去る、8月2日(水)工学院大学新宿キャンパスを会場に110大学、18短期大学より216名の理事長、学長、学部長等が参加して開催。
今年度は、ファカルティ・ディベロップメント(FD)に求められる教育力について方向性を協議するとともに、大学としての取り組みとしての教育の業績評価制度導入について共通理解を得る場とした。会は、本協会の戸高敏之会長(同志社大学工学部教授)より、本会開催の趣旨について「教育改革の組織的な取り組みを進めるには、学生の能力・価値観に配慮したファカルティ・ディベロップメントの展開が必要」との説明があり、次いで会場校を代表して、工学院大学の三浦宏文学長より挨拶があった。会は、引き続き、講演、全体討議、関連情報の紹介が行われた。以下に会議の概要を紹介する。
「大学力を高める教育戦略」
白井克彦氏(早稲田大学総長)より、教育のオープン化を進める中で、大学の教育力、大学全体の大学力の発揮を実践している早稲田大学の取り組みについて、概ね次のような説明があった。
大学教育ではグローバリゼーションを意識する中で、アジア、世界に通用する人材の育成どのように行うべきかが課題である。それには、教育の内容・方法を大学自身が考え直し、世界の中で戦っていけるだけのスキルや能力を学生に与えなければならないが、これが大学教育に最も欠けている点である。教育は講義形式の教室で行うものから、実際の現場での専門家であったり、変わっていかざるを得ない。いわゆる教育のオープン化が必要となる。以下に早稲田大学での取り組みと質疑内容を紹介する。
1) | オープン教育センターを中心に各学部共通の授業2,000科目を実施している。例えば、基本的能力としての英語学習では、学生4人に1人のチューターで会話を週2回10週間実施し、約1万人が受けている。8割の学生のTOEICがアップしている。 |
2) | 学部間の壁を全部取り払い、教員、学生、企業の提案で授業を自由に設定することができるテーマ単位のオープンゼミ「テーマカレッジ」が29テーマ242科目あり、体系的に考える力をつけるトレーニングを1年生から学部横断的なテーマカレッジとして組織化した。大学に入学して何をやってよいのか分からなくなるので、1年生からテーマで考える習慣を付けさせることにしている。 |
3) | さらに、海外大学とのTV会議による共同ゼミの教育、2005年で34科目、21ヶ国52大学で3,400名が受講している。それから週1回、10人以下の学生と共通外国語(7カ国語)で546名がオンデマンド授業、テレビ会議によるサイバーレクチャー、サイバーセミナーもある。 |
4) | それともう一つは地域との連携で、隅田区と協定し、実学的なトレーニングの場所を提供してもらう反面、技術経営の大学院生が中小企業の経営改革に関与し、地域活性化に貢献している。教室は決してキャンパスの中だけではない。徹底的に社会人が大学専門の教育にシステマティックに加わり、一つのカリキュラムとして作り上げていく時代になるべきである。 |
5) | 時間、場所、所属、世代を超える工夫として、各界第一線のゲスト講師による討論中心の演習授業による真のリーダを養成する「大隈塾」、社会人が多いが人間科学部のeスクールによる教育の拡大と教材公開による教育の質向上、大学連携のオンデマンド授業の共有による魅力ある教育メニューの提供、団塊世代との連携による講師としての知識・技術の提供、生涯学習の実現、ボランティアセンターとしての活躍の場としている。 |
6) | 教育のオープンな仕掛けを支えるためには情報化組織が不可欠。メディアネットワークセンタ、遠隔教育センターが大学の情報面からの改革に取り組んでいるが、そこにオープン教育センターを設定した。さらに、サポート業務をアウトソーシングしている。大学改革の道具として学内だけでは難しいので、外から大学をサポートする力を入れていかないと大学改革は無理だ。 |
7) | 教育力を高める仕掛けは、大学のオープン化である。海外との連携、他大学・企業との連携、地域・産学官連携を積極化、充実化することであり、その上で価値を高めてくれるための組織作りが必要。これらの要素がなければ教育力ある大学力を創造することは極めて難しい。 |
Q:教育改革の多様な取り組みをどのように考えだされたのか。
A:若干インセンティブをつけるために予算など使えるようにしているが、各学部に強制していない。各学部の教員の意思に任せている。チュートリアルイングリッシュに関しては、英語の指導法があるのではないか、というところから2、3年の実験から始まった。結果的に学生から高い評価が得られたので今の状態になった。学生4人に1人のチューターとなっているが、実際には課題、試験、質問などネットワークが頻繁に使われている。オープンゼミも最初に作って設計したものではなく、後から統合して組織化した。
「教育総合評価制度の導入・活用と効果」
続いて、坪井和男氏(中部大学学長補佐)より、次のような講演があった。
中部大学では教育の意識改革を目指して、教育総合評価制度を導入・実施している。本制度の導入の趣旨と経緯は、教育目標を達成し、学生と教員とが一体となって教育改革を推進することで、まず教員が主体的に取り組む。その促進には、教員の意識改革を目指したFD活動、そのための評価・支援活動の実践が有効という認識で導入した。
実施に至るまでのプロセスは、平成11年度に総長の下に作り、「教員の評価システムの構築に関する専門部会」を設置し、12年4月に大学改革委員会に教育評価部会を設置して具体的な検討を開始。その結果、ポイント制による教育総合評価制度の実施を学長に答申し、最高意思決定機関である「大学協議会」で14年度から本格実施を決定した。全学的な臨時教員総会を開催し、学長が本制度の導入の趣旨と実施計画を説明。運用上の諸規定を整理して、評価項目とポイント制による総合評価で現在に至っている。
構築の理念・目的は、教員の教育活動、学生による授業評価、学内行政(学務活動)を三位一体にし、そこに教員の自己評価を加える。年度当初に各教員は教育、学内行政に対するその年度の重点目標を記入して学長に提出し、年度末に自己評価のポイント付けをして学長に提出。総合的な教育評価を行い、優秀な教員を評価して、教育活動全般のより一層の向上に資することを目的とした。
期待される効果は、教員の教育に対する意識改革に直接役立つ、教育改善に極めて有効、教員の教育業績として活用できる、学生の参加によって学生自身の学習意欲の向上に役立つと考えた。本評価システムは、FD活動支援の一環でその活動のためのエンジン的役割を果たす。
評価項目とポイント配分は、18年度は大学全体の評価ポイント、各学部の評価ポイントに分けて実施することにしている。17年度までは、教育活動(教育改善、学生指導、講義状況)に40ポイント、学生の授業評価25ポイント、学内行政15ポイント、自己評価(目標達成度)に20ポイントの合計100ポイントとにしている。教育改善(20ポイント)は、教育方法の改善、テキストの作成、教材の開発、「中部大学教育研究」の投稿、FDの講師、FD活動の参加に年度末に自己申告する。それを専門の立場で、学部学科等の責任者で評価する。学生指導(10ポイント)は、教育実習・工場見学、社会見学、学会の研究発表の引率、インターンシップ、卒業研修ゼミ、課外活動指導、指導学生の研修に関わる受賞、大学院生がある学会から受賞された場合には、その教員の努力も評価しようというシステム。講義等の状況(10ポイント)は、担当のコマ数、学部の講義、卒業研究、ゼミの担当学生数、休講、補講、勤務日数等々を評価項目にしている。平均以上学生を担当している場合に対して評価、休講はマイナスポイントで補講したらそれを取り戻せる。勤務日数も4日間大学で勤務する形になっており、やや少ない場合にはそれなりのマイナスポイントにする。
学内行政は、併任役職、各種の委員、行政プロジェクト等々、特に入試問題作成は大変な力量がいるので評価する。授業評価は、担当科目の全科目を対象としている。ただし表彰制度に連動させるという意味もあって、複数教員で担当する科目は評価から除外。記名式で、マークシート一枚で実施する。授業への改善の意見は自由記述で別紙を配布。学生は設問項目にしたがって5段階で授業評価をする。教員の自己評価、年度末の達成度の自己評価は、年度当初、学部の教育目標にそって、各教員が自らの立場でどういう教育目標を分担するのか記述し、学部長の印、その後大学教育研究センター経由で学長に提出。
インセンティブとしての報奨金は、教育活動・授業評価・学内行政の三位一体評価に教員の自己評価ポイントを加えた合計取得ポイントで総合的な教育評価を行った後、表彰する。報奨金としてボーナスの支給時に上乗せする。対象者は10〜15%程度。委員会組織は、教育改善評価委員会、審選考委員会、評価点検委員会で主管部署は大学教育研究センターで、教務部、学務部、学生部、各学部事務室等々が協力する。
本制度の活用・効果は、この制度を導入しない場合と比べて、教員の高い教育改善意識が見られる。教育活動・改善に関わる年度当初の重点目標の提出状況は、ほとんど全員が教育に対する重点目標を書き、学科に提出している。年度末の自己評価シートの提出率も非常に高い。17年度は97%になっている。各教員には教員科目ごとに、各専門項目に対する評価結果、平均評価ポイント、全学の平均評価ポイントを一覧表にして配布する。全科目の集計結果の一覧表はホームページにて公表。FD活動は、特に各大学全体と各学部学科の1泊2日の研修集会をなるべく実施するというような形をとっている。
今後の課題は、各学部の教育目標に沿った教育活動・改善の推進、各学部・学科の組織的FD活動の活発化、授業のオープン化、ビデオ撮影などによる授業改善の更なる工夫に取り組んでいきたいと考えている。
Q1:最初の問題提起から先生方の受け止め方、反発や苦労について。
A:プロジェクトを作り導入するまでに、7年かかった。教育に特化した評価制度ということで、当然ながら教員の意見が多々あったが、最終的には導入してみようではないかと、学長が決断し、全教員と主要な事務系部署の責任者を臨時教員総会という形で集め、理解を得た。現在でも意見等は出るので、各学部から制度点検の委員を出していただき、吸い上げながら微調整しながら運用している。
Q2:教員に対して、改善のすすめ、助言など、どのようなケアがなされているのか。
A:各学部長には、この表彰制度の運用にかなり深く関わっていただいており、その結果の情報等はオープンにしているので、各学部でそれなりの対応をしていただいている。大学全体としては、各教員に授業評価結果を戻すときに、学生の自由記述の要望を添付し、教育改善に役立てていただく。また、授業のオープン化について、どの授業でも見学できるようにしたので少しずつ、教育の改善に対する意識が高まると考えている。
「教員に求められる教育力とは」
本協会の向殿政男担当理事(明治大学理工学部長)より、趣旨説明として、本協会は情報環境の整備から始まり、情報教育の在り方を経て現在は、IT活用を通しての教育改善に取り組んでいるが、多くの教員に教育改善の関心が低いのではないか。学生も多様化してきている中で、教育方法も変えなければいけない。ITだけで問題は解決しない。それ以前の問題として、教員の教育力をどう高めるか、大学としてどのようなガバナンスが求められるかという点が重要であると判断した。
<問題提起>
本協会の井端事務局長から次のような説明があった。文部科学省の16年度の「大学における教育内容等との改革状況」調査によれば、私立大学の自己点検評価は8割、学生の授業評価は約10割、FDは7割となっているが、教員の業績評価は2割台でFDと教員の教育活動が連動していない。
学生の価値観、気力、学力が多様化している中では30年前の授業スタイルは通用しない。研究重視から教育重視に方向転換いただき、職務として強く感じ取っていただきたい。教員の自己点検評価、授業アンケートによる改善、FDの研究など進めているが、教員一人ひとりの教育活動にまでインセンティブが働いていない大学が多く見受けられる。大学として教員の教育業績を把握し、教員が意欲をもって臨めるよう優れた教育活動を顕彰する仕組みが必要ではないか。国立大学医学部長会議が作られた「教員の教育業績評価ガイドライン」では総合評価の項目として、教育に対する意欲、student-orientedの態度、教育計画立案能力、教育技術、学外での教育活動、自己の改善努力などがある。現在、評価する側も評価される側も判断基準がない。教員は免許制度がない中で授業を委任されていることからすれば、教員に求められる教育力(教育指導能力)について、何らかのアクレディテーションが必要となる。大学設置基準でもこの点は触れていないので、教育の質を担保するためにもガイドラインのようなものが必要となる。
教育力の内容としては、1)授業の設計・評価・改善への取り組み能力、2)学生が主体的に授業に取り組めるようにする動機付け能力として、エビデンスを使った現実感覚の導入、擬似体験による概念理解の形成、学習意欲の喚起、情報技術の活用、3)人間力向上への取り組み能力として、問題発見・解決能力の育成、創造力・自己実現能力を高めるプロジェクト型授業、座学と体験の組み合わせ、インセンティブを与える学習成果の発表と講評、規範意識の育成、4)教室外での学習指導の取り組み能力として、オフィスアワー、eラーニングの導入、人生設計・職業観などの個別指導、5)授業の質保証の取り組みとしての授業内容・水準の通用性、授業価値の確認、筆記試験に片寄らない多元的な成績評価の導入、6)教育態度に関する能力としての指導するための基礎能力、7)学内での教育改善に向けた提案・啓発に関する能力が考えられる。
教育力を発揮、実効あるものにするには、大学のガバナンスとして、中部大学の事例にように教育の業績評価、とりわけ業績の報告から始める必要があるのではないか。教育改善を議論できるような場、組織の構築が必要ではないか、また、議論を通じて教育政策に反映されるようにしなければならない。そして、大学固有の教育力の判断指標ができればと思っている。教員の教育力無くして大学力は形成できない。大学力が弱まれば日本力も弱まる。その意味で大学のガバナンス、教員の教育改善には、国の命運がかかっているといっても過言ではないかと思う。
<教育力シンポジウム>
教育力に求められる能力の判断指標について社会科学系、理工学系、医学系の4名の教員から発言があった。
甲南大学会計大学院長の河崎照行氏からは、社会科学系におけるFD活動の遅れの現状と会計大学院での工夫として、授業評価に関するカリキュラム検討委員会を設置し、定期的な授業の評価と教員相互の授業参観、教員と学生の間での意見交換を実施している。具体的には、学内LANで常時授業についての提言、実務家の知識・経験を教育に取り込ための実務家教員との連携、学外の実務家による授業サポートを実施。これまでの学部教育の場合には、学生の授業アンケートの取り扱いは個々の教員に任せ、その後の対応は関心がなかったが、大学院では教授会で話し合い、学生とも協議する。その中で教育目標の明確化、教育手段の選択と活用、成績評価方法の開示など改善を図っている。教育力改善の論点として、参加型教育、FD活動はトップダウン型がよい。教育力改善の提言として、大学サイドには教育力の評価システム、教育環境の整備と教育支援体制、教員サイドは学生の意向を踏まえるような教育、集団指導体制の導入、教育分野の異文化交流、学生には能力別クラスの編成が必要。
青山学院大学総合研究所eラーニング人材育成研究センター副センター長の玉木欣也氏からは、教育力として四つを掲げた。一つは、教育の質保証を実現できる授業の設計力・評価力で、学習目標を詳細化、構造化、系列化して授業シナリオを設計できる能力が必要。二つは、学習を動機づける教授力、学習支援力で、学習内容に応じた授業スタイルの組み合わせと授業診断カルテ作成による授業効果の確認が必要。三つは、メンタを活用した事前・事後学習と対面授業を統合する力、例えば事前で何を勉強させるか、課題を出してうまくフィードバックさせられるかなど、全体的な教育が必要。また、総合的知識を身につけるため、地域と大学間でどのように共同・連携した授業を実施することができるか、例えば体験学習、問題解決学習、協調学習を実施する力が必要となる。四つは、ICT、eラーニングの活用で、学習効果、満足の度合、自己効力感を評価する力とインストラクター、メンタによる再教育の学習支援体制の構築力が必要。なお、大学側には教材製作、学習システム運用のための支援、教員以外の支援者が不可欠となる。
明治大学理工学部長の向殿政男氏から、大学は変化に対して抵抗勢力で、ボトムアップでは改革は難しい。教育の業績評価の狙いは、自主的に教育の改善意欲をいかに持たせるか、FDが根本にあると思う。明治大学理工学部では学生による授業改善アンケート、自己評価、外部者による評価を行い、印刷物で公表している。評価結果の利用は、評価結果を本人に返す、公表し、自己改善を促す。優れた教員を表彰するとともに、金銭的、時間的支援を与え待遇改善に当てている。難しいのはよくない教員をどうするかで、FD研修会の参加、優れた授業の参観などが考えられる。
教育力とは、学生の学習意欲を高める、自主的学習の習慣付け、用意周到な授業設計、理解度に合せた授業運営、常に授業を改善・工夫する努力などを総合した能力と考えるが、評価の方法が検討されていない。評価と合わせて検討すべき課題は、FDに関する大学のガバナビリティをいかに発揮するかである。それには、大学の理事長・学長が積極的に参加して方針を決め、そのための組織、体制を整備し、Plan-Do-Check-Actionを常にチェックして改善していく。大学の特色をいかに出すか。教員の多様性・役割分担の尊重、情報の公表、アピールするための社会的存在、受験生へのアピールに取り組む必要がある。そのためにはトップダウンでなければいけない。
東京女子医科大学教授の吉岡俊正氏からは、医歯大学で教えるべき知識とは、「知っている」「どう使えばよいか理解している」、「使ってみせることができる」、「現場で実際に使える」、という真正性(確実さ)が求められる。これを学ぶには、知識・情報を実践で使う、体系的な知識の再構築、学習力の習得が必要。臨床現場で実際に使える知識は、基本的な知識と技能、態度がベースにあり、さらに最新のエビデンスに基づく知識・技能を知らなくてはいけない。しかし、卒業した段階で古くなってしまう、卒業前に学ばなかった知識を更新、追加する学習力が必要となる。臨床能力の知識としては、画一的な知識ではなく、患者個人の抱える問題を引き出し、それを解決するもので、講義と臨床実習で到達できるかというところである。専門家というのは、専門的知識を有する、専門的技術を合理的に使えるだけではなく、クライアントのニーズに合わせて応用できる、実践の中で振り返りながら叡智を学び取れる。そして患者中心の医療を行う態度と倫理、問題解決ができるプロフェッショナリズムの面で教育力が必要となる。具体的には、Problem-based-learningチュートリアル教育を実施している。事例が提示され、どういうことが問題であるか自分で見つけ、自分で解決する方法。問題発見・解決の場所として少人数グループ討議を行い、教員がチューターとして助言する。学生を支援するが指導はしない。教育効果としては、学生に動機を与える、気付かせる、振り返りを促す、達成感を与える。東京女子医科大学で始め、現在は全国の医科大学80校のうちの63校が何らかの形で採用し、歯学と薬学など他分野でも行われるようになった。
臨床実践力の教育は、従来見学・観察による動機付教育が多いが、現在では実際に医療のチームに参加することを通じて、さらに学習を高め、実践を通じて叡智を得る。医学部のFDでは、チューターの研修会、臨床指導医の講習会、参加型臨床実習のためのワークショップ、講義のためのテクニック講習会、適正な評価を行うための多岐選択問題の作成講習会、臨床能力を見るための評価講習会を行っている。以上のことから医科大学における教育力としては、1)学び方を教える教育力として、真正性の高い知識を得るための教育、理解をする力を持たせるための教育が必要。2)モデル・コア・カリキュラムによる体系的な知識とPBLチュートリアルによる実践的な教育力、3)専門家として後輩を育てる教育、倫理、人間性、態度を育てることが必要。
Q1:多人数の教育をオンデマンド型のeラーニングで成功しているという例もあるが、多人数教育に対する工夫や配慮等があれば伺いたい。
A:明治大学の政治経済学部では、400人程度の学生に理解度を携帯電話でアンケートを行い、スクリーンの結果を見ながら授業を進めていく。一人ひとりの参加意識を高めるとともに、学生の反応、理解度に即した授業を進めることが可能。
A:例えばハーバードビジネススクールでは、ケース・メソッドを使っている。ケースを先に学生が学習してくることによって、学習への動機を高め、多人数の中で質問をしながら学習を進める方法もある。その他に、隣どおしで3分間相談させるとか、グループを作らせてディスカッションをするなど教育メソッドが最近発表されている。
Q2:大学責任としてどういう学生を送り出すのか、そのために各授業でどのような次元でチューターを導入しているか。工夫があれば紹介いただきたい。
A:学部では実施していないが、キャリアセンターがそういう取り組みを実施している。卒業生が社会でどのように受け入れられているのか、キャリアセンターを中心に情報収集している。
A:社会に対する取り組みの結果をどう保証するか。医科系の大学では、モデル・コア・カリキュラムの中で教えるべき内容が明示されている。臨床前の教育か臨床実習に入るとき、ある制限を設けて、患者の了解を得て個々の学生が行うレベルに達していることを証明することが、社会的な責任となる。全国の医科大学が共同して行う試験で、国家試験ではなく、各医科大学において学生が臨床実習に参加できるかということを判断する。
A:理工系では、JABEEに沿って各学科ごと教育目標を掲げ、それを実現するための科目をマトリックスで出し、一覧表を作ってチェックさせている。
Q3:学生の授業評価について、授業の内容を改善するには、他の教員がどういうクラスの意見を受けているか、評価情報を共有することで活用できるのではないか。共有する仕組みができているのであれば、事例も紹介いただきたい。
A:評価システムはないので、システムのある大学で実験されたらと思う。評価に対する何らかの報奨制度のような仕組みを大学サイドとしては考えるべきではないか。社会科学の領域では、昇任、昇格は多くが研究業績の評価となっている。教育を評価しているものがあるが、教育歴みたいなもので、教育の質の評価は行っていない。中部大学のような評価システムが浸透していくと、ご指摘のような関係になっていくのではないか。
A:中部大学での学生の自由記述は、昨年の例で約450件あった。例えば「声も聞きやすく分りやすい講義である」、「レポートに細かくコメントを書いてくださり、理解しやすかった」等々肯定的なコメントと、否定的なコメントを分析し、FDフォーラム等に紹介し、大学研究センターのホームページに掲載している。学生からのコメントがある教員には分析結果を添付して、教育改善に役立てていただくようにお願いしている。
Q4:教育業績の同僚からの評価は、学生からの評価よりも教員の熱意、仕事量など一番良く知っている。公正に恨みを買わないようにするには、どういった配慮をすれると一番反映されるか。
A:国立大学医学部長会議の教員の業績評価ガイドラインによれば、教育業績評価委員会が選任した同僚が講義等の際に定期的に授業参観やそれに準ずる形で行う。評価者は匿名化を図った上で結果をフィードバックするとしている。
Q5:早稲田大学でのイングリッシュチュートリアルと東京女子医科大学のPBLチュートリアルという新しい教育の方向が出てきているが、英語教育と医学教育とでは違うと思う。新しいチュートリアルの見解として、東京女子医科大学だけでなく他大学の学生が参加したチュートリアルのメリット、医科系でない大学の学生を含めたチュートリアルを実施している大学が他にあるか。
A:プロフェッショナルとは、他のプロフェッショナルとインタラクトできなければいけない。東京女子医科大学の学生と早稲田大学人間生命学科の学生が一つのデータについてディスカッションをする例があるが、他の領域の学生と交わることは非常に重要で、個人で医療をするのではなく、チーム医療が重要。医学部、薬学部、歯学部、看護学部のある他の大学ではチュートリアルを合同で1年生の時点で一つのテーマをディスカッションするという試みをしている。
<まとめ>
自己評価、または外部からの意見・評価で改善するためには、どうしても大学全体として取り組まなければいけない。大学トップによるガバナビリティが望まれる。評価の仕方は、各大学、各学部の個性を尊重することが重要である。ボトムアップでは止まってしまうので、ある程度トップダウンで進めないと動かない。
そこで、理事長学長等会議の決議文として、
一つ、私立大学は、次代の日本を担う有意な人材を育成するため、大学ガバナンスで教育力の向上に努める
一つ、私立大学の教員は、学生にわかりやすい授業を提供するため、教育のさらなる改善を目指して努力する
一つ、私立大学の教員は、教育指導能力を高めるためにファカルティ・ディベロップメントの積極化と充実に努める。また、スタッフ・ディベロップメントも同様努める
一つ、大学教員の教育力を判断するための指標作りの場を文科省その他で働きかける
ことを採択した。
「情報化投資額の実態」
17年度決算によると、教育研究部門の1大学当りの投資額は3.2%増。短期大学は、3.5%の減、特に短大法人では18%減少した。大学の設備関係は増加校より減少校が圧倒的に多く45対55、工事関係も35対49と、短大は、37対62と減少が増えている。経費面では教材などのソフトの関係費、維持保守の管理費が増えてきている。昼間部の学生一人当りは、5.7万円で増減なし、短大は4.7万円で13%増加した。
表 大学規模別教育研究部門の情報投資額
「高度情報化補助金申請に伴う自己点検」
補助金を活用しての教育改善の積極化を促進するため、18年5月22日付の案内で各大学に情報関係補助金の申請に際して自己点検を働きかけ、補助事業の適確性を踏まえた申請を呼び掛けた。
例えば、共通事項として、教育研究以外の経費が除かれているか、個別補助の項目では、借入契約での所有権の移転、設備の授業科目での使用実態の把握を点検。できなければ年度内の何月までにその調査が終わるか、明示して欲しいという内容で点検表を作成した。