教育支援環境とIT
実践女子大学は、明治32年(1899年)下田歌子によって帝国婦人協会付属実践女学校および女子工芸学校として創立されました。現在は学校法人実践女子学園のもとに中学校・高等学校(中高一貫校)、短期大学、大学、大学院を擁するに至っています。
創立者下田歌子先生が掲げられた建学の精神は、「我が国固有の道徳心を啓発し、日進の学理を応用し、勉めて現今の社会に適応すべき実学を教授し、自立し行動力ある女性を養成する。」であり、校名の「実践」はその精神を端的に表したものです。
現在キャンパスは、大学・大学院は日野市大坂上校地に、短期大学は日野市神明校地に、渋谷校地には中学校高等学校を設置しています。
大学・大学院の学部学科構成は、大学院文学研究科、大学院生活科学研究科、文学部、生活科学部、人間社会学部の2研究科3学部7学科となっており学生数は3,561名です。
本学は、文学部、生活科学部および、人間社会学部にて構成されており、ICT(Information and Communication Technology)を専門的に学ぶ学科は存在しませんが、今や研究活動や社会生活をする上でICTは不可欠であり、ICTを巧みに利用し、日々の生活や将来のキャリアアップに生かせる「ICTの優れた利用者」を育成すべく、情報環境の整備を行っています。
実践女子大学ネットワーク(JWUNS)は、外部は100Mbps(ベストエフォート)でインターネットへ接続し、内部はキャンパス内の各教室・演習室・研究室等を結んでいます。この実践女子大学ネットワークは、実践女子短期大学および、実践女子学園中学校・高等学校と接続しており、遠距離のネットワークを利用した教育研究に対応できるように考慮されています。
また、学生のパソコンをネットワークに接続できるように、学生ホール等には無線LANアクセスポイントを設置してあります。
実践女子大学キャンパス内には、ICTスキルを習得するための施設として五つのコンピュータ演習室があり、Windowsパソコン203台、Macintoshパソコン41台が設備され、さらに自習環境として情報ラウンジに118台のパソコンが設置さています(写真1〜3)。これらのパソコンはActiveDirectoryドメインにて管理されており、ファイルサーバ内の個人ディスク領域の利用や、授業ごとに教材取得や課題提出が可能です。
特に情報ラウンジでは、学生はインターネットが利用でき、また設置してあるすべてのパソコンからオンデマンドで印刷が可能です。
写真1 大学情報ラウンジ
写真2 大学コンピュータ演習室(Windows)
写真3 大学コンピュータ演習室(Macintosh)
コンピュータ演習室や教室環境の運用において注意している点は、年々増加・多様化するソフトウェアについてです。ソフトウェアの種類が増加すると購入・保守費もインストール等の管理作業も増加します。学生も複数のソフトウェアの操作習得に時間を費やしてしまい、本来の授業の目的から外れてしまう可能性があります。そこで情報センター委員会にて大学、短期大学を含む学園全体としてのポリシーを決め、同種のソフトウェアについては統合して選定するなど、統制した環境構築を進めています。
本学のICT環境を整備する部門は情報センターで、情報センター長以下、専任事務職員3名、契約職員3名、委託技術者2名で業務を行っています。また、情報センターは、実践女子学園の組織であり、短期大学、中学校・高等学校までが対応範囲です。
業務内容は、コンピュータ演習室、ネットワーク、CALL教室の構築および運用管理、情報科目関連の支援、事務の情報推進、学生・教職員へのICTに関するサポート等の業務を行っています。
本学では、1年生の必修科目である情報基礎演習により、すべての学生がネットワーク環境を利用できるスキルとネットワーク社会における情報倫理について学びます。同時に実践的なスキルを身につけるためワープロ、表計算、プレゼンテーションソフトの操作を習得し、その後の専門科目で利用するICTの基礎を学びます。
専門科目においては、各分野でICTを活用した授業を行っています。いくつかご紹介します。
(1) 文学部
国文学科では「新編国歌大観、源氏物語、吾妻鏡」などの古典文学データベースの検索や、和歌を当時はどのように発音したのかなどマルチメディアを活用した授業が行われています。
英文学科では、ipodおよびpodcastを利用した語学教育や、ALC Netacademyを利用して英語資格取得に向けた学習を行っています。
美学美術史学科のデザイン演習では、Macintoshパソコンにてイラスト作成ソフトを使用し、子供向けの絵本の作成を行っています。
(2)生活科学部
生活環境学科では、アパレルCAD演習室を設けCADシステムでのデザインや型紙の作成。住環境デザインについてCADを活用しての研究やMacintoshパソコンを利用したデザイン実習を行っています。
食生活科学科では、栄養計算ソフトウェアや統計処理ソフトウェアを使用した演習授業を行っています。また、一般教室での講義の中でも動画コンテンツなどを利用して人体の仕組みについての理解を深めるなど積極的にマルチメディアを活用しています。
生活文化学科では、学生が選択した教養講義を取材し、MS-Producerを使用して映像型のe-Learningコンテンツを作成、配信するなどWeb作成技術を積極的に活用した演習を行っています。
(3)人間社会学部
人間社会学科では、ipodおよびpodcastを利用した語学教育や、ALC Netacademyを利用して英語資格取得に向けた学習を行っています。また、社会調査についてのWebアンケート調査や統計解析ソフトを用いたデータ解析手法の教育を行っています。本学科は情報教育に注力しており、Webデザイン、LANの構築やデータベース構築の実習授業を行うとともに、SNSや電子商取引など社会におけるネットワークの活用手段に関連する授業も行っています。
学内情報配信システムにより休講情報や学生呼び出しなどの情報を携帯電話やパソコンから参照可能です(図1)。同時に学生が任意に設定したメールアドレスへの配信も可能です。
図1 学内情報配信システム画面例
平成18年度より教務システムではWeb履修を行っており、科目の登録、修正、履修科目の確認が可能です。Web履修にすることにより手続き期間が短縮できました(図2)。
図2 Web履修画面例
就職システムでは、学内外からWeb画面にて求人情報の閲覧やメールによる学生への通知、企業情報の検索、および各種報告が可能です。また、学内で催される就職関係のセミナーをe-Learningのコンテンツとして閲覧可能にすることにより、就職活動等で欠席した学生も後日聴講することができます。
また、平成18年度に電子メールシステムの再構築を行ったことにより、Webメールへの統一、転送設定などの各種設定ページの充実、スパムメール対策などが改善されました。
昨今の学生の中には深く友人と関わることなく4年間を過ごし、卒業していく学生も見受けられ、学生間のコミュニケーションが薄らいでいるようにも感じられます。学生たちが充実した学生生活を過すための支援の一環として、友人・知人間のコミュニケーションを円滑にする手段と場を提供するため、平成18年度からSNS(Social Networking Site)を提供しています(図3)。
図3 SNS画面例
ICTが問題解決する上ですべてではありませんが、一つの試みとしてSNSを活用し、学生間のコミュニケーションの増強を図っています。将来的には、在学生とOG間のコミュニケーションを図ることにより、就職活動やキャリアデザインに関する相談のみならず女性としての生き方論の継承や相談まで、より深いコミュニケーションが実現することを目的としています。
現在試験運用中ではありますが、サークルあるいはゼミでのコミュニケーション、特定科目での非公式な情報共有(講義ノートや過去問など)、就職活動における様々な情報共有などに利用されています。
SNSの運用は、基本的に学生の主体性を尊重しています。そして、本件は在学生の研究テーマにもなっており、学生の視点から有意義なシステムになるようSNSの構築とコミュニティの育成を行っています。また、運用ノウハウについて、初年度は(株)NTTPC
Communicationsの協力を得て、アドバイスを受けながら運用しています。
特に演習科目では課題など事後学習が必要であり、学期の後半にはコンピュータ演習室や情報ラウンジが混雑します。また、利用者が集中するため希望のソフトウェアがインストールされているパソコンを利用できない状況もあります。これらの問題点を解決すべく検討をしています。
ソフトウェア面では、学内外にe-Learningコンテンツが点在しており一元化されていません。全学的にCMS(コース管理システム)を導入し、教員が教材を提供できる共通のプラットフォームを準備し、学生が容易にコンテンツを利用できるようにする必要があります。
また、現在稼動している複数の学生支援システムの認証の統合やポータルサイトの構築など、利用者にとって利用しやすい環境の構築を検討しています。
文責: | 実践女子大学情報センター |
センター長 小山 裕司 係長 鈴木 明徳 |