教育支援環境とIT
園田学園女子大学は兵庫県の南東部、大阪市に隣接した尼崎市に位置しています。典型的な都市型キャンパスで敷地内には多くの緑があり、地域に開かれた大学を目指す本学のキャンパスは地域の方々の憩いの場でもあります。
本学の学部構成は国際文化学部、未来デザイン学部、人間健康学部、短期大学部の4学部9学科で構成され、学生数1,882名の小規模ながら地域に根付いた女子大学です。
本学の教育・研究および事務全体のネットワーク環境等情報機器の整備、管理・運営は「情報教育センター」が行っています。
情報教育センターには、上記ネットワーク環境等の整備、管理・運営以外に、「情報機器を活用した学習支援」と「情報機器を活用した教育・研究支援」の二つの役割があります。
園田学園女子大学の教育理念は「教養が豊かで、創造性に富み、内面的な充実感を持ち、同時に地球社会的に有用な専門性を身につけた女性を育成」することであり、その理念を具現化するための教育コンセプトとして「経験値教育」があります。
「経験値教育」とは学生が自分の可能性を伸張させ、確かな思考と豊かな生き方を獲得するためには「知識」を裏打ちする「経験」の蓄積が重視されるべきだと考えられた教育であると定義付けています。すなわち、「経験値」とは、自己の積み重ねた経験と達成感を実感する「値」の謂れであるということ。「大学生活」の中で、様々なことにチャレンジし経験を積み重ねていく過程で、自分の考え方や生き方を主体的に発見し、それらを人生の中で生かす力を与える教育です。
「学生一人ひとりを大切にする」ことをモットーに教育コンセプトである「経験値教育」を実践していくと同時に、次の2点を本学の方針の重点課題として捉えています。
1)大学の個性・特色の明確化
2)大学教育の質の保証
今回は上記二つの重点課題をITを活用し実現していく取り組み、またそれが授業・教育改善につながる取り組みを事例を交えて報告します。
情報教育センターは「自己学習のための学習支援システム」(現在利用しているLMSの前身)を用いて1995年から情報関連授業(時間割に組込んだ授業)を行ってきました。自己学習で行う意義は、一方通行の情報を自分のものにできないまま、ただ受動的に、いかに長い時間、頭の中にとどめておくかという記憶を中心とした学習ではなく、自ら学ぶことが情報教育に大切であり価値があると判断したからです。
本学の「自己学習支援システム」は、各自が自分のペースで学習に取り組むことのできる仕組みであり、個々人の学習進度の差はあってもあきらめず時間をかければ必ず目標を達成できるという理念に基づいて作成されています。また授業を進める上で、ユニット制という概念も見逃せません。ユニット制を採ることにより「学生や学科のニーズ」に合った学習内容が選択できます。これらの概念に基づいた「自己学習支援システム」がインターネットの発展に伴い現在のe-Learningシステムに進化していきました。
現在の本学のe-Learningの特徴は、IT上の「自己学習」と教員・学生間の「双方向性」、それと学生間の「共に学ぶ学習」とを同居させ位置付けているところです。この三つの相容れないと思われがちな環境を可能にしているのが本学のLMSです。本学は「自己学習支援システム」で得られた自己学習のノウハウをさらに進化させてバーチャルなキャンパス、すなわちインターネットキャンパスを実現させました。学生はそのバーチャルなキャンパスに集い「共に学ぶ」環境の中、教員・学生間の双方向性のコミュニケーションを行い、自己学習を進めています(図1)。
図1 基礎情報教育の画面
また、本学の一つの特徴として情報教育センターに「学習支援ルーム」というものがあります。いわゆる人的サポートの一つですが、4名のTAおよび情報コミュニケケーション学科の学生がSAとして常時学習支援ルームに在室し、学生からの時間外、授業外の質問に受け答えたり、実習講義の指導補助並びに教材の電子化作業を行います。これらの学習環境により自己学習がスムーズに行えると考えています。
(1)e-Learning推進のための組織再構築
2005年11月に情報教育センター内にe-Learningを全学的に推進するための組織として、「そのだインターネットキャンパス」が再構築されました。e-Learningによる教育・授業改善を実現させるために教材の電子化に積極的に取り組んでいます。
e-Learning教材作成については、その教材を作成するための資料の提供や作成したい教材のイメージまでは、その科目を担当する教員が行っていますが、教材作成の電子化への実作業については各担当教員に専任の学生のヘルパーがあたり、教員と学生との間を「そのだインターネットキャンパス」の専任職員がコーディネートしています。全学的なe-Learningの広がりは2006年中に47科目、受講学生数は延べ2,649名になります。
(2)授業改善のためのe-Learningの利用−1
2006年度から「大学の個性・特色の明確化」ということで、未来デザイン学部文化創造学科に所属する全教員が少なくとも1科目は授業をe-Learning化しようという試みの中、12科目のe-Learning科目を新たに開講しました(図2、図3)。
図2 未来デザイン学部での課題提出の例 未来デザイン学部の教材はLMSを使っていろいろな形で表している。授業外での予習・復習。課題提出や資料のダウンロード、掲示板などの意見交換もその一つ。
図3 ユニット終了時アンケート
e-Learning科目を実施した教員からは、授業後に行う授業評価のアンケートで、「学生からの意見がすぐに回収され、今まで気が付かなかったことを気づかされた」、復習問題をすべての授業に入れたため、「次回の授業に臨む学生の理解度が増えた」。また、自分の授業の映像を振り返ることで、「自らの授業スタイルの見直しにつながった」、「自らの授業に新たな工夫を見出すことができ、様々な効果が得られた」、という高い評価を受けました。
一方、受講した学生からは、e-Learning化した全科目に担当教員による科目説明の動画があることで、「授業に前準備を持って臨めた」という意見や、携帯電話のシステムでテスト・授業評価のアンケートができる環境を構築したことで、「授業を飽きさせない工夫ができ」、e-Learning授業になって「コンピュータ上の授業という戸惑いがなく普通の授業よりかえって分かりやすかった」と、概ね好評価が得られました。
(3)授業改善のためのe-Learningの利用−2
授業改善のためのe-Learningという点では、一部の授業ですが、未来デザイン学部より人間健康学部総合健康学科・食物栄養学科が先んじて行ってきました。e-Learningを事前・事後教育に用いて、学生の授業理解度を深める取り組みをしています。授業を始める前に語彙の理解度のテスト、授業後に授業の内容確認のテストというようにe-Learningと対面授業のブレンディッド授業です(図4)。これらの授業では、授業の内容理解の上で語彙が非常に大きなウェイトを占めています。わからない語彙が出てくるたびに授業が止まり、満足な授業を進めることができません。大学の授業ではより専門的な知識を習得させるという「大学の教育の質の保証」が大切です。そこで、学生は授業前後にこれらのミニテストを受けることになります。テストは必ず受けなければなりません。テストは携帯電話からも行うことができるので、例えば電車の中で今日の授業の事前知識を得て、さらに家に帰ってパソコンを開けずに事後の押さえが可能となります。ITの持っている可能性をユビキタスという形で展開しています。
図4 授業モデル
その他にも今年度から開設した人間健康学部人間看護学科では、教材の電子化の取り組みやe-Learningの実践等、初年度から積極的にITを活用した授業・教育改善を行い、授業内容の確認を深めるための工夫を行っています。
国家試験対策での出口保障、看護専門家としてのあり方を学ぶ「大学の教育の質の保証」をITを活用し実践しています。
(4)高大連携の推進
本学の高大連携は「高校生に大学レベルの教育の学習機会を提供し、大学が持つ教育資源等をもって、広く高校教育の活性化を図る」ため2004年度から兵庫県教育委員会と「県立高等学校生徒を対象とした大学の授業公開に関する協定書」を締結し、兵庫県下の高等学校の授業を展開させています。本学はこの高大連携授業をe-Learningでも提供しています。今年で3年目を迎えますが、この3年間で400名近い受講者を数え、これからもますます増加する傾向にあります。
ここでいうe-Learningは、普段の授業時間内に大学を訪問し授業を受けることが現実的でない遠隔地の高等学校でも、高大連携という事業を通して大学の授業を受けることができるようe-Learningで提供しているものです。高校生は高大連携のこの授業を通じて、対面授業という旧来からある大学授業以外に、e-Learning化した授業を体感することができるようになっています。
また、これら以外に本学はe-Learningによる高大連携の紹介を兼ねたe-Learning体験授業 “Sonoda e-Learning High
school”と名付けた1時間相当(50分)の科目も開講しており、これまでに兵庫県以外の学校も合わせて600名を超える高校生が受講しています。
学生サービスの向上と教育支援を推進するため、学内において情報の整備およびシステム開発を進めてきました。これまでにWeb上での履修登録システムをはじめ、単位取得状況閲覧、定期試験結果閲覧、成績閲覧、シラバス公開等多くの開発を行ってきました。また行事案内、学生呼出、新着状況については携帯電話も利用できるシステムとして開発してきました。これらは本学内の事務職員が中心となって組織化された「情報管理・活用ワーキング部会」というプロジェクトチームが、仕様から開発を行い手掛けたものです。その中で情報教育センターは技術支援という位置付けで、実際のシステム構築に携わってきました。これらITを活用した学生サービスをさらに改善することが「大学の個性・特色の明確化」につながると考えています。
そこで2006年度はICTを具現化する学生サービスとして教員と学生そして我々職員という三つの支点をつなげるシステムを開発しています。入試から卒業まで一元化したデータの集積は場当たり的な指導ではなく、統計的に判断できる材料(データ)を適切かつ効率的(データ活用システム)に学生に提供でき、よりきめ細やかな教育指導・学生生活指導、就職活動等に生かされます。学生ポータル・教職員ポータルは学生・教職員相互のデータ活用システムとなるよう開発され、これらのシステムの活用は教育・学習支援の観点から学生と教員そして職員とのコミュニケーションができる場を創造できるものと考えています(図5)。
図5 学生ポータル画面図 双方向性のコミュニケーションツールが教育支援に効果を発揮すると考えられている。
ITによる教育支援環境の改善は、考え方のフレームやあるべき論で片付けられるものではありません。ITによる教育・授業改善は決してe-Learningだけではありません。本学においてもe-Learning以外に各先生方が独自にPowerPoint等の情報機器を使って行う授業改善、教育改善は枚挙に暇がありません。そしてこれらの技術支援も情報教育センターが行っています。
重要なことは、e-LearningにしてもITを使ったその他の方法についても、積極的に教育・授業改善を行ってこそ形作られるものであって、そのためにも情報教育センターが単にテクニカルサポートだけではなく、大学の授業改善や研究支援に積極的に関わっていかなければ実現できないものだと認識しなければならないことです。
情報教育センターは、本学の授業・教育改善に努力を惜しまず取り組み、本学のIT化の動きには目が離せないと様々な大学から言われ続けたいと思います。
文責: | 園田学園女子大学情報教育センター 竹腰 健吾 |