情報教育と環境
福岡工業大学は、工学部、情報工学部、社会環境学部の3学部9学科の他に、短期大学部2学科、大学院工学研究科の博士前期課程6専攻、後期課程2専攻を設置しており、6千人近くの学生が在籍しています。本学情報処理センター(以下センター)は、全学の情報教育基盤の整備、提供および管理を行う機関として、これまで最先端の情報教育環境の確保を積極的に取り組み、学内ネットワークシステムを核とした設備の充実を図ってきました。
近年、IT技術の大幅な進歩により、教育研究環境においてもコンピュータの資源重視からネットワークパフォーマンス・資源重視の整備へと変化し、それに伴い、本学は計算機サーバ規模に対する大幅な見直しや各種情報ネットワークの強化整備へと大きく方向転換しています。そのような中、2001年度に文系の社会環境学部がスタートし、これまで工学・情報工学系大学として歩んできた情報教育の転換が必要となり、さらにはe-Leaningに代表されるWBT環境の本格稼動に向けた取り組みも必要と、センターが果たす役目も大きく変わりつつあります。本稿は、センター教育システムの紹介の他に、取り巻く状況の変化に対応していくためのいくつかの取り組みの紹介を行います。
本学のネットワークシステムは、高度情報処理環境の整備を目的とし1991年に最初のシステムを導入しました。その後、全体的な老朽化およびデータのマルチメディア化に伴う大量のトラフィックに対応するため、1999年に新しいネットワークシステムにリプレースを行いました。このリプレースでは基幹部分にGigabit-Ethernetを採用し、学内の適所に配置された4台の超高速Layer3スイッチをそれぞれ4Gbpsの帯域で接続しています。さらに各校舎はネットワークの利用状況に応じてGigaポートを有する複数のLayer3スイッチを設置し、それぞれがセンタースイッチと2Gbpsで接続されています。基幹ネットワーク部にGigabit-Ethernetを採用することによって、基幹LAN上でのボトルネックの解消および超高速ルーティングを実現し、さらにVLANによりバックアップ経路などを考慮した緻密なネットワーク設計を可能にしました。
インターネットへの接続については、ATM専用回線を用いて44Mbpsで接続しています。これについては、2002年中にSINETへは100MbpsのVLAN接続に切り替えるほか、複数の商用バックボーンへのFTTHによる接続も行い、トラフィックの分散とネットワークの二重化を図ります。今後も増え続けるトラフィックに対応できるよう、逐次補強を行っていく予定です。
図1 学内ネットワーク構成図
センターの教育用施設として、定員100名の教室6教室(うち全席パソコン配置の、いわゆるマルティメディア演習室は4室、ハードウェア演習用に特化した教室1室)の他に、定員20名〜30名程度のセミナー室2室を確保しています。2002年10月、当該教育用施設のための教育研究用計算機システムのリプレースに伴って、次期システムの内容を検討するため、前システムの問題点の洗い出し、学内のアンケート調査、教職員および学生の授業や課外利用状況および予定に関する調査、利用するハードウェアおよびソフトウェアの評価、近年の動向調査などの作業を行い、リプレースの基本方針を作成し、それに基づきリプレースを行いました。具体的な要点は以下の通りです。
(1)教室設備の高度化と均一化
全席パソコン配置の4教室(PC台数は計400台)は、これまでハードウェア設備が教室ごとに異なるため、教室利用率に極端なばらつきが生じ、特に授業利用などに大きな支障を来たしていました。この問題を解決するために、各教室に導入するハードウェアやソフトウェアをできるだけ均一化し、各授業や演習において利用するハードウェアやソフトウェアを見直し、必要なものを確保しました。また、学生が携帯するノートパソコンの利用を想定して、全教室に情報コンセントを併設し、後述のe-Learning教育方式にも対応させました。システムの特徴は以下の通りです。
(2)学生がさらに利用しやすい環境の整備
学生の情報教育はもとより、インターネットをさらに積極的に利用してもらうために、個人の利用環境を一元化する、UNIX/Windowsシステムにおける共通ユーザーディレクトリの構築、共通の認証機構の提供、Webmailを標準のメールシステムに採用など、最新の情報技術を積極的に導入しました。また、これらのサービスのリソース一元管理および学生のファイルスペースとして、専用高速大容量ファイルサーバを導入しました。
(3)セキュリティの強化
インターネットにおけるセキュリティ諸問題およびその他の攻撃から本学のコンピュータ・ネットワークシステムを守るため、Firewallなどの強力な防御システムを導入すると同時に、トレンドマイクロ社のInterScanWallを導入し、本学と外部とやり取りされるすべての電子メール等をウィルスチェックする機構を実現し、外部からのウィルスやワームなどの危険要素が排除できるようにしました。
(4)ハードウェアの時代からコンテンツの時代への転換
今日、大学の情報インフラの整備はどこも急ピッチに進められており、これまで本学の情報教育を支えてきた情報インフラにおいても、「先進的なハードウェア」や「高速ネットワーク環境」といったキーワードだけでは、もはや満足のいく情報教育を提供することが難しくなってきています。一方、インターネットを利用した遠隔教育などに代表される、いわゆるe-Learningは、その可能性についての研究・模索の段階から、実用・商用の段階に進化してきています。このような流れに対応できるように、新しい教育手法を提供し、それを実現するコンテンツを充実していくことがきわめて重要であると考えています。
ただ、大学におけるe-Learningシステムの利用は、そのコンテンツの完成度、インストラクターやメンターの役割および担い手、従来型の授業との位置関係、学生の動機付けおよび学習評価など、様々な面においてなお成熟しておらず、さらなる研究が必要です。
以上のことを背景に、新システムにおいて、学内LANやインターネットを利用した、同期型および非同期型の遠隔教育システムを試験的に導入し、全学範囲で授業科目を中心に各種コンテンツの作成や利用が可能な仕組みを実現しました。具体的に、富士通製LMSであるInternet Navigwareを導入し、SCORM等の規格を満たすコンテンツの作成手段として、オーサリング・ツールなどを整備したパソコンを各学科に配布を行いました。また、センター主導でe-Learningのツールやコンテンツ作成を目的としたプロジェクト研究を募り、採択者に研究費を補助する制度を導入しました。その結果、今年度末までに約十数科目のコンテンツが完成され、LMSにより配信され、同期型および非同期型の授業などに利用される見込みとなっています。なお、大学の授業科目のデジタル・コンテンツ作業化はこれからも推進し、数年後には全学のLMSによる本格的なe-Learning教育の実現を目指します。
図2 情報処理センター設備概略
本学に入学してくる学生の中で、入学時にすでにパソコンを有している者がかなりの数に上ることが、アンケート調査等で判明していました。このため、大学側でノートパソコンを用意し貸与する方式を取らず、学生個人が所有するパソコンを有効活用できる環境整備に力を入れています。その具体策として以下の取り組みが挙げられます。
まず、学内にパソコンサポート&サービスセンターを設け、パソコンの専門業者に委託しています。これにより、学生のパソコン利用における様々なトラブルや各種要望に対応し、パソコンを所有していない学生に対しては、大学推奨ノートパソコンの購入を斡旋しています。ここでは、パソコン関連のパーツも多数取り揃えており、PCショップとしても機能しています。また、斡旋購入したパソコンの無償の保守はもちろんのこと、有償ではありますが、学生が所有するすべてのパソコンでサービスが受けられるよう配慮しています。本学では、ノートパソコンの授業での積極的な利用を推進しており、学生のパソコンが故障した場合は、代替パソコンを修理期間貸し出すことで授業での利用に対処しています。また、諸事情でノートパソコンを所有できない学生に関しては、時間単位での無料貸し出しサービスも行っています。
また、一般教室、自習スペース、学生ホール、フリースペースなど、学内の主要箇所に、総計3000個の情報コンセントと数十台のプリンターを設置し、学内のどこからでも学内LANやインターネットに気軽にアクセスでき、ドキュメントの出力ができるように整備しました。これにより、演習室や教室以外の学内スペースでも、ノートパソコンを使った講義が可能となります。
IT技術の進歩に伴い、大学における情報教育や専門教育での情報化は日進月歩で進化し続けています。本学およびセンターは、最新の技術および動向に敏感に注意しながら、ハードウェア重視からコンテンツ重視へというパラダイム・シフトの中で、常に最善の教育を提供していくために一層の努力を続けていきたいと考えます。