特集 教学マネジメントの試み

地域総合科学科に適合したアクティブラーニングの
活性化と学修成果の可視化〜京都光華女子大学短期大学部〜

小山 理子(京都光華女子大学短期大学部ライフデザイン学科講師)

1.はじめに

 京都光華女子大学短期大学部ライフデザイン学科は、平成17年に「地域総合科学科」の認定を受けました。地域総合科学科とは、実際の個々の学科の名称ではなく、従来の学科のように内容を特定分野に限定せず、地域の多様なニーズに柔軟に応じることを目的とした新しいタイプの学科の総称で、これからの短期大学の方向性の一つとして注目されています[1]。本学科も、教養から、ファッション、ブライダル、フード、インテリア、デザイン企画、医療・ビジネス、トラベル、ビジネスコミュニケーションなど幅広い分野の科目を開講し、地域のニーズに応えています。
 地域総合科学科として体制を整えるにしたがい、新たな課題もあります。一つ目が「地域総合学科に適合したアクティブラーニングの活性化」です。多彩な幅広いカリキュラム体系を、学生が「何ができるようになるか」という主体的な学びの方向にチューニングし、教育の質の転換としてどのようにアクティブラーニングを導入するかです。二つ目が、ディプロマポリシーの達成度の定量化をはじめとする「地域総合科学科に適合した学修成果可視化」です。平成26年度に採択された大学教育再生加速プログラム(以下、AP)においても、「アクティブラーニングの活性化」と「学修成果の可視化」の二つの軸に沿って教育改革を進めています(図1参照)。以下に、上述の課題に対する取り組みを紹介します。

図1 AP事業の概要化

2.アクティブラーニングの活性化

(1)社会人基礎力育成の強化について

 アクティブラーニングの活性化が本学科の一つ目の課題ですが、多彩なカリキュラムが特徴の本学科の場合、ディシプリンが異なる分野に一斉にアクティブラーニングを導入するという方法は不適切です。各専門分野で企業連携やプロジェクト型のアクティブラーニングを個別に導入しても、その成果は他の分野に参考にならないケースもあります。そこで、社会人基礎力をエッセンシャルな学びとし、ライフデザインスタンダードに属する「プレゼンテーション演習I」をアクティブラーニング化対象科目としました。この科目は「社会人基礎力を育成する授業30選」[2]に選出され、「短期大学における社会人基礎力育成の一つのモデル」との評価も受けていましたが、学修データから本学科の学生が弱いとされる「課題発見力・解決力」に着目し、アクティブラーニングの取り組みを強化させました。一例が、社会のリアルな課題に対してチームで企画を考え、プレゼンを競う「プレゼン大会」の開催です。チームで「正解のない答え」を導き出す授業はまさに問題解決型PBLです。今年度の前期に授業を実践し、課題発見力・解決力に必要となる情報収集力や分析力の獲得感が高まり、対自己基礎力や対人基礎力などのコンピテンシーの伸長も感じられました。
 また、本授業は1年生前期の必修科目で、学生全員が入学後すぐにアクティブラーニングを体験することになります。学生は本授業での経験を、専門科目での高度なアクティブラーニング型授業に生かすことができ、アクティブラーニングの活性化が促進されます。さらに、本授業は複数担当制のチームティーチングで行い、授業担当者を固定していないことも特徴です。教員は本授業を担当することで、アクティブラーニングの手法や授業設計、評価方法の習得が可能です。このように、本授業は学生にとっては、社会人基礎力を養成する場、教員にとっては教授法を養成する場というように、学生と教員の双方が学ぶ場としての機能を有します。
 本授業の経験をもとに、平成28年度以降は、専門分野のアクティブラーニング化を進めます。

(2)組織的な取り組みについて

 アクティブラーニングの活性化には組織で取り組んでいます。特徴的なのが「アクティブラーニングマスター制度(以下、ALM)」です。すべての専任教員がアクティブラーニングを「能力に応じて」ではなく、「必要に応じて」導入できるようにサポートする制度です。単に教員の「個」としての教育能力を認定する資格制度ではなく、「組織」の教育水準を認定し、組織のレベルアップも同時に目指しています。この観点から、本学科としてのアクティブラーニングの定義、およびALMの定義を行う予定です。
 さらに、AP事業は学科の専任教員が全員で取り組んでいることもポイントです。15項目を役割分担し、それぞれが計画から実施まで責任を持ち関与しています。このような本学科の取り組み姿勢も、アクティブラーニングの活性化の鍵であり、組織がALMになるための必要要件だと言えます。

3.学修成果の可視化

 二つ目の課題は学修成果の可視化です。ディプロマポリシーや到達目標は学修成果の一つですが、その到達度は測定されていないケースが多いのではないでしょうか。本学科においても学生に周知はしていますが、それらの達成度を必ずしも成績に反映している訳ではありません。そこで、ディプロマポリシーと各科目の到達目標の関連づけを明確にし、カリキュラムマップを介してディプロマポリシーの達成度を定量化できるように、以下のような取り組みを進めています。

(1)ミドルレベルディプロマポリシーの策定

 一つのディシプリンで括れない地域総合科学科の場合、ディプロマポリシーですべての分野のラーニングアウトカムを表現するには限界があるという問題を抱えています。そこで、最初のステップとして、各専門分野で育成する能力を示す「ミドルレベルディプロマポリシー」を、今年度中に完成を目指し策定中です(表1参照)。各分野に属する科目の到達目標は、このミドルレベルディプロマポリシーと関連づけて作成します。

表1 ミドルレベルディプロマポリシーの例(フード分野の場合)

(2)総合的評価提示システムの導入

 そして「総合的評価提示システム」の導入です。これは、教員と学生がともに、各科目の到達目標やディプロマポリシーの達成度を確認できるITシステムのことで、これにより学修成果の可視化が完遂します。システムは現在開発中ですが、平成28年度からの運用を目指しています。特徴は以下の通りです。

1)教員と学生による相互評価

 教員は担当するすべての科目において、学生ごとに到達目標の達成度を5段階で評価し入力します。到達目標の達成度の評価から、ミドルレベルディプロマポリシーおよびディプロマポリシーの達成度は、カリキュラムマップを介して自動的に算出され画面に表示されます。これにより、これまでは0点から100点までの数値のみであった成績評価が、「学生が何を理解し、何ができるようになったのか」が理解できる評価へと転換されます。学生も到達目標の達成度を5段階で自己評価し、その理由も併せて入力するため、教員と学生の評価に対する意識の差も確認できるようになります。

2)IRデータとしての活用

 システム導入により、個々の科目の素点から評価の総括であるディプロマポリシーの達成度までのデータが蓄積され、全学的なIRデータとして活用できます。そもそも、本学科のAP事業は、京都光華のエンロールマネジメントとIR(以下、EM・IR)が基盤になっています。平成19年度に全学的な教学マネジメントの一つとしてスタートしたEM・IRは、現在は充実発展期で、アクティブラーニングの活性化、学修成果の可視化のための取り組みを行っている段階です。ディプロマポリシーの達成度を、これまでEM・IRが蓄積してきた学生生活や教学に関するさまざまなデータと合わせて分析すれば、学生個別の学びの状況が可視化され、ひいては、教育改善のための客観的な指針が得られる可能性が高まります。

(3)外部社会人基礎力テストの実施

 ディプロマポリシーの達成度が定量化されたとしても、それで意図する社会人基礎力が育成されているのか、客観的にチェックする必要があります。要するに、ディプロマポリシーのメタ評価です。そこで、1)ディプロマポリシーによる評価の客観性を保障することができる、2)多くの内部指標との相関分析により実際的な社会人基礎力育成方針を発展させることができる、3)学生へのフィードバックを通じ、学生に「何を行うべきか」の指針を提供することができる、この三つの選定のポイントにより、外部テストとしてリアセックの「PROG」を採用し、今年度から実施しました。
 PROGの導入により、学生の能力の相対的なアセスメントも可能となります。本学科の学生は「協働力」は高い一方、「自信創出力」「感情制御力」「実践力」が低いという傾向がわかりました。さらに、高校時代は「チームでの協働作業の経験」はあるものの、「グループワークでリーダーを担った経験」や「発表や企画考案の経験」が浅い傾向にあります。これらの結果から、社会人基礎力の中でも重点的に育成すべき能力を確認したり、「協働力、自信創出力、感情制御力を高めるためには、プレゼンや新企画の提案の取組が効果的である」という仮説を設定することができます。次年度以降は「協働力」等の今後の伸長と、2年間での様々なアクティブラーニングの体験との相関の有無から、仮説の検証を進めていきます。

(4)卒業生調査の本格導入

 また、卒業生による評価も本格的に導入を行います。「大学での学びの本当の効果は、社会人になり数年後に感じられる」「卒業後の学生の社会での活躍まで大学は責任を持つ必要がある」といった意見をよく聞くようになり、卒業生調査から学修成果を検証していく重要性が高まっています。卒業生アンケートは以前にも実施したものの、回収率は5%程度で、教育改善にまで生かせていません。過去の反省から今回はインタビュー調査を行い、実質的に教育改革につなぐことのできる情報を引き出すべく、ヒアリング項目を精査するところまで進んでいます。

4.おわりに

 本学科の教育改善は、地域総合科学科に適合する方向で進めてはいますが、アクティブラーニングの活性化と学修成果の可視化は、いずれも、教員と学生がともに授業の到達目標を意識できる環境の整備に帰結します。いわば、高等教育が共通して抱えている課題に挑んでいると言えます。
 しかし、上述の取り組みはスタートしたばかりであり、まだ成果を確認できた訳ではありません。統合的評価提示システムの実運用やディプロマポリシーの妥当性の分析など、これからの課題が山積しています。しかも、成果が確認できたとしても、ラーニングアウトカムを可視化することで学生は自身の学修について振り返り、授業への取り組み方を改善し、教員は自らの授業の評価を行うといったことが恒常的に繰り返されるように、取り組みを促進していくことが課題となります。
 本学の取り組みはオリジナルサイト[3]でその都度公開していています。AP事業の期間中には、交流を目的として「地域総合科学科サミット」(仮称)の開催も予定しています。

参考文献および関連URL
[1] 文部科学省「地域総合科学科について」
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/tandai/04031902.htm
[2] 文部科学省「社会人基礎力を育成する授業30選実践事例集」
http://www.meti.go.jp/policy/kisoryoku/25fy_chosa/Kiso_30sen_jireisyu.pdf
[3] 京都光華女子大学短期大学部ライフデザイン学科オリジナルサイト
http://www.koka.ac.jp/lifedesign/

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