教育事例紹介 国際関係学
本学部では2回生の登録必修授業として、グローバル・シミュレーション・ゲーミング(以下、GSG)を行っています。これは、学生が国際関係の中の様々なアクターとなって外交交渉などを行う、体験型の授業です。GSGは1988年の学部創設以来、様々な形で行われてきていますが、1学年全体が参加する大規模なGSGであることが特徴で、それゆえに意欲的にIT化に取り組んできました。
GSGにおいては、学生一人ひとりがアメリカ大統領や日本の外務大臣などの国家アクター、国連やNGOなどの国際機関アクター、さらに新聞およびテレビのメディアアクターとなって国際関係を擬似的に実現します。今年度は約280名の学生が31ヶ国の国家アクターおよび国際機関・メディアアクターに扮し、核拡散問題と地球温暖化問題について、現在から2年後の世界までをシミュレートしました。
GSGは約10回の事前授業を経て、本番を土曜日の1日かけて行います。本番ではタイムテーブルにしたがってフェーズが進みます。まず国内会議フェーズでは、課題に対してどのような外交交渉を展開していくのか戦略を立て、外交文書で他国家と交渉を行います。国際会議フェーズでは、2国家あるいは複数国家による会議を行います(図1)。これらの過程をメディアアクターが取材し、新聞やテレビニュースを作成します。これら一連のまとまりを1タームとし、1日に3〜5タームを実施します。
1国家が一つの小教室を使うので、国境がおのずとできます。国内会議フェーズの間、他国家の様子は分かりませんが、外交文書が行き交うことで交渉が進んでいきます。スーツ姿のアクターが会議に集まる様子は、実際の国際会議の様子を彷彿とさせています。中には民族衣装で雰囲気を盛り立てているアクターもいます。
図1 国際会議の様子
またリアリティを高めるために、国家の国力を数値化しています。資金量や経済レベル、科学技術レベル、軍事力などのレベルが実勢を反映して設定されています。そしてこれらのレベルを向上させることも戦略の一つとなっています。レベルアップには資金投入が必要です。自国のみで技術開発することもできますが、他国からの技術移転を要請することもできます。これらの方法はルール化され、アクターごとに設定されているレベルはオペレータによって管理されます。
できるだけ多くの学生がアクターとして行動できるよう外交文書送付やレベル管理などに携わる学生の人数を減らし、また、文書送付やレベル操作が本来の外交交渉に差し障らないよう、こうした作業はできる限り自動化しようとしてきました。その結果、メールを利用したり独自システムを開発したりというIT利用が進んできました(図2)。
図2 PCを使ってGSGに取り組む学生たち
GSG本番でのIT化は2001年度から始まりました。まず外交文書の交換を電子メールで行うようにしました。現在は本学が全学で利用しているコースツールのWebCTのメール機能を利用しています。翌2002年にはゲーミングの全体状況が把握できる掲示板システムなどが学生スタッフ中心で開発されました。2003年には上記のレベル変更などをオペレータ操作により行う独自の支援システムを導入し、今年度にはこれにオペレータ操作を最小限にするシステム修正を行いました。
メディアアクターによる取材と報道もIT化が進んでいます。新聞編集のパソコン利用は当然ですが、それをアクターへ販売する際も注文の受付と代金徴収を支援システム上で行います。また、テレビアクターはデジタルビデオで取材した映像も使いながら、ニュース番組をネットワーク配信しています。
図3は今年度に利用したGSGのホームページです。Global Simulation Gaming 2006のロゴとともに国連の総会場の写真で臨場感を盛り立てています。この写真は学生自身が国連を見学して撮影したものです。この他、左上の枠内にGSGで利用する各システムへのリンク、左下枠内にメディアからの短信表示、右下枠内にスタッフからの連絡事項が示されています。
左上の枠内の「Action」以下の文字は、それぞれ、メインの支援システム、WebCTを使った外交文書交換、公開情勢システム、国際会議場予約システム、アクターや会議場の位置を示すマップ、へのリンクを示しています。このうち、公開情勢システムと国際会場予約システム、および左下枠のメディア速報、右下枠のスタッフ速報は、Pearlによるcgiによって作成しています。これらのプログラムは学生の手作りです。
図3 GSG本番に使ったトップページ
図4はその一つである公開情報システム画面です。個々のアクターは自国の資金量や経済などのレベル値を別の入力画面で入力します。この場合、必ずしも実際の値を入力する必要はありません。実勢より国力を高く、あるいは低く示すことで外交交渉を有利に導くのも一つの手段です。アクターの入力した値が公開情報として全アクターの閲覧に提供されます。
図4 公開情勢システム
図5はGSGをメインに支援するシステムの画面です。これはアクターごとにIDが配付されており、ログインすることで様々なアクションを起こすことができます。図は日本アクターでログインしたときのもので、左枠に各レベルや数値が表示され、右枠にアクション通知メールの送信フォームが表示されています。アクションには経済レベルや科学技術レベルの開発など自国だけでできるものと、科学技術レベル援助や貿易など、2国間の合意の上でできるものとがあります。
例として、資源・エネルギーの購入アクションを見てみましょう。ゲーミングでは、国民生活の維持や軍事目的のためにエネルギー資源を確保する必要があるという観点から、タームの終わりに人口と経済レベルに応じたエネルギー量が保有しているエネルギー量から差し引かれます。ですから、それらを産出しない国は一定量を産出国から購入しなければなりません。まず、WebCTのメール機能を利用した外交文書で相手国と価格と量の交渉を行います。それが成立すれば支援システムでエネルギー購入アクションを起こします。アクション一覧から「エネルギー購入」を選択し、相手国と量、金額を入力して送信します。購入国と販売国双方からの同じ内容の入力があった時点で取引が成立し、それぞれのエネルギー量と資金が増加・減少するという仕組みです。
このプログラムは、データベースをPostgreSQLによって構築し、それをphpによってWeb上で操作するというものです。03年に外部業者に作成を委託しましたが、徐々に手を加え、2006年には学生スタッフの手で大幅な修正を加えました。というのは、毎年ゲーミングの内容が変わり、既存のシステムでの対応に無理があること、また、ゲーミングをよりスムーズに進行させるためにさらなる自動化が必要となってきているからです。
図5 支援システム
システムを利用することでかなり複雑なゲーミングも実現できることとなりましたが、ルールの複雑さがアクターに負担を強いる面もあります。ゲーミング本来の外交交渉を中心にすえて、現状を反映させながら面白さを備えた魅力あるGSGにしていくために、ゲーミング全体の高度化とシステム化の試みは今後も続くことと思います。
関連URL |
立命館大学国際関係学部 http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/ir/index-j.html |