情報教育と環境

武蔵工業大学における情報教育環境


1 はじめに

 武蔵工業大学は、1997年4月に、それまでの東京都世田谷区の世田谷キャンパスにある工学部のほかに、第二の学部として横浜市都筑区の横浜キャンパスに環境情報学部を開設し、より幅広い分野の教育・研究に力を入れています。環境情報学部(当初入学定員190名、現在390名)では、文系・理系の枠を超えた学際的な教育・研究を推進し、特に共通スキルとして外国語と情報リテラシーの習得に重点をおいています。それらを具体化するために、学部開設当初より情報教育環境の整備には学校法人五島育英会、大学、学部が一体となって取り組んできました。
 情報教育環境の構築にあたっては、環境情報学部情報メディアセンターが中心になって、教育現場からの要望をとりまとめ、企画・設計・運営等に反映させてきました。


2 情報環境

(1)操作容易な情報環境施設をめざして

 情報環境施設の整備にあたっては、主に以下に留意しながら進めています。
学生の立場からは、最先端の情報教育環境により、多様な教育機会を享受し、満足感と誇りをもって卒業できるようにすること。
教員の立場からは、最先端の情報教育環境により、教育・研究に対する多様な可能性を気軽に試みることができるようにすること。
職員の立場からは、最先端の情報教育環境をできるだけ負荷をかけずに安定して運用できること。

 情報メディアセンターは、図書館機能、外国語教育のためのLL機能そして情報リテラシー教育機能の三つの機能を備え、情報教育環境施設の中核となっています。

1)プレゼンテーション・ラボラトリー
 プレゼンテーション・ラボラトリー(プレラボ)は、130名収容の教室で、150インチの大型プロジェクター1台あるいは、70インチのプロジェクター2台を使用できます。情報源としては、Windows PC、UNIX ワークステーションあるいはMacintosh PC、S-VHSビデオ、8mmビデオ、CATV、レーザディスク、書画カメラ、ホワイトボードなどマルチメディアを駆使できます。教材等は横浜キャンパスネットワーク(YC-NET)上のネットワークドライブからも容易に取り出せます。また、自分のノートパソコンを接続して、プロジェクターに表示することも可能です。情報源や表示先の切り替えはタッチパネルを用いた操作卓により極めて容易に行え、授業の流れを止めることがありません。これは本学の教員によるオブジェクト指向に基づいた、まさに使う側の身にたった設計で、6年を経た現在も好評です。各机上には、情報コンセントと電源コンセントが設置され、学生はWebサイトにアップされた教材を身近に見ながら授業を受けることも可能です。情報コンセントは自動巻き戻し機能により伸縮自在で100BaseTにも対応しています。LANリールと呼んでいますが、本学部用に新規開発された後、他大学にも広く導入されています。
2)演習室
 演習室・は、PCが42台あり主にプログラミング演習用に使われています。演習室・は、UNIXワークステーション4台とPC30台があり、地理情報システム等高度情報処理教育に活用されています。PC60台を備えた中演習室では、Photoshopによるフォトレタッチ、Premiereによるノンリニア編集が可能です。スキャナーやデジタルカメラ、ビデオカメラによる情報入力も可能で、情報リテラシー演習に使われています。演習室のPCのOSはすべて操作性、安全性の観点からWindows2000です。各演習室とも、教卓用PCからは各PCのログオン状況を把握でき、また2人に1台の教卓モニターが設置されています。毎年、入学時に新入生のアンケートをとっていますが、情報環境については多くの学生が期待以上との感想を寄せてくれています。
 LL教室は40名収容のものが2教室あります。こちらも1人1台のWindows2000 PCと2人に1台の教卓モニターが整備され、PC制御による種々のLL機能が充実しています。
 これらの演習室は、授業がない時間帯は学生に夜間10時まで開放されています。

図1 ネットワーク構成図
3)教材開発室等
 そのほかに、マルチメディアコンテンツ作成用の教材開発室、キャンパス内やCATVとの間で映像の集配信可能な映像メディアルーム、学生がいつでもマルチメディアを駆使した情報の収集・編集・発信が可能なメディアホールがあります。
 情報メディアセンターとは別棟にも300名あるいは200名収容の大教室があり、プレラボと同様の情報環境整備がなされています。また、その他の教室も固定あるいは移動型のプロジェクターが整備され、情報コンセントも自由に利用できるようになっています。
4)新棟増設
 2002年4月に、横浜キャンパス内に情報メディア学科を新設したのに伴い新棟を増設し、情報教育環境のより一層の充実をはかりました。ミニ・プレゼンテーション・ラボラトリー(ミニプレラボ)は16台のWindows2000 PCが亀の甲状に配置され、大型プロジェクターや8台の共有モニター、書画カメラやホワイトボードとも ノITを駆使した共同作業や教育の可能性を追求する空間です。音響系も7.1Chの音源を備え高臨場感の会議空間の研究などにも使用できます。遠隔会議用の自動追尾カメラや優先権付マイクシステムがありディスタンス・ラーニングの教室としても活用可能です。
 グループワークルームは、問題発見・問題解決重視の教育をより徹底して行うために新設しました。移動机の引き出しにWindowsノートPCが20台収納され、来年度にはMacintoshのノートPCが40台追加されます。グループごとに情報収集・処理・発信のために、必要に応じてPCを使用できるようになっています。また、この教室には、来年度には、サーバ、ルータ、HUB、PCなどからなるLAN構築演習用のセットが15セット配備されます。
 270名収容のFEIS(環境情報学部の英語略称)ホールは、プレラボと同様の設計でさらに音響環境を充実させ、授業だけでなく文化活動にも広く活用できるよう舞台装置も配慮されています。

(2)「いつでもどこでも」、安定なネットワーク環境をめざして

1)YC-NET
 YC-NETは、開設時はATM LANとスイッチングハブにより構成され、また、自宅からのアクセスが可能なようにアナログ・INSネット64・PHSによるダイアルアップ回線も用意しました。2000年4月にはローミング可能な無線LANを導入し、キャンパスのどこからでもYC-NETにアクセスできるようにしました。
 YC-NETは2002年4月に大幅な拡充を行い、ギガビットイーサネットとL3スイッチを導入しました。無線LANも11Mbpsから54Mbps対応に増強しました。ネットワークセキュリティについても対策を強化し、YC-NETは原則ファイアウォールの内側に隔離しています。
 全学生は入学と同時にUNIXサーバ用とWindowsドメイン用のアカウントを与えられ、電子メールやWebブラウザは学内のどこのPCからでも常に同じ環境で扱えるとともに、ゆとりをもってノンリニア編集ファイル等を保存できるだけの大容量のネットワークドライブが割り当てられています。
2)YC-CAT
 学内のCATVネットワーク(YC-CAT)は、地域のCATVの番組を受信できるとともにASIAN-SATの受信用地上局設備を有し、学内のすべての教室・研究室や食堂等にも送信しています。


3 情報環境を活かした教育

(1)授業での活用

 1年前期の「情報リテラシー演習」は40人前後の少人数クラスで、情報環境をツールとして使いこなせるよう、グループで課題を設定・解決し、結果をWebサイトにアップロードし公開するとともに、教員がインタラクティブに評価できるようにしています。各クラスには高学年のSA(Student Assistant)が2名つきます。1年後期の「情報編集入門」・「情報探索入門」ではさらにフィールドワークを重視し、課題解決のために目的意識をもってデジタルカメラ、ビデオカメラ、GPS等ITを使いこなせるように工夫しています。
 2年次以降でも、「データ処理法」や「地理情報システム」等で統計処理プログラム(SAS)や地理情報システム用プログラム(ARCView)などを活用しています。

(2)情報リテラシー教育の評価

 開学以来、情報リテラシー教育効果に対する追跡調査を行ってきました[1]。演習科目については、毎回8割前後の学生が「有意義であった」と回答し、学年があがるにつれて、PC操作能力に対する自己評価が直線的に向上していました。表計算ソフトやプレゼンテーションソフトの使用率も「事例研究」の始まる3年生、「卒業研究」の始まる4年生と高学年になるにつれ著しく高率になり目的に沿って活用されていることがわかりました。また、情報リテラシー教育が他の科目で役立っているとする学生は8割にのぼりました。
 一方、情報リテラシー教育に対する期待感は学年があがるにつれ低下する傾向や、情報リテラシー教育の内容を4分の1の学生が易し過ぎると感じているなど、今後、専門教育における情報リテラシー教育の充実や、能力差に対応した多様なカリキュラム編成が重要な課題であることも明らかになりました。

表1 学年別応用ソフトの利用率
応用ソフト1年2年3年4年
表計算27%51%69%73%
プレゼンテーション14%21%49%48%
(2000年度下期調査、回収率53%)

4 支援環境

 設備面での情報環境を有効に使いこなすには、運用面での支援環境は極めて重要です。たとえば、教員代表、情報系事務員代表とYC-NETを管理するコアセンターの技術員代表が隔週にコアセンターミーティングを開き、情報環境の情報共有と迅速な問題解決に努めています。また、学生アシスタントを組織化し、演習室の夜間解放や演習機器の障害報告、演習用教科書の執筆、YCポータルサイトの運営などに参画してもらっています。


5 まとめ

 常に最先端の情報教育環境を前提にしたWebとデータベースを活用したシステムは、開学当初から履修登録や就職情報提供サービスに利用されるなどその威力を発揮してきましたが、今後WBT(Web Based Training)等教育そのものへの展開や自己評価業務の効率化や卒業生へのサービス強化など大学の発展に向けた戦略業務への適用についてもその可能性を組織的に追求していく予定です。


参考文献
[1]中村雅子:大学における情報教育の効果分析(2), 武蔵工業大学環境情報学部情報メディアセンタージャーナル 第2号, 2001-04.
http://www.yc.musashi-tech.ac.jp/~cis/cisj/2001journal/vol2.html

(文責:武蔵工業大学環境情報学部教授
  情報メディアセンター所長 山田 豊通)



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