私情協ニュース4
平成14年度大学職員情報化基礎講習会が、平成14年7月11日(水)から13日(金)までの2泊3日の日程で、静岡県浜松市のグランドホテル浜松を会場として開催された。
この講習会は、大学・短期大学の新入職員など比較的経験の浅い初心者を対象として、大学・短期大学における情報化の動向ならびに基礎知識をテキストなどにより分りやすく講習を行い、大学改革を支える情報化の意義を理解し、大学職員の資質向上に寄与することを目的としている。
最近では、全国の大学において、教室における講義を補完する形でコンピュータ・ネットワークを活用したE-learningの導入が進みつつあるなど、教育のIT化への取り組みが盛んに行われており、情報化を高等教育における問題解決の有効な手段として、活用する局面が増えつつある。こうした現状を踏まえ、大学職員は、教育における情報化の本質を捉え、日常業務・活動への的確かつ迅速なITの適用が急務となっている。そのため、情報化に関わる基本的な知識を習得し、大学改革における情報化の位置付け・意義を正しく認識し、日常業務に取り組むことが求められている。
このような状況から、本講習会の意義に多くの大学から賛同を得ており、今年度は全国の91大学2短期大学合わせて213名の参加があった。
開催日初日は、あいにく台風の影響で交通機関の運行休止が続出し、開会時間を大幅に遅らせることとなったが、多くの参加者が代替ルートで駆けつけるなど参加意欲の高さが伺えた。また、初日のプログラムを2日目以降とし、夕食後も講義を行うなどの変更を行い、極めてハードなスケジュールとなったが、参加者は夜遅くまで熱心に受講していた。
この講習会の運営は、研修運営委員(大学職員)がそれぞれのテーマを分担して講師となり、資料や大学における事例を紹介しながら講義を行う形式で進められる。各講師は、それぞれの所属する大学で大学情報システム構築や推進役の経験を有しており、その豊富な経験を活かした熱心な講義が特徴である。
講習会は、各講師の講義に先立って、参加者の問題意識高揚のため、丹羽健夫氏(河合文化教育研究所所長)より、「社会が期待するネットワーク時代の大学とは」と題する基調講演が行われた。講演では、大学における学生の基礎学力の低下の問題をデータに基づいた分析結果の解説が行われ、それを克服する方策について考え方を指摘されるとともに、IT活用の実例などについて紹介があり、参加者が大学におけるIT活用の重要性を再認識するとともに、ネットワーク時代の大学における教育活動を考えるきっかけとなった。
講義については、今年度は受講対象を新入職員など初心者に限定したため、参加者の情報化に関わる経験の格差が少なく、講義内容と受講者が必要とする知識との整合性を充分図ることができ、参加者は熱心に受講し講師の問いかけにも積極的に意見を述べていた。なお、講義の概要については後述する。
また、講義のほかに、大学における先進事例の紹介として2大学の事例が紹介された。最初に大六野耕作氏(明治大学政治経済学部教授・学長室専門員)からは「E-learningを実現するために〜問題はSystemではなくOrganizationである〜」と題して明治大学における全学的なE-learning導入のプロジェクト推進について事例発表が行われ、大学における情報化の進め方について示唆を与えられた。また、梶田将司氏(名古屋大学情報連携基盤センター情報基盤システムデザイン研究部門助教授)からは「WebCT の現状と高等教育用情報基盤の今後」と題して、国立大学におけるE-learningによる教育実践の内容とシステムの開発・運用について具体的な事例発表があり、E-learningによる教育実践の可能性と課題について認識することができた。
さらに、例年同様、合宿研修の特徴を生かして、夕食後にフリーディスカッションの場を設定したが、極めて多くの参加者があり、大学相互の情報交換や基調講演に触発された議論、そして講師を交えての講義のフォローアップなどが活発に行われるとともに、講習会以降の情報交換に向けたヒューマンネットワーク形成の場としても有効な場となった。
全体を通して、参加者には非常に熱心に受講していただいたが、大学改革を進めるうえで、情報化が非常に重要であることを認識し、大学改革を教員と職員が一体となって進めていかなければならないという意識改革につながったと好評を得ることができた。
最後に、基調講演・事例発表にお忙しい中ご対応いただいた先生方、また、校務のお忙しい中、講義の準備に加えてテキストの改訂に取り組んでいただいた講師方に心から感謝したい。なお、今後もより満足度の高い講習会を目指して、今回の講習結果や参加者アンケートを参考に、研修運営委員を中心として内容をさらに充実させたいと考えている。そのために、今後とも関係各位の積極的な参加と成果を高めるための提言を期待して報告を終える。
1)大学を取り巻くITの変遷と動向
担当:石黒 隆文 氏(青山学院大学)
大学における情報システムが情報技術の急激な進展の中でハード・ソフトはもとより利用形態までもが大きく変化してきている。そうした状況を正しく理解し、今後より高機能で広範な情報システムを構築する上で、それを支えるIT技術の動向と利用者にとってあるべき姿について解説した。
2)ITによる教育改革と今後における情報環境整備
担当:浅見 光男 氏(東京電機大学)
最近、急速に各大学で導入が進んでいるe−ラーニングの実情とその意義について先進事例を取り上げながら解説し、職員の教育改革への関わり方、その進め方について考える素材を提供した。また、そのために必要な今後の情報設備の整備の課題についても解説した。
3)ネットワークの活用と教育研究活動の高度化
担当:杉町 宏 氏(立命館大学)
教育研究活動を高度化し、社会に求められる大学改革を実践する上での情報化の意義を基本に、職員に求められる情報スキルについて解説した。また、大学改革を教員職員が一体となって進める必要性と今後の大学教育・研究・事務の各分野でネットワークを中心とした情報化の果たす役割と将来展望について解説を行った。
4)IT活用と情報倫理
担当:岸田 陽一 氏(津田塾大学)
ネットワーク化が進展する大学の情報環境における情報の「漏洩」や「改ざん」、「破壊」等に対するセキュリティ維持の重要性と、教育コンテンツのデジタル化が進展する中での著作権・知的所有権の問題を中心に、大学の教育研究活動における基本的な考え方について具体的な事例を交えて解説した。
5)大学における情報化戦略
担当:山田 憲男 氏(日本女子大学)
大学改革を推進する上での全学的な情報化の戦略的な進め方について、外部資金の導入事例なども紹介しながら、その背景と基本的な考え方について解説を行った。また、全学の構成員による効率的な情報システムの運用管理・利活用のあり方についても分かりやすく解説した。