教育・学修支援への取り組み
追手門学院大学は、1888年(明治21年)に西日本で最初の私立小学校として、大阪城の三の丸の近くに創設された大阪偕行社附属小学校を前身とし、1966年(昭和41年)に創立されました。2015年4月より地域創造学部を設置し、経済学部、経営学部、社会学部、心理学部、国際教養学部の6学部4研究科を有し、大学、大学院の総学生数は、6,527人(2015年5月1日現在)、専任教員数は344名(2015年5月1日現在)です。
本学の教育理念は「独立自彊(どくりつじきょう)・社会有為」です。地域社会、国家および国際社会において、指導的役割を果たしうる人間の育成をめざし、2016年には創立50年を迎え、伝統を重んじ、絶えず教育の向上を目指し、日々進化している大学です。
学校法人追手門学院では、創立120周年を機に学院全体の長期ビジョンを2008年に策定し、具現化が始まりました。2010年には、当時の常務理事を委員長とした学外有識者、理事、副学長、法人事務局長から構成された将来計画推進委員会が具体的な将来計画を策定し、2012年には、当時の学院長、常務理事、学長、幼稚園、小学校、中・高等学校、教育参与からなる学院教育改革検討委員会が具体的な施策を答申しました。これらの学院方針を追手門学院大学で具現化すべく、教職員が一つとなり、教育改革、教育改善を行っています。
2014年には、長期ビジョンの具現化の一つとして、ICTを利用した教育・研究設備の充実や、学修支援の拡充を行い、学生中心の学びを増やすために、教育・研究系情報機器入れ替え(以下、リプレース)を行いました。
このリプレースの具体的内容については、大学教員と情報メディア課・教務課の職員を中心とするワーキンググループで主に検討されました。組織としては、2012年に作られた「2014年教育研究系情報通信設備検討部会(略称:教育系リプレース検討部会)」が端緒で、その後、「リプレース検討プロジェクト」となり、2015年2月まで運営実行されました。
リプレースのコンセプトは、「どれでも、どこでも、いつまでも・・・活かせる追大の『学びとつながり』」とし、入学前から在学中、そして、卒業後にも学院とのつながりが持てるよう、システム設計を行いました。
「どれでも」については、デバイスやOSが異なっても利用可能なシステムを検討しました。特に、スマートフォンやタブレットでの利用を促進することを目標としました。「どこでも」については、システムがスマートフォンやタブレットに対応することで可能になると考えました。また、キャンパス内では通信費を抑制できるよう、キャンパス全域での無料無線LAN網を整備することにしました。「いつまでも」については、メールアドレスの永年利用や学修成果物を在学中だけではなく卒業後も閲覧できるようなeポートフォリオ機能をシステムに導入することにしました。
このようなシステムでは、授業支援システム(LMS)の部分が重要となることから、リプレースでは、LMSをどうするかについて多くの時間が割かれました。従来からあるシステムにおいても授業支援の機能はありました。しかし、積極的に活用されているとは言えない状況でした。そこで、教員対象にアンケートを実施し、教員の不満や利用上の問題点を洗い出しました。加えて、それまでに寄せられていた情報メディア課への要望、改善点等をまとめ、ワーキンググループで議論を重ねました。その結果、授業の中で授業支援機能をどのように活用すればよいかが不明瞭であることが問題だと分かりました。具体的には、
といった点がありました。何よりも教員が「操作が難しそう」もしくは「操作が面倒くさそう」と感じていることに問題があると考えました。
このような問題点を解決するためには、LMSの機能的な側面を検討するよりも、インターフェイスに関する側面を重視することが重要だと考え、導入するLMSは、
であることが必要であると考えました。また、タブレットPCやスマートフォンが普及していることを考慮し、これらのデバイスでも利用可能なものがよいと考えました。
タブレットやスマートフォンにおいてもLMSが利用可能になることで、一般講義科目の授業時間内や通学の移動時間中にLMSを利用した学修が可能になります。学生は授業時間内に簡単なアンケートに回答したり、移動時間に教材を閲覧したり、練習問題に解答したりといったことが可能になります。
ワーキンググループでは、これまでLMS利用が進んでいなかった一般講義科目で利用を促進する方策についても検討しました。その結果、インターフェイスを使いやすくしても、教員が一般講義科目で行っている内容の一部をLMSで代用できるようにならなければLMSの利用は進まないと考えました。
そこで、教員が一般講義科目でよく行われている紙媒体による出席管理や授業の感想を記入してもらうコミュニケーションシートをLMSに取り込むことを考えました。そのために、OCRのシステムを導入し、その結果をLMSで学生に返却できればよいのではないかと考えました。このようなシステムは他大学で稼働している例もあり、提出の確認や成績の算出において教員の負荷軽減が期待できることが分かりました。このことから、OCRシステムを導入し、LMSと連動させることを検討しました。
いくつかLMSを検討した結果、導入するLMSは日本データパシフィック社のWebClassに決まりました。しかし、前節の問題を解決できないと考え、この点を伝えたところ、日本データパシフィック社からタブレットPCのインターフェイスに関する共同研究の申し出があり、今回の開発が始まりました。なお、以降で説明するインターフェイスはすべてインターネットブラウザ上で稼働するもので、HTML5が表示可能であれば、OSに関係なく表示できます。したがって、デスクトップPCだけではなく、タブレットやスマートフォン上でもインターネットに接続していれば利用することができます。
まず、LMSを授業中に用いる場合、今取り組んでいる課題やアンケートにすばやくアクセスする必要があります。そこで、LMSに保存されているコンテンツを種類別に表示するのではなく、コンテンツが公開された時系列に沿って表示するようなインターフェイス「タイムライン」を考えました。Facebookと同様に、最新の情報がリストの最上位に来るものです(図1)。
図1 タイムライン表示の例
タイムラインへの書き込みは、画面下部のインターフェイスを用います。テキストのみの書き込みはテキスト入力欄を利用します。レポート課題や簡易アンケート、チャット、授業資料は、 ボタンから追加できます。このボタンを操作すると、図2のような画面に遷移します。「既存教材の公開」はWebClassであらかじめ作っておいたコンテンツをタイムライン上に表示させるために用います。それ以外のボタンはそれぞれのコンテンツを作成してタイムライン上に表示させるために用います。図3は簡易アンケートを作成するためのインターフェイスです。アンケートのタイトルやアンケートのスタイル(単純選択・複数選択など)、質問文、添付ファイル、スライダーバーで調整する選択肢数が設定できます。
図2 コンテンツ選択画面 図3 簡易アンケート作成画面
図4は簡易アンケートの結果を表示したものです。アンケートの結果は一定間隔で更新されるので、学生の回答状況を確認しながら進めることも可能です。
なお、タイムライン表示は時系列でさまざまなコンテンツが並ぶため、学生が授業後に未提出の課題に取り組みたいような場合には使いにくくなります。そこで、コンテンツの種類別に表示するインターフェイスも用意してあります(図5)。
図4 簡易アンケート集計
結果表示画面図5 教材表示画面
このように、タイムラインインターフェイスでは、教員が必要なコンテンツ作成や学生への公開、提出状況や回答状況の集約をできるだけ少ない工程で、かつ、直観的に実現できるようにしました。その結果、授業中に教員が即時的に利用することができるようになりましたが、このインターフェイスからでは凝った教材やアンケートを作成することはできなくなりました。そのような場合は、WebClassがデスクトップPC用に用意しているインターフェイスを利用してもらうことにしました。
紙媒体で提出した成果物の電子化を行うため、OCRとの連携機能を組み込みました。これは、授業中に用いる紙媒体のコミュニケーションシート等をLMSに取り込み、タブレット上で教員が採点できるようにするというものです。
本学のLMSは使いやすさに重点をおいて、そのインターフェイスを開発してきました。2015年4月から全学部生を対象にして本格稼働を始め、学生および教員の利用割合について調べてきました。図6はログインした学生の割合を学年別に示したものです。1年生では90%以上の学生がログインしていることが分かります。4年生は授業が少なくなっていることもあり、利用率が低くなっています。そこで、1年生のログイン回数についてヒストグラムを作成したところ、図7のようになりました。横軸が回数で、縦軸が人数を表しています。これによると、20回から30回あたりの人数が多いことが分かります。このことから、一度だけ試しにログインしたというよりも、授業で何度か利用したと思われる結果になっています。
図6 学生の学年別ログイン者数割合
(2015年4月から7月まで)図7 1年生のログイン回数
(横軸がログイン回数、縦軸が人数)
図8は、ログインしたことのある教員の割合と、ログイン回数のヒストグラムです。本学の教員数は非常勤講師も含めて344名です。教員の利用率はまだ半数に至っていないことが分かりました。また、利用回数も数回程度の割合が多く、実際に利用されている割合は少ないように思われます。
図8 教員のログイン割合とログイン回数
利用した授業としては、SPSS統計分析授業、インターシップ説明会等、全授業を対象として利用促進を行っています。
これまで、教員に対する操作説明会は本格稼働前の2回に留まっています。このことが利用率の上がらない原因の一つではないかと考えられます。また、機能を紹介するようなマニュアルの整備も十分できていません。一方、この利用率はこれまでの授業支援システムの利用率より高く、使いやすそうなインターフェイスの効果が現れていると考えています。
タブレットやスマートフォンでの利用を前提としたインターフェイスを開発したことで、授業内での利用可能性は高まったと考えています。学生にとっては使いやすいインターフェイスになっています。教員にはどのように使ったらよいか分からないという意見もありますが、OCR機能は十分魅力的であるようです。このことは利用統計からも推測できます。
一方、問題点も数多くあります。まず、マニュアルの整備ができていないことです。インターフェイスについては現在も改良を加えており、定期的に更新されています。したがって、マニュアル関係の整備は遅れざるを得ません。この点については今後整備する必要があるのですが、ビデオ映像を用いたものも作成しようと計画しています。
次に、インターフェイスをより洗練されたものにする必要があります。現状はWebClassの機能的な制約によって一見無駄に見える操作や画面表示があります。これらを精査して、より使いやすいインターフェイスを目指す必要があります。また、WebClassで提供されている機能の中で、授業実施上必要な機能があれば利用できるように改良を加えていくことが必要です。ただし、使いやすさと分かりやすさが優先されるべきであると考えています。
文責: | 追手門学院大学 経営学部教授 原田 章 図書館・情報メディア部 情報メディア課 中条 貴夫 |