情報教育と環境

湘南工科大学におけるマルチメディア教育環境整備



1.はじめに

 湘南工科大学は1963年、機械工学科と電気工学科の2学科からなる相模工業大学として発足した。その後1968年に数理工学科を開設して3学科とし、1977年には数理工学科を情報工学科に改組、1989年には材料工学科を加えて4学科とし、1990年に湘南工科大学と改称して現在に至っている。この間、1993年には機械・電気・材料の3学科に大学院を設置している。
 発足当時は汎用機を中心とする計算機環境を利用していたが、1994年に糸山英太郎記念教育研究総合センターが開設されたのを機にUNIX系ワークステーションを導入し、同センターにおける情報教育に利用するとともに、各学科にオープン利用のセンターサテライトを設置し、FDDIネットワークを各棟に敷設することにより、全学的な分散処理体制を築いた。
 本学では、きめ細かい教育・アットホームな教育の実現を基本理念の一つとしており、情報技術教育はもとより、キャンパスライフ全般にわたる情報技術の応用とそのための情報環境の整備は、この理念の実現手段の一つとして重要であるという観点から、学生に最新の情報機器を利用できる環境を整備することに力を入れている。最近では講義用・オープン利用のパーソナルコンピュータ環境の整備、テレビ会議システムの導入、マルチメディア講義室の設置、ATMネットワークの敷設など、マルチメディア時代に即した情報環境の整備を進める一方、UNIX系のシステムを最新アーキテクチャのシステムに更新するなど、UNIXベースの教育にも注力している。  本稿では最近導入したシステムを中心に、その概要とそれらを利用した教育の状況について紹介する。


2.テレビ会議システムの導入

 1997年、東京都港区三田に本学の分室が設置されたのを機に、三田と藤沢の間にテレビ会議システムを導入した。三田には100インチ、藤沢には120インチのマルチスクリーンディスプレイを置き、それぞれ書画カメラやビデオデッキなどのマルチメディア機器が利用できる。本学は首都圏内に位置するとはいえ、都心からは1時間以上を要するため、藤沢と直結のテレビ会議システムを持つ都心の拠点は、学外講師による講演会や講義、種々の研究会の開催など、きわめて利便性が高い。このシステムはPictureTel社のもので、ISDN3回線(384kbps)により、テレビ並みの画質で15フレーム/秒の動画が伝送できる。藤沢キャンパス内は後述のマルチメディア講義室、大講義室にも回線を増設し、企業や大学・研究機関での第一線の技術者を招聘して、講演会、学会の研究会などに利用しており、非常勤講師の先生がゼミ学生とともに三田から藤沢との合同授業を行う試みも進められている。国際的には、本学と研究協力関係にあるアメリカのペンシルバニア州立大学とドイツのカイザースラウテルン大学を結んだ、3大学学術サミットにも利用した。本システムは伝送系として業界標準となっているもので、単位互換など教務関係の検討も含め、遠隔授業など利用範囲を広げていきたいと考えている。


3.マルチメディア講義室の設置

 PCの授業での利用と種々のマルチメディア機器を活用した新しい講義スタイルの実現のため、従来型の二つの教室をマルチメディア講義室に改装した。それぞれ90席の教室に45台ずつのデスクトップPCを置き、ディスプレイは液晶型でリトラクタブルとし、PCを使用しない場合にも邪魔にならないようにした。PCはPentium II266MHzのもので、MOを備え、ソフトウェアとしては統合オフィスソフト、インタネットブラウザ、数式処理ソフト、C言語コンパイラなどがインストールされている。多数のPCのシステムではその管理が問題になるが、本システムでは富士通製のセルフメンテナンスシステムという管理専用ソフトを用い、学生のPCは起動時に標準状態に初期化するようにし、授業ではDEC社製のキャンパスエスパーというソフトにより、教員卓から学生のPCの状況をモニターしたり、割り込んだりすることができるようになっており、講義終了時には教員側から一斉シャットダウンもできる。
 プレゼンテーション用としては、通常の照明下で利用できることを考慮して100インチと70インチの背面投影型のディスプレイを置いており、どちらにも独立にビデオデッキ、レーザディスクプレーヤ、DVDプレーヤ、書画カメラ、プレゼンテーション用PC2台の画像をタッチパネルで切り替えて表示できる。本システムの特長は70インチディスプレイの画面上で手書き入力ができるようになっており、PCからのプレゼンテーションに上書きして補足説明を行ったり、従来の板書スタイルの講義や学生に問題を解かせたりすることができる。この内容は同時に100インチディスプレイにも表示できる。教員卓には14インチの手書き入力装置も設置され、どちらからも同じ操作ができ、手書きのデータはビットマップ形式で記録できる。このような環境を導入したため、この教室には黒板を置いていない。この教室には、提示される教材と授業風景をビデオ撮りできるカメラとビデオレコーダが設置され、後述のオープンPC室でリアルタイムに聴講したり、テープに録画したものを閲覧できるようにしており、同時に将来構想としてのVODシステム導入の準備ができるようにしている。この講義室はPCベースのコンピュータリテラシーやプログラミング言語などの情報技術の授業のほか、ビデオを利用した語学や体育の授業、数式処理プログラムを利用した数学の授業、プレゼンテーションソフトを含めたマルチメディア教材による一般の授業に利用されている。黒板を使わないという点で、いろいろ試行錯誤を繰り返したが、学生には概ね好評のようである。一方教員側からは、教材作成の負担が大きいという意見があり、そのための支援体制を強化する必要があると考えている。


4.オープンPC室の開設

 マルチメディア講義室での授業をリアルタイムで聴講したり、講義のビデオを見たり、また、ビデオキャプチャーやスキャナを利用したマルチメディアプレゼンテーション作成、CD-ROM検索などにオープン利用できるマルチメディアPC室を開設した。本学には1年生を対象に、少人数グループにテーマを与えて調査させ、発表を行わせる主題講義という科目があるが、ビデオクリップや写真、オーディオなどを活用したプレゼンテーション作成を指導している教員もおり、際立った成果を上げている。  マルチメディア講義室のPCは管理上オープン利用には供していないが、各学科でそれぞれオープンPC室を整備している。


5.UNIX環境とその再構築

(1)電算機演習室

 本学では1994年にUNIX系のEWS(Sparc Classic)システムを導入して以来、このシステムで全4学科の1年生を対象に、約80名のクラスを単位として前学期で基本的なコンピュータの使い方から始めて、ワープロ、表計算、電子メール、インターネット検索などを中心とするリテラシー教育を行っている。後学期には各学科の方針に沿って、PASCAL、C言語等の言語教育を行っている。
 このシステムも導入以来5年を経過し、老朽化・陳腐化が進んだため、この夏にサンマイクロシステムズ社のSun Ray1を中心とするシステムにリプレースした。このシステムの特長は、端末はキーボード入力とビットマップディスプレイだけを行い、データとプログラムはすべてサーバ上に置かれるアーキテクチャをとっていることである。サーバと端末の間はビットマップディスプレイに対応して高速のネットワークで結ばれており、各端末からのジョブはサーバ上の独立のユーザプロセスとして動作する。これは高速ネットワークの実現により可能になったもので、ネットワーク上のどのマシンからでもまったく同じ環境で仕事ができる、ネットワーク時代の新しいアーキテクチャである。サーバとファイルシステムの高速性が要求されるが、OSのバージョンアップやソフトウェアのインストールはすべてサーバ上で行えるので、システムの管理が大幅に簡易化されるという利点がある。また講義時間の終了や端末の故障などでジョブを中断しても、その状況はサーバ上に保存されているので、別の端末からそのジョブをそのまま継続できるという利点がある。
 サーバとしては16CPU構成のEnterprise 10000というマシンをあて、ファイルシステムには容量546GBのRAIDシステムを採用している。講義開始時の一斉ログインや同時ファイルアクセス、アプリケーションの一斉起動などのピーク負荷に対するパフォーマンスの低下もほとんどなく、アプリケーションの実行速度も向上した。教員からの教材提示用のディスプレイとも、15インチの液晶タイプのものに変更したため、画面が見やすくなったという感想も寄せられている。

(2)オープン端末室

 上記の演習室は1週間のほとんどすべてのコマが講義で埋まっており、また授業最優先という観点からのシステム保全の意味で、オープン利用には供していない。このため演習課題の解答作成や、電子メールやインタネット検索など一般的なEWS利用のためのオープン室を設けている。現在約30台のUltra10とS4を置いており、教職員や大学院生の優先利用のためのEWS室も設けている。これらの電算機センタとしての施設のほか、各学科でセンタサテライトとしてのオープン利用のEWS室を設置している。





図1 全学ネットワーク概念図


6.ネットワーク環境

 EWS導入とともに各学科に100MbpsのFDDI網を設置して、ネットワーク化を実現した。その後、マルチメディア化に対応するため155MbpsのATMネットワークを併設し、CD-ROM検索などに供している。これは、今後計画しているVODシステムによるビデオ配信などに利用していく予定である。さらにモバイル環境実現の準備として、1998年度から無線LANの整備を開始しており、マルチメディア講義室をはじめとするいくつかの講義室、図書館、ロビーなどに基地局を設置し、ノートPCを用いたネットアクセスの実験的利用を開始している。
 学外とは横浜国立大学経由で学術情報ネットワークに接続しており、ファイアウォールなどセキュリティ対策には特に留意している。


7.今後の展望

 以上、最近導入したシステムを中心に、その概要と教育研究への利用状況について述べた。コンピュータリテラシーや言語の教育環境は最新のものとなり、PCベースのソフト教育や一般の講義のマルチメディア化のための環境も強化された。今後は録画された講義や学内情報、CATVなどのビデオ配信を行うVODシステム、教材の一層のマルチメディア化や遠隔授業などに対応するための基幹ネットワークのギガビット化、無線LANの拡充などを進めていきたい。それとともに、新しい施設の利用や教材作成などの支援体制の強化を進める必要があると考えている。


文責:湘南工科大学電算機センター


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