投稿
中嶋 航一(帝塚山大学経済学部教授)
帝塚山大学では、1997年よりTIESというeラーニングシステム(http://www.tiesnet.jp/)を開発し、当初より大学教育の「連携・共有・公開」を掲げて、学生の学習支援と教員の教育力の向上を目指して活用してきた。
現在は表1にあるように、国内外の国公私立の74大学に所属する、約1,000人の教員と5万人の学生のコミュニティが形成されている。TIES内で作成された多くの教材は教員同士で共有できるようになっており、その数は46分野、2万5千点を超える。また外部のユーザー評価によるランキングシステムを持つ一般公開用のオープンTIESには、254講義が公開されている。
TIESコミュニティは高等教育機関とそこに所属している教員関係者に限定されているため、地域の「知の拠点」たるべき大学が果たす社会的貢献を実現する組織が必要であった。そこで広く産業界や地域社会に対して、eラーニングの手法と技術を活用して教育の改善・充実による社会的貢献をミッションとする特定非営利活動法人サイバー・キャンパス・コンソーシアム(以下NPO
CCC-TIES)を2006年5月に設立した。このNPO CCC-TIESは、(社)私立大学情報教育協会が振興する、大学連携による授業支援や教材の共有化事業のサイバー・キャンパス・コンソーシアム(CCC)事業の連携先としても位置づけられている。
現在NPO CCC-TIESは様々な産学連携事業を展開しているが、昨年に引き続き産経新聞社と共催して行った生涯教育の企画「産経eカレッジみんなde大学」の概要と成果について報告する(注)。
「産経eカレッジみんなde大学2009」は、主催が産経新聞社、共催がNPO CCC-TIES、後援がフジサンケイビジネスアイ、協力が産経デジタル、企画協力がnokitenという体制で、8月4日から9月14日の期間で実施した。
昨年は14大学に所属する30人の教員が11分野・33講義・103の「ありのままの講義」ビデオを提供してくれた。今年はTIESコミュニティの18大学(愛知学院大学、愛知工科大学自動車短期大学、金沢学院大学、関西国際大学、関西学院大学、札幌学院大学、札幌大学、創価大学、中京大学、帝塚山大学、東京造形大学、名古屋学院大学、新潟産業大学、武蔵大学、明治薬科大学、桃山学院大学、酪農学園大学、江蘇工業学院(中国))に所属する37人の教員が、12分野・38講義・119の授業ビデオを提供してくれた。
昨年と異なり、今回は四つの新企画を実施した。第1に、図1にあるように、受講者が授業を選択する際、「学べる力」のタグ(以下、能力タグ)を設定し、8項目(基礎学力・専門的学力・問題発見能力・問題解決能力・情報収集分析能力・論理的思考力・創造力と想像力・プレゼンテーション能力)の中から授業検索できるようにした。この理由は、現在、大学教育に求められている学士力を進めるためには、学生のみならず一般社会人が大学教育に対してどのような学力や能力・スキルを期待しているのか調査したかったからである。
図1 産経eカレッジのトップ画面
そのため、事前に授業提供者に各授業の能力タグを4項目選択してもらい、図2にあるように、受講者はビデオを見ながら関連すると思った項目をクリックしてもらうようにした。また、受講者のコメントを記入する機能(ひとことクリップ)も追加した。
次に、このような事業を持続可能なものにするため、図1にあるように、有料の宣伝バナーの公募と掲載を行った。今回は、帝塚山大学、創価大学、桃山学院大学の3大学のご協力をいただいた。第3に、受講者に対して授業提供者の各先生方のお顔を掲載し、自分の気に入った先生の顔写真から授業に入っていけるようにした。これは、本事業が参加大学の宣伝広報につながるとともに、優れた授業を提供して下さった先生方が広く社会において認知されることを目的として行ったものである。
図2 薬学の授業事例(明治薬科大学)
今回の事業の成果を表2にまとめた。昨年と比較してユニークユーザー数やページビューは約3分の1に減少し、それぞれ10,594人と70,132ページビューであった。この理由はいくつか考えられるが、最大の要因は、昨年に比べて今回は産経新聞社によるmsn.comやiza.ne.jpにおける宣伝広報が少なかったことによると思われる。
それにもかかわらず、生涯教育のような地味なテーマで1ヶ月にユニークユーザーを1万人以上集め、宣伝広報もあまりなくとも昨年度より多い3,418人のビデオ閲覧者があった。また表2のビデオ閲覧回数から分かるとおり、平均で1授業ビデオ当たり3回弱の閲覧があり、もっとも閲覧回数の多かった金沢学院大学の大場昌也先生の「第1課 基本4品詞」の授業ビデオは845回に達している。
表2 実績の比較
指標
今年度実績
昨年度実績
説明
ユニークユーザー数
10,594
33,111
再度Webサイトを訪れた際には同じユーザーとしてカウントした値
ページビュー
70,132
223,367
ユーザーがサイト内を何ページ閲覧したかの延べ数
ビデオ閲覧者
3,418
2,274
ビデオの閲覧をしたユニークユーザー数
ビデオ閲覧回数
9,252
9,241
ビデオの閲覧回数
次に受講者の属性について図3にまとめた。今回の受講者の特徴として昨年と異なる点は、1)女性の受講者の割合が高い(昨年の女性比率は20%)、2)今回初めて本事業を知って閲覧した受講者がほとんどであったことなどである。それ以外は、昨年度と同様、短期大学以上の高学歴の会社員が多かった。
女性の受講者が多かったことが要因なのか、今回の受講者の授業選択の傾向として、語学系の授業が多く閲覧されている。また、昨年度の閲覧者が6%しかいなかったことを考えると、昨年の受講者にメール等で告知活動をしたら、より多くの受講者を集めることができたと思われる。
図3 受講者の属性(有効回答数3,418名)
今回は、受講者の属性やコメント、能力タグによる授業選択のマッチングに関する多くのデータを入手することができ、本事業の結果を評価するためにはもう少し詳細な分析が必要である。
しかしながら総体的には昨年の結果と同様、社会における大学教育への関心と期待は非常に高いと言える。そのことは、以下に紹介する受講者のコメントからも判断できる。地域社会の「知の拠点」として社会的責務を負う大学コミュニティとして、本事業を更に継続・発展させていきたい。
以下、受講者のコメント
|
お忙しい中、貴重な授業ビデオを提供して下さった先生方のお名前を記して、心から感謝申し上げる。渡邉隆俊・高田浩充・大場昌也・岸脇誠・井垣伸子・劉騰・石川千温・瀧元誠樹・本田優子・山田隆・碓井健寛・山中馨・新津隆士・中田友一・山際康之・児島完二・大宮有博・岡田千尋・岸田賢次・浅野一志・松島桂樹・石橋賢一・菱沼滋・伊藤彰一・小山久一・岩井洋・熊谷礼子・山本国昭・高瀬宜士・日置慎治・飛世昭裕・Rodney Dunham・今井孝司・今井孝司・北浦義朗・小嶋寿史・李賢進の諸先生。
注 | |
昨年の同事業の報告については、中嶋航一・堀真寿美・細谷征爾「NPO CCC-TIESによる産学連携「産経eカレッジみんなde大学」の報告」『大学教育と情報』(社)私立大学情報教育協会、Vol.17, No.3, 2008, pp.7-11を参照されたい。 | |
http://www.juce.jp/LINK/journal/0901/03_01.html |