特集

情報化時代の教育



デジタル化されたものしか使わない英語クラス

塩 澤 正(中部大学人文学部英語英米文化学科助教授)




1.はじめに

 中部大学では複数の外国語の教員が授業の目的や対象などに応じて電子媒体の教材を作成、利用している。その中でも最も特徴的な「情報英語」での実践を例にとり、その内容、使用方法、デジタル化教材のメリット、課題などに触れてみたい。


2.実践内容

 「情報英語」は、教材は一切デジタル化されたものしか使わないというユニークな英語クラスである。このクラスではシラバスはもとより、授業中に取り組むべき課題や宿題の指示はすべてWebページから提供される。学生は、電子メールで海外のキイパルと文通し、ネットニューズを読み、投稿し、Mooを使ってチャットをして、Webで自分の設定した課題を調査し、最終的にはその成果を自分のホームページで発表する。彼らは、その過程で、サーバから電子辞書をひき、不明なところは教員やクラスメートにメールやニューズで相談する。日本の文化を海外向けに紹介する者、環境問題についてメールでアンケート調査する者など様々だ。自己表現のための、プロジェクト型、協調学習型授業である。
 このような授業を成立させるためには、「下支え」的な知識、技術、資料、ヒントなどの提供が大切である。電子メールの書き方や機能別・話題別に編集された英語表現集のページなどはその一例である。教員が作成したものと、学生達が互いに投稿して作りあげたものがある。後者は学生のon-going projectとして、常に増殖し続けている。また、英語に自信がない学生には練習用のメーリングリストが設けてある。これに登録すればクラスメートや教員に英語に関して質問することも可能である。授業担当教員ばかりでなく、複数の日本人、アメリカ人教員などが質問に答える。反対に上級者のために、世界の英字新聞へのリンク集、キイパル検索サイトの紹介、他の大学のプロジェクト参加、など様々な教材や援助が提供されている。


3.デジタル化教材利用のメリット

 上記のように、クラスや大学の枠を越えて教材を共有できるところが、デジタル化の最大のメリットであろう。
 ネット利用の英語の授業では、本人にとって意味のある内容でコミュニケーションを取りながら、コミュニケーションを学ぶという「コミュニカティブアプローチ」が実践できる。ここでは教員以外に「読者」や「聞き手」が存在するので、英語を使うことになんらかの意味や目的があり、学習動機も強くなる。意志が通じたときの人間本来の内なる喜びを体験させることもできる。だから、楽しい。楽しいから、学習者は英語を勉強していることを忘れるほど中身に熱中する。知らぬ間に1日数時間も英語を読んだり、1か月に100通もの英文メールを書いたという学生が出現する。これは電子媒体でしかできない「離れ業」であろう。


4.今後の課題

 中部大学は語学教育専門のマルチメディア教室が二つ、マルチメディア自習室が一つある。専門の技術スタッフもいる。日本ではまだ恵まれた方の大学であろう。しかし、利用者が多いため、これでもメディア教室が不足している。学生の立場からすれば、教材も足りず、利用時間や利用者が限られており、決して満足のいくものではないはずである。ネットワーク関係で膨大な予算や労働力がとられるため、反対に、安価なCD-ROM教材や、ビデオ教材の予算を節約せざるを得なくなった。また、教育の現場にいる者は皆忙しくなったため、ボランティア精神で夜遅くまで働いているが、精神的・体力的な負担が大きくなってきている。これらが最近の筆者の周辺における教員・技術員の最大の課題である。



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