巻頭言
第2フェースの大学IT教育
山下 興亜(中部大学学長)
今日ほど大学教育のありようが俎上に上っている時代は珍しい。あるときは大学の不甲斐なさが強調され、またあるときは救世主的にもてはやされたりして、当事者の一人としては一時たりとも気が許せない。これまで大学に対する批判や評価はいろいろなされてきたが、大学という社会的な装置が曲がりなりにも約900年の歴史を刻んできたことは、大学は社会にとってそれなりの役目を果たしてきた証であると了解すべきであろう。大学が他の社会的な装置の追従を許さなかったところは、なんといっても当代を超える多様な次世代が育つ(育てる)インキュベータの役割を果たしてきたことによろう。人づくりは未来づくりであり、規格外れにこそ未来開拓の夢は膨らむのである。
ところで、現在、私たち人類が直面している地球規模での課題は「持続可能な開発」という言葉に集約されよう。これは多くの人々を飢餓や疾病から救うための開発と同時に地球環境を維持する、という意味をもっている。開発は資源の消費と廃棄物の放出を伴うから、地球環境を劣化させる可能性が大きい。この一見相矛盾する二つの目標を同時に実現する知恵、新しい知の創造系が求められている。それぞれの現場に固有な自然環境と生活文化を前提に、自前の論理と方法を見出すことが求められており、既成のいわゆる先端技術の移植ではない。それぞれの地域に適した科学能力の開発であり、新たな人材の養成教育の推進である。
この21世紀型の地球規模での課題を解決するための最適で最短の道を私たちは見出さなければならない。その中で、20世紀後半からの情報通信技術の発達は、従来の思考の様式や範囲を超える有力な知の生産系を提供する大きな可能性を提供している。この情報技術が大学教育に取り入れられてからすでに久しく、教科の学習効率を高める道具として、学生相互や学生と教員との間のコミュニケーションや討論の場として、e-Learning教育の展開等に幅広く活用されてきている。そして、大学はIT教育をさらに整備充実しなければならない。ここで言うIT教育の整備充実とは、従来の教育方針や方法の単なる効率化を追及するためではなく、むしろ新たな科学能力の開発を促す基盤を一層強化し、その上で社会に開いた独創的な課題探索型の専門家を養成する教育を積極的に進めるものにしなければならない。第2フェースの大学IT教育の開拓に向けて元気を出したい。
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