成果を評価、分析しながらプログラムのさらなる改善を図っていきたい。

各分科会 報告

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