私情協ニュース1
第34回臨時総会は、平成15年11月25日、アルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)の会議室にて開催された。
議事に入るに先立ち、文部科学省専門教育課の杉野課長から「私立大学中心の大学システムが展開される中で、組織的かつ学生一人一人の情報教育の推進に期待する」との来賓の挨拶があり、引き続き平成15年度全国大学情報教育方法研究発表会の授賞者の表彰の後、新役員・新会員代表者の紹介、平成16年度文部科学省の情報関係予算の概算要求等について私学助成課の滝波課長補佐より説明があった。次いで、大学情報環境基本調査の最終報告、電子著作物権利処理事業の実験、各種会議・研修会の開催結果等について報告があった。
以下に主なものを報告する。
7月5日の第1次選考会で92件の発表から12件が選考され、9月6日の第2次選考会の結果を受けて、私立大学情報教育協会賞1件、奨励賞2件の都合3件が決定された。なお、文部科学大臣賞は該当がなかった。授賞の詳細はp.31以降に掲載。
1) | 16年度概算要求は、政府全体として大変予算が厳しい状況ではあるが、大学、専修学校含めて総額396億円。内訳として経常費補助金の特別補助では336億円の32億円増、設備の補助金では25億円の前年同額、装置・施設の補助金では34億円の2億円増の要求とした。 |
2) | 経常費補助金の増額は、「教育研究情報利用経費」について、15年度に比べ120%増の10億円、ネットワーク維持費、コンテンツ作成、サイバー・キャンパスについても増額を要求している。 |
3) | 15年度予算の執行状況として、サイバー・キャンパス整備事業は、19大学16事業が採択され、84%が採択された。不選定となった理由の多くは、初年度の計画に具体性がないような準備不足などであった。マルチメディア、学内LANは、予算と申請の関係で見るとおおよそ執行できるが、設備は、採択率が低くなる見通し。経常費の中の教育研究情報利用経費は、申請が予算を大幅に上回っているので、教育研究の調整率による傾斜配分により1校当たりの補助金の上限を5千万円とした。 |
4) | 再追加募集として、施設・装置の補助金について16年1月16日までに年度内に実施可能な事業がある場合に申請いただきたい。 |
ITを積極的に活用して教育効果を高めることが不可欠となってきたが、大学としての組織的な取り組みに教員の教育活動が十分に反映されていない面があることから、学内での一体的な申請について提言することになった。
対策として、第一に、教員への補助金情報の周知徹底を図る。そのために補助金の申請書類および留意点の解説の情報を本協会のWebサイトに12月中に掲載する予定。第二に、教員の要望を集約するため、「教育改善調査」を学内で実施し、補助金申請の基礎資料とする(図1)。希望する教員から改善の内容、期待される効果、改善に必要な大学としての支援、補助金の活用などの情報を回答いただく。第三に、前記の情報を基にして「補助金戦略会議」を設置し、組織的な申請とすべく調整するとともに、採択後の補助金の有効活用の点検・評価を行う必要がある。したがって会議には、学部長をはじめとする自己点検評価委員会、事務部局を含めた構成にすることが望まれる。
図1 授業改善希望調査(モデル)
詳細は下記の「私立大学等の情報化関連補助金の留意点」を参照
http://www.juce.jp/hojokin/index.html
14年度における大学の情報環境について、327大学中319校、短期大学185校中151校の状況・計画について最終報告した。
まず、3年先の17年度では、職員の支援を得て組織的に教育研究の情報化を進めるが55%、さらに外部の大学・社会との連携を進めたグローバル化を目指すが14%と、7割が大学をあげて教育研究改善に取り組もうとしている。短期大学は、5割程度でネットワークの整備を目標としているところが多く、大学と温度差がある(図2、図3)。
図2 情報環境整備に対する大学の当面の目標
図3 大学グループ別に見た情報環境整備の目標
パソコンの教育用整備は、教室以外の学内での設置が6割、ノートパソコンの貸与が4割となっており、かなり貸与が増えてきた。研究用は、すべての研究室が4割、教員の希望が1割で残りの5割は個人研究費等で整備している。この5割は補助金で2分の1を回収することが可能。
教育用パソコンの使用状況は、3年前に比べ1台当たり12人であったものが8人に改善され、全学生が1日に1時間の使用となっている。映像を中心としたe−ラーニング、自学自習の普及を考慮すると、パソコンの高機能化が必要となってくる。
他方、パソコンの学生購入は、4分の1の77大学で実施。1大学当たり大規模大学の2,542台から家政系大学の281台と多様で、学生全員では大規模、中規模の大学で1割未満、理工系、歯科系、単科大学で5割程度となっている。短期大学はほとんどない。持ち込み実施大学と未実施大学における学内の台数は、持ち込み実施大学のほうが1割程度設置台数が少ない。しかし、情報化投資額で比較すると、パソコンを持ち込ませている大学のほうが情報化投資額が多く、導入の理由が単なる財政的事情によるものではなく、学生一人一人の授業環境を改善しようとしていることが伺える。
ネットワーク環境では、どの大学も教育研究の基盤環境として最大限に重視している。特に3年後は、幹線の6割が1Gbps、支線は100Mbps以上、対外接続は5割が100Mbps以上を計画。マルチホーム化は、大学で4割、短期大学で3割となっており、対外接続回線の拡大を図っている。
セキュリティ対策の実状は、大学、短期大学ともファイアウォールを設置して不正侵入を予防している。セキュリティに関する対策基準の策定は、大学49校、短期大学24校が実施しているが、大半の5割は検討中である。
ネットワークの将来は、7割が無線LANと携帯電話とし、衛星通信と学内LANを組み合わせたネットワーク24大学12短期大学、文部科学省のギガビットネットワークへの接続66大学22短期大学と大容量通信への計画もかなりあることが判明。
ネットワークの利用内容は、教材、資料の提示・検索が4割、研究活動が6割となっているが、3年後は全学的に自学自習が5割、学外の連携、遠隔合同授業、学外専門家との連携など、現在あまり進んでいない分野への利用が進む。
マルチメディア環境は、3年後は7割がマルチメディア機能を高めたいとしており、今後の3年間にかなりの大学が教室のマルチメディア化を進めていく。また、e−ラーニングをイメージした授業の録画がかなり計画され、3年間に大規模大学、医歯科系、理工系大学が多く計画している。
情報化への支援体制は、現状では授業の運営支援・相談、教員の講習が大半であるが、3年後は教材の電子化、著作権処理の支援が多くなるとしている。シラバスのデータベース化は35%が構築済み、構築中が16%、合わせると5割の大学がシラバスのデータベース化に取り組んでいる。短期大学は3割と低い。
e−ラーニングへの取り組みは、一部の学部学科以上での実施が92校と加盟大学の3割となっている。短期大学は21校、14%。特に大規模大学では、5割の大学が実施している。3年後は大学で155校がe−ラーニングを計画。内容としては、自学自習用の教材に小テストなどを組み合わせ、学生が理解度を自己診断するシステムが5割。Webサイトに掲載した教材をオンデマンドでダウンロードする学習が4割となっている。中でも学生の学習到達度に即した機能LMS(Learning-Management-System)は大学で17校、短期大学で9校ある。また、講義の録画をWebサイトで配信する大学は10校となっている。特に参考となる事例については、再調査を行い、実施モデルをまとめた(以下参照)。
特色あるe−ラーニング実施モデルの紹介慶應義塾大学〜 対面授業の活性化を重視したe-ラーニングの実践 〜 慶應義塾大学では、ネットワークによる遠隔講義、講義で提示した資料を直後にWebサイトに掲載する実習支援など、多角的な取り組みが行われている。最近では、討議・討論等の時間を最大限に確保する手段としてe-ラーニングを導入し、対面学習を重視した実践的な取り組みを進めている。 工学院大学 〜 実験のプレ学習等に活用可能なコンテンツを整備 〜 工学院大学では、理工系科目の基礎知識補完や実験の事前説明用に教科書などをベースにした自学自習用教材を多数作成している。教材はテキストと音声、アニメーション、シミュレーションなどをWebページから閲覧可能としており、視聴覚を通じた理解の促進を図っている。 成蹊大学 〜VODを組み込んだ語学教育用e-ラーニングシステム〜 成蹊大学では、映像・音声による発音練習と小テストの実施、学生個々の学習履歴把握などの機能を統合したe-ラーニングシステムを構築し、主としてCALL教室で実施する語学教育の授業および事前事後学習に活用しており、学習の成果は平常点に組入れている。 文教大学 〜 オンデマンド型授業の実践 〜 文教大学では、講師の映像・音声とスライドや文書ファイルを組み合わせた教材と学生の理解度把握のための小クイズ問題によるe-ラーニングを構築しており、単位認定授業に導入している。教材は、講義内容に応じて講師の映像、板書と音声、スライドと音声などのバリエーションがあり、学生からの要望を取り入れながら随時更新している。最近では、授業に関連する資料映像の希望が多いとのこと。 名古屋学院大学 〜 学生一人ひとりに密着した自学自習システムの運用 〜 名古屋学院大学では、定期試験の結果に限らず、小テストへの取り組みなどを含めて総合的に成績評価できるe-ラーニングシステムを構築している。個々の学生の学習記録を管理することで、学習進度に応じた指導が可能となり、また、出席やレポート提出の督促など、学生に密着した教育指導を行っている。 大阪学院大学 〜 学生と教員を支援するe-ラーニングツールの構築 〜 大阪学院大学では、ネットワーク上での教材提示、レポート提出、小テストの実施や学生同士のディスカッションなどの機能の中から、教員個々の工夫によって独自の授業環境を構築できるプラットフォームを構築して教員と学生に提供している。教員と学生への支援を充実するため専門の組織を設置して対応している。 園田学園女子大学 〜 正規の授業をe-ラーニング形式で開講 〜 園田学園女子大学では、正規の授業をe-ラーニング形式で開講しており、学生はネットワークに接続していつでも講義を受けることができる。毎回の授業に必要な教材提示のほか、テストの実施、課題提出、掲示板やチャットによる質疑応答など、教員−学生間のコミュニケーションを確立している。 帝塚山大学 〜 大学連携も視野に入れたe-ラーニングシステム 〜 帝塚山大学では、授業での演習や自学自習を支援しながら教員の授業方法の改善を実現するe-ラーニングシステムを構築している。専門の支援組織を設置して教材・資料の電子化や学習履歴管理など組織的に対応しており、今後は、他大学との連携によるコンテンツの充実、共同授業の実施も視野に入れて改善を図っている。 金蘭短期大学 〜 教材・資料や板書記録による授業アーカイブの構築 〜 金蘭短期大学では、学内のWebサイトに、シラバス、授業で使用するスライド等の教材、収録した板書のイメージ等の掲載と、課題毎のレポート提出フォルダなどを組合せ、主に事後学習を目的とする学習システムを構築しており、毎回の授業を記録することにより教材の蓄積と再利用を可能にしている。 星稜女子短期大学 〜 演習・実習支援に主眼を置いた教材を整備 〜 星稜女子短期大学では、コンピュータリテラシー、語学教育、資格取得などの演習や実習を支援する教材を学内で構築している。学生は、学内・学外を問わずいつでも教材サーバに接続して演習用の教材をダウンロードし、自身の進捗率を確認しながら自学自習できるように工夫されている。 |
この他、情報環境ランキングを試みた。教育改善のための取り組みを情報化への対応という視点から点検するため、配慮すべき事項に配点を行った。ランキングは順位が重要ではなく、情報化を通じて教育改善にどのように大学が関わることが望ましいかを、他大学の事例から検証し、新たな教育改革へ取り組むための指標として活用されることを期待している。20点満点の内、教育へのIT活用10点、情報機器・施設の整備7点、情報化投資額3点とした。
以上のとおり、今回から報告書を白書として活用いただけるよう編集した。
詳細は下記の「平成14年度私立大学情報環境白書(解析編)」を参照(会員専用) http://www.juce.jp/member/env02/e-learning.htm |
4回にわたる説明会を実施し、大学関係者からの意見を参考に大学の著作権法の専門家等によるプロジェクトチームを構成し、総会、理事会の審議を経て進めている。この事業は、大学間での著作権処理の代行事業と、大学と企業などでの著作物利用の取次ぎを行う。大学間での代行事業は、オンラインによる利用許諾、著作物のダウンロード、著作権使用料の徴収・分配を行う。国公私立の大学を対象として、事業の公益性を確保するため文化庁管轄の著作権等管理事業に平成15年9月10日に登録し、開始することにした。
その仕組みは、著作物の権利者が事前に所属大学のサーバに著作物をアップロードするとともに、著作物の所在を当協会データベースに登録。その上で利用者側が当協会データベースを通じて著作物の検索を行い、希望の著作物があればダウンロードし、使用料が課金される。権利者側で使用料が不要の場合は課金が行われない。
複数の権利者がいる場合の権利の持ち分(使用料分配)の規程を各大学が個別に作成する必要があるため、その判断基準となるような電子著作物取扱のモデル規程を本協会で作成した。さらに、権利の持ち分に関する具体的な取り決めとして申し合わせも各大学で別途作成する必要があるとして、大学の施設、設備、人的組織、資金の提供の度合いと創作への貢献度を組み合わせた権利の持ち分のモデルを本協会で作成した。
著作物を登録する際には、教員のパソコンから大学のサーバに著作物をアップロードできる仕組みが盛り込んであり、手間をかけずに登録できるようになっている。また、権利者が複数いる場合の各権利者への使用料の分配率を著作物登録の際に入力できるようになっている。
一方、著作物の利用の手続きでは、利用申込みをする前に希望の著作物の閲覧だけも可能となっている。
この事業のメリットは、オンラインによる処理の軽減化の他に、教育業績の基礎資料の提供、知的コンテンツの一元化、マネージメントなど多くの利点がある。当面は、実験を行い、意見を調整した上で、平成16年10月には本格稼動を予定。大学関係者にPRするため、記者発表など何らかの方法で周知、徹底を計画している。事業への参加費は本格稼働でも当面無料とするが、使用料については権利者個人に報酬として源泉徴収税が発生するので、大学の負担を極力軽減化する方向で対応を準備している。
企業と大学との著作物利用の取り次ぎは、企業等のWebサイトに大学教育支援のコラム設定を依頼し、コンテンツ支援、授業支援、産学共同研究教員人材派遣、インターンシップ受け入れなどの一環として、取り次ぎの協力依頼を進める計画で今後の課題としている。