特集

鼎談 マルチメディア教材の開発を考える

今泉 忠氏(多摩大学経営情報学部長、私立大学情報教育協会広報委員長)
高木 範夫氏(早稲田大学教務部情報企画課・早稲田大学ラーニングスクエア株式会社)
高村 潤氏(明治大学教務事務部教務課)



 本特集では、マルチメディア教材の作成に実際に取り組まれている方々にお集まりいただき、「マルチメディア教材の開発を考える」と題して鼎談を行いました。
 マルチメディア教材の開発では、大学によって、抱えている問題や取り組み方は様々です。今回は、ご参加いただいた方々に、大学でのマルチメディア教材開発の経緯や、取り組み、教職員の意識や組織の問題、今後の課題などについて、お話を伺いました。


今泉 本日は、「マルチメディア教材の開発について」ということで、マルチメディア教材開発に携わっていらっしゃる方にお越しいただきました。各大学の教材開発の今までの経緯や、開発に関わる様々な問題などについて、お話を進めていきたいと思います。

 まず、多摩大学の取り組みからお話させていただきます。教材の電子化がなかなか進まない中で、教員から出てきたのは、「なぜ教材を電子化するのか?」ということだったんですね。教職員の作業量に対して、どのくらいのベネフィットがあるのか、と。教員に意見を聞いていくと、電子教材をWebに載せるのは構わない。しかし、そこで終わりにするのではなく、やはり黒板に書きたい。要するに学生とのFace to Faceが一番価値がある、という話でした。今では双方向性を一層高めるために教員も含めて組織変更をし、黒板をもっと活用できるようなマルチメディア教材、生きた情報をどうやって作っていくかを検討中です。


スタートはシラバスのCD-ROM化

今泉 多摩大学は経営情報学部をもつ単科大学で、1989年から設置された新設の大学ですので、比較的早い時点から情報化時代に備えていこうとした経緯があります。A4判で600ページ程度のシラバスがあるのですが、今までのシラバスの内容を超えて、次のコンテンツを考えていきたい。そこでまず、5年程前にシラバスをCD-ROM化したことがマルチメディアコンテンツ制作の第一歩となりました。これを発案しましたのは私ですが、5人位の教員から始めました。事務局にも相談して、CD-ROM化という形で補助金をいただきました。
 その後、それをWebから学生が自由に見ることができるような形で載せることにしました。学生は印刷物としてはシラバスの要約版を配布される。その他の細かい内容についてはWeb上で確認する。次のステップとして、シラバスにリンクを張って、教員が教材を作っていろいろなサーバに上げていくというプロジェクトを始めました。
 多摩大学では、以上のような経緯がありますが、早稲田大学、明治大学では、どのようにマルチメディア教材の開発を始められたのでしょうか。まず、早稲田大学の高木さんからご説明お願いいたします。


まずはインフラ整備から

高木 今、私は早稲田大学ラーニングスクエア株式会社に出向しておりまして、遠隔授業、主に生涯学習の講座を全国の教室向けに衛星で配信したり、eラーニングのコンテンツをインターネット・サービス・プロバイダーを通じて家庭向けに配信するビジネスをしています。この他、大学の正規授業をインターネットで行う「オンデマンド授業」のコンテンツ開発も行っています。ご存知のように大学設置基準が緩和され、遠隔授業の単位も認定される[1]ということで、この春から大学では遠隔教育センターを立ち上げまして、現在約60科目のコンテンツ制作を行っています。
 私は93年に文学部に配属されましたが、当初は事務の仕事をやっていました。早稲田の場合ですと各学部に事務所があり、いわゆる事務的な業務と教育研究は、職員と教員とでかなりセパレートされた形になっているわけですが、情報化を中心に教育研究を支援する職員組織として、97年頃より新たに「教学支援係」を作りました。といっても、私ひとりだったのですけれども。
 それで実際に何をやったかといいますと、まず教育研究の内容が外部に見える形にすることでした。外部に対してというのは、社会に対してという面はもちろんですが、学内に対するアピールという面もあったかと思います。さまざまな調査活動をしていらっしゃる先生などは多くの写真資料などをお持ちですが、それまでは死蔵とは言わないまでも有効に活用されていなかった。それで、まずデータベースを作って社会に公開し、活動内容のアピールをしたのです。それをもってして可能であれば学外資金を導入し、調査活動が継続できるようにということで、いくつかそのようなデータベースプロジェクトを推進しました。


[1]大学設置基準では、通学制大学における卒業単位(124単位)のうち、「同時性・双方向性がある遠隔授業」であれば60単位まで修得可能としていたが、2001年3月30日の改訂により、「同時性・双方向性がなくとも、面接授業と同等な教育効果が得られる非同時型遠隔授業」も60単位まで修得可能とした。

 当時、大学はまずインフラを整備しようということで、学内の端末室やネットワーク環境を拡充し、5万人の学生がいつでもネットワークにアクセスできるようにしました。次の段階ではそのインフラを活用してソフトの充実を図るということになるわけですが、文学部では外部資金を導入してホームページの立ち上げやデータベースの開発に着手することにしたのです。これが始まりです。
 99年からはデジタル・キャンパス・コンソーシアム[2]がスタートし、データベースを公開するプロジェクトのほか、他大学も交えたネットワーク型授業を推進するプロジェクト、ネットワークを通じた海外協定校との異文化交流を行うプロジェクト、また、学生の語学運用能力向上を目指したチュートリアル・イングリッシュ・プログラムなどが始まりました。マルチメディア教材の開発もこうした枠組みの中で行ってきたわけです。
 デジタル・キャンパス・コンソーシアムの成果として、現在私が出向している会社の他に、早稲田大学インターナショナル株式会社が創られ、今に至っています。

[2]デジタルキャンパスコンソーシアム(DCC)は、情報ネットワークを基盤とした21世紀の大学モデル実現に賛同した企業のコンソーシアムである。現在は第2次DCCがスタートしており、アジア太平洋地域を中心とした大学間の授業・研究・学生・研究者すべてにわたる大学間相互交流コンソーシアム「サイバーユニバーシティコンソーシアム(CUC)」の設立・運営を支援し、グローバルな「教育研究のオープン化」、企業との連携を強化した「コーポレートユニバーシティ」の実現に向けた活動を展開するほか、CUCに必要な大学間の共同授業のモデル化・運営インフラの企画・構築、産学連携ビジネスモデルの企画などを推進している。
参照URL http://www.waseda.ac.jp/dcc/consortium/

今泉 明治大学ではどのような経緯でマルチメディアコンテンツ開発をされてきたのでしょうか。高村さん、お願いいたします。

高村 明治大学では、80年代の後半から90年代前半までインフラの整備ということで、ネットワークの敷設を中心に環境整備を始めました。そして、98年の10月に駿河台地区の開発計画の一環として「リバティタワー」という教育棟ができたんです。ここがその集大成で、教室と演習室が90あり、各教室には教材提示装置があり、全座席に情報コンセントがある、そういう設備を整えてきました。
 リバティタワーができて環境が整ったのですけれども、この環境を授業に活用される先生方は少数でした。そこで99年度に、「情報システムを利用するための教育・研究コンテンツ構築委員会」が学内に設置されました。この委員会は、政治経済学部の安藏伸治教授を委員長として、各学部、大学院、情報科学センター、図書館から委員を選出し、教務事務部と情報システム事務部の事務局として運営され、私も事務局メンバーの一人です。コンテンツ構築委員会では、大学で環境整備を進めてきたものを有効利用していただくために、助成金を受けて「コンテンツを作ってください」ということで、プロジェクトを募集しました。各ゼミ単位での応募を基本として、モバイルパソコンを配りました。これが、30ヶ月の期間で、合計1,000台を貸与しました。それがまず一点です。
 もう一つ、それと同時に、Oh-o! Meijiクラス・ウェブ システム」http://oh-o.meiji.ac.jp)を開発いたしました。これは先生方の授業をWeb上に展開するためのもので、先生方に特別なITスキルがなくても自分のコンテンツをWeb上に載せることができ、編集もできるシステムです。これは2001年の10月から本格運用されております。シラバス、お知らせ、ディスカッション、レポートの提示と提出などの機能があり、学生は電子上の個人別時間割表からアクセスできます。この他、先生が個別に項目を設定したり、全体で統一された質問項目を作ったり、いろいろな形でフレキシブルにできる授業アンケートシステムを開発しています。10月位にできますので、今年度の後期授業には利用できます。

Oh-o! Meijiクラス・ウェブ・システム URL http://oh-o.meiji.ac.jp


マルチメディアコンテンツ作成のためのサポート体制

今泉 実際に誰が教材の電子化を管理していくのか、という問題があります。多摩大学は単一学部で、500以上の科目があるわけです。正直、管理をどうやっていけばいいのか、と悩むところです。サポート体制はどうされているのでしょうか。
 システムを使う、といっても、教員に大きなスキルの差がありますよね。極端な話なのですが、手書きの原稿を持ってきて、「これをデジタル化してくれ」と言ってくる教員もいれば、ある程度までデジタル化していて、「これをWebにアップしてくれ」という教員がいたり。教員の立場からすると、手書きでパパッと書いたものを担当のセクションに渡して、「これをWebに載せておいてちょうだい」というのが一番良いわけですけれども・・・。明治大学では、教員のいろいろな要望には、どんなふうに対応しているのですか?

高村 今一番悩んでいることは、専任・兼任を合わせて明治大学には2,000人の教員がいるのですが、「Oh-o! Meijiクラス・ウェブ システム」を利用していただいている教員は、まだ十分な利用と考えられる率には達していないんですね。良いものを作ったのですけれども売れていない状況なので、いかにこれを利用していただくかということを今年度の重点項目でやっていきたいと思っています。ITスキルのない先生が紙で書いてきて「これをデジタル化してください」と言われたときに、今は組織的に対応する部署はありません。それは誰かがやるというわけではないので、その先生はこのシステムを全く使えないことになってしまう。ただ、このシステムの使い方を教えるサポートはしているのですけれども。
 これからの教育の情報化を進めるにあたって、サポートセンターの設置が重要だと考えていて、2004年位を目指して、全学的なサポート体制を確立する動きもでています。ただ、大学の情報関係の予算がかなり多くなっていますので、その中でサポートセンターなどをどのように確立していくかは、非常に大きな問題だと思います。

今泉 基本的には、教材は教員が作るということですね。

高村 そうです。教材作成に専念していただくために、半年とか、一年間の特別研究期間を設けて、その間教材作成支援センターとタイアップして、クオリティーの高い教材を作成していただくことも検討しています。

今泉 では、早稲田大学では、データベースプロジェクトなどで、資料を電子化したいという場合、学内でのサポート体制というのはどうなっていますか?

高木 早稲田も明治大学と同じように、作業そのものを学内で請け負ってコンテンツを作る組織は今のところないんです。データベースプロジェクトでは、当初は担当の支援企業が素材のデジタル化を行ってきましたが、基本的に大学は教員の要望を集約してデータベースのフレームを用意する。それに対してデータをインプット、アップデートしていくのは先生方の作業となります。もちろん、そのための作業手順は説明します。教材のデジタル化やビデオ編集を行うための設備を置いて、そこに先生がいらっしゃって素材を加工してもらう。環境を整備し、使い方や活用方法をアドバイスする、というのが基本的なスタンスです。


職員のコーディネート力が求められている

今泉 早稲田大学が行っている外部の企業の方と良い形でタイアップして、その中に教員も入っていこうというプロジェクト。とても大きな取り組みだと思うのですけれども、例えば「こんなことをやってみましょう」と提案したときに、教員は積極的に参加されていますか?

高木 先生方はそれぞれポリシーをお持ちですし、強制していません。自ら手を挙げた人や声をかけて賛同していただいた人から始めています。先生方との対話の中で、要望を引き出して、それを実現するための方法については、例えばアウトソーシングするとか、仕組み作りの部分を職員レベルでやっています。そのために資金が必要であれば、職員は資金集めのための活動もしますし、こうした活動を通じて先生方との関係を深めていくことが、今のところ功を奏しているのだと思います。

高村 ポイントはやはり、「教材作成支援」。これには、職員の役割が重要だと思います。教材作成のサポートセンターを作っても限界があります。そこで何から何までやる、ということではなく、もっと小回りの利くことが大切です。そのためには、先生方と常日頃接触している一般の職員がある程度の情報技術を持たねばならないということ。また、それ以上に、先生方が所有されている知的資産をWeb上により、質の高いコンテンツとしてどのように表現するか、またそのために、時には外部の専門家と折衝するような「コーディネート力」が必要になると思います。われわれ職員が、そういう能力を身につけていけるような組織の確立も必要だと思っています。


黒板の良さも大切にしたい

高木 余談になりますが、私はこれまでの経験からして、やはり黒板というのは良いと思うんです。今もインターネットのオンデマンド授業を推進するべく、仕組み作り、コンテンツ作りなどをしていまして、先生の講義を撮影し、講義に併せてPowerPointやWebベースの教材を展開することで、非常に整然としたコンテンツができるわけです。それを学生が受講して、ディスカッションBBS(電子掲示板)という場で意見交換をしていくわけですが、やはり、スタジオで撮るものと、実際に教室で板書をしてやっているところを撮るものとでは、先生の話し方、臨場感が違ってきます。ですから、「板書の内容はすべて電子教材にしたらどうですか」というのは、私はどうかと思います。電子教材にするべきものと、そうではない部分を切り分けないと、メリハリがなくなってしまう。

高村 明治大学でも教育の本質はface to faceの人的交流にあると考えています。Oh-o! Meiji クラス・ウェブシステムは対面授業を活性化させることをコンセプトに開発されたシステムです。また昨年度、教育の情報化の将来構想を検討するプロジェクトが発足しましたが、そのプロジェクトの報告書にも、チョークによる板書のスピードこそ、人が論理的に理解する速さであるとの記述があります。大学教育は、教員の責任において先進の情報環境の活用も含めた、最も有効な教育方法の組み合わせを判断していただくことが重要だと思います。


オープン化とコミュニケーションの重要性

今泉 間の取り方とか板書の取り方。たぶん、教員の中にはアナログコンテンツとかデジタルコンテンツという区分はない。単なる授業時間しかないと思うんです。それをどうやって組り入れるかが大切なことで、多摩大学でも最近、教室に自動追尾カメラをつけて、先生の授業が撮れる。もし、学生が欠席した授業でも、デジタル化したものを後で見られる。教員も、デジタルコンテンツを作って良かったな、という第1歩は、そういうところだろうなと思います。しかし逆に、メールで300通も質問が来て、教員は返事に2日も時間を使ってしまう。多分、それをやらない限り大学は閉ざされてしまうだろうなという気はしているのですけれどね。しかし、何か上手い方法はないだろうか。こんなとき、BBS(電子掲示板)やWebを使っていろいろな意見をある程度集約してみんなに見せる。これがうまくいけば、「みんなこんなことを思っているのだな」ということになるので、それは一つの形ですね。

高木 コミュニケーションの部分が授業ではすごく重要なんですね。多人数の授業では、コミュニケーションを密にできないということで苦労されていた先生がいましたが、BBS(電子掲示板)を活用することで、それが解消された。その先生は最初、学生に出席カードの裏面に意見や感想を書かせて、次の授業でプリントにして配るということをしていましたが、これをBBSで実現した上で、学生同士の意見交換が進むようにしていったんです。学生同士だと、時には脱線することもあるのでしょうけれども、基本的には先生が誘導して方向づけを行う。学生同士が話をするというのは、小さいクラスでないとなかなかできないと思うんです。それから先生と学生との1対1というのも魅力なのですが、横の学生同士でお互いに啓蒙しあうということも重要なのではないかと。他人の意見は結構勉強になると思うんです。他人の意見がまず見える。メールは基本的に、一方通行になりますので、早稲田のオンデマンド授業システムでは採用していません。教員個々ではメールを用いているケースはありますが。「書き込みの内容には責任を持ちなさい」ということで、他の学生から必ず見えるような形でやっています。
 要するに、キーワードはすべて「オープン」なんです。オープンな環境の下で、お互いが啓蒙しあう。先生方もある程度ガラス張りの中で、ちょっと言葉は悪いですけれども、より緊張感を持ってやるということで、オープン化は有効だと思います。

高村 明治大学では、「教員研修ファカルティディベロップメント委員会」をたちあげまして、全教員にアンケートをとり、授業で工夫されている内容だとか、他の良い授業をやっている教員を挙げていただいたり、教員が別の教員の授業参観をしていこう、という動きがあります。これもオープン化のひとつだと思います。

今泉 多分、明治大学の目的と一緒なのは、そのような「オープン化」だと思うんですね。コミュニケーションを高めるということは、オープン化していって、いろいろな意見があっても良いし、単なる人の足を引っ張るだけの意見などは、どんどん浄化されてなくなっていくということでしょうか。

高木 将来的には、一大学の中だけではなくて、それこそ多摩大学と明治大学、早稲田大学の学生がコラボレーションすればいいと思います。お互いに強みと弱みはありますから、淘汰という面もあるかもしれませんけれども、お互いの強みをより生かして、ない部分を補完しあうような形になっていくべきだと思います。それによって、授業の質が上がったり、内容の透明性が確保されて、学生のモチベーションが高まっていけば理想です。そのためには、教室の中だけでは限界があるので、オープン化していって、そのときのプレゼンツールとしてWeb上の電子教材を上手に利用していく。

今泉 多摩大学には社会人大学院というのがあるんです。これが一学年40人。修士課程で多ければ80人というわけです。社会人対象でこれ位の人数ですと、院生のほかに教員も入って、ディスカッションボードがすごく盛んですね。ディスカッションボード上で議論をしていくと、その大学に対する愛着が高まってくるんです。これをうまい形で使って、例えば、高校生が「多摩大はいいな」と思わせる仕組みを作ったり。これは多くの先生にやってみようと思わせるファクターがありますね。

高木 Web上にディスカッションのベースになるコンテンツが置かれることで、アクセス率が高くなります。教員が一定の知識ベースを授け、なおかつ課題を出したり、問題点を指摘するなどすると、教員と学生とのコミュニケーションも蜜になりますし、その大学の存在価値も高まってくると思うんです。学習に対する学生のモチベーションも高まりますし。

今泉 コンテンツ、という言葉は難しいのですが、知識でない部分、講義の間の取り方だとか、授業の雰囲気、をいかにシステムの中で提供してあげるか。知識と授業の雰囲気が一緒になると、非常に良いものになるだろうと思います。


電子化教材の著作権は、どこに帰属するのか?

今泉 ところで、作成したコンテンツの著作権は、どこに帰属するのでしょう。お二人は、どんな経験がおありですか?

高村 大学のWebに載せるものであっても、先生個人の承諾がなければ、授業内容などを載せることは絶対にできないと思います。

今泉 そうすると、基本的には著作権は全部教員が持っているということですか。

高木 先生方が個人ベースで作成したものと、大学の政策として作成したものとは、違いがあるかなと思うんです。知識や素材といったものについては先生が権利をお持ちなわけですけれども、デジタル化したコンテンツについては大学も権利を主張するようにしています。ただ、先生が個人として、学外でお使いになるのはかまわないとしていますが、大学による資本投下という意味合いも含めますと、他の大学で利用することになった場合に、大学は権利を主張することになると思います。

今泉 契約書を作っているんですか。

高木 実際にはまだです。オンデマンド授業のコンテンツについては、実際に他の大学との契約が進む中で大学と教員間の契約をしていく予定です。

著作権について

1.著作者
著作者:著作物を創造した者
共同著作:共同著作物を創作した者全員
法人著作(職務著作):以下の要件をすべて満たした場合、法人が著作者となる。
(1)法人の発意に基づき作成されるもの
(2)法人の業務の従事する者により職務上作成されるもの
(3)法人の著作名義で公表するもの
(4)法人内部の契約、勤務規則等に別段の定めがないこと

大学においては、教材等の著作物が個人著作(教員が著作者)となるか法人著作(学校法人・大学が著作者)となるかについて、大学−教員間の契約や規則を作成する必要がある。


2.著作者の権利

教育の業績評価

高木 最後に一点、データベースが研究成果として認められにくい面がありますね。それを教員の実績・業績の中に含める形にはできないかと。以前より教員サイドからは、かなりの時間を割きながらデータベースを作り、データの更新をしても、なかなかそれが実績として評価されにくいという意見が寄せられていました。

今泉 文部科学省としては、そういったデータベースなどは、教育関係の業績として認める、ということになっています(次ページ「大学審議会答申」参照)。それまでは、「業績」には、研究業績だけで、「教育業績」は入っていませんでした。それが今は、教育効果とか、授業改善とか、そういうものも業績として考えるようになっています。それが別に電子媒体であっても構わない、となってきています。多分、まだ多くの教員が知らないと思うんですね。


教育のオープン化、そして競争の時代へ

今泉 今までは、ある意味で、競争がなかったですよね。競争がないと申しますか、入ってきた学生に対してだけ教育すれば良いし、別に、どんな教育をやっているかということに関しても、あまりみんな大きなことを言わなかったのだと思います。今は「何をやっているのですか」と言われる。本当に自分がそこで教育を受けてよいのか、親御さんにしてみれば、自分の子供をそこに預けてよいのか。それはまさしく先ほどから話題にでていた「オープン化」。これはある意味で情報のオープン化ということもあるでしょうけれども、教育のオープン化で、自分たちのやっていることをいかにガラス張りにできるかということだと思います。そういう意味では、マルチメディアコンテンツも、非常に大きな助けになるだろうなと。

高木 本当にそうですね。ただ、オープン化の概念はなかなか伝わりにくい。やる意義といいますか。逆に先生側としては、あまりオープンにしたくない面もあるのかもしれません。

今泉 私もそうです。去年使った教材を今年も使いたいですからね!

高村 学生からは、「また同じ教材を使っているぞ」と指摘されてしまいます。

今泉 知り合いの先生で、とても一生懸命にやっている方がいるんですね。教室で配る教材のレイアウトは、去年と同じだけれども、中身が全部違うんです。そうなると、学生は必ず出席していないと、最新の情報が得られない。そういう意味では、ペーパーだけれども、ある種マルチメディア、ということで、学生がついてくるんですね。
 マルチメディア教材の前に、大学としてもう一度この部分について考えていくべきではないかと思います。

 本日はお忙しいところ、ありがとうございました。私も大変勉強になりました。

大学審議会「グローバル化時代に求められる高等教育の在り方について」(答申)
(平成12年11月22日)より (一部抜粋)
全文は http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/12/daigaku/toushin/001101.htm に掲載

【3】我が国の高等教育の国際的な通用性・共通性の向上と国際競争力の強化を図るための改革方策

1 グローバル化時代を担う人材の質の向上に向けた教育の充実
(4)教員の教育能力の向上及び教育の質的向上を図るための評価・認定
(教員の教育能力や実践的能力の重視)
 大学が社会の多様な要請にこたえ,質の高い教育を提供するためには,教育に携わる教員の教育能力や実際の社会経験によって培われた実践的能力を重視する必要がある。また,従来の教員の評価は,研究能力に偏する嫌いがあるとの指摘があるため,大学設置基準等における教員の資格については,教育能力や実践的能力を従来以上に重視する方向で見直す必要がある。大学設置基準等の運用についても,同様の方向で見直すことが必要である(後略)

3.情報通信技術の活用
(1)教員の教育能力の向上及び教育の質的向上を図るための評価・認定
1)基本的考え方
(大学教育と情報通信技術)
 大学は,単に知識を教授するだけではなく,人格形成期にあたる青年期の学生にとっては,教員や他の学生との触れ合いや相互の交流を通じて人間形成を図る大切な場であるという考え方に立って,キャンパスにおいて直接の対面授業を行うことを基本としており,その重要性は今後とも変わることはない。
 一方,衛星通信やインターネット等の情報通信技術を大学教育において活用することは,教育内容を豊かにし,教育機会の提供方法を変え,大学教育への一層のアクセス拡大に資するものであり,新しい社会的価値観の健全な創出に重要な役割を果たすものである。(後略)


<出席者プロフィール>

今泉 忠 氏
多摩大学経営情報学部長。1976年立教大学社会学部卒。立教大学社会学部助手、青山学院大学理工学部助手を経て平成元年多摩大学経営情報学部助教授、平成9年同教授。平成13年より現職。

高木 範夫 氏
早稲田大学ラーニングスクエア株式会社取締役事業部長。eラーニング事業推進担当。早稲田大学情報科学研究教育センター、同情報システムセンター、同第一文学部、同デジタル化事業推進室勤務を経て、現在に至る。

高村 潤 氏
明治大学教務事務部教務課。教育の情報化推進担当。電算化推進室、政治経済学部事務室を経て現在に至る。



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