特集 教学マネジメントの試み

徳島大学の教学マネジメントとAP採択事業
「SIH道場」による全学へのアクティブ・ラーニング展開の試み

川野 卓二
(徳島大学総合教育センター 教育改革推進部門教授)
久保田祐歌
(徳島大学総合教育センター 教育改革推進部門特任助教)

1.教育機能強化プラン

 教育再生実行会議にて平成25年5月に出された「これからの大学教育の在り方について(第三次提言)」は、その後の本学の教育改革の方向に大きな影響を与えており、国立大学改革の基本的考え方に基づいて、本学の四つの機能(教育、研究、地域中核、大学病院)強化に向けた「徳島大学教育機能強化プラン」の策定(平成25年7月)に繋がっています。教育機能の強化では、1)ミッションの再定義を踏まえた教育体制・環境の全学的・継続的な改善、2)学長のリーダーシップによる学部・教育部を超えた総合的な教育プログラムの構築、3)社会変革を可能とする創造性を育む教育への質的転換、4)グローバル人材の育成、5)各大学のアドミッション・ポリシーにふさわしい意欲・能力・適性等を有した学生の確保(高校までの達成度把握を前提とした、多様な人材を発掘できる丁寧な入試の実施)、6)教育の質保証、7)学生支援の七つの柱を設けました。

2.教学マネジメント・チーム

 提言に対してこのように迅速な対応プランの策定を行うことができた大きな理由は、学長を中心とした教育担当理事、教育担当副理事、学部長、病院長、学務部長で組織する教学マネジメント・チーム(教学MT)を平成24年10月に設置していたことです。この教学MTでは、本学において速やかに対応すべき教育改革の事項について全学的な教育改革の方向性を示すための検討を行っており、本学の教育改革を全学的に実質化させるため、各学部と教育・学生関係の全学施設との間で、教育改革・改善、学生支援の取り組みの方向性を共有しつつ、連絡・調整を図る組織として全学教育推進機構が設置されています。
 平成26年度からは、より一体的に教育を推進するとともに運営の効率化を図る観点から、機構を構成する組織の一部であった4センター(アドミッションセンター、教育改革推進センター、学生支援センター、キャリア支援センター)を総合教育センターとして統合しました。これは、大学改革の迅速かつ強力な実現が求められる中、本学の教育改革を全学的に実質化させる必要があり、教学MT及び教育戦略室の下で、入学者選抜、教育改革、ICT活用教育、学生生活及びキャリア支援に関する主要施策を総合的に推進することにより、本学の教育及び学生支援の充実・改善を図るとともに、全学教育推進機構の下に他の教育関係センターとの連携を図ることを目的とした設置でした。
 また、それと相まって、FD専門委員会がFD委員会と名称を変更し、大学教育委員会の下部委員会としての位置づけから独立し、他の学生委員会や入試委員会と同等の全学委員会として位置づけられるようになり、FD活動を通じた教育改革重視の強力なメッセージを発することになりました(図1)。

図1 教学ガバナンスの機能強化に向けた組織関連図

3.ミドルレベルのFD活動

 総合教育センターは教育の質保証を進めるため、カリキュラムマップ、科目ナンバリング、アクティブ・ラーニング、ルーブリック、ポートフォリオ等の調査研究の推進及び、本学の教育の質保証に寄与する手段の企画・提案を行っており、それぞれに関わるワークショップ形式を中心とした研修の企画・運営を担当しています。特に、カリキュラムマップの作成や、科目ナンバリングシステムの構築は、ミドルレベルのFD活動として、全学部、学科・コースのFD委員や教務委員を巻き込んだ組織レベルの取り組みとなっています。そして、平成28年度から、科目ナンバリングを全学的に導入するための準備を、現在急ピッチで行っています。
 一方、ミクロ(個人)レベルの教育改善としてのFD活動は、授業改善に関わるFDへの取り組みが中心になりますが、本学では、平成26年度に採択を受けた大学教育再生加速プログラム(AP)事業「SIH道場〜アクティブ・ラーニング入門〜」を通じて全学的な取り組みを行っているためミドルレベルともみなせるFDになっています。以下後半部にその概要を少し詳しく述べることにします。

4.大学教育再生加速プログラム(AP)事業「SIH道場〜アクティブ・ラーニング入門〜」の取り組み

(1)「SIH道場」の取り組み趣旨

 「SIH道場」は、「鉄は熱いうちに打て(Strike while the Iron is Hot)の頭文字を冠する本学の初年次教育プログラムです(平成26年度文部科学省「大学教育再生加速プログラム(AP)」テーマI「アクティブ・ラーニング」に採択)。平成26年度を準備年度とし、平成27年度から学部一年次生全員が受講しています。
 SIH道場は、1)専門分野の早期体験、2)ラーニングスキル(文章力・プレゼンテーション力・協働力)の修得、3)学修の振り返りの三つを必須要素とし、これらを組み込んだプログラム設計を各学部・学科単位で行っています(平成27年度は15プログラムが展開)。
 SIH道場の目的は、初年次生が大学での学びへ転換するための基礎固めを行うことです。学生は専門分野の早期体験をとおして学修や研究への意欲を高め、ラーニングスキルの修得をとおして学修スキルを修得し、学修の振り返りをとおして主体的に計画を立て学び続ける習慣を身につけます。これにより学生は入学時の意欲を保ち学修を継続することができます。
 SIH道場では学生の能動的学修を促すために、教授法としてアクティブ・ラーニング(以下「AL」と表記)の手法を導入しています。本学では、ALを「学生自らが考え抜くことを教員が促し、学生の能動的な学修を促進させる双方向の教授・学修」と定義しています。担当教員はSIH道場を実践しながら1)ALの実質化、2)反転授業、ルーブリックによる評価法の修得、3)教育経験の省察を行います。SIH道場は教員にとってティーチングスキルを身につけるOJT型のFDとしての機能を持っています。SIH道場で学生と教員が共に学び合うことで、ALが学士課程全般に浸透するという仕組みです。

(2)SIH道場の設計・運営・実施体制

 各学部・学科のSIH道場の授業設計は、プログラム単位で1名以上選出された授業設計コーディネーターが担い、AL型授業の設計(目的・目標・スケジュール・教材・評価等、シラバスの作成)及び授業担当者の選定などの実施準備を行います。授業担当者はSIH道場を通してAL型の教授法を用い、反転授業やルーブリックによる評価を行います(本年度は全専任教員の約22%に当たる188名が担当)。そして実施後に、授業実践の省察をeポートフォリオ上で行うことで取り組みの改善点を見つけ目標設定を行います。担当者は新しく学んだ教授法を担当する別の科目に導入することが期待されています。担当者が年度ごとに交代することでALの教授法等を身につけた教員の割合と共にAL型授業の実施率が増加し、授業設計コーディネーターも年度ごとに交代することで、AL型授業設計の手法を身につけた教員数も増えていきます。

(3)支援体制

 コーディネーターがSIH道場の三つの必須要素を組み込んだ授業を設計・実施するために、総合教育センター教育改革推進部門(担当所掌事務は、学務部教育支援課 教育企画室)が支援を行います。コーディネーターが円滑に設計・運営を進めるために、キックオフミーティングの開催、授業設計のサンプルの提示、授業計画・実施中の個別相談、授業担当者確定後のFD・説明会、効果検証のための調査・分析を行い、SIH道場の取り組みを全学的に共有するために、「振り返りシンポジウム」の企画・運営を行います。また、授業で使用する教材については、コンテンツ作成ワーキンググループ(部門教員、ICT活用教育部門教員、有志教員数名から構成)が学生用テキスト、反転授業のビデオ教材、ルーブリック等を作成しサンプルとして提供しています。

5.大学教育再生加速プログラム(AP)事業としての改善のプロセス

 AP事業全体としては、各部局から構成されるAP実施専門委員会(委員長は教育担当理事)が事業計画に基づき運営を統括し事業を推進します(図2)。SIH道場については、プログラムを改善に繋げるための評価指標を策定し、学生と教員の目標到達度等を把握するためのアンケート調査等を行っています。授業設計コーディネーターが、学生の学修成果(レポートやプレゼンテーション等の評価)や学生アンケートの集計結果を参照し、設計したプログラムが学生の学修や研究への意欲を高めるものだったか、ラーニングスキルが修得できるものであったか、学修の振り返りができるものであったかを「プログラム設計評価シート」に基づき自己評価した結果をとりまとめます。AP実施専門委員会が主催する「振り返りシンポジウム」においては、コーディネーターは実施報告、ポスター発表を行い、他学部・他学科と優れた取り組みや課題を大学全体で共有します。加えて、SIH道場に関する評価・改善WG委員の学生も参加し、良い点・改善点について報告します。次年度のSIH道場のコーディネーターは、前年度の担当者が提示した改善に向けた対応策や学生の意見を踏まえた設計を行うことでプログラム改善に繋げることができます。また、AP実施専門委員会において全プログラムに共通する課題を抽出することで、支援内容や方法の見直しを図っていきます。
 AP事業が到達すべき目標としては、ALを導入した授業科目数の割合等の必須指標の数値目標があります(本学独自の指標として、ラーニング・ポートフォリオ、反転授業を導入した授業科目数の割合等も設定)。現在、SIH道場の実施と並行して、AL、ラーニング・ポートフォリオ、反転授業の専門科目への普及・浸透のための支援を行い目標の達成を図っています(学内事例の調査及び事例カードの作成、専門科目におけるAL、反転授業等の実践事例共有のシンポジウムの開催等)。
 SIH道場を含むAP事業の取り組み全体については年度ごとに自己評価を行い、外部評価委員会による評価を受け、事業運営及び達成状況を確認し必要な見直しを図ることにより改善を行います。

図2 AP事業の実施体制

6.まとめ

 徳島大学では、教学MTが主導的な役割を果たすことで、学内のカリキュラム全体を対象とするミドルレベルのFD活動を中心に行うことができる体制が整ってきました。カリキュラムマップの作成や科目ナンバリングシステムの構築、「SIH道場」の円滑な実施はその大きな成果と言えます。教育改革は、スポット的な講演会や研修会によって実質化するのではなく、普段からの努力によって定例化、日常化した取り組みの積み重ねに依るところが大きいと言えます。学内のFD推進を議論する場が幾重にも設けられ、その日常的な活動を通じて教員の教育に対する意識改革を促進し、教員も含めた真の生涯学修者の育成につながる教育改革の浸透に貢献していきたいと考えています。


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