私情協ニュース1
第22回総会は、平成11年11月25(木)午後1時半より、東京市ケ谷の私学会館会議室にて開催された。当日は、議事に入るに先立ち、文部省専門教育課の岩本 渉課長から来賓の挨拶があり、引き続き第7回情報教育方法研究発表会の受賞者の表彰の後、平成12年度文部省情報関係予算の概算要求および11年度補正予算について私学助成課の御厩祐司課長補佐より説明があった。次いで、「インターネットと情報倫理」、基礎的情報教育のガイドラインの刊行、日米大学マルチメディア教育セミナー、情報環境基本調査の実施等について報告があった。以下に主なものを報告する。
1)12年度要求では、経常費補助金特別補助の借入補助を中心に情報化推進特別経費として、前年度に比べ26億円増額し、約167億円、18%以上の増額要求をしている。特に、情報関係は、平成7年度予算83億円から5年間で倍増しており、文部省としても情報化の推進に重点をおいて経常費助成の充実に努めてきた。また、装置と設備の補助では、二つ合わせて17億円増の要求を行っている。
その内の12億円2千万円が総理大臣が直接査定するミレニアム・プロジェクトを活用したバイオ・ベンチャー研究開発拠点整備事業、1億1千万円がバリアフリー推進事業となっている。マルチメディアの装置・設備の二つの補助については、合わせて8,600万円増額の総額19億2千万円を要求している。
2)11年度の経常費補助金の借入補助の配分については、10年度より20億円増の申請があり、情報化の急速な進展に驚くとともに、なるべくこれらの申請を採択する方向で内定に向け作業を進めているが、こういう事情から継続、新規ともに相当の圧縮をしなければならない状況にあるので、申請希望通りの補助額の内示は、期待しないでいただきたい。
3)11年度2次補正予算では、文部省として2,790億円計上し、内、私学助成関係は100億円を要求している。その中で情報化の予算は二つ大きな柱がある。一つは、私立大学最先端研究所等整備特別事業で、今回補正予算の重点的な事業として、 国立大学でも要求している。高い研究規模を有する大学としてハイテク・リサーチ・センタを有する大学、学術フロンティア事業を推進している93大学を対象に研究基盤の充実を図るもので、情報化に重点を置き、マルチメディアの装置・設備の整備(冷房化含む)、学内LANの整備、情報関係設備の買入れ、研究装置・研究設備の整備に30億円を計上している。二つ目は、私立大学等教育・学習方法高度情報化推進事業で、マルチメディア事業として11億9,100万円計上している。上記のハイテク、フロンティア事業を実施していない大学、短期大学は、この補助で申請いただきたい。
ただし、学内LANの整備単体での申請は不可能となっているが、マルチメディアの整備の中で部分的に付け加えて行うものについては補助対象としたいと考えている。
4)教育・学習方法高度情報化推進事業の申請で注意いただきたい点として、マルチメディアの装置補助の申請にパソコンを含める例があるが、これは設備補助で申請いただくことにしている。ただし、教員操作卓のような特定の装置の中に機能的にも物理的にも組み込まれている場合には、装置補助で申請いただくことが可能。その際、一体性を説明できるように申請書類に図表など添付いただきたい。
本書は、情報倫理教育振興研究委員会(委員長:後藤玉夫、拓殖大学)が10年前に情報倫理の問題を指摘して以来、研究してきた成果の一つである。インターネットの急激な普及に伴い、ネットワーク上での犯罪はじめ基本的な人権侵害など多くの問題が指摘されてきている状況を憂慮し、情報倫理の問題は、インターネット抜きにしては考えられないとして本書をとりまとめることになった。内容は、3章で構成されている。
1章では、インターネットを理解するとして、インターネット社会の特質を、インターネットの出現によって何が変わるかを、情報を共有することにより、国民に開かれた国造りから地球規模での参加、経済、医療・介護・健康まで具体的に例示している。また、その仕組みと課題について触れ、さらに、加害・被害の防止として著作権の理解とフリーソフトウェアの出現、「使用」または「アクセス」に対する著作者の権利拡大、教材作成にかかわる学校法人との関係など新しい秩序の必要性を指摘。インターネットによる新しい形態の情報操作の可能性とそれを防止するために、個人に情報識別能力が求められてくるとしている。犯罪防止には、法的規制や技術的対応に限界がある。時間がかかるが、情報社会全体の健全さの確立を目指す情報倫理こそ、不正行為に対し強力な免疫力を発揮するとし、学校、家庭、地域社会での情報倫理教育の必要性を提唱している。
2章では、情報倫理教育の授業モデルを基礎教育、理工系分野での教育、情報の専門科目の角度から例示、授業を円滑にするための環境として、教員への呼び掛け、ネットワークを活用した授業配信、私情協がセンター的な機能を有して素材情報の収集、教材の共同開発のための場の設定などが望まれるとしている。
3章では、資料編として、ネットワーク利用上の情報倫理規程モデルを掲載し、周知徹底のために利用資格の付与の要件としたり同意書などによる確認、ネットワーク上にクレームを受け付ける窓口の設定などを紹介している。また、違反行為に対する対処法についても、利用停止などの即時的な対応から期末試験における不正行為と同じ程度の処分を行う傾向にある学則上の対応も紹介。さらに、2章の授業モデルでの掲載事例として、インターネット情報倫理を理解する上で必要な新聞記事の他、大学のネットワーク運用管理規程等の事例、著作権法及び関係法令を掲載。
平成9年度に基礎的情報教育のガイドラインのシラバスを紹介した後、高校での情報教育の必修化に伴い、再度、大学、短期大学での基礎的な情報教育の進め方について検討を重ね、授業の展開方法を見直し、改めてシラバスを再編成するとともに、授業で実際に使用できるよう、教材のサンプルを掲載し、担当教員の方に利用いただけるよう、「求められる大学の基礎的情報教育」、「短期大学情報基礎教育モデル」を作成した。
1)大学は、2003年から始まる高校での情報教育を受けた学生が、大学に入学してくる2006年以降を想定して、大学での基礎的な情報教育の方向性を提言することにした。これから実施される高校教育を踏まえたものとして、問題探求型の教育に寄与できるような能力の育成を目指すことになり、問題発見・解析能力、インターネットコミュニケーション能力、プレゼンテーション能力の三つの能力を総合化する教育を提案した。
問題発見・解析能力の授業では、何が問題なのかを把握させるために、問題発見の手法、問題状況の調査方法の演習を行い、問題の構成要素を抽出して、問題構造のモデル化を行い、データを用いて構成要素の相関、例えば回帰分析、重回帰分析を用いて調べる能力を育成する。現状ではかなり高度な内容と敬遠されるかもしれないが、高校での新しい教育が落ち着いた暁には、必ず必要とされる授業であると考え、敢えて目標をかかげた。
インターネットコミュニケーション能力の授業では、インターネットのコミュニケーション機能について演習を通じて理解させるとともに、仕組みとしての階層的識別子、ドメイン名、TCP/IPプロトコル、人間のコミュニケーションとの相異、トラブルの事例と対策、最低限守るべきルールなど情報倫理について基本的な考え方を習得させるとした。
プレゼンテーション能力の授業では、明確で論理的な文章の構成技法から視覚的な表現方法の理解、コンピュータを用いた発表演習を通じて展開するが、実際には、問題発見・解析の授業の中で組み込んで行うことが望ましいとした。
2)短期大学は、大学と異なり、当面、短期大学で行うべき最小限度の基礎教育の内容についてとりまとめた。そのねらいは、短期大学のあらゆる授業にコンピュータ、ネットワークを総合的に活用できるようにするとともに、情報を主体的に活用して問題解決できる能力・態度を育成することを目指した。具体的には、2006年度までの間の過渡的な授業内容として、高校教育での基礎教育を視野に入れつつ、高校教育とのオーバーラップも含め、情報通信ネットワークの基本的な考え方・態度の育成、コンピュータに習熟し、情報処理能力の拡大を図るとともに、問題解決の手段として実践的にコンピュータを活用できる能力の育成をあげた。
授業の進め方については、週2コマによる半期の授業モデルと90分、半日、1日の短期集中型の授業モデルとに分けて紹介。付録として情報教育を充実させるための教育環境について自己点検できるよう評価項目を掲載。
授業改善のためのマルチメディアを活用した授業方法について、世界に通用する高い教育方法を研究するため、米国の大学での先駆的な事例を調査し、日本の大学と将来において実験的に授業連携ができるようにするため、私情協の学系別情報教育研究委員会のメンバーを中心に、12年11月に11日間程度のセミナーを計画している。参加する学系は、文科系グループが法律、経済、経営、会計、工学系グループが物理、機械工学、建築工学、経営工学、医歯系が医学、歯学、薬学、栄養学で総勢40名を予定。セミナー校は、初日2日間がハーバード大学、中間日は、グループで分散訪問(未定)、最終日はスタンフォード大学を予定している。旅費およびセミナー費は、委員長は旅費を半額、セミナー費不要、委員は旅費実費、セミナー費不要とした。財源は日米マルチメディアセミナー基金から1千万円を充当する予定としている。
平成12年度より大学設置基準で大学の教育研究活動の情報公開が求められており、教育研究の見直しが要請されてきている。情報環境についても同様に自己点検、評価が必要となることから、大学の教育研究の情報化がどの程度にあるか、また、今後どのようにすることが望ましいのか、改善のための指標となるような調査を実施することにした。お願いの中で文章化したように、大学の意思を確認いただく項目もあることから、学内で考えを調整いただき回答願うことにしている。
調査項目は、情報環境の整備に対する考え方からはじめ、検討組織、コンピュータの規模、学内LANの整備状況、使用目的、LANの能力、運用体制、Web利用の対応、教室の規模・マルチメディア化、授業の支援体制、情報教育の履修状況にわたっている。現状と3年先を検討いただき、目標の明確化に工夫することにした。調査内容が多いが、調査というよりは自己点検であることを理解いただき、調査に協力願うことにした。