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教育内容の評価に基づいた授業改善と教育効果の解析
〜薬学部1年次・早期体験学修からの検証〜

渡部 俊彦
(東北薬科大学薬学教育センター講師)
米澤 章彦
(東北薬科大学薬学教育センター教授)

1.はじめに

 近年、社会が知識基盤社会に移行したことで、知識の多寡よりも学んだ知識を活用して新たな価値を生み出す能力が必要とされるようになった。文部科学省は「学士過程教育の構築に向けて」中央教育審議会答申の中で、グローバル化する知識基盤社会では学士力(知識・理解、汎用的技能、態度・志向性、統合的な学修経験と創造的思考力)を備えた人材の養成が重要な課題であることを挙げており、大学教育で従来行われている一般教育、専門教育、職業教育に加え汎用的コンピテンスを育成する教育を推奨している。こうしたジェネリックスキル(汎用的技能)の育成は座学だけでは対応できないため、大学教育の現場ではアクティブ・ラーニング化した講義の導入が求められている。アクティブ・ラーニングとは「思考を活性する」学修形態のことで、授業者が一方的に知識伝達する講義スタイルではなく課題研究やディスカッション、プレゼンテーションなど学生の能動的な学修を取り込んだ授業の総称である[1]。しかし、アクティブ・ラーニングを導入した優れた教育方法を考案しても、適切に運用されていなければ、学修者に良い教育効果をもたらすとは限らない。木野等の報告によれば、同じ内容の講義でも、授業者と学修者間のコミュニケーションが低ければ教育効果が低下するとされている[2]。これは、教育効果を上げるために、授業者は自身の行う講義が学修者により良い変化をもたらしているかを常に調査・分析し、問題点があれば講義内容を適宜改善する必要があることを示している。講義内容の調査・分析は多くの大学で学生アンケートを用いて行われているが、その内容は授業者の態度に対する印象や講義内容の総括的な感想を問うものが多く、アンケートの結果だけでは講義が学修者に良い教育効果を与えているかを評価することが難しい。
 そこで我々は、講義による教育効果を学修者に対するプレ・ポストテストにより調査し、講義内容の評価・分析を行った。また、その分析結果をもとに講義の問題点を改善したところ、教育効果を向上させることができたので、その実例を紹介する。

2.方法

 本稿では、2013年度と2014年度に開講した薬学部1年次前期の薬学早期体験学修(以下、早期体験学修)についての講義内容の評価と分析を行った。早期体験学修は1単位・必修で、学修目標は「薬学生として学修に対するモチベーションを高めるために、病院・薬局・製薬企業など卒業生の活躍する現場や、福祉に関わる現場を早期に見学・体験し、将来医療の担い手となる心構えを身につける。」で、2013年度と2014年度は同じ目標を掲げている。なお本講義の「医療の担い手となる心構え」とは、薬学モデルコアカリキュラムで挙げられる薬剤師に求められる資質10項目(表1)を意味している。

表1 薬剤師に求められる資質10項目

 これら10項目は、コース開始時に学生へ配布した資料中で項目名とその説明が記載されているが、学修者に対し講義形式での説明は原則として行っていない。
 2013年度の学修方略は表2に記載した。コース終了後、全グループのプロダクトを回収し、挙げられた「薬剤師として身につけておくべき資質」を薬剤師に求められる資質10項目に分類し、各グループが認識している資質をデータ化し、各項目の認知度(%)を「(認知しているグループ数/21(全グループ数))×100」として算出した。また、2014年度の学修概略は表3に記載した。プレ・ポストテストで得られた回答は薬剤師に求められる資質10項目に分類し、各学修者が認知している項目をデータ化し、各項目の認知度(%)を「(認知している人数/学修者人数)×100」として算出した。

表2 早期体験学修 学修方略(2013年度)
表3 早期体験学修 学修方略(2014年度)

3.結果・考察

 2013年度早期体験学修を終えた時点で、薬剤師として求められる資質10項目を学修者がどの程度認知しているかを図1に示した。「薬剤師としての心構え」、「医療のためのコミュニケーション」、「基礎的な科学力」、「薬物療法における実践的能力」は、ほぼすべてのグループが薬剤師として求められる資質として挙げていた。一方で、「患者・生活者本位の視点」、「地域の保健・医療における実践的能力」、「研究能力」、「自己研鑽、専門性の涵養」、「教育能力」の認知度は50%以下となっており、大部分の学修者がコース終了時でも、これらが薬剤師に求められる資質として認知していないことが明らかになった。

図1 薬剤師に求められる資質10項目の認知度(2013年度)

 2013年度早期体験学修は、各ユニットで得た知識と経験をもとに薬剤師に求められる資質10項目を学修者自身に想起させることを目的としていた。これは、教員が一方的に知識伝達する講義スタイルよりも学生の能動的な学修を組み込んだ講義スタイル(アクティブラーニング)の方が、単位時間当たりの知識定着率が高い効果を示すという報告に基づいており[3]、目的意識を強く認識させ、学修に対するモチベーションを高く維持することを狙いとしていた。しかし、学修者が1年生の場合は医療に関する知識や経験が不足しているため、学修者自らの想起では医療の担い手となる心構えをすべて列挙することが困難であることが明らかになった。
 この結果を反省材料として、2014年度早期体験では「医療の担い手となる心構え」の具体的な項目を知識伝達型の講義やICTを活用した確認試験を介して繰り返し認知させ、その内容を SGD形式のアクティブ・ラーニングで学修させ「医療の担い手となる心構え」の認識と知識定着率の向上を試みた[4][5]。この教育方法による学修効果を客観的に評価するために、2014年度早期体験学修では、「薬学生が卒業時までに身につけておかなくてはいけない薬剤師としての資質が10項目あります。資質10項目を書き出して下さい。」を課題としたプレ・ポストテストを実施、学修者の認知度の確認を行った。
 早期体験学修の初日に行ったプレテストの結果(図2)から、学修前の学生は知識・技術などの専門知識が薬剤師には必要な能力であると認知していたが、自己研鑽・研究能力などの優れた人間性が薬剤師には必要とされる意識が欠けていることが明らかになった。しかし、2014年度の方略に従い学修を行った結果、早期体験学修最終日ではすべての項目を学修者の80%以上が認知しているという結果が得られ(図3)、講義内容の評価・改善は学修効率を高めるために効果的であることが明らかになった。

図2 薬剤師に求められる資質10項目の認知度(2014年度、プレテスト)
図3 薬剤師に求められる資質10項目の認知度(2014年度、ポストテスト)
参考文献および関連URL
[1] 山地弘起:アクティブ・ラーニングとはなにか. 大学教育と情報, 2014年度No.1, pp.2-7, 2014.
[2] 木野 茂:教員と学生による双方向性授業―多人数講義系授業のパラダイムの転換を求めて―.京都大学高等教育研究, 15, pp.1-13, 2009.
[3] 栗山直樹: アクティブ・ラーニング実施に伴う課題の考察. 平成26年度教育改革ICT戦略大会資料, p.71, 2014.
[4] TFUリエゾンゼミ・ナビ「学びとの出会い」 6章問題解決4、 KJ法をやってみよう
http://www.tfu.ac.jp/liaison/edu/navi06.html (2014年10月14日参照)
[5] 松村豪一:講義「精神医学」にワークショップ(二次元イメージ法)形式の導入.聖学院大学論叢, 18, pp.241-263, 2006.


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