私情協ニュース3
本年度の大学情報化職員研修会は、A日程10月18日(水)〜20日(金)と B日程11月8日(水)〜10日(金)とし、両日程とも静岡県の浜名湖ロイヤルホテルにて開催した。
大学教育の成果である人材育成が社会から問われ、学生の質保証が取り沙汰されている中で、教育全般に亘る改革を行うためには、理事会や教職員による人材育成の取り組みが不可欠であるが、とりわけ職員には、教育支援や人材育成支援の取り組みについてコーディネートとマネージメントの能力が要請される。
本研修会は、問題解決に向けた取り組みについて可能性を模索する中で業務を点検し、IT活用による教育改善および人材育成支援、望ましい情報環境や運営組織の在り方など、大学改革に不可欠な課題について事例紹介、意見交流を通じて職員一人ひとりの資質の向上を目指すことを目的とし開催するものである。
今年度は、研修の主旨を理解するための全体会において、基調講演とセミナーを行い、その後、大学としての教育支援のあり方を理解するのに有用な事例紹介を行い、参加者が2テーマ選択し聴講できるようにした(後に実施の分科会によっては聴講必須となった内容もある)。
事例紹介の後は分科会形式によるテーマ別の討議を行った。各分科会では、問題解決のための方途を探るためサブテーマを設定し、その内容を中心に討議を行った。また、必要に応じて、参加者または外部関係者からの先進的な取り組み事例の紹介も行った。
− 全体会 −
基調講演
「学校法人(大学)の経営に於いて期待される職員の役割」
菅野 卓雄氏(東洋大学理事長)
現在日本の社会では、大学を設置している学校法人とその大学の経営において、教員以外に職員の役割の大きさやその寄与が不可欠であるという認識、正当な評価などがなされているとは言い難い。私立大学の経営に係る高度の専門性と経験の集積・継承、国際社会での共通性等に裏付けられ、特に情報ネットワークを活用した高い企画能力、実行力、評価力をもって理事会における業務決定を輔弼し、業務執行担当理事のもとで、学校法人(大学)の経営の担い手になることが職員に対し求められている。そこで、これからの職員に対する期待と求められる役割について参加者の共通理解を得るため、大学改革の必要性、職員による学校法人(大学)運営のサポートの重要性、職員に期待される専門性、職員による経験の集積、継承の重要性、職員業務の国際的共通性等について述べられた。
セミナー
「教育改善の方向性と課題」
井端 正臣事務局長(私立大学情報教育協会)
当協会で実施した教員対象の調査や情報環境整備に関する調査、大学のIT活用事例等をもとに、大学教育の抱える課題やこれからの改善に向けた方向性について解説し、途中、携帯電話によるアンケートシステム用いて、参加者の理解度や意識を確認しながら進めた。
− 事例紹介 −
A日程・B日程共通
「ひとりひとりの個性と能力を豊かに伸ばすために 〜電子的な学生指導シート『はぐぐみ』の活用〜」
斉藤 和郎氏(札幌学院大学情報処理課長、研修運営委員会委員)
学生の人間力を育むことを目的として、学内に蓄積された学生情報を活用して教職員が連携して学生一人ひとりに個別支援をする取り組みについて紹介された。
「キャンパスコミュニケーションシステム(CSS)について」
加藤 高明氏(名古屋学院大学学術情報センター課長)
学生へのきめ細かな教育を目指し、学生と教員のコミュニケーションが図られるよう、職員が支援する立場で構築したコミュニケーションシステムについて紹介された。
A日程
「eラーニング『TIES』の取り組み」
中嶋 航一氏(帝塚山大学経済学部教授)
堀 真寿美氏(帝塚山大学TIES教材開発室)
学生の自律的な学習と動機付けを促すことを目的としたeラーニング「TIES」と、TIESを開発・運用・管理している教材開発室の役割や取り組み内容について紹介された。
B日程
「循環再生産型学習スタイルによる人材育成」
齋藤真左樹氏(日本福祉大学学務部次長)
養護学校教諭育成を目的としたオンデマンドコンテンツによる学習、実習・地域をオンラインで結んだコミュニティとコミュニティ参加により蓄積されたコンテンツの知識の再構築という循環再生産型の学習の取り組みについて紹介された。
「キャンパスマイレージによる学習意欲向上の取り組み 〜大学のユニバーサル化と学習支援の組織的な取り組み〜」
山下 泰生氏(関西国際大学副学長)
学習支援に対する学内全体の取り組みを紹介いただき、さらに、学業成績や大学の建学の精神・教育方針に沿った活動成果に対し評価することを目的とした「キャンパスマイレージ制度」について紹介された。
− 分科会:A日程 −
A−1 学生基本情報の活用
業務の核となる学生基本情報を有効利用するため、多くの大学でシステムが構築されているが、教育支援への活用に関しては教職員のコラボレーション、父母のニーズの変化、個人情報保護法などの課題によって、未だ取り組みが十分ではない状況にある。これらの課題を解決し、学生ポータルの構築や学生カルテなど、学生基本情報を活用した新たな教育サポートを実現していくためにはどのような対策が必要なのか。職員の教育参加という視点に立って、教育改善・大学改革を実現するための教職員一体となった取り組み、システムの再構築と情報のメンテナンスなど、学生基本情報を利用した様々な取り組みとその可能性について事例と討論を通じて確認した。
A−2 財務情報の戦略的活用
今、大学に求められている財務に関する「法人としての説明責任」と「関係者の理解が得られるような財務情報開示体制」の在り方、教育研究用の資金獲得・捻出のため戦略的に財務情報を活用する財務システムの在り方について考察した。
まず、これらについて参加者の事前レポートと各大学の現状報告で確認し、「目的別・機能別予算管理」と「内部統制」について事例発表を交えて討議を行い、戦略的な財務情報の活用について理解を深めた。
目的別・機能別予算管理については、対応システムの導入実施校も多く、大学の戦略に応じた予算編成や評価が容易になり、財務状況を多角的に分析し、今後の教育研究支援事業の展開や大学経営に役立つ資料が容易に作成できるようになる等の利点を享受している。今後は、こうしたシステムを駆使した戦略の策定や、目的・機能の構成と評価が重要な課題になっていくであろうとの共通認識を得た。
内部統制については、本来、企業の社会的責任を求める法律への対応としてその構築が急がれているシステムであるが、教育や研究といった公共性の高いサービスを提供する大学においては、営利企業よりさらに高い社会的責任が求められるという認識のもとに、大学における内部統制とはいかなるものか、統制機能、実施上の問題点、教育研究との関係等について意見交換し、大学における内部統制の必要性を確認した。
A−3 個人情報保護対応
学生の質保証を進めていくには、学生一人ひとりの進路情報、職業観に関わる情報、成績情報等、個人の人生設計に必要な情報を大学として整備し、その上で個別指導や相談・助言に当たることが不可避となっているが、それを実現するには個人情報保護の面から情報の収集・活用について制限が生じる。そのため本分科会では、大学として整備すべき学生の個人情報の内容、取り扱いのルール・体制、情報管理等の観点から、個人情報保護への対応策として、学生支援における情報資産の活用と個人情報保護とのバランス、教員が扱う個人情報の把握と管理、技術的なセキュリティ対策の導入と評価 、個人情報保護推進体制の運用と課題等について確認した。
A−4 戦略的教育支援
学生の基礎学力の低下、学習意欲の低下、人間力の低下が教育現場での最大の課題となっている中で、大学は、動機付けを高め達成感を持たせる工夫等を行いながら、大学が目指す人材の育成を果たさなければならない。そのため、従来の教育手法に限らず、学生の能力に見合った教育を工夫することが課題となっている。
そこで、本分科会では、教員と連携した授業の設計・開発・運営・点検・評価について職員の立場から解決策を見出すこととし、教育支援のための組織体制、FD対策としての教育支援、教育の自己点検・評価のしくみ、講義支援システム、コンテンツ作成支援などの在り方について考察した。
A−5 戦略的な大学Webサイトの構築
大学のWeb広報について、学外者からの評価視点に基づいたサイト設計・構築・運用を行い、公開すべき情報資産を探り、さらに社会との連携を考慮した戦略的なWeb広報の在り方を模索することを目的とした。そのため、学外者から「大学の社会的役割とWebサイトの活用」と題した事例紹介をいただき、学外から見た大学Webサイトの視点・評価を伺い、討議の取り掛かりとした。
討議は、1)外部機関によるWebサイト評価の視点、2)戦略的なサイト設計・構築・運用、3)公開すべき情報資産、4)Webサイトを通じた社会との連携のサブテーマごとに行った。その結果、戦略的な大学Webサイトの構築とは、大学の理念・目的に基づき、社会的ニーズに的確に呼応(むしろ先取り)した情報を学内外に発信し、対象者(ターゲット)の行動を大学の発展につながるように方向づけるWebサイト作りにあること、Webサイトに携わる職員は、あらゆる大学情報を収集・発信できる存在として、積極的に大学役職者や教職員、関連部署への呼びかけを通じて大学Webサイトの「プロモーション」をすることが求められるという共通認識を得た。
− 分科会:B日程 −
B−1 学びの主体性を喚起する学修支援システム
学生の学修行動の各プロセス、すなわち、履修計画策定および履修科目登録、学期中の学修および定期試験、成績評価の発表における効果的な支援のあり方について検討した。今回は主としてシラバスの項目や表記における工夫、GPA得点分布の公表など学生の主体性を喚起する取り組みについて討議を行った。システムを構築するにあたっては、自学の教育制度の特色を活かし、自立向上心を高めるために効果的な学修支援環境をどのように提供するのか、それぞれの大学が明確なビジョンを持つことが重要で、教職員が互いに連携すること、対面による学生支援の充実も肝要であるとの結論に至った。
B−2 キャリア形成支援
大学が「人材育成」という社会的使命を果たすためには、キャリア形成支援部門が問題解決の中枢として主導的な役割を果たさなければならない。本分科会では、本年度の現代GP「実践的総合キャリア教育の推進」に採択された優れた教育改革の事例に学び、その推進を担う職員の豊かな人間力に刺激を受けながら、現代社会が求める「新たな人材育成モデル」を創出する試みを展開した。参加者全員が「分析、企画、コミュニケーション、プレゼンテーション、評価」といった力を発揮して作業に打ち込んだ結果、最終成果物にはいずれも独創的な「GP」の萌芽を認めることができた。本分科会のねらい「大学全体として取り組むべき『人材育成』という課題を実践するための能動的職員としての意識発揚を目指す」は十分に達成されたように思われる。
B−3 教育学術情報政策
急速な情報化に伴い、学術情報資源の肥大化や多様化が進み、大学図書館への期待が変化している。従来の図書館サービスに加え、情報生産性や学習成果に直結する付加価値の高いものや、コンテンツ作成に役立つ支援が求められる。それらに対しどのようなソリューションが現実的かを探り出すことを目的として、国公立大学やNIIで中心的に進められている機関リポジトリや、その代表的ツールとしてDSpaceを事例紹介に取り上げ討議した。
学術情報の所蔵内容は、どれだけ自学の研究成果や教育内容を含められるかという質的・量的整備課題、大衆へのその視覚化とアクセサビリティーというサービス課題の二つによって、大学の学術情報共通基盤=図書館の役割が激変するということが確認された。
大学の性格に合わせ、どのような機関リポジトリを構築するべきかという本旨の理解については、参加者個人の関心事からか少数派を認めざるを得ないが、大学図書館の変化の兆候を感じてもらえれば、意義ある研修会となったと言える。
B−4 ICカードを利用したキャンパスライフ支援
大学の施設・設備・図書・教材等の利用に当たっては、これまでは主に磁気カードにより対応してきたが、大学の資産を効率的に管理し、より利便性の高いサービスを提供するには、認証機能に優れ、利用履歴の一元的管理ができるICカードを活用することが一つの解決策になり得る。学生はもとより、教員・職員に携帯させることにより、学内の情報利用、施設・設備利用、図書利用、学内サービス利用、決済手段としての利用など、各種の利用情報の一元管理が可能になる他、教育支援への活用の可能性も期待される。
そこで、本分科会では、ICカードの利用動向についてシステム導入事例をもとに討議し、学生証・職員証のICカード化 、ICカードを利用した教育学習支援、ICカードとセキュリティをサブテーマとして取り上げ、学生証や職員証をICカード化する際に必要となる様々な機能や運用ポリシーについて検証し、導入の成果と運用時の課題を確認した。
B−5 ITを活用したコミュニケーション
学生一人ひとりの品質を保証するという大学としての使命に応えていくには、教職員一体となって知恵を出し合い、様々な対策を講じていくことが不可欠である。そのためには、大学構成員間での課題の共有、協業における密接なコミュニケーションが求められている。
本分科会では、まず共通認識として、コミュニケーションシステムを「教員と学生が情報提供、情報共有、双方向なやり取りができるツール」と定義し、「情報手段」や「双方向」、「学生からの申請手続き」といったキーワードを整理した。次に参加者の事前アンケートをもとに、IT化に適する点、適さない点、また、コミュニケーションツール特有の問題点を挙げ意見交換した。そして、Face
To Faceやコミュニケーション能力の重要性、さらに問題点を克服するための注意点なども議論した。
最後に、ITを利用すること自体が目的ではないこと、大学の教育活動を支援するために(ITなしではできない)新たなコミュニケーションを創出していく必要性が確認され、さらに、ITの特徴を理解し、できることとできないことを認識しながら選択していくことが重要であると結論した。