特集 教育改善のための教育・学習支援
広島修道大学は、大学間競争がますます激しくなる現況下で、活力ある大学として存続するために何をなすべきかについて学長・学部長らからなる将来構想委員会で検討してきた。その結果、これまで本学が築いてきた伝統と社会的評価を大切にしながら、培った経営資源、教育ノウハウをさらに活用し、大学としての長期的なブランドを形成していくこと、つまり、広島修道大学の教育のコア部分をはっきりと示し、教育の質の保証システムを構築することが必要との結論に達した。
そのブランディングの具体的な実現手段として、2007年度より始める学生一人1台のノートパソコンの必携化と整備中の情報ユビキタス環境の実現を背景に、全学的なカリキュラム改革を行うこととし、これを教育刷新と名付けた。
教育内容を刷新し、本学の教育を一段と魅力あるものにする。
1)共通教育科目、各学部専門科目など教育課程を見直し、学生の学力、ニーズに沿ったきめ細かい教育を目指す。
2)知識教育に加え、学ぶ力の獲得、表現力などスキルの向上、能力の開発などに結びつくような授業を工夫し、関連する科目を配置する。
3)本学卒業生としての質的レベルを保証する「修道スタンダード」を確立する。
以上の方針を実現するため、
ア)わかりやすく、学びやすい、全学的に統一したシンプルなカリキュラムを編成する。
イ)各教員が授業について工夫を重ね、授業改善に努力する。
ウ)学力差の広がりを前提に、学習到達度に応じてベーシック教育からアドバンスト教育まで、様々な形による教育支援を行う。
この基本方針を全学に示し、方針に沿った具体案を策定する作業部会を設けた。
作業部会からの提言を基に、将来構想委員会は教育刷新の骨子を大学評議会に提案した。3回の審議の後、大枠承認を得、その後、実施に向けて各学部での具体的な作業に入り、今日に至っている。以下がその骨子と内容である。
(1)完全セメスター制の導入
2007年度から期ごとで完結する完全なセメスター制度を導入する。
(2)ITの活用
2007年度から入学生全員にノートパソコンを必携させ、インターネットを利用したe-Learningやシラバスサイトの立ち上げとWebによる履修登録、さらに学生証のICカード化による出席調査の自動化と成績評価への情報提供など、全学的にITを活用した授業展開と情報提供を積極的に推進する。
(3)カリキュラムの刷新
2007年度から次の刷新を行う(図1)。
図1 学科のカリキュラム構成
1) | 単位数の統一 | ||||||||||||||||||
全学で「科目区分」「卒業所要単位数」「履修登録制限単位数」および「配当年次表記」を統一 | |||||||||||||||||||
2) | 副専攻制度の導入 | ||||||||||||||||||
全学で文系総合大学としての特色である多彩な教育内容を活用した「副専攻制度」を導入 | |||||||||||||||||||
3) | 修道スタンダード科目について | ||||||||||||||||||
本学が掲げる教育理念の「地域社会の発展に貢献する人材の育成」、「地球的視野を持つ人材の育成」並びに「個性的かつ自律的な人材の育成」を実現するための基礎科目と位置付け、ファーストイヤー・セミナー、英語、情報処理入門、キャリア形成支援及び広島学で構成 | |||||||||||||||||||
4) | 共通教育科目について | ||||||||||||||||||
教養科目、修道スタンダード科目以外の英語科目、初修外国語科目及び保健体育科目で構成 | |||||||||||||||||||
5) | 主専攻科目について | ||||||||||||||||||
入学した学科(専攻)の学びの中心となる科目群で、導入科目、基礎科目、基幹科目及びゼミナール科目等で構成 | |||||||||||||||||||
6) | 自由選択科目について | ||||||||||||||||||
修道スタンダード科目、共通教育科目及び主専攻科目のうち必要とされる修得単位数を超えた科目と副専攻科目およびどこにも属さない科目で構成 | |||||||||||||||||||
7) | アドバンスト科目について | ||||||||||||||||||
高い学力・能力を持つ学生や意欲のある学生および上級・難関資格をめざす学生のためのアドバンスト科目を開設 | |||||||||||||||||||
8) | 新しいプログラム等の導入検討 | ||||||||||||||||||
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9) | カリキュラム科目の精選 | ||||||||||||||||||
各教員の担当コマ数が、原則的に5コマ(大学院は除く)になるようにする。専門ゼミナール・演習及び特別に指定する科目以外の科目は、履修者数が5名に満たない場合、次年度について「不開講」とする。 |
学生一人ひとりに学ぶ力をつけ、本学学生としての質を保証する修道スタンダードの基礎プログラムである修道スタンダード科目の内容は、次の通りとする(図2)。
図2 本学の教育理念と修道スタンダード科目
1) | ファーストイヤー・セミナーI |
大学の「使い方」を知り、学びの目標・姿勢を身につけ、講義の聞き方・本の読み方・レポートの書き方などの「学びのスキル」を修得する。大学での「学び方」の修得を目標とする。 | |
2) | ファーストイヤー・セミナーII |
各学部・学科への導入教育を中心とし、それに加え、学生生活の課題や社会人としてのマナー、留学をはじめ、広く人間教育に至るまでの多彩な内容を盛り込んでいる。学部学科が設定する分野の基礎を修得させることを目標とする。 | |
3) | 英語 |
国際交流促進と異文化理解のために英語教育を重視する。学習効果を高めるために、入学後に実施する英語プレイスメントテストの成績によりクラス編成するe-Learning英語、英語、又は総合英語研究、英文講読、Listeningの科目で構成する。基本的な英語コミュニケーション能力と英語読解力、英語運用能力を身につけることを目標とする。 なお、必携ノートパソコンを使って授業を行うe-Learning英語I・IIは全学共通とし、TOEIC-IPの受験を義務付ける(受験料は大学が負担)。そのTOEIC-IPのスコアと関連させて科目の成績評価を行う。 |
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4) | 情報処理入門 |
必携ノートパソコンを使って授業を行う。授業は、Excel3級およびWord3級の資格が取得できる内容とし、その能力水準を単位認定の条件とする(検定料は大学が負担)。インターネットのノウハウや情報処理スキルを修得させることを目標とする。なお、高校時代の情報教育が不十分な学生に対し、自己申告により、情報処理入門を履修する前段階として情報処理基礎の科目の履修を認める。 | |
5) | キャリア形成支援 |
高い目標意識を持ち、的確な進路設計や職業選択ができる能力を磨き、職業人として社会生活を送っていく上で必要な、基本知識や社会常識、ビジネスマナーを学ぶ。自律した人材を育てることを目標とする。 | |
6) | 広島学 |
広島にある大学としての特性を活かし、地域の文化、歴史、産業、スポーツ、伝統芸能等の分野について、各学部がテーマ設定し、講義と実地観察(例えば、美術館での芸術鑑賞、地元産業の見学、広島カープやサンフレッチェ広島の試合観戦など)を組み合わせて行う。広島県の特定テーマについて語れる人材を養成する。 |
2007年度から新入生全員がノートパソコンを必携する。積極的な利用を促すために次の環境整備を行う。
(1)利用場所の整備について
e-Learning英語と情報処理入門は、電源及び無線LANの設置工事をした専用の4教室(電源口数計670)で行う。学生が必携ノートパソコン利用を自由にできる場所として、大教室(電源口数328)を午後の時間開放する。
インターネット接続は無線LANを全面的に採用し、いつでもどこでも学習できる情報ユビキタス環境の整備と計画的拡張を行う。また、学生が使用できるオンデマンドプリンターを各所に設置する。
(2)サポート体制について
サポートセンターを設け、ヘルプデスクや修理の相談、故障時のノートパソコン(大学で管理をしているパソコン)の貸出をする。必携ノートパソコンを利用した授業(e-Learning英語I・II、情報処理入門・情報処理基礎)に、SA(ビジネスコンピューティング検定試験3級(日本商工会議所)程度以上の能力を有する者)を配置する。
(3)検疫システムの構築
4年後には6千人を超える学生が自宅など学外を含む様々な環境で使ったノートパソコンを学内に持ち込んで使うことになる。その場合の一番の問題は、ウィルス対策やWindowsセキュリティパッチ適用の問題である。本学では、利用者がネットワークに接続の都度検疫チェックをし、検疫ポリシーのクリアを接続条件とする検疫システムを構築中である。
将来構想委員会が教育刷新の方針を示して2年、各学部との調整を行い、ようやく2007年4月から新カリキュラムをスタートする運びとなった。2010年に大学設置50周年の節目を迎える本学にとって、このカリキュラム改革は設立以来の一大事業であり、まさに本学の将来を左右するものとなる。
最後に、本稿をまとめるにあたってご助言いただいた、廣光清次郎・高橋恭一両副学長に感謝する。