私情協ニュース4
平成16年度 大学情報化職員研修会開催報告
今年度の大学情報化職員研修会は、A日程10月6日(水)〜8日(金)と B日程10月13日(水)〜15日(金)分け、両日程とも愛知県のホテル日航豊橋にて開催された。
本研究会は、教育研究、人材育成の支援の積極化を図るため、職員の意識改革を図るとともに、情報技術を活用した業務の改善、基盤情報としてのデータベースの構築と活用、教員の情報技術活用能力の研修、大学全体のネットワーク環境、eラーニングをはじめとする教育システムの整備など大学改革に不可欠な課題について、討議や事例研究等を通じて職員一人ひとりの資質向上に寄与することを目的としている。
今年度は、開催趣旨に照らして14の討議グループを設定し、これをA日程、B日程で七つずつに分けて実施し、多様な視点から討議を行うこととした。
「大学が評価の時代を迎えている今、教育研究活動全般に亘って大学の説明責任が問われている。そのような中で大学は、教育研究及び人材育成を積極化するための一方策として、情報技術を活用した支援のあり方について組織的に検討することが避けられなくなってきている。そこで、教育研究支援・人材育成支援のあり方について日々の業務を通じてどのように関わることが望ましいのか、支援内容、支援方法(教職協働含む)、環境整備(情報システム含む)、組織・体制などについて、参加者の体験や計画をお互いに披瀝しあい、総合的に研修する」という開催趣旨を踏まえ実施した。全体会ではグループ討議に先立ち、「教育研究支援・人材育成支援を実現するための情報化戦略」をテーマとして、大学として組織的に教育支援に取り組んでいる事例を紹介し、これからの職員に求められる意識改革の必要性について共通理解を得た。
− 全体会 −
A日程
全体講演
「大学改革と情報化 〜職員の意識改革を目指して〜」
斎藤 信男氏(学校法人慶應義塾常任理事)
大学に求められる使命(社会に有用な人材の育成)を実現するためには、教員一人ひとりに教育を任せるだけでは限界がある。職員が教育に積極的に関わり、教員を支援していくことが求められている。人材育成や、組織力強化のために、職員に求められる役割、教育への貢献などについて、参加者の意識を変革することを目的とした内容を講演された。 なお、本講演は、7月に開催した大学情報化職員基礎講習会で行われ、参加者に好評であったため、本研究会でも実施した。
事例紹介
「『教育支援室』で何が変わったのか」
獨協大学情報センター教育支援室課長補佐 原田 豊氏
本研修会の趣旨を体現している大学の教育支援の事例として、同大学の事例発表をお願いし、教育支援のあり方として、支援室の発足によってどのような変化、メリットがあったか、また、支援内容も含めて紹介いただいた他、なぜ、同大学では職員の関与が重要と判断したのか、その経緯を説明いただいた。
B日程
事例紹介
「『教育支援室』で何が変わったのか」
獨協大学情報センター次長、
私情協研修運営委員会委員長 南 雄三氏
(内容はA日程と同様)
パネルディスカッション
研修運営委員会の委員をパネリストとして、獨協大学事例発表を踏まえながら、大学改革に求められる職員のあり方、教育への積極的な関与、支援のあり方などをテーマに討議、会場との意見交換を行った。
A・B日程共通
事例報告
「学生情報の電子化と個人情報保護への対応」
札幌学院大学情報処理課課長、
私情協研修運営委員会委員 斉藤 和郎 氏
昨年度の研修会では、学生の学習履歴、就職活動、課外活動等々の情報を集約して個人指導に活用していく同大学の「学生カルテ」構想事例を発表いただいたが、同大学では、2005年度より施行される「個人情報保護法」に向けて、学生個人情報の取り扱い規程を設け、運用を開始した。そこで、本年度は同大学の個人情報保護に対応した取り組み事例について紹介いただいた。
グループ討議では、運営委員を中心に積極的な議論が行われた。詳細については次ページ以降を参照されたい。
A−1 ITを活用した学修支援システム
(36大学、賛助会員2社:40名)
学修支援の視点から、履修、授業、自己学習、成績評価、FDなどの支援システムや取り組みの方策について討議を行った。その結果、Web履修登録、教育方針(建学の精神)に沿って導入の必要性を見極めることが重要であるとの結論に達した。また、ITを活用した学修支援システム確立については、とりわけe-Learningの導入は大学の戦略化や他大学との差別化になり得るものであるが、実際に教員組織、事務部門、情報システム部門等全学的な規程や体制をもって検討している大学は少なく、利用者のニーズを知り、全学的な検討組織とユーザサポート体制が確立した上で、統合システムのあり方を検討すべきことを確認した。
A−2 財務・会計管理
(18大学、賛助会員2社:22名)
私学法の改正により、今後ますます説明責任が重要視される。積極的な会計情報の開示により、財務の健全性の説明や学納金の使途の説明に信憑性が高まり、また、大学の中身・本質が問われるため、自浄作用が働くという効果が期待できる。会計データベースのデータ構造や開示すべき情報はトップの方針に依存するため、トップが明確な方針を示すことが理想である。現実的には、経理担当者が経営者の視点でデータベースを構築し、トップのニーズに即座に対応できる体制を整え、トップに対して積極的に提案していく力を持つことが望まれる。第三者が様々な大学を平等に比較できるような「情報開示の基準・書式・指標」を大学間で統一することが今後の課題であることを確認した。
A−3 教育学術情報の提供支援
(18大学、賛助会員1社:21名)
教育研究を支援する情報の収集・蓄積・提供・活用の在り方、変化に符合したサービス展開、著作権・特許に関する取り決め、個人情報保護やセキュリティーなどに対する新たな取り組みなど、いわゆる「知財」活用の管理手法、著作物マネジメントも採り入れながら討議した。利用者教育を補完する電子的学習コンテンツ開発については、図書館版e-Learningに発展する手応えさえ感じられ、教育支援体制での図書館が果たす役割の一つのイメージを紡いだと言える。しかし、業務改善の域を超える議論までには発展せず、今後、図書館員が授業教材の制作や管理を扱うようになった段階で、意識変革をもたらすと予測される。今後の大学において、活きる情報提供者として知財マネジメントができる図書館職員が、今まで以上に学内外各機関と接近することが重要かつ喫緊と思われる。したがって、本研修会もこのコースを今後しばらく維持し、より広範な部門からの参加者によって討議が継続されることが望ましい。
A−4 インターネットを利用した戦略的学園広報コース
(17大学、賛助会員1社:18名)
社会から求められている大学の情報発信や大学が求める教育・研究支援情報を得るための広報メディアとしてのインターネットについて、その戦略的な方法を模索した。具体的には、1)ホームページの戦略的活用、2)社会から求められている大学の情報発信、社会からの教育支援とその仕組み、3)対外的視点からの職員の意識改革〜大学改革へ(教育功績評価と教育支援)、4)情報発信のための運営管理組織、規程をテーマに討議を行った。その上で、大学が広報活動を戦略的に展開するためには、大学がどのような理念・目的をもって人材育成を図るのか、どのような大学を目指したいのかを明確にする必要があるとし、広報活動に携わる教職員の果たすべき役割について共通認識を得た。
A−5 産官学連携
(9大学、賛助会員1社:10名)
今年度から新たに設置したコースで、教育・研究の新しい産官学連携について、ITを活用した効果的な支援のあり方を考え、討議を行った。その結果、産官学連携推進のための仕組み作りは教職員全学をあげて取り組むべき課題であり、教員・研究者と社会との間を取り持つ有効なシステム構築が必要で、研究業績・テーマ等のデータベース化と公開、学生の学習活動・特徴等を把握する仕組みが必要である。また、社会・産業界が求めるものを把握し、窓口の一元化を図ることで社会との接点(コミュニケーション)の確保に努める。そして、これらを基に、各大学での多様な取り組みが考えられ、それらが大学の教育改革に還元され、優れた学生を輩出し、社会から求められる大学として認知されることになっていくとの結論を得た。
A−6 高大連携・生涯学習・オープンカレッジ
(6大学:6名)
学生の学習意欲や基礎学力の不足が語られる中、高等学校と大学が協力して学生・生徒の進路選択を支援し、目的意識、学習意欲を喚起するための必要性や方策、生涯学習時代を背景とした社会人の再学習に対応できる教育のあり方など、多様な学習者に対する教育支援というテーマで討議した。はじめてのテーマであり、参加者は少なかったが、高大連携が大学教育を考える上で避けて通ることのできないテーマであり、学部教育の改革を求めるものであること、生涯学習時代には大学教育へのユニバーサルアクセスの保証と教育の通用性が問われることについて共通の認識が得られた。
A−7 情報化推進組織の管理運営
(21大学、賛助会員1社:25名)
情報化推進組織が抱える問題について、ユーザサービス、法人業務、情報化推進組織自体の観点から検証し、同組織が大学経営の中核的存在となるために必要な具体的方策を検討した。その結果、積極的に問題解決にあたり、最終的目標である行動計画の策定まで到達できた。さらに、管理職者と一般職員(技術員)間の部門マネジメントの問題について意見交換が行われ、それぞれの立場での思考スタンスの違いを認識することができた。
今後はIT環境構築のための人事考課制度や予算制度の確立といった、より各論へ掘り下げた課題設定が必要となるであろう。
B-1 学生基本情報管理
(32大学、賛助会員3社:39名)
学生基本情報の基本的な考え方から、新たな学生サービスの可能性、セキュリティー問題などについて検討した。これまで本分科会では、効率的なシステム構築が中心となっていたが、そこからセキュリティー問題の展開へ大きくシフトした。そのため、全体会での事例紹介は、本分科会を進める上でも参考になった。セキュリティー問題では、特に学生面談や学生アドバイザー、担任制など授業以外で教員が学生を指導している大学が対応に苦労していることが窺えた。学生カルテが学生基本情報を利用した教育支援の理想像であるものの、情報の公開先、制限など個人情報保護との兼ね合いが避けて通れない課題となっている。
全学的なコンセンサスを取りながら学生にとってより良い環境を整えるとともに、教員に対して組織的に支援していくことが職員による教育参加の一つの答えとなることを改めて認識した。
B−2 キャリア支援
(20大学、賛助会員2社:24名)
雇用形態の多様化・流動化を背景に学生のキャリア形成に対する意識は大きく低下している。教育を変えなければ、大学はもはや社会が求める人材育成の役割を果たし得ない。本分科会では当協会の井端事務局長の「社会からの教育支援」という話題提供を受け、参加者全員が社会と連携した新たな大学教育の将来像を意識しながら、学生が早期に職業観を醸成するための積極的な情報活用、キャリアアップと連動した教育支援について検討を行った。企業が求める能力を学生に的確に発信し、学生自らが到達度を確認しながらキャリアデザインを創造・形成する仕組み作り、継続的な自己発見プログラムと連携した低学年からのキャリア教育など、いくつかの具体的な方向性について課題を共有することができた。
B−3 入学業務
(7大学、賛助会員社2社:9名)
今後の入試業務について、やがて来る全入時代を踏まえつつ、新しい入試のあり方の検討を行い、情報化の側面からどのような提案が可能か考察し、これからの入学業務のモデルを作成することをねらいとして行った。
進め方として、現行の入学業務の問題点や課題を洗い出し、それらをいかに解決するか議論を行い、「これからの入学業務のモデル」を作成した。モデル作成段階では、ホームページ等で受験生が参加できる仕組み(ポータルサイトなど)の必要性や、地域密着型の広報活動、顧客データ(資料請求者・高校データなど)の分析の重要性、入学前教育の可能性、入学後の各問題に対応するための職員の意識改革、組織のボーダレス化など、様々な角度から有意義な議論を行った。
B−4 人事給与コース
(14大学、2賛助会員:18名)
人事・給与担当者が担当する業務の改善と人事部門として教育支援体制構築にどう関わっていくのかという、大きく二つの流れで討議した。業務改善の討議では、より合理化・効率化を求め、人材活用では非専任職員の活用傾向に対する功罪を検討した。その過程で「専任職員は何をするのか」といった問いかけが出された。職員が積極的に教育支援体制構築に参画していくためには職員の意識改革と能力の開発が不可欠であり、その手段としての人事諸制度再構築を検証した。
管理部門にいても間接的に教育に深い係わりがあるという認識と、教育支援と人材育成のためには自分自身が何をしなければならないかという意識づけができた。
B−5 教育支援コース
(18大学:18名)
本分科会では、教育支援、特に授業支援のための組織作り、支援のための人材育成の方策などに取り組むための問題点や課題について討議を行った。授業支援を適切に行うために、教学部門、情報部門といった枠を越えた支援組織の必要性、作成されたコンテンツが大学にとって大切な資産であり、付加価値が付いて大学が評価を受ける上で重要な役割を持つことを認識した。さらに、授業支援について目的、ポリシーを明確にして、教育職員と事務職員のコラボレーションによる問題解決の必要性について参加者全員が共通認識を持つことができた。
B−6 学園情報基盤整備
(19大学、賛助会員2社:22名)
学園情報基盤のあり方と情報部門の役割について検討した。その結果、教育研究から求められ基盤のあり方については、普段の業務の中で「ニーズ」を吸い上げる姿勢がスタッフと組織に必要で、基盤環境を担当する情報部門はそれを分析し支援を具現化して提案し、得られたものをフィードバックしながら、再び「ニーズ」へと支援サイクルを繰り返すことが必要であることを確認した。また、教育支援は単なるオペレーション支援でなく、「授業運営支援」まで深く関わっていくことであることの認識も深めた。一方、総合メディアセンターなど情報部門の統合化については、単なる組織構造の統合だけでは問題を解決することはできず、業務の取り組み方が重要であることを確認した。
本研修会を通じて、事務職員の仕事とは、畢竟して教育支援にあると結論できたことの意義は大きい。
B−7 ITを利用した協業システム
(13大学、賛助会員5社:21名)
教育・研究支援や学生キャンパスライフの満足度向上へ向けての多くの課題を解決していくためには、一個人、一部署での対応には限界がある。横断的な情報の活用と密接なコミュニケーションによる協業体制の確立が望まれる。参加大学の多くは、何らかのITツールを利用して協業を推進し効果をあげているが、反面多くの問題点も抱えていた。研修の中では、組織面や最新技術動向など多方面から論議が行われ、問題点を解く糸口を見出すことができた。協業を更に進めるためには、組織の壁を超えたバーチャルな組織空間の創出が有効であることが確認された。
教育研究支援、学生生活支援という大学の特徴的な協業に関しての論議まで至らなかったが、「ITを利用した協業システム」について全般的に前向きな討議ができた。
(文責:研修運営委員会)
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