私情協ニュース1

第37回臨時総会開催される



 第37回総会は、平成16年11月25日(木)午後1時半より、東京市ヶ谷のアルカディア市ヶ谷(私学会館)会議室にて開催。当日は、議事に入るに先立ち文部科学省専門教育課の松澤企画官より来賓の挨拶があり、引き続き平成16年度全国大学情報教育方法研究発表会の授賞者の表彰の後、新役員・新会員代表者の紹介、平成17年度文部科学省の情報関係予算の概算要求等について私学助成課の俵課長補佐より説明があった。引き続き、著作権法改正の要望、電子著作物権利処理事業への参加、授業改善調査の実施、ITを活用した社会による教育支援事業の可能性、個人情報保護法施行に伴う電子化対策、中央教育審議会中間概要への提言、各種会議、研修会の開催結果等について報告があった。以下に主なものを報告する。


1.平成16年度全国大学情報教育方法研究発表会の授賞者の表彰

 92件の応募から74件が7月3日の第一次選考会で発表され、その内の10件について9月4日の第二次選考会で選考を行った結果、文部科学大臣賞(帝塚山大学)1件、私立大学情報教育協会賞(明治薬科大学)1件、奨励賞1件(愛知淑徳大学)の都合3件が決定された。授賞の詳細は31〜33ページに掲載。


2.情報関係補助金の17年度概算要求の決定内容等について

1) 17年度概算要求は、政府全体として大変予算が厳しい状況ではあるが、できるだけニーズの高い補助を重点的に増額要求することにした。経常費補助金の高度推進特別経費補助では346億2,800万円で前年度に比べ24億8,900万円の増、情報処理設備では25億2,900万円で前年度より1,700万円の減額、情報通信装置ではほぼ同額の14億7,300万円、情報通信施設では数年非常に需要が高いことから23億1,400万円と倍増に近い要求とした。
2) 経常費補助金で増額したのは、「教育研究情報利用経費」で、16年度に比べ倍増に近い7億円増の15億円を要求している。ネットワーク維持費について12億9,900万円増の70億円を要求している。
3) 16年度予算の執行状況として、サイバー・キャンパス整備事業は、8件の内、5件が採択され、採択率は63%となった。不採択の理由の多くは、連携先が不明確、初年度の計画が調査・検討等のみであり、具体性に乏しい。教育活動・研究活動に関する利用計画が不明確、遠隔会議システムのみの導入で国内外の大学等との交流連携の計画が不十分などである。14年度に開始して16年度は書面と実地調査を行っている。
4) マルチメディア、学内LANの執行は、予算と申請の関係で見ると、おおよそ100%近い採択率となっているが、パソコン・サーバー等の買い取りの設備は、需要が高く採択率5割弱となった。
5) 経常費の特別補助の執行は、教育研究高度化推進専門委員会を開催し、3人の委員に1人持ち点5点の15点満点で審査した。採択の基準は、平均点よりマイナス1点としたが、採択率の高い補助項目は平均点と同等までを採用した。その結果、借入補助は平均点10点、採択点10点となり、新規分の採択は67%となった。また、教育ソフトウエアは、平均点10点、採択点10点として86%が採択、データベース等の開発は、平均点10点、採択点9点として、82%の採択となった。なお、採択性によらない傾斜配分を予定している教育学術ネットワーク、教育研究情報利用経費は、別途プロジェクト採択を行っている。

 審査の点数が低い主なものには、大学と短期大学の両方を申請している場合、内容が同じものが多く大学、短期大学固有の目的や特色が見られない、使用計画と教育効果が不明確、開講時間・コマ数、使用教員・学生数の不足、補助対象外のソフトウエア、データベースなどがあげられる。


3.著作権法改正の要望

 文化庁著作権課の著作権法改正要望の照会を受けて、教育機関における複製等を規定した著作権法35条第2項について、現行では遠隔授業で著作物の複製、利用・提示などする場合に、授業を同時に受ける者への公衆送信に限定しており、とりわけ自動公衆送信を活用したeラーニングなどの使用が制限されている。教室の2倍の時間を教室外で学習させるという大学の単位制が、ITを活用した教育に十分反映されるように、著作権法の改正が望まれる。


4.教員の授業改善調査の実施

 教育への情報技術の活用を通して授業改善の促進を働きかけているが、授業改善の問題は教育の基本政策の一環として位置付けられることから、情報技術の活用の有無にかかわらず、授業の運営全般にかかわる問題と改善のための取り組みを浮き彫りにすることにした。その上で、ファカルティ・ディベロップメントの一手段として、授業での情報技術の活用の実態と今後の考え方、大学への要望、大学で解決できない問題などについて、助手を除く専任教員一人ひとりを対象に339大学5万6千人、161短期大学4千五百人の合わせて6万1千人に16年11月下旬実施した。
 調査結果については、文部科学省の施策への反映を求めていくことと、それぞれの大学への教育改善に活用されることを期待している。内容は、授業で直面している問題点、2年以内に希望の授業改善、授業改善のための課題、情報技術活用の現在と将来(2年先)の内容、活用の効果と問題点、大学で解決できない取り組みとしている。


5.ITを活用した社会による教育支援事業の可能性

 人材育成、教育の質向上への取り組みの一つとして、社会による大学教育への支援を理事長・学長等会議で提言した。人材育成の問題としては、とりわけ、高等教育卒業者のフリーター、無業者が急増しており、税収の減少、年金不払い、経済の不活性など、社会、国の発展に大きな影をもたらしつつあること。また、常識的な言動、忍耐力、思考力など人間力が低下してきており、大学教育の成果が大きく問われてきている。教育の質保証の問題としては、社会に通用する教育の展開が不可欠で、教育に社会からの現場的な情報や体験が学習の動機付けに非常に効果的である。
 それには、これまでの教育を見直し、教育に社会との接点の場を多く設け、社会から現実的な感覚や体験を積極的に教育に導入し、学習の動機付や常識的な能力を高めることが重要と考え、教育の産学連携を社会的に推進することが必要としている。
 大学が社会から期待する支援としては、一つは、社会での現場情報、体験情報の紹介がある。例えば、企業の専門家にインターネットを介して理論と実際のギャップ、社会や企業が直面している課題などの紹介を通じて、学びの動機付けが得られる。経済学の授業で関係省庁などからインターネットを通じて時事的なミニ解説を取り入れることで、学習の動機付けなどの教育効果が期待できる。機械工学の授業では、理解困難な理論に学生の動機付を持たせるため、理論を活用している現場を紹介することで、学ぶ意欲を高めることが可能となる。
 2番目は、社会のあらゆる組織で知的資産の電子化を促進し、アーカイブ化を実現。e-文書法により実現が可能になる。例えば、会計学の授業で会社の会計情報がないとシミュレーションなどの授業運営ができない。
 3番目は、実務経験者による授業の実現で、第一線の専門家にインターネットなどで講義を受けることにより、実務感覚や通用性のある授業が可能になる。法科大学院での授業、栄養学の授業で管理栄養士などの専門スタッフから栄養サポートの実際の紹介など。
 4番目は、学生のレポート、意見、作品などに対し専門家から助言・評価を受けることにより、学習成果の通用性や教員のFD研究に役立てることが可能。英語の授業で実用英語の評価を企業人に依頼、建築学の授業で卒業設計について、専門家からネットワークを介して定期的な助言を受けるなど。
 5番目のインターンシップ、ワークショップなど授業と連動した実体験教育の徹底では、機械工学の授業で「ものづくり」の体験の場を組織的に得られるような社会の支援が望まれる。
 6番目は、ITを活用した教育プログラムの専門家との共同開発で、経営学の授業で企業と大学が協力して映像データベースなどの構築、化学の授業で実験安全に関する教育プログラムの共同開発などがある。
 期待する教育効果は、学習意欲動機付けの向上、問題発見、解決能力の向上、実務能力の向上、教育内容の豊富化・高度化、通用性・質保証、起業意欲の促進、が考えられる。
 支援の実現には多くの課題が考えられる。一つには、文部科学省による政策提案と関係機関への理解の普及が重要。文部科学省の施策の下で、産業界をはじめとする各関係機関に、大学からの支援の要望を提示し、支援に対する理解を求める地道な活動が必要。産官学連携による大学教育の支援システムの構想、事業の可能性を検討し、理事会、総会、文部科学省とも協議を進めていくことを提案。また、知的財産に対する権利処理の電子化を促進するため、大学間との著作権権利処理のオンラインシステムの基盤を早期に構築した上で、大学と産業界との権利処理の仲介をしていきたい。
 最後に産学連携を一層促進するための工夫として、大学だけが支援を受けるのではなく、企業の経営相談、社内研修など企業など社会に対しても社会貢献が普及するよう大学に呼び掛けることを考えており、企業が掲げる問題解決に対して「オーダーメイド授業」や「出前授業」を促進する必要がある。
 以上、産官学の連携は、大学と社会が、それぞれの支援を持ち出し、助け合うことにより、人材育成支援、経営・技術支援が実現できることから、「共生の支援システム」の構築と考えている。7月の理事長・学長等会議で提案した内容で、文部科学省も個々の大学、個々の企業の取り組みを超えて、産学連携の大きな枠組みや制度的・システム的な取り組みについて支援できるのではないか、との反応を得ている。理事会でさらに具体的な枠組み、制度について研究し、いずれ総会に報告するとしている。


6.個人情報保護法施行に伴う電子化対策

 対策の内容は、大学の8割が技術的対策、アクセス権限の設定、6割がセキュリティポリシー、個人情報保護の規程や管理責任者の明確化について対策を講じている。短期大学は、8割が技術的対策でアクセス権限の設定は6割、セキュリティポリシー、個人情報保護の規程は5割と大学に比べ対策が遅れている。他方、17年度以降の課題は、大学、短期大学とも危機管理プランの設定、罰則規定の整備、システム的監視、入退室管理などのセキュリティ対策など。17年度に検討を始める大学、短期大学でもファイアウォールやアクセス権限については5割が実施済み、今後は規程や学内での共通理解の構築に努めることが伺われる。
 組織・管理体制は、全学的に所管組織を設けているところは、大学26校11%で、さらに個人情報保護委員会を設けているところは9大学とほとんど大学では対応が遅れている。短期大学は、4校5%で全学組織を設けているところは極めて少ない。
 個人情報保護規程への取り組みは、総合的に規定しているところは少なく大学で29校、短期大学で3校となっている。個人データへのアクセス権限に関する取り決めでは、管理責任者の明示が大学で58校25%、短期大学で17校21%、アクセス権限で厳格に設定が大学で47校20%、短期大学で11校の14%で、119校5割の大学、短期大学も同様5割が取り決めはなく、今後検討としている。管理責任者およびアクセス権限の厳格化を両方行っているところは、大学で24校、短期大学で7校と極めて少なく、本格的な対応が十分取られていない。
 技術対策は、大学、短期大学もファイアウォールによる不正侵入対策とID・パスワード認証、監視装置などによるもので、今後の課題は暗号化対策、パソコン持ち出し、USBメモリなど外部記憶媒体の接続禁止など。なお、生体認証は5校で指紋認証を実施。また、体制・手順の構築に関しては、情報漏洩を発見した際の手順の構築が課題。
 利用目的の本人通知・公表の実情は、大学、短期大学とも6割が公表も通知もしていない。早急に対応が望まれる。入学試験の結果についての開示請求への対応は、55%が開示しない、3割が開示するとしている。
 第三者への情報提供の判断基準は、成績の父母への通知は、大学が7割、短期大学が8割通知しており、学生本人への同意はほとんどが得ていない。今後の対策としては、大学、短期大学とも同意を得ない、同意を得る、困っていると対応が分かれているが、何らかの方法で周知しておくことが望まれる。高校への問い合わせは、大学が5割、短期大学が6割通知。これもほとんど同意をとっていない。就職サービス会社へは、大学7割、短期大学9割が通知していない。同窓会は、大学、短期大学とも7割が通知しているが、ほとんどが同意を得ていない。今後の対応として、同意を得る必要がないとの回答が大学、短期大学とも4割と高い。
 以上、調査結果から判明したことは、個人情報保護法の趣旨に沿って総合的・体系的かつ具体的に対応をしている大学は極めて少なく、具体的な実施手順については十分ではない。今後は、その点を大学が組織的に整備していくことが望まれる。文部科学省から11月11日に学生の個人情報に関するガイドラインが提示されたので、参考に整備を急がれることを望む。
図 「個人情報保護法施行に伴う電子化対応アンケート」の回答結果

7.文部科学省中央教育審議会大学分科会への対応

 中間概要の内容について、私情協としても意見を提言。
1) 21世紀初頭の我が国社会の展望で、大学卒業者の無業者、フリーター化の増加に国社会全体に活力の低下を招く虞があることを指摘。高等教育の人材育成の問題として、国全体で取り組むことの重要性を強調。
2) 高等教育と社会の双方向の関係において、高等教育の質的低下の問題、無業者、フリーター問題への対策として、人間力を養成するため高等教育の自己変革に加え、現実感覚を備えた社会による教育支援が不可欠であることに言及すべき。大学の社会貢献についても、産業界が抱える問題解決に大学がオーダーメード事業や出前事業などで、積極的に関与することが重要。
3) 高等教育の質の保証では、人材育成の完成度こそが高等教育の質を測定する唯一の指標。分野別の教育目標、学習者に「何々が説明できる」などの行動目標の基準作りと履修の中で確実に保証されることが重要。他大学や社会の専門家の意見を取り入れた教育内容の点検・授業運営の工夫、筆記試験に依存しない複合的な成績評価の導入などの工夫が教員一人一人に求められる。社会人に欠かせない人間力の評価も質保証の課題としてとらえ、対応すべき。
4) 高等教育の発展を支える各方面の取り組みでは、学習意欲が低い学生に学習の動機付けを持たせる、社会での体験を教育に取り入れ人間力を高める、実社会との関わりを意識した教育が不可欠。大学単独で進めるには十分ではなく限界があるので、社会からの教育支援が必要。大学と産業界等がそれぞれの立場で連携協力していくための支援システムの構築が不可欠。産業界、法曹界、医療関係、国・地方公共団体等から、現場情報・体験情報の紹介、実務経験者による教育の実現、学習成果に対する専門家の助言・評価、インターンシップ、ワークショップ、調査実習の組織的な受け入れ、人間力養成講座の実現、eラーニング等教育プログラムの共同開発、知的情報の電子化と教育利用の実現、などの支援が期待される。



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