特集 教育ミッションとIT化(3)

東京電機大学情報環境学部における
学生の自主自立を目指した独創的な教育の実施


土肥 紳一(東京電機大学情報環境学部講師)
中村 尚五(東京電機大学情報環境学部長)



1.はじめに

 東京電機大学は、1907年(明治40年)7月に私立電機学校として設立し、「実学尊重」と「社会人教育」を建学の精神とし、その後1949年(昭和24年)に東京電機大学が誕生しました。現在、3学部22学科、学生総数約11,000名、教職員数約550名の大学で、まもなく設立100周年を迎えます。2001年4月に開講した情報環境学部は、情報環境そのものを良くする技術、情報環境上で処理する技術、情報環境を豊かにする技術、そして社会が求めている最先端の技術を学ぶことを目的として千葉県印西市に開講しました。学科は、情報環境デザイン学科と情報環境工学科の2学科があり、2004年4月からは大学院を開講し、学生数は約900名の小規模なキャンパスです。この学部の特色は、教育に力を入れることをモットーとしており、学生の自主自立を目指し、独創的な教育システムを導入してきました。主なものとして、新入生に対する約2週間の導入教育の実施、学年制や必修科目の廃止、事前履修条件、単位従量、GPA、セメスター制、そしてプロジェクト科目の導入等があります。


2.導入教育の実施について

 新入生は、学部入学後、約2週間の導入教育を受講します。導入教育は集中講義形式とし、午前中にカリキュラム計画を、午後にワークショップを開講しています。

(1)カリキュラム計画
 カリキュラム計画は、卒業までの時間割をデザインすることを目的とした授業です。入学後、約2週間の間に、各自の卒業後の進路を定め、その進路を達成するために必要な科目を選択し、4年間にどのような順序で科目を履修するかを決めます。必修科目を廃止した代わりに、科目の履修順序は事前履修条件を満たす必要があります。情報環境学部の時間割は、学生に自由度が与えられる反面、非常に複雑で、卒業までの時間割の作成を、手作業で実施することは不可能に近くなります。これを支援するために、ダイナミックシラバスを開発しました。[1]ダイナミックシラバスは、インターネットとパソコンを活用し、ブラウザを使って試行錯誤を繰り返しながら時間割をシミュレーションすることによって、時間割を完成します。2004年4月に実施した導入教育のアンケート調査結果によると、大学入学以前にパソコンのセットアップの経験者は55.5%、ソフトウェアのインストールの経験者は44.5%でした。新入生の約半分は、この授業の中で実施しているパソコンのセットアップやソフトウェアのインストールといった作業を初めて体験しており、自らが学ぶ環境を自ら準備することは、自主自立を目指す教育を実施する上で効果を発揮しています。

(2)ワークショップ
 ワークショップは、物づくりの大切さを教員と一緒に体験する授業です。ワークショップで作製した作品等は、最終日の発表会で披露します。学生が興味に応じて希望のテーマを受講できるように、2004年4月は30のテーマを公開しました。例年、パソコンの組み立てなどのテーマは大変人気が高く、複数の教員が担当しています。秋葉原への部品の買い出しから始め、仕様に応じたコンピュータシステムを完成させます。約2週間の集中講義ですが、体験を通じて学べるワークショップは、学生と教員の距離を短縮し、また学生同士の友達づくりの場として効果を上げています。


3.主な教育制度について

 新入生にとって、導入教育が終了すると、学部の授業が始まります。[2]

(1)単位従量制
 入試の多様化に伴って入学してくる学生も多様化し、これまでの画一的な授業形態では困難を極めるようになりました。できる限り個別学習型の教育システムを取り入れようとすると、学年制が大きな障壁になります。もし学年制を撤廃すると、これまでの学費制度は不適当になります。この問題を解決するために、情報環境学部では授業料の単位従量制を導入しました。この制度は授業料が高いか安いかの問題とは無関係に、純粋に教育上の必要性から発生したものです。
 単位従量制は、文字通り1単位に単価を設け、その単位数に比例した金額を授業料として支払う制度です。現在、1単位は15,700円に設定されており、2単位の科目を一つ履修すると約3万円を支払うことになります。通常、大学の授業料は学期の初めに一括して支払いますが、学期ごとの履修可能単位数の上限を設けていなければ、安易に何科目でも履修できてしまいます。単位従量制によって、学生は今受講している授業がいくらの価値であるかを明確にできます。

(2)GPA
 GPA(Grade Point Average)は、履修した各科目の単位数と当該科目で得たポイントの積の合計を、履修したすべての科目の総単位数で割った値です。セメスター毎に履修できる単位の上限は、直前のセメスターのGPAの値によって変化します。GPAの値が3.0以上の場合、次のセメスターで取得できる最大単位数は25単位、GPAの値が1.0以上3.0未満の場合は20単位、GPAの値が1.0未満の場合は12単位となります。このように、GPAの値によってセメスター毎の履修可能単位数が変化する仕組みを設けています。
 GPAを評価基準とした教育制度によって、学生はGPAを上げるための工夫を強いられます。セメスター毎に多くの単位を取得しようとすると、GPAを下げる傾向が強くなります。逆にGPAを高くしようとすると、履修する総単位数を減らすことを考えます。GPAは単位従量制の効果と協調しながら、学生が安易に科目を履修し、途中で放棄することを防いでいます。
 一方、不合格になった学生は、再履修によって「S」や「A」の評価を取得することによってGPAの向上につながるため、再履修者に対しても意識の向上を図ることができています。

(3)授業の複数回開講
 一般的に、人が集中できる時間は約1時間と言われ、1コマ90分は、集中できる時間を大幅に超えており、教育効果の点から考えると効果的ではありません。情報環境学部の授業は、通常、1コマ90分で実施される大学の授業形態とはまったく異なるシステムを導入しています。1コマの時間数を短縮し、1週間に複数回開講する授業形態を取り入れました。講義を中心とする科目は1コマを50分、月、水、金曜日に開講することを原則としています。実習などを伴う科目は、1コマを75分、火、木曜日に開講することを原則としています。


4.プロジェクト科目について

 プロジェクト科目は、学内、学外からテーマを募集し、学生と教員が一丸となって取り組む授業です。[3]プロジェクト科目の開催に当たって、2002年7月に科目の説明会を開催し、企業からの参加は約150社にも及びました。テーマの受付は、事務的な煩雑さを避けるために、ブラウザで行えるシステムを開発しました。プロジェクト科目は、基礎プロジェクトと開発型プロジェクトに分かれています。基礎プロジェクトでの実習内容は、新入社員等を想定する通常のアルバイトなどに依頼する程度の内容が扱われ、社内等で社員の手を煩わすほどではないが、やっておくといずれ役に立つであろうと考えられるようなものです。開発型プロジェクトは上記以外のテーマで1セメスターあるいは2セメスターの期間で解決でき、企業等においてもプラスとなるような種類のテーマが適しています。従来の授業科目はほとんどの場合、それ自体で完結するか、あるいはそれに続く科目や高学年次配当科目の基礎として位置づけられています。しかし、系統的に学習した内容や複数の異なる分野の内容を総合して実践する授業機会を得ることは、時間的制約などから困難でした。プロジェクト科目は、このような実践の機会を学生に与える複合科目としての機能も目的の一つとしています。
 このような取り組みが評価され、「プロジェクト科目を核とした産学連携」が、文部科学省平成16年度「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」に採択されました。現在、図1に示す自己学習支援システムを作成中です。今後は、学生の自主自立を目指した独創的な教育システムを維持しながら、学部のセカンドステージに突入します。
図1 自己学習支援システムの概念図

5.まとめ

 情報環境学部に入学した学生は、最初から学部の独創的な教育を受けてきたため、大半の学生はそのことに気づいていません。他大学の友人と話す機会がある一部の学生や、他大学から編入学した学生達が、その教育の違いに驚いている状況です。将来、学生が就職し、他大学を卒業した同僚との間で大学の話をしたときに、初めて教育の独創性を認識するはずです。情報環境学部は、学部の完成年度を迎えました。自分でデザインした時間割に従って学んだ学生諸君が間もなく卒業します。目的意識を持った卒業生が誕生することを期待しています。
 最後に、情報環境学部をご支援いただいております教職員の方々に、この場を借りて感謝いたします。


参考文献
[1] 土肥紳一, 中村尚五, 島田尊正, 川勝眞喜:ダイナミックシラバスの開発. 日本工学教育協会, 平成13年度工学・工業教育研究講演会講演論文集, pp21-24, 2001.
[2] 土肥紳一, 中村尚五: 情報環境学部の教育システムの効果について. 日本工学教育協会, 工学教育 Vol.52 No.4, pp41-46, 2004.
[3] 斎藤博人, 宮川 治, 中村尚五: 企業のテーマをとり入れた産学連携プロジェクト科目の試み. 日本工学教育協会, 工学教育 Vol.52 No.4, pp14-19, 2004.

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