情報教育と環境
大阪産業大学における情報教育
−情報教育から情報の活用へ−
1980年代半ばに、本学がパソコンを情報教育に導入してから約15年。パソコンやネットワークの進歩にともない情報教育のための設備は年毎に充実させてきました。
最近、社会にコンピュータが定着することと並行して情報教育のための環境整備も一定の落ち着き(今後もOSの変更やスペックの変更にともなう環境整備は行われますが)を見せているようです。一方、教育の場全体では、情報教育の成果を活用する動きが活発になり始めています。このようなことは、教員が教室にノートパソコンを持ち込んで授業を行ったり、インターネットを利用した課題の配布・回収などからも推察することができます。
今後、大学教育に求められるのは、情報技術(IT)を活用した教育の実現であり、それによってきめ細かい教育指導や学習機会の増大などが可能になると考えられます。
本学の情報教育設備は、大学全体の枠組みの中で長期的(といっても数年程度のスパン)に充実させる部分と、学部学科での独自性を重視して充実させる部分から成り立っています。前者の管理運営は情報科学センター(以下、センターという)が担当し、後者は、その学部・学科が担当します。これらは相互にメリット部分を活用しデメリット部分を補完して、全体として有効に機能していると判断しています。本学のパソコン台数は約3,000台ですが、演習室用として1,600台程度使用しています。
情報教育内容は、基本的な情報機器の活用能力修得だけでなく、課題や目的に応じていろいろな情報機器を活用し、必要な情報を主体的に検索・収集・判断・処理・表現・発信するという過程を教育することにあると考えています。このために、学生は入学時にIDが与えられ、自由な時間にパソコン演習室でWWW利用、メール利用、ホームページ作成(現在は学内のみ閲覧可、学外への接続は申請が必要)を行うことができます。最近は、パソコン演習室外でも演習室同様の環境を整えるため設備の充実を図っています。
(1)ネットワーク
本学のネットワークは、高度な情報教育や研究が行える環境作りの基礎として、図1に示すように1Gbpsの光ケーブルを基幹としています。各建屋内はフロア単位でサブネット化し100Mbpsで接続され、外部との接続にはファイアーウォールを設けることで一定のセキュリティ確保を行います。さらに次の3系統に分けて管理しています。
1) | 教育研究系 |
授業や研究用のネットワークで学生・教員が利用します。セキュリティを高くし、自由に使える環境を提供しています。接続時にユーザ認証を受けなければなりません。また、大学外部からこのネットワークへアクセスできない設定となっています。 | |
2) | 公開系 |
教育研究系のような制限を排除しており学内研究機関が独自サーバで運営できるネットワークです。外部への発信を主に行っており、セキュリティを向上するためにセンターがサーバ管理者(主として教員)に対して定期的に講習会を行っています。 | |
3) | 事務系 |
事務処理系のネットワークは教育系から独立したネットワークとしています。 |
(2) パソコン演習室
平成13年度に演習室の一部をリプレースし操作環境とソフトウェアを統一するとともに、光磁気ディスクユニット(MO)を搭載し、マルチメディア時代の大容量ファイルを扱えるようにしています。OSは「Windows 2000 PRO」、インストールされているソフトウェアは、共通のものとして「MS-Office XP」「インターネット関係(ホームページ作成、FTP)」「言語関係(Visual C、Visual BASIC)」「解析関係(Mathematica)」「教育支援ソフト(HIPLUS)」などです。また、学部・学科のニーズに合わせたソフトとして、「PCA会計」「Stella」「簿記2・3級模試」「AutoCAD 2000 LT」「Visual FORTRAN」などがインストールされている演習室もあります。
演習室は授業時間以外は開放され、学生アシスタントが質問や簡単なトラブルに対応します。さらに、開放専用のオープン演習室は午後10時まで終日開放を予定しています。
教育の情報化は、情報リテラシーを備えた教員と学生の存在が前提であり、その意味でも学生に対する「情報教育」の重要度は高くなっているといえます。さらに、あらゆる授業科目において情報化が進展するためには環境整備も重要です。教室条件として、様々な教材が利用できる環境やネットワーク接続された情報端末機(または情報コンセント)の設置が求められます。場合によっては、任意の場所からインタラクティブに授業に参加できる機能も必要となります。
図1 キャンパスネットワーク(LEO NET)
(1)教室のマルチメディア化
大学教育の基本は教室における対面授業であり、すべての教室が、すぐにマルチメディア化する必要もないのですが、様々な教材が活用できる環境とインターネット利用の環境の整備に努力しています。
1) | 教室のAV機器 |
学生に提示する教材の多くが映像であることから、多くの教室にはモニタ(またはプロジェクタ)が設置されており、ビデオ教材や教材提示装置が活用されています。 | |
2) | 情報コンセント |
2002年度から、すべての教室に教員用情報コンセント(1個口)の設置が可能となりました。教員がノートコンピュータを教室に持ち込めば、パソコン利用の教材提示が可能ですし、インターネット接続をすればリアルタイムに入手する教材を利用して授業を進めることもできます。 | |
3) | 無線LAN教室 |
2001年度、ゼミ演習を主目的としている3教室に無線LANを設置(有線も併設)しました。学生は、無線LANカードとノートパソコンの貸し出しを受けて授業に利用できます。また、無線LANカードと認証ソフトさえインストールしておけば、個人所有のノートパソコンであっても使用することができます。 | |
4) | マルチメディア統合教室 |
11号館4階に設置するマルチメディア教室は、映像・音声環境が整っており、PCやビデオなど様々な教材も使用できます。また、外部との接続には、無線/有線LAN、ISDN3回線およびCATV(学内専用の映像ネットワークで対照型双方向性を保持)があります。 さらに、この教室システムは、教員が一人で機器操作することを前提として設計されており良好な機器操作性を実現しています。例えば、すべての機器のON/OFFは、教員卓の扉の開閉によって一斉に行えますし、ほとんどの操作はモニタ画面のタッチパネル操作のみで行えます。 この教室は、一般教室、マルチメディア教室、ゼミのパソコン演習室、遠隔授業教室など、様々な用途に使用しています。特に遠隔授業では外部と最大3地点までの接続が可能ですし、さらにCATV網を経由すれば、学内の他教室とも接続することができます。 |
このような遠隔授業が可能な設備は、人間環境学部のマルチメディア教室や経済学部スタジオ設備などにも設置されています。
(2)授業におけるインターネットの利用
1) | これまでの利用 |
一般の授業における情報化は「提出物・教材のデジタル化」から始まったように見受けられます。学生がパソコンでレポートを作成し、メールで提出する方式が、その代表と考えられます。また、Web上に各種教材(以下、Web教材)を載せることによって、その教材を活用しながら授業を進めることも行われています。しかし、サーバを立ち上げて授業に提供するような方法は、教材作成や授業準備の段階で教員に大きな労力の負担を求めることになり、組織的な活動をすることは困難でした。 | |
2) | 教育支援ソフト導入後の利用 |
情報を活用する授業がすべての科目で容易に実施できるように、2001年秋に授業支援ソフト(HIPLUS)を導入しました。これによりレポート提出の管理やWeb教材の活用、学生の自習環境の構築など、教員による授業準備の軽減や授業管理の容易化が図れることになりました。また自宅からでもアクセスでき、学生にとっては、レポート提出の簡素化とともに学習機会が増大することになりました。 しかし、このような支援ソフトは「導入=活用」とはなりません。そのため、学内に普及・活用のための組織を構成し、次の活動を行いました。 〈1〉利用するためのルールの検討と運用 〈2〉簡単なマニュアルの作成と配布 〈3〉講習会の開催 〈4〉Web教材の作成や集約 準備期間を経て2002年春より本格的に稼動した授業支援ソフトですが、図2に示すようにレポート管理に関する部分では、利用と普及は目覚しいものがあります。しかしWeb教材の利用はレポート管理の10%に及ばない状況です。 レポート管理の部分では教員が準備・設定する事項が少なく、誰でも容易に利用することができます。一方、Web教材を利用するには教材を作成しなければなりません。しかし、教材作成は非常に時間がかかる作業であり容易ではありません。さらに、すでにサーバを立ち上げて活用している授業では、早急に支援ソフトへ移行する必要性が少ないことが要因となっているようです。 |
図2 教材支援システムの利用状況(レポート管理)
(3)遠隔授業の実施
大学キャンパスの外にロスアンゼルスのOSULAや梅田サテライト教室が設備されています。どちらにもTV会議システム設置のマルチメディア教室があって大学との遠隔授業に使用しています。
授業科目は、経営・流通学研究科の「アメリカンビジネストゥディ」等の授業ではアメリカにいる教員が、梅田と大学の学生に3元方式授業を行っています。アメリカに在住する教員が授業できるメリットは大きく、授業時間を上手く選択することによって時差の弊害は回避することができています。また、経済学研究科では「国際経済特論」等12科目の授業が梅田サテライトと大学間で実施されています。職場と教室が接近する環境は、社会人受講生に喜ばれています。
大学のTV会議システムを導入している教室は、30人程度収容の中規模教室ですが、2(1)でも述べたようにCATV網を介すれば大規模の授業であっても遠隔授業が可能となります。
また、人間環境学部では、2002年に放送大学と単位互換の協定を結び、放送大学の授業を受講するなど多様な授業の受講を実現しています。
大学教育において教室における対面授業を重視することはもちろんのこと、さらに教育の情報化を進めなければなりません。
教育の情報化推進の第一は、情報教育のための設備や環境の充実と情報教育の充実による情報リテラシーの向上です。今後とも教育環境を整えるために適切な時期に適切な機器やシステムを導入し運営することがセンターの重責と考えています。
第二は、教育支援ソフトに代表されるネットワークを利用したレポート提出や自習のための環境整備です。十分に活用されるか否かはWeb教材の充実にかかっており、本学においても教員の負担を軽減するためにハードおよびソフト面から教材作成を支援する体制作りが必要となります。
E-learningの実現にも不可欠なWeb教材は、すべての授業科目について大学独自で作成することは困難であり、大学間で相互に利用する方策も必要であると考えています。