特集 大学における情報管理〜電子化情報の有効利用と公開を目指して〜

法政大学における個人情報保護
〜個人情報保護規程の制定から現在まで〜


1.はじめに

 1990年代に入り、情報処理・通信技術がめざましく発達し、それに伴い教職員・学生の情報が急速にシステム化され、プライバシー保護、つまり個人の権利・利益を擁護する動きも急速に高まった。本学でも、1990年6月に図書貸出返却業務の電算化計画が持ち上がり、図書館及び関連部局からプライバシー保護を目的とした情報管理規程および管理者に関する規程を制定してほしいとの意見が事務システム運営委員会(学内の電算システムを統括する計算センターを事務局とした理事・職員で構成された組織体)に提出された。これを受けた委員会は、早速に検討を開始した。


2.プロジェクトチームの発足

 上記委員会は、規程制定のためのプロジェクトチームを発足することを最終的に決定した。
 本来ならば、全学的な検討委員会を立ち上げるべきところ時間の制約もあり、規程案の作成をプロジェクトチームに委ねたのである。学内には学生情報(学籍、住所等)、教職員情報(人事、住所等)などの様々な個人情報が存在するため、それらを扱っている部局からメンバーを選出した。さらに規程等に専門知識を有する企画室担当者を加え、チームは5名で構成された。1990年7月から11月にかけて、企画室担当者を中心に5回の討議が行われ、当初、事務システム委員会に提出された案件だったため、情報保護の適用範囲を電子媒体に限定する予定であったが、プライバシー保護の観点から紙媒体の情報も対象に含めることに方針を変更した。


3.プロジェクトチームの検討結果

 検討結果の概要は、以下のとおりである。
 1)全学を統括する個人情報保護の規程を制定することが急務であるという認識のもと、「個人情報保護規程」及び「個人情報保護委員会規程」案を作成する。
 2)規程制定手続きについては、情報を電子媒体で保有するか紙媒体で保有するかに拘わらず、適用範囲が大学全体に及ぶものであることから、これらの規程が全学的な合意を得られるような手続きを要する。他私大の動向や自治体の条例などを参考に、またマスコミ等の社会的動向に鑑みて、電子情報に限定せず、大学の保有する個人情報全体に関わる規程を作成する。
 なお、二つの規程案は1990年11月、事務システム運営委員会に提出された。


4.制 定

 プロジェクトチームの規程案については、大学教員にもヒヤリングを行い、1991年6月26日に理事会決定により制定・施行された。


5.基本規程(1)「個人情報保護規程」

 この規程では、学校法人法政大学において収集・利用・保存される個人情報を適正に扱い、その保護を目的とすること、個人情報保護管理者は1)思想、信条及び宗教に関する事項、2)人種、民族及び特別な社会的差別の原因となる事項、3)その他委員会が定めた事項、にあたる個人情報を取り扱ってはいけないこと、個人情報は原則本人から収集しなければならないことを定めている。また、情報は定められた目的以外に利用・提供してはならないが、1)法令または本人の同意に基づいて利用・提供するとき、2)本人に利用・提供するとき、3)個人の生命、身体又は財産の保全上緊急で利用・提供する必要があるとき、4)その他委員会が相当な理由があると認めたときはこの限りではないこと、個人情報保護委員会を設置すること、適用除外等について定めている。


6.基本規程(2)「個人情報保護委員会規程」

 個人情報保護規程の施行に伴い設置された委員会に関する規程である。委員会は理事1名、大学教員・大学職員管理職各3名、付属校管理職2名で構成され、事務局は総務部文書課で、任期は2年である。定足数は過半数で、議決には出席委員3分の2以上の同意を要し、特定案件を審議する場合は、小委員会の設置が認められる。


7.関連規程及び事務処理基準

 基本規程制定後、それを補完する以下の規程および事務処理基準を委員会で制定した。
(1)「個情報開示のガイドライン」
  1993年1月13日の理事会で決定された関連規程で、各部局の執務を円滑にするために、個人情報保護規程第12条の趣旨を踏まえ、委員会の見解を示したものである。開示手続の方法、委員会への開示件数の報告義務、費用(申請者負担)等について定めている。
(2)「個人情報保護規程第12条第4号に規定する個人情報保護委員会が認める個人情報の利用、提供について、事務的に開示処理するための基準」
 2000年7月21日の委員会で了承された。基準に該当する個人情報に関する案件について各部局が開示の判断を行う権限をもつことにより、開示手続きの簡素・迅速化を図ることを目的に制定された。開示条件( 開示により被開示者に不利益がないこと 利用目的以外の目的で情報を利用しないという誓約文の提出等)や、開示範囲(原則卒業生の氏名、住所のみ)、それにあたらない特定案件の開示等について定めている。


8.学内における開示の状況

 開示申請を受付けた部局は、案件を委員会に諮り、その決定により情報開示を行っている。ここ最近の審議件数は、関連規程や事務処理基準を設けたことにより、減少の傾向にある。また、審議案件の蓄積とともに定例的な案件も増し、前例を参考に処理できる状況になりつつあることも件数減の要因であろう。就職部では、同意を得られた内定者の情報を期間限定で学内ネットワークに公開しており、学生のみ利用できる。学生部では「住所等記録の開示基準」を、学務部では「第三者からの電話・来校等による照会・調査についての基準」を定め、卒業生の住所等データの管理を行っている広報・広聴課についても「卒業生に関する問い合わせについて」のマニュアルを作成し、対応している。


9.最近の審議事項から

(1)個人電子メールの開示について
  死亡した学生のメールについてその保護者から開示申請があったケースで、発信者の了解を得て内容を開示した。その後、担当部局であった総合情報センターは取扱についての規程を制定した。(離籍者の情報センター利用権等取扱ガイドライン)
(2)同窓会名簿等の閲覧・情報開示について
 図書館が収集・保存する個人情報は、通常適用除外であるが、市販書籍の巻末名簿等と異なり、 同窓会名簿等は会員間の親睦を図ることを目的に作成されており、その情報は保護されなければならない(適用除外にあたらない)という見解に至った。結果、冊子の閲覧を禁じ、所蔵情報も非公開とした。


10.今後の課題

 規程制定から10年以上が経過し、情報がさらに電子化を遂げている現在、管理機能を一層強化することは必至である。これまでは、ほとんどの開示申請に対し、情報を電子媒体ではなく、紙媒体(宛名シール等)で提供してきた。二次利用やデータ拡散を危惧してのことである。しかし、データが存在する以上、それらは有効に活用されるべきである。本学は30数万人の卒業生をかか えており、その住所等データの維持管理は、最重要課題と言っても過言ではない。しかし、現行の管理体制で情報開示することは、膨大な情報量に伴う圧倒的な業務量の増大、情報そのものの精緻度などの理由により限界がある。「公開による利便性」と「個人情報保護」の両立は容易ではないが、申請者が正確な情報を入手できるようにデータ環境を整備し、卒業生も含め支援できるように、個人情報保護委員会を中心として全学的に活動を推進していくことが不可欠である。将来的には安全性の高いネットワーク環境でこれらの膨大なデータを運用していけるように、情報センター等の関連部局と連携をとりつつ検討を重ねていくことが今後の課題と言えよう。

(文責:法政大学 総務部文書課 遊座 圭子)


【目次へ戻る】 【バックナンバー 一覧へ戻る】