事業活動報告 No.2

平成27年度 教育改革ICT戦略大会 開催報告

 国は、未知の時代に向かって自ら考え行動できる学力を生涯に亘り身につけることができるよう大学教育の質的転換を図るとして、思考力・判断力・表現力や主体性をもち多様な人々と協働できる「真の学力」の育成を掲げ、高校教育との接続の中でそれぞれ改革を進めていくことを提言している。
 このような状況を踏まえて今年度の大会は、アクティブ・ラーニングによる教育改善、学修成果の把握と可視化に向けた教学マネジメントの確立、大学教育と高校教育をつなぐ入学者選抜のあり方などの観点から、「真の学力」を育成する教育政策や教育方法、支援環境などについて探究することを目指し、平成27年9月2日から4日までの3日間、アルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)で、「『真の学力』を育成するための教育の大転換」を開催テーマとして開催した。3日間の参加者総数は、374名(157大学、9短期大学、賛助会員12社)であった。
 第1日目の全体会では、向殿政男会長(明治大学)の開会挨拶の後、アクティブ・ラーニングの重要性と課題、全学へのアクティブ・ラーニング展開、反転授業を推進するための方策、学生の主体性を引き出す新たな取り組み、高大接続システム改革の現状と展望に関する講演・事例紹介を行い、大学教育の質的転換を図るための課題や提案、具体的な手法について情報の共有を図った。
 第2日目は、第1日目の全体会であげられた課題や提案について、より深めるため、分科会形式によるテーマ別自由討議を実施した。「地域社会での活躍を目指したアクティブ・ラーニングによる人材育成」、「学修行動のモニタリングと学修成果の可視化」、「教学マネジメント体制の確立への試み」、「価値を創出させるデータ活用力の教育モデル」の4テーマについて参加者を交えた討議を行い、大学としての取り組みと課題を共有し、課題の共有と解決の方向性について模索した。また、分科会終了後に参加者のコミュニケーションの場として情報交流会も行った。
 第3日目は、教育や支援環境へのICT活用について77件の公募による発表をA〜Eの五つの会場で、同時に実施した。また、2日目の午後から3日目にかけて大学・企業共同によるICT導入・活用の紹介として、賛助会員の企業と導入大学によるポスターセッションを実施した。

第1日目(9月2日)

全体会

【アクティブ・ラーニングを知る】
アクティブ・ラーニングの重要性と課題

長崎大学 大学教育イノベーションセンター教授 山地 弘起 氏

1.「アクティブ・ラーニング」の政策化と背景

 平成24年の中央教育審議会答申で教育の質的転換が謳われ、平成26年中央教育審議会「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について(諮問)」で、「課題の発見と解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習(いわゆる「アクティブ・ラーニング」)」とそのための指導法の充実の必要性が指摘された。
 背景には、経済団体連合会の新卒採用調査では、期待する能力の1位〜3位がコミュニケーション能力、主体性、チャレンジ精神となっている。また、経済同友会の調査では、必要な能力の約9割が問題解決、批判的思考、論理的思考などとなっている。

2.「アクティブ・ラーニング」の意義と諸形態

 現在の学生は思考や対人調整は面倒に思う方向にあり、変化の激しい社会を生きていく中で、生涯学習や市民性に向けた学習観・学習行動習慣を変容させていくことがアクティブ・ラーニング(以下、AL)の意義である。
 ALの形態は、一般的にイメージするPBLやフィールドワークだけでなく、知識の定着・確認を目指す演習・実験・調査・反転授業、知識の活用・創造を目指すプロジェクト学習・創成学習、表現志向のプレゼンテーションやディスカッション、応用志向の問題基盤学習やケースメソッドなど、非常に広範囲に亘っている。
 1987年(昭和62年)の米国の学部教育における「アクティブ・ラーニングとその実質化の条件」では、よい授業を実践するためには「学生間の協働」、「能動的な学習」、「教員と学生のコンタクト」、「迅速なフィードバック」、「学習時間の確保」、「学生への高い期待」、「多様な才能と学修方法の尊重」の七つの原理があることが報告されている(図1)。これらの主体的な学習習慣の育成を通じて思考を活性化することが、ALを実質化していく条件である。

図1 出典:長崎大学 山地弘起氏 講演資料

3.教養教育におけるアクティブ・ラーニング事例

 本学の教養教育におけるALでは、1年後期〜2年後期にかけて全学を対象に「コミュニケーション実践学」というモジュール形式の科目を設けている。1年次は必修で「コミュニケーションの基礎を学ぶ」、2年次の前期で「自己・対人関係の学びを深める」、後期で「社会・異文化との関わりを学ぶ」にそれぞれ3科目を設け、2年次の前期・後期の6科目のうち、3科目を選択する。私が担当する授業は「自己・対人関係の学びを深める」に属する「対人世界の心理学」で、授業の軸は、学部・性別混成の5名のホームグループ(以下、HG)を構成し、資料要約と疑問等の準備、ジグソー学習、プレゼンテーションとメモリーワークを含めた学習まとめとしている。
 具体的には、教科書は授業外時間で学習し、各人一つのテーマでジグソーのリーダーを担当する。図2のようにHGの中から担当者(学習リーダー)が出てきて、例えば章の第1節(図中:赤)、第2節(図中:緑)、第3節(図中:黄)と分担を決め、この学習リーダーが学習グループを作る。他のグループからも出てくるので、第1節のエクスパート達、第2節のエクスパート達が揃い、そこで自分の予習してきた内容を共有する。疑問点や感想・意見を踏まえて、第2節、第3節を担当した他のメンバーに、この内容を学んでもらえるように工夫する。そして、改めて元のグループに戻り、作成した提示資料を見ながら学習リーダーがグループ・プレゼンテーションを行う。

図2 出典:長崎大学 山地弘起氏 講演資料

 その後、学習内容の消化を促すため、個人的な体験記憶と関連づけて振り返るメモリーワークを行い、最後にレポートの書き方を指導する。
 評価は、全学共通授業評価項目にモジュール科目固有の項を加えた自己評価で行う。評価用質問紙は「学ぶ力」(主体的学び)、「考える力」(論理的思考)がそれぞれ5件法、「関わる力」(関係調整)、「表現する力」(表現力)が7件法で構成されており、思考力は批判的評価態度尺度で、人と関わる力や表現力等は対人関係の側面を尺度化し評価する。
 授業の成果は、グループワークで記述を主としない別の体験学習よりも本学習のほうが有意であることが確認された。また、学生のフィードバックからは、「少しは物事に疑問を持つ姿勢ができた」「様々な読み方、考え方を学ぶことができた」「自分で発言することで内容をより深く理解し、次に生かしやすいことがわかった」「人の考えを聞けるようになった」などが寄せられた。
 改善点としては、プレゼンテーションの仕方や質疑応答のあり方、討論の深化等にはより丁寧な指導が必要であること、毎回の課題に対する教員からのフィードバックが遅れがちになり、タイムリーな対応ができなかったことがあげられる。

4.アクティブ・ラーニングの課題

 これまで主体性や協働性が学校教育で重要視されながら育たなかった背景として、人から批判されたくない、人と違いたくないという、考えなくてもよいようになっていることで、主体性を相互抑制するパッシブ・ラーニングが考えられる。これを克服するには、自分の言葉で思考を深めるために他者との真摯な対話関係を築くことが重要で、学校教育に決定的に欠けていたものは、自分で判断し、責任をもつという勇気の涵養であり、失敗を許容する態度を醸成しながらALを進めることが必要である。

【質疑応答】

[Q1]
自己評価だけでなく他者評価も行うことについてどう思うか。
[A]
評価については自己評価だけでなく他者評価も必要で、両方合わせて学生にフィードバックし、ポートフォリオ等を通じて指導するのが望ましい。
 
[Q2]
パッシブ・ラーニングを打ち砕く具体的な仕掛けは何か。
[A]
批判的思考は非難ではなく、自分の気が付いていないところを気付かせてもらうものだと学生に理解させるため、批判的なやりとりをしているモデルを最初に学生に見せると効果的である。また、人の話を聞いて自分の意見とすり合わせて意見を述べる訓練として、4・5名のグループでディベートを行わせることも一つの方法である。
 
[Q3]
批判的に聞くことができる態度を育成するには、どのような方法があるか。
[A]
身近な問題をテーマとした「問い」、新聞記事など答えの部分になる「主張」、「根拠」、「論拠」、「異論・反論」を評価の観点にしたワークシートをもとに、学生一人で考察した後にディスカッションさせるのも訓練となる。
 
[Q4]
実際の社会という広い領域で活用できる、いわゆる大きい知識の獲得にALは貢献できるのか。
[A]
学生が自分の知識や体験に結びつけて知識を定着させ、考えさせることを可能とするだけでも、ALを実施する効果は大きいと考える。
【全学へのアクティブ・ラーニング展開】
ポートフォリオを活用したアクティブ・ラーニングスキルの浸透

徳島大学 総合教育センター教育改革推進部門教授 川野 卓二 氏

 全学的取り組みである「SIH道場」とは、Strike while the Iron is Hot(鉄は熱いうちに打て)からきている。これは、初年次教育でのアクティブ・ラーニング(以下AL)、特に、反転授業、グループワーク、専門領域の早期体験等の振り返り、ポートフォリオの活用を基礎として実施し、学生がラーニングスキルを教員がティーチングスキルを向上させることで、学生と教員ともに学び合い成長することで、ALを学士課程全般に浸透させることが狙いである。
 本取り組みは、平成26年度大学教育再生加速プログラム(以下、AP)に採択されたもので、AP実施専門委員会のもと、総合教育センター教育改革推進部門が授業支援として、授業設計のサンプルの提示、学生用テキスト、反転教材、ルーブリックなどのコンテンツ作成と提供、授業設計コーディネータ(以下、CC)による相談対応、授業改善に向けた評価指標の策定分析などを実施している。
 教育プログラムとしては、専門分野での早期体験による学修の動機付け、ラーニングスキルの修得(反転学修・グループワーク等の実施)、学修の振り返り(eポートフォリオによる省察)を必須として展開している。また、学部・学科の授業担当者はCCと連携し、学生指導、学生へのeポートフォリオでのコメント、授業担当者の授業実践の振り返りをティーチング・ポートフォリオとして行うとともに、新教育方法を学んでいる。授業アンケート等も行い、CCやAP実施専門委員へ報告している。
 現在、新入生1,400名が「SIH道場〜AL入門」を受講している。教員は15の教育プログラムに165名が関わっている。
 FDは平成14年より実施している。平成27年度のFD推進プログラムは、ミクロ、ミドル、マクロの三つのレベルに分かれている。ミクロは個人レベルでの授業改善で、新任教員に対してはワークショップ、教員全般に対しては教育を研究する教育カンファレンス、査読付きの教育研究ジャーナル発行などである。ミドルレベルでは、教務委員やFD委員がカリキュラムマップやナンバリングの作成を行う。教員自身のFDを振り返るために、ミクロ・ミドルでティーチング・ポートフォリオも活用し始めている。マクロレベルは、理事や学長によるワークショップ参加・見学などであるが、あまり取り組まれていないため、今後に促進していくよう検討中である。
 教員の50%はALを実践しているが、「ALが形式だけにとどまり効果が出ない」、「反転授業など新しい教育方法が分からない」、「自らの授業を振り返り改善を検討する機会が作れない」ことが課題となっていた。そこで、SIH道場での実践を通じてALを実質化できるよう、ルーブリック評価や反転授業等を修得し、ティーチング・ポートフォリオの活用により教育経験の振り返りができるようにしている。
 授業で使用する教材については、部門教員、ICT活用教育部門教員、有志教員数名が構成するコンテンツ作成ワーキンググループが学生用テキスト、反転授業のビデオ教材、ルーブリック等を作成し、サンプルとして提供している。eポートフォリオはノートシステムを併用し、学内3ヶ所にALスペース教室を整備している。
 本プログラム改善に向けた評価としては、評価指標を策定し、以下の通り行っている。学生と教員の到達目標の達成度の評価はアンケート調査を行う。教育実践の振り返りは、授業概要、授業方法、学生の学修成果を踏まえた授業の評価、継続点・改善点、専門科目に活かせる今後のアクションプランについて行い、ティーチング・ポートフォリオに記述する。SIH道場の教育プログラムについては授業設計コーディネーターがプログラム設計評価シートに基づいて自己評価する。授業設計や実践方法に関する優れた事例や課題は「振り返りシンポジウム」で報告し、大学全体で共有・議論する。また、学生も参加して良い点・改善点を報告するとともに、外部評価委員からもコメントをいただく。
 以上のSIH道場の取り組みが全学的・実質的な教育改革につながってきているが、正に個々の教員の努力によるものであると実感している。

【反転授業を推進するための方策】
反転授業の実践を踏まえた教室授業の工夫と教員への理解促進

山梨大学 大学教育センター副センター長 森澤 正之 氏

 理工系・医薬系学部での講義にアクティブ・ラーニングを取り入れる際の問題は、授業内容と知識伝達量を減らせないことである。今までの講義を反転授業で行えば、授業内容と知識の伝達量を減らすことなく、対面授業の時間をアクティブ・ラーニング(AL)に割くことが可能になる。その際、留意すべき点は、第一段階として教育内容、教授法、教材などの授業設計の検討と、第2段階としてビデオ収録と配信方法、第3段階としてALと組み合わせる体面授業の運営(ファシリテーション)である。
 反転授業の教材をどう作るのか、教材作成に手間暇がかかるのではないかと教員は尻込みし、結果として実現しないのが現状と思われる。本学では、教員が既に講義に用いているパワーポイント等のスライドを用いて、簡単に事前学修用の動画を作成することで教員の負担を軽減し、どの大学でも実現可能な方法で取り組んでいる。
 動画作成には、スライドキャストシステムまたはスクリーンキャストシステムなどのPC画面をビデオ収録するシステムを利用しており、話しながらPC画面を表示させていくと、PC画面と音声が同期し、マウスポインタが付いたものが動画として記録される仕組みとしている。この動画をそのままネットワークに配信し、反転授業の教材として使用する。90分の講義を動画にすると、約45分程度になる。これは、学生の顔を見ながら話す必要がないからで、1回分の講義を内容により何分割かに分け、10分程度の動画をいくつか作ると、学生にとっても見やすく、教員にとっても簡単に動画が作成できる。このシステムの活用で動画作成が簡単となり、対面授業時の学生の反応を次の動画作成に反映することが可能となっている。
 反転授業を成功させるには、事前学修の動画と同じ内容を対面授業で講義しないことが重要であり、対面で講義を行うと、学生が事前学修しなくなる。また、何をどこまで事前に学修させ、対面授業でどのような成果を出させるかという授業設計が大切である。15回すべての授業で反転授業を展開するのではなく、最低でも5回以上は実施するようにし、1回目の授業では効果が見えなくても3・4回目から効果が見えるようになる。
 反転授業に切り替えた結果、低得点者層が減り、高得点者層が非常に増えることが確認された。また教員からの評判も良く、工学部で始めた反転授業が医学部、さらには教育人間科学部、教育学部へと広がっているのは、教育現場の教員が反転授業の効果を認めた結果と思われる。

【学生の主体性を引き出す新たな取り組み】
産学連携による「課題解決型」初年次教育

初年次教育におけるPBL型授業と運営の工夫、受講生から見た学習効果の紹介

一般社団法人 Future Skills Project研究会(FSP研究会) 事務局長 平山 恭子 氏

 社会で活躍できる人材をどのように育成すべきか産業界と大学教育有志で6年に亘り議論した結果、日本と海外の学生を比べた際に何が違うのか意見が一致した点は、「スキルではなくマインド」で能力を発揮するためのエンジンとして「主体性」が不足していることであった。教えられた段階で主体性ではなくなることから、「主体性を引き出す」機会を教育の場で設けることが肝要とし、企業の協力を得て「産学協同PBL講座」を開設して、大学入学直後の節目である高揚感の感情が交じり合う初年度に非常にインパクトのある経験をさせ、何を目的に、どう学ぶのかを、自ら真剣に考え、主体的に学ぶ体験学習を行っている。この試みでは、社会に出てから7〜8年後に直面する課題に触れさせ、失敗体験を通じて必要な力を知ることで、今の自分とのギャップを自覚させ、そのギャップを埋める手段として大学の学部教育があることを気付かせるよう、産学連携による課題解決型学習を展開している。テーマは企業側から直面している解のないテーマを出してもらい、大学側では、初年次教育と位置付けて実施している。
 講座は、図3の通り1年生前期に14コマで設計されており、いきなり3コマ目から5週間で一つの企業の課題解決にあたる。当然、チームワークも課題解決もうまくいかないわけで、その振り返りを8コマ目に行い、学生一人ひとりが考えられるようにした上で、9コマ目から失敗経験をもとに別の企業の課題解決にチャレンジさせ、自分達で学びを設計させるようにしている。その結果、自然に学生達は授業外でチームで学修を重ねるようになり、平均1コマ当り5時間以上の学修を行うようになっている。5コマとしたのは、アイデアコンテストではないので、知識もスキルもない状態ではこれ以上時間をかけても完成度は変わらないからである。あくまでもスイッチ講座なので、この学びをきっかけに大学での学びがどのように変わったのか、インタビューで紹介の通り、「初めて本気になって取り組むことが大事だということに気づいて、本気になれば成長できることに気づいた」などが浮き彫りになった。

図3 出典:FSP研究会 平山恭子氏 講演資料

 これまでの実践を踏まえて見えてきたことは、課題解決型学習に対応できる教員が少ないこと、教員により講座内容のばらつきがあること、SA・TAなどサポートする組織がないこと、学習に適した教室や資材・テキストが少ないこと、テーマやレベル設定など、企業への期待を共有できないことが課題としてあげられる。

企業がPBL型授業に期待する内容と学習成果

元:株式会社資生堂 人事部人材開発室室長兼キャリアデザインセンター長
現:実践女子大学 大学教育研究センター 特任教授 深澤 晶久 氏

 本取り組みを通じて、学生は意識しないうちに、社会人基礎力の要素としての主体性を磨くきっかけになり、チームでの役割認識が短い間で育まれ、企業が社員として接するので修羅場に送られたときにどうカバーリングするか復元力が磨かれていき、楽勝科目ばかりを履修して卒業に必要な単位数を稼ぐのではなく、自分にとってどの科目を勉強する必要があるのか考えるきっかけとなっている。
 本取り組みへの企業側の参加メリットは、テーマを担当する社員自身が学生の発表を聞いて瞬時に、企業の視点で学生に分かりやすいようフィードバックしなければならないため、社員の人材育成の場にもなっていることである。

担当教員から見た学習成果と課題

上智大学 経済学部教授、キャリア形成支援委員会 副委員長 荒木 勉 氏

 学生には、高校と大学との学びの違い、すなわち大学・実社会では、解のない問題に挑戦しなければならないことを初年度から認識させる必要がある。一方、産学連携教育に対して、社会と自分の能力のギャップを気づかせる必要があることを学内教員に理解してもらうことが毎回大変である。主体性は育てるものでなく、引き出すと誰でも思っているが、なかなか出てこない。
 学生は最初の企業との学習では戸惑いがあり成果が出なかったが、2回目の企業では主体的に行動できるようになった。主な課題としては、PBL型講座を展開できる教員がいない。学生の議論にどこまで入るべきかわからないなどであった。さらに学習を効果的にするには、学習経験のある上級生による助言があるとよい。

【真の学力を育成するための教育改革】
未来への教育:高大接続システム改革の現状と展望

独立行政法人日本学術振興会理事長 文部科学省顧問 安西 祐一郎 氏

 高大接続改革の具体的な目標は、主体性の態度(アティチュード)、思考力、判断力、表現力(コンピテンシー)、知識・技能(パフォーマンス)の三つすべてを身に付けられるようにしていくもので、主体性を身に付けられれば、ある程度コンピテンシー、パフォーマンスが身についてくるという見方をしている。
 テストの問題だけが改革の目玉ではなく、高校の教育、大学の教育がどのように変わってくるかが最大の焦点で、それと連動して入学者選抜を変えるべきだとしている。
 改革の方法としては、一つは、高校教育改善で、受け身の学習から能動的学習では転換を図るため、次期学習指導要領に学習方法・学習評価の記述を導入。二つは、高校における「高等学校基礎学力テスト(仮称)」導入し、知識・技能、思考力・判断力・表現力を確保し、個別の学習改善を図る。ここでは、特に「課題を見出す」「仮説を立てる」「根拠に基づいて表現する」「考えをまとめる」というような思考力を身に付けていく科目に転換しようとしているのが、次期学習指導要領で中心となっている議論である。これに伴って大学の入試をどのように変えていくかが具体的な課題になってくる。三つは、大学改革でアドミッション・カリキュラム・ディプロマの三つのポリシーを一体的にどのように実践していくのか公表しなければならないことで、これは文部科学省の省令で恐らく今年中に定めると思う。その際、付随するガイドラインも具体的に入れてくるのではないかと思う。その中でアドミッション・ポリシーと入学者選抜方法の矛盾、例えば1点刻みのペーパーテストによって意欲ある学生を選抜しようとしている、などが起きないようになってくると思う。四つは、個別大学における多角的評価による入学者選抜方法の見直しが必要になると思う。そのような中で第3ランド目に入る認証評価制度が平成30年から始まるので、大学評価の在り方について、今までの評価と変わってくる議論が始まっていくと思う。五つは、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の導入で個別の入学者選抜に資するよう、十分な知識・技能、十分な思考力・判断力・表現力などを評価するとしている。これは、日本全体の社会改革の一環として必要であり、いわゆるセンター入試ではない。新しい大学のテストだけで改革と思われると、それはまったくの誤解なのでご理解いただきたい。
 改革の全体像は、高校教育があり、大学教育がある。高校でもアクティブ・ラーニングが導入されてくることから、高校のテストの作問も思考力・判断力・表現力まで入ってくるように議論が進んでいる。
 大学入学希望者学力評価テストについては、大学入学希望者が大学教育を受けるために必要な能力を把握することを主な目的とし、「知識・技能を活用し、自ら問題発見し、その解釈に向けて探究し、成果等を表現するために必要な思考力・判断力・表現力等の能力」を中心に評価すべく、より具体的な能力内容の整理、各教科科目ごとに今後、重視し評価すべき力の明確化、これらをよりよく評価できる作問の具体化、記述式を取り入れた試験方法の開発、対象教科・科目の問題などの検討を進めている。

第2日目(9月3日)

テーマ別自由討議

分科会A:地域社会での活躍を目指したアクティブ・ラーニングによる人材育成

<課題提起>

県立広島大学 学長補佐(教育改革・大学連携) 馬本 勉 氏

追手門学院大学 地域創造学部教授、副学部長 山本 博史 氏

 本分科会では、地域社会で活躍できる人材育成を目指したアクティブ・ラーニングの取り組みについて2大学から事例が紹介された。
 県立広島大学では、生涯学び続ける自律的な学修者(アクティブ・ラーナー)を育成することを目指して体系的な学士課程教育プログラムに取り組んでいる。学生の主体的な学びを十分引き出すため、3キャンパスに分かれている専門分野の異なる学生に交流させる「参加型」「行動型」のアクティブ・ラーニングを組織的に実践している。「参加型」は、教室内でディスカッションやディベートなどの主体的な学修機会を設けて、学生の知的能動性を引き出すもので、「行動型」は、主に教室外でのフィールドワークなどの体験を通じ、キャンパスを超えた学生間や地域との交流を促すものである。この協働学修に地域も連携したテーマ学修を実施することで、授業の活性化を図った。授業を通じて、能動性や協調性には効果があったと考えれるが、学生が本当に自ら進んで問題の本質を捉えることができたかどうか課題が残されている。学生が十分な自律性を備えられるよう、全学共通教育や専門科目を担う各学科及びセンター教員の中からファカルティ・ディベロッパー(FDer)を養成すること、また、学生が学生を支援する学修アドバイザー(SA)の養成に着手している。
 追手門学院大学では、「地域社会、国家および国際社会において、指導的役割を果たしうる人間の創造」という本学の教育方針のもと、卒後、職業人として、また同時に生活者として持続可能な地域の創造に主体的に参画する人材を育成することが日本の未来を作るために必要不可欠であって、大学に課された重要な課題と認識し、「地域創造学部」を創設した。平成23年後半から新学部構想を検討してきた。また、地域の拠点が必要となるため、地域文化創造機構を大学のCOC機能の中核機関と位置づけ駅前にサテライトに設置した。
 本学部には地域経済・事業創造・起業など地域事業承継、観光、都市文化の三つのコースを設置し、学生は1コースに限定せずに学べる仕組みとしている。1年から4年までそれぞれ後期では、PBL型の演習科目を必修として設置し、地域連携によるアクティブ・ラーニングを実施している。1年次は座学で地域の基本情報の下調べを行い、地域の人に話を聞く入門編としており、2年次では地域での聞き取りにおける問題や課題の発見、3・4年次では課題解決のための実践演習を行う段階的な学びとなっている。実践演習ではどうすればよいか、学生なりの解決案を作り、地域に出向いてプレゼンテーションを行う。プレゼンテーション内容について地域から意見をフィードバックしてもらい、そこで残された新たな課題は、次年度の学生達に引き継ぎ、それを繰り返していくことで地域を支援をする仕組みとなっている。
 フィールドワークを行えばアクティブ・ラーニングだと思う教員もかなりいるが、そうではなく、本学部では、平成24年の質的転換答申で述べられているように、4年間の座学や地域PBLの演習を通じて、課題発見解決型の能動的な学修を通じて、生涯学び続けられる力を身に付けさせていくことを目指している。
 課題としては、地域連携のコーディネート業務を継続的にやっていけるような支援体制の仕組みが必要であること、また、質的転換答申の中で、教員と学生が意志疎通を図りつつ、一緒になって切磋琢磨し、相互に刺激を与えながら質的に成長する場を作るということが謳われているように、教員は自分の専門以外のことにも関心を持ってもらうことが重要で、大学も教員に理解してもらう努力が必要である。
 課題提起後の討議では、県立広島大学の3分野の学生をグループ活動させる際の留意点として、グループ分けでは意図的に分野を分けることがあげられた。また、追手門学院大学の地域での演習では、学生を現場に出すまでの指導教員の役割は、教育内容の指導以外に、保険や保護者への承諾、適切な学修環境への配慮に関する地域協力依頼、SNSでの学生の行動確認など多岐に亘っていることが確認された。

分科会B:学修行動のモニタリングと学修成果の可視化

<課題提起>

芝浦工業大学 学術情報センター長 角田 和巳 氏

山口大学 大学教育機構大学教育センター准教授 林  透 氏

 本分科会では、アクティブ・ラーニングを基本にした学生の学修行動のモニタリングと成果の可視化への取り組みについて、まず2大学から実践事例が紹介された。
 芝浦工業大学からは「世界に貢献する理工学人材育成を目標とした主体的・能動的学修の促進」について具体的に紹介された。
 本大学では、世界で活躍できるグローバル理工学人材を育成するため、大学教育再生加速プログラムを活用して、アクティブ・ラーニング改革、学修成果の可視化、教職学協働による学修の質保証に取り組んでいる。教育目標を達成する上で学生の能動的・主体的学修が不可欠であり、学修成果の定量的な評価も強く求められることから、アクティブ・ラーニングの体系化、ならびに学修成果の可視化を積極的に進める必要がある。
 工学部では、初年次教育・設計製図・実験実習・ゼミナール・卒業研究を学年進行で配置し、システム理工学部では大学院教育まで含めて講義とPBLのペアを組織的に開講することにより、4年間の体系的アクティブ・ラーニングについて展開を図っている。このようなカリキュラムが効果を発揮するためには、学修成果の可視化と学修時間の保証に関するPDCA(Plan、 Do、 Check、 Act)サイクルを着実に実行する必要がある。また、こうした取り組みの起点となるのが、学修成果と学修時間を保証するシラバスであり、授業外学修の内容に加え必要時間数について明示することを進めている。特にDoのフェーズでは、反転授業やクリッカーなどの手法を用いた講義科目のアクティブ・ラーニング化、授業ビデオの配信や学修ポートフォリオを活用した学修時間の可視化が重点事項となる。学修成果の評価ツールであるルーブリックは、卒業研究やゼミナールを中心に各学科で利用が始められており、Check機能の精度向上を目指し改善を加えていきたい。さらに、教職学による取り組みとしてSCOT(Student Consulting on Teaching)制度を規程化し、学生の視点を授業改善に取り込む仕組みを構築している。
 次に山口大学からは、学修成果アセスメントに向けた構造転換という視点から、大学教育再生加速プログラム事業(以下、AP)を中心に紹介された。
 本大学では、「アクティブ・ラーニング(AL)の推進」と「学修成果の可視化」によって、学びの好循環を実現し、「山口大学生コンピテンシー」の育成を保証することに取り組んでいる。この取り組みは、文部科学省の平成26年度APに採択されている。ALの推進については、共通教育全体におけるALの導入を推進し、また正課教育とともに正課外教育もその対象に含めている。さらに、従来の講演会形式のFDを転換し、教員・職員とともに学生が参加する対話型のワークショップを導入し、教育理念の共有と意識改革を促すことにした。また、シラバスにALポイントを明示し、ALポイント認定制度を導入し、ALへの動機付けを付与した。
 「学修成果の可視化」については、全学教育目標の明確化と学生が修得すべきコンピテンシーを明示した。その上で従来の授業評価アンケートによる授業外学修時間分析の他に、ルーブリック評価と学修到達度調査による直接評価と授業評価アンケートと学修行動調査による間接的評価の統合型学修成果の可視化を試みている。また平成27年新設の国際総合学部を手始めに、YU CoB CuS(コンピテンシーを基礎としたカリキュラム制度)を導入し、学修成果の可視化に着手した。これによって教員による学生への効果的なアカデミック・アドバイジングと全学的な教学管理の実現が期待されている。
 次に課題提起後の討議では、「各大学では、FDに関する取り組みへの意欲の低い教員への対応には苦慮している」という意見に対して、課題提起者からは「ゆっくり、スモールスタートでの始まりという理解で対応している」との回答があった。また、学生も様々で、シラバスやルーブリックの想定外となる学生も少なくないが、それにはケースバイケースでの細やかな対応しかないことが確認された。
 課題提起と討議を通じて、長期の大学の教育計画の中で、学生の成長の見える化に取り組む必要性が感じられ、また、学生目線による授業改善への取り組みも学修成果を共有するという視点から重要であることが窺えた。

分科会C:教学マネジメント体制の確立への試み

<課題提起>

金沢工業大学 情報処理サービスセンター所長 河合 儀昌 氏

横浜国立大学 大学教育総合センター長 梅澤 修 氏

 本分科会では、最初に2大学から教学マネジメントの取り組みについて事例紹介があった。
 金沢工業大学からは、課授業と正課外学修を連動させ、能動的な学修を支援するeシラバスによる相互点検、学修データからフィードバックする修学指導への取り組みが紹介された。
 本学では、シラバスは教育の質保証に関する一種の契約書と位置付け、整合性のとれた仕組みづくりを目指している。そのためには科目の教育内容が定められた方針に沿ったものであるのか相互点検を行う必要があり、8年前から「5つの総合力指標」として、知識を取り込む力、思考・推論・創造する力、コラボレーションとリーダシップ、発表・表現・伝達する力、学修に取り組む姿勢・意欲をシラバスに盛り込み、各科目の中でどのような汎用的能力を求めているのか評価割合の確認を教員間で行った。また、大学のミッションから学部・学科の学修・教育目標、最終的に学生の行動目標へ結びついているかどうかの整合性の確認、地域連携を踏まえたアクティブ・ラーニングが提示されているかなど確認を行っている。シラバスには教育内容の質が提示されているので、これにより授業内容の自己点検評価を行っており、学生達成度評価では学習・教育目標に対する意識づけを図るようにしている。教員授業点検では授業アンケート結果を分析し、次年度の改善方法を提示するようにしている。
 シラバスは12年前からWeb登録で行っているが、正課と課外学修を連動させ、アクティブ・ラーニングに対応できるよう、教材配信・ビデオ教材・eラーニングなどの教材システム、課題提出、ポートフォリオ、成績など集約したeシラバスの運用準備を始めている。
 修学指導については、入学を許可した以上、退学に至る状況を未然に防ぎ、希望する進路・卒業に導き指導を行う責務があるという方針のもと、IRデータを活用しながら、修学指導対策会議を中心に教職共同・部署横断型で組織化していることで、各部署から情報が集まり迅速な対応が可能となっている。また、修学アドバイザーにもデータを提供し、学生一人ひとりを支援する体制をとっている。
 横浜国立大学からは、教学マネジメントチームによる全学的な授業設計方法と成績評価の改善、教学IRシステムによる学士力の可視化などの取り組みが紹介された。
 本大学の大学教育総合センターは、入学選抜部、全学教育部、キャリア支援部、FD推進部から成り、教務IR体制を整える中で、学修成果の可視化の展開、ナンバリング・ルーブリックの導入、FD・SD活動、学士力と就業力の可視化、カリキュラム体系の深化、成績管理・評価の厳格化、高大接続・入試制度・初年次導入教育・キャリア教育の検討等を進めている。質保障に関しては、三つのポリシーとFD(YNUイニシアティブ)、GPA、CAP制、授業アンケートを既に導入済みであり、学生FD、教養科目アンケート等の情報も蓄積されている。これらとシラバス、授業支援、成績等の情報をリンクした上で分析し、大学改革への提言や教学IRのミッション策定に結びつけることを目指している。一方、教員組織における教育内容へのマネジメント、意識の共有は難しいが、学修成果の可視化は、学生はもちろん教員組織においても授業科目の総合的改善の方向にフィードバックさせることが必要。コンピテンシーと授業内容を調整するためにも授業に関連するすべての教職員が参画する教学マネジメントの体制作りが課題である。
 後半の討議では、教育改革の体制作りではトップダウンで方針を検討していくことは必要であるが、日頃の教職間や部門間のコミュニケーションが重要であること、教学マネジメント運営に苦慮している点は問題の把握から対策を講じるまでの迅速な対応が求められることなどが確認され、その他に授業改善の具体的例、学生評価の指標間の整合性、ナンバリングの基準等が話題となった。

分科会D:価値を創出させるデータ活用力の教育モデル

<報告>

公益社団法人 私立大学情報教育協会 情報教育研究委員会情報リテラシー・情報倫理分科会
主査 玉田 和恵 氏

(江戸川大学メディアコミュニケーション学部教授)
委員 本村 康哲 氏

(関西大学文学部教授)
慶應義塾大学大学院健康マネージメント研究科 教授 渡辺美智子 氏

 本分科会では、学士力の一環として身につけるべき大学共通の情報リテラシー教育の在り方を議論する趣旨のもと、情報教育研究委員会情報リテラシー・情報倫理分科会からの報告と意見交換が行われた。
 まず、私立大学情報教育協会の井端正臣事務局長より、日本は成熟社会としての課題解決の創出国としてチャレンジしていくことが国の成長モデルとして要請されている。それには、国民一人ひとりが情報から知識を構成し、知識を組み合わせて知恵に転換していく学びを学士課程教育の中で展開し、新しい価値の創造に関与できるようにすることが、大学教育に要請されてきている。
 生涯に亘って、自分で主体的に判断し、仮説・推論・検証を繰り返す中で予測し、発信していく素養を身に付ける一つの方法として、情報リテラシー教育の中で専門教育と連携した学びの構成を確立していくことが重要であると本提案の趣旨説明があった。
 続いて「価値を創出させる問題解決力・データ活用力の教育モデル」と題し、玉田和恵氏より、情報リテラシー・情報倫理分科会主査の立場から情報リテラシー教育ガイドラインについて、これまでの経緯と目的について紹介があった。本協会では、平成24年度に大学教育における情報リテラシーのガイドラインをとりまとめ、その後、一部修正を行ってきたが、高校教育の枠組みとそれほど違わないことから、改めて見直しに着手した。その視点は、学士課程に要請されている答えのない問題により良い解を追求することができる「問題解決力の育成」と「価値創出」を図るために、到達目標Aとして「問題発見・解決を思考する枠組み創り」を基盤とした情報活用の学修構造を考えた。内容としては、「目標設定過程」では、問題を発見するためICTを活用してデータ情報を収集・分析し、問題解決の流れを身に付けさせる。その上で、「解決策発想過程」として、身近な問題から解決したい課題を選定し、仮説を立てて検証するために情報を収集し推論を行い、解決策を検討する。次に、「合理的判断過程」として、解決策の影響を吟味し、目標に最短な選択であるか判断する。そして、最終的に最適解を導出する「最適解導出過程」では、制約条件を満たすすべての代替案から最も良いものを選択するために、自分の知識と実際のデータを組み合わせながら情報を収集し、分析し、評価して意思決定するという解決法を基盤に、その過程の中で到達目標Bの「情報社会の有効性と問題点を認識し、主体的に判断するための知識・態度」と到着目標Cの「情報通信技術に関する科学的な理解・技能」を組み込んでいる。特に到達目標Bについては、合理的な判断を選択する過程で、情報社会の特質を認識し、情報を識別する、読みとる力や情報の安全性に配慮して解決策の有効性と問題点の点検を通じて主体的に判断行動する力を身に付ける。
 到達目標Cについては、仮説を検証する方法としてモデル化とシミュレーションを通じて推論する手法を身に付ける。ここでは、実用的なプログラミング技術ではなく、問題解決のためのアルゴリズムを身に付ける。また、解の導出過程では社会における情報通信システムの在り方や情報セキュリティを考察できるようにする。
 現在のところ、到達目標A、B、Cについてレベル1〜3のルーブリックを想定しているが検討中である。
 本日は、レベル1案のイメージを掲げた。到達目標Aでは、「問題解決の流れを理解する、分析に必要なソフトを活用してデータ整理と基本的な分析ができる」、到達目標Bでは、「情報の信頼性・信憑性を多様な方法で確認できる」、到達目標Cでは「インターネットの仕組みについて基礎的な知識を理解する」と、イメージとして6回分を作成してみた。
 情報リテラシーは初年度教育というイメージがまだまだ強いが、大学4年間の学びの中で情報活用能力を身に付けさせることをゴールイメージとしている。
 次に、本村康哲氏より「問題解決学修についての検討 2015ガイドライン:到達目標Aをもとに」具体的な問題解決学修について、担当している初年次教育科目の事例が紹介された。人文系の学生には、データ及びICTを適切に活用することが難しい問題であり、問題解決という意識があまり見られない。本大学では、身近な問題や社会問題をテーマにグループでのディスカッション、情報収集、調査分析、仮説・推論、課題解決策の合意形成、発表、ディベート対戦などを行っているアカデミックスキル授業が該当すると思われる。
 最後に「価値を創出させるデータ活用力の教育モデル」と題し、渡辺美智子氏より、問題解決のプロセス理解に関する事例報告があり、ICTを活用した科学的・協働的問題解決力の必要性と、中高生段階での取り組みの一例として、統計の知識を活用した野球及びサッカーの試合分析結果から次への改善対策の創出が紹介された。
 報告を受け、いくつかのテーマで意見交換が行われた。まず、ICT活用能力のレベル差を解消するためには、学生個人がワープロ・表計算などのスキルを学べるeラーニングの仕組みの構築、相互の教え合いやヘルプデスクなど組織的に学修支援する仕組み作りの必要性などの意見があった。また、分析まとめた内容を発信していくには、学外組織に対してプレゼンを行い、評価をフィードバックすることによる効果や自分の身の回りのメンバーを説得する力の必要性など意見があった。
 ガイドラインの中間まとめへの参加者の反応は、問題解決力の育成には賛成であったが、情報リテラシーの捉え方が従来の機器操作能力としてのイメージが強いこともあり、問題発見・解決型への転換意識が希薄であった。また、授業の流れとして、問題解決の枠組みの学修、作業計画の立案、データの収集・集計・処理・分析、プレゼンテーション資料の作成、ディスカッションまでの6回分を提示したが、授業時間数を増やすなど15回分としてモデル案の提示が求められた。

第3日目(9月4日)

大会発表

※以下の発表者名は発表代表者のみ掲載。

A-1 他者の考えをリアルタイムに知ることで気づかせるプロフェッショナリズム教育授業
東京女子医科大学   岡田 みどり

 「全人的医人」育成のために、1年生を対象にレスポンスアナライザーを用い、「医学生らしさとは」という「人間関係教育」のために、双方向授業を実施した。この結果、講義の最後に学生が記載したリフレクションシートから、自らが医師となるための様々な気づきを見ることができた。

A-2 クリッカーを活用した双方向授業と学業成績との相関
名城大学   武田 直仁

 クリッカーが、学修者の学修目標の到達、成績向上への利用ツールにできるかを、基礎薬学演習でクリッカーを利用して実施した。クリッカーを用いた授業評価の「役立った」群と「役立たなかった」群の成績検定結果から、上位学生はクリッカーの一層高度な活用を期待していることが分かった。

A-3 クリッカーシステム開発・導入によるスマートフォン使用学生対策と授業双方向性の向上
成美大学   神谷 達夫

 授業中のスマートフォン使用学生対策と学生の授業参加を両立させるために、タブレット端末によるクリッカーシステムを構築した。各学生がこの端末を利用することにより、講義での課題(穴埋め)取り組みとクリッカー操作を同時にすることになり、授業への集中度が格段に向上した。

A-4 大教室授業における主体的・実践的な学びの可能性
北海学園大学   伊藤 友章

 数百人規模の大教室での授業で、ICTを用いたLMS学修を実施している。このシステム利用により、多くの学生が事前課題の提出、講義中の意見表明などをWeb上への書き込みなどで実現できており、口頭での双方向型授業とは異なるメリットを具現化できた。

A-5 携帯端末向け短文投稿システムを活用するマルチスクリーン環境での授業展開
就実大学   中西 裕

 独自開発した「つぶやき投稿システム」とマルチスクリーン環境を利用し、大教室授業改善に取り組んだ。両システムによる双方向性によって、大教室講義の活性化は認められたが、それぞれの授業の特性により「向き、不向き」があることも分かり始めている。

A-6 WEBによるディベート評価システムの開発と利用
北海道科学大学   藤田 勝康

 学生が与えられた課題に対して、問題解決能力、情報収集能力、ディスカッション能力の向上を目的として、Webディベート評価システムを導入した。教員が与えたテーマの他、学生自身が選択したテーマも多く、評価のばらつき、コメントの質・量などの学生データ分析を進めている。

A-7 事前学修としての本読みを徹底するための小テストの試み
甲子園大学   梶木 克則

 統計学入門の事前学修を促すために、教科書の穴埋め問題を作成しMoodleの小テスト機能を使い予習として学生に受験させた。当初は自由記述が可能な穴埋め形式としたが、誤入力防止のために5肢選択方式に変更した。入力トラブルは減少する一方で作問の労力は増えてしまった。

A-8 事前事後学習の促進および学習管理力の向上を目指した授業計画
長崎大学   若菜 啓孝

 ARCS動機づけモデルに留意しながらLMSを活用した授業計画を、実習を伴う資格対応授業及び一般教養科目授業を対象に策定し、実施した。前者では学修目的が明確なのでARCSに準じた授業コンテンツの配置が可能であったが、後者では困難であった。

A-9 プログラミング科目の予習・復習を促す機会向上に関する一考察
金沢工業大学   館 宜伸

 学修者の能動的なプログラミング科目の予習・復習を促すべく、レポート提出システムを用いて授業日と別の日程で学修に取り組ませる授業実践を行った。学生アンケートの結果、予習・復習時間が増加するとともに、課題やレポートに関してポジティブな回答が増加した。

A-10 ICTを利用した看護教育、演習と事前事後学習の支援
福岡女学院看護大学   貞野 宏之

 看護実習室において無線LANとタブレットを導入し、教員側からのコンテンツの一斉配信および、学生グループ内でのオンデマンド参照が可能なシステムを構築した。学生が各人の実技を収録し参照することも可能となった。

A-11 授業支援システムを活用したアクティブラーニングー社会的実践力養成科目への適用ー
東海大学   鹿田 光一

 事前に学修課題を提示する事前学修促進ツールとLMSをコミュニケーション能力の向上を目的とした全学授業に利用した。両者とも有効に機能し、特に複数のキャンパスに在籍する全学部全学生を対象とした本科目においては、居住地に依存することがないLMSは学生に高評価であった。

A-12 ブログ等による英語自習促進の試み
大同大学   梅田 礼子

 自習促進のための取り組みとして、「授業パワーポイントファイルのメール送信」、「授業PPT等のクラウドストレージでの提供」等を行った。学生へのアンケートの結果、ほとんどの学生が利用していないのにもかかわらず「もっと基礎的な解説を載せる」等の要望が多かった。

A-13 PCスキル系授業における反転授業の課題とその対応について
関西国際大学   山下 泰生

 反転授業を実践し、そのビデオコンテンツの在り方について考察した。ビデオを視聴しているにも関わらず確認テストの正答率が低い受講生への早期の対応が必要であることがわかった。また、応用解説の場合はビデオ視聴者の方が未視聴者より有意に正答率が高くなることがわかった。

A-14 予習・復習に重点をおいた初級プログラミングの授業実践−3年間の反転授業の取り組み
東北学院大学   松本 章代

 初級プログラミング授業において反転授業の実践を3年間行った。試験結果やアンケートを分析することにより「教員の負担を減らしつつも8割の学生が1週間中3日以上のプログラミングを行っている」、「学生自身が反転授業を有効であると認識している」等その有効性が検証できた。

A-15 会計学初等教育における反転授業およびグループワーク
関西学院大学   木本 圭一

 会計学初等教育の反転学修を2年間実施し、比較を行った。予習に用いるビデオを初学者が理解が難しい部分をわかりやすく改定するなどの改善を行うとともに、完全に独立した反転授業とせずに講義中にも解説を行ったことにより、期末試験の平均点が初年度より大幅に上昇した。

A-16 反転授業とeラーニングの組み合わせによる初修外国語の効果的運用の試み
成蹊大学   里村 和秋

 初修外国語授業において反転授業を導入し、講義からアクティブ・ラーニングへの切り替えといった授業モデルの変更を行った。授業での学生の反応やアンケートおよび成績動向から、授業モデルの変更の結果学修効果の向上と新たしい取り組みへの肯定的な学生評価が明らかになった。

B-1 ファイルマネージャソフトウェアを用いた小レポート採点の効率向上支援の提案と実践
山梨学院大学   原 敏

 効果的な学修のために用いられる「ミニットペーパー」、「小レポート」などを効率的に作業する方法として、入手が容易なファイルマネージャソフトを利用した方法を提案した。複雑な数式を課したレポート採点などには課題が残るが、一定の省力化を実現できた。

B-2 SNSを利用したゼミ発表
南山大学   周 錦樟

 ゼミにおける発表を効果的なものとするために、SNS、メール、タブレットアプリを組み合わせて支援環境を試行した。事前の発表資料の共有、SNSでの質疑、授業後の議論の継続などのメリットがあったが、スマートフォン、タブレットなどの器材の充実が必要である。

B-3 Moodleを授業の中心とした統計処理系科目の展開
松山大学   安田 俊一

 経済分析を学ぶ授業において、Moodleを中心に据えた授業とすることで、事前・事後学修及び学生の理解度把握が容易になり、導入前の授業と較べて、学生の理解度把握とフィードバック時間を改善するができた。

B-4 学生の学習意欲向上を目的とするMoodleによる授業の実施
大谷大学   上田 敏樹

 Moodleによる授業を実施し、必要なスライドや資料の配布、授業の最後に理解度Quizを実施した。学生の理解度向上、出欠管理の効率化、教員の管理効率改善などの利点を確認できたので、今後さらに、アクセス統計を利用した効率的な指導へとつなげたい。

B-5 初等統計学の授業でのアクティブラーニングの構想
中村学園大学   本間 学

 授業アンケートの分析結果をもとに、より興味をもたせる授業を実現するために、アプリケーションとウェブを組み合わせた体験型システムのプロトタイプを作成した。これによって、身近なデータの統計結果をインタラクティブにビジュアル化することができるようになる。

B-6 未利用な数学学修支援フリーソフトの経済学・学部用理論教育への活用法
専修大学   小川 健

 近代経済学教育における数学の習得のために、複雑な計算に対応し視覚的な表現が可能なフリーソフトであるMicrosoft Mathematicsを用いた授業を実施した。グラフ表示などにより理解度向上が期待できるが、利用にはいくつかの制限があることが今後の課題である。

B-7 金融経済教育と地元企業の研究を題材としたアクティブ・ラーニング:Webイベントの活用
名古屋学院大学   児島 完二

 経済学への興味と地元企業への関心向上に向け、地元企業へのバーチャルな株式投資を体験させた。チームによるアクティブ・ラーニングにより業界・企業への理解が深まり、他チームとの情報共有により企業の財務情報の見方や金融システムへの関心が高まったように思われる。

B-8 実企業テーマおよびICT活用によるアクティブラーニング講義学習意欲向上事例
明治大学   樋渡 雅幸

 アクティブ・ラーニングによる問題解決能力向上を目指した。実企業のリサーチデータを利用しプレゼンテーションソフト等を活用しプレゼン能力向上を目指した。実企業、実テーマに対する期待は非常に強く、高い学修意欲を実現し、企業においてもデータ収集という副次的な効果があった。

B-9 企業と連携した情報システム企画の実践的教育への取り組み
大阪産業大学   山田 耕嗣

 フィールドプラクティス講座を新設し、社会活動に触れる体験型で企業と連携し学生を鍛える教育環境創造に取り組んだ。1年生必須であるが、企業でのプレゼンに選抜されなかったグループとの授業評価に差があった。今後は継続的に取り組ませ、専門性を高めたい。

B-10 デジタルネイティブ・マルチメディア世代を対象とするICTを活用した国際理解教育
尚絅学院大学   森田 明彦

 学修意欲向上にICT技術を活用し、海外研修中卒業生とのトークセションや卒論発表のライブ発信を実施した。多言語同時習得に向けグループ学修と、海外とのSKYPEによる対話セッションを実施した。学生は学修意欲向上と研究発表へのインセンティブの高まりが認められた。

B-11 課外活動と正課授業でのアクティブ・ラーニング
金沢工業大学   三嶋 昭臣

 成績が良く学修意欲がある学生には、数理力・技術力・コミュニケーション力向上に向けICTを活用した課外活動を実施、意欲が低い学生にはグループ学修とICT教材を活用した教育改善を実施した。課外活動では特に自主性が培われ、成果授業では学生間交流による教育効果向上があった。

B-12 ICT機器やネットワーク環境を用いた老年看護学演習の効果
旭川大学   大谷 順子

 老年看護学演習の教育改善に向けICTを活用し、紙上患者のロールプレイVTR視聴とフィードバック時間確保を行った結果、学修への興味、課題への意欲向上の効果があった。学生・教員の機器の操作のキル研鑽とチューター数の確保が求められる。多重課題授業には不向きと思われた。

B-13 クリティカル・シンキング定着を目指した教育〜科目内外プロジェクトワークを通じて〜
東北工業大学   亀井 あかね

 原因追及・問題解決のロジックツリーを使用した論理展開が可能となるよう、科目内外で反転授業を前提としたプロジェクトワークを実施した。予習・復習の充実に向けビジュアル教材整備とその活用環境支援が必要である。予習・復習が授業履修の必要条件であるとの理解が学生に浸透した。

B-14 ソーシャルメディアを活用した自由が丘グルメ分析の実践
産業能率大学   白土 由佳

 問題発見・問題解決型の力を養うこと目的として、ソーシャルメディアのデータ定義と分析に取り組めるようツールを開発し授業で実践した。慣れ親しんだテーマを設定し、その中でグルメジャンル等のサブテーマを自由に設定したことにより学修意欲が向上し、初期の目標を達成できた。

B-15 グローバル、ICT、地域社会連携をキーワードに展開するアクティブラーニングの実践
関西大学   山本 敏幸

 留学生を含めたチーム構成でTBL によるPBL を行った。農作物による商品化・ブランド化、起業について、レクチャーとチーム学修を実施し、実際に畑で栽培を実践し、ICT やソーシャルメディアを活用し授業外にも情報を共有し学修した。

B-16 PBLによる地域活性化のためのアプリ開発
大谷大学   酒井 恵光

 プログラミング教育として、PBLによる商店街を照会する地域社会活性化に向けた実用的なアプリ開発を行った。授業では主体提起に議論ができる者や、多様な発想ができる者が出て、高いモチベーションを持った。今後の課題はシステムの実証と他の領域との連携等がある。

C-1 3次元CAD資格取得支援のためのe-Learning教材開発と活用
日本大学   金 炯秀

 大学を上げて認知度が高く、就職にも有利な専門資格の取得を支援しているが、思わしい結果は得られていなかった。「CATIA認定技術者」資格の合格率をあげるためにe-Learning教材開発と模擬試験システムを構築し、平均8割以上の合格率で資格を取得できた。また、聴覚障害者も活用できるよう拡張した。

C-2 数式自動採点eラーニングシステムによる理工系初年次教育の試み
龍谷大学   樋口 三郎

 積み上げ式の学問体系である理工系においては、基礎学力を持たない学生への対応が課題である。数学分野で一定の基礎学力を持つようにする支援をMaple T.A.を活用して、数値や数式が異なるランダムな問題を出題できるeラーニングで提供した。記憶に頼らず満点を獲得でき、基礎学力の保証ができた。

C-3 工学系理数基礎科目における習熟度別学修システムの構築
神奈川工科大学   神谷 克政

 高校レベルの数理科目の理解度の低下や、学生の習熟度の開きが問題になっており、習熟度別の学修が可能な理数系のICT教材の開発に取り組んでいる。週2回の対面教育をオンライン教育で支持するブレンド型教育を行い、各自の進度に応じて学修できることで学修意欲の向上を促すことができた。

C-4 理学療法専門科目におけるタブレット端末を用いたICT活用授業の試み
帝京科学大学   塚田 絵里子

 理学療法士の基礎技能に触診があり、解剖学の知識を必要とするため苦手意識を持ちやすい科目である。二次元平面上では捉えにくい筋骨格系を中心に、タブレット端末上で三次元的に動作する視覚コンテンツを開発して授業に用いた結果、満足度が上がり、学生の主体性を高められた。

C-5 理学療法士養成課程におけるICTを活用した理学療法技術習得への取り組み
聖隷クリストファー大学   根地嶋 誠

 理学療法士教育においては、知識のみならず臨床現場での技術習得も重要な課題であるが、基本的な技法を曖昧なまま模倣・練習することが少なくない。タブレット端末のビデオ機能を活用し、学生同士が教え合う協調・協働学修での技術習得を目指した。リアクションペーパーから有効性を検証できた。

C-6 医療専門職国家試験対策自主学習ソフトの開発とその使用方法
大和大学   神崎 秀嗣

 医療専門職養成校は限られた時間の中で教育を行い、学生を国家試験に合格させ、医療機関にコンスタントに人材供給していかなければならない。そのため、国家試験対策用に商用ソフトをベースとした自主学修支援ソフトを開発し、合格率上昇を図り、全国平均を大きく上回る結果を得た。

C-7 汎用教育ツールとしてのビジネス・ゲーム開発の一つの試み
流通科学大学   小笠原 宏

 模擬経営授業における導入として使ってきた娯楽ゲーム「モノポリー」とトランプの「戦争」を、ルールや条件設定の段階から「交渉」という項目と「銀行」の明確な役割を導入すること等により、応用実践型演習として上級者の教育訓練に活用できることを示した。

C-8 歴史的電子音楽資料データベースを応用した教育システムの構築
大阪芸術大学   石上 和也

 電子音響音楽の研究・教育の発展のためには、電子音響音楽の社会的認知度の向上が必要である。次世代の若者だけではなく、通信教育社会人学生等の幅広い層へ電子音響音楽を伝えるため、ICTを活用した教材やワークショップを充実させる必要がある。

C-9 自学自修を目的とした動画教材作成環境の構築とLMSを使った動画教材提供方式の検討
広島国際大学   出木原 裕順

 教員向けの動画作成環境の構築法を準備し、FD研修会で教員に研修した。また、学生の自学自修を目的として、LMSを使った動画教材の提供方法を試験的に展開した。

C-10 eラーニングソフトの有機的融合による効果的ライティング指導
東京理科大学   川村 幸夫

 複数のeラーニングソフトを活用し、英文添削をリアルタイム化し、学修者による気づきや振り返りの確立、発言を容易にする環境を構築し、問題意識と情報の共有、学修参加の実感が得られたことで、学修活動が活性化して学修意欲が向上し、効果的ライティング指導が可能になった。

C-11 eラーニング日本語コースのための学習環境づくり
早稲田大学   尹 智鉉

 平成27年度にオンライン日本語コースを新設、開講した。1学期間の教育実践を振り返り、プログラム学修理論から学修環境づくりを検討し、学修環境を支えるための運営戦略と管理という側面から考察した。

C-12 ICTを活用したプレ留学プログラム構築に向けた日本語映像教材開発の取り組み
摂南大学   高井 美穂

 短期外国人留学生対象のプレ留学プログラム構築に向け、在学生によるキャンパスツアーと座談会からなる映像教材を開発している。ICTの活用により、まだ会ったことのない者同士をつなぐ活動が可能になった。Web上での運用と学修効果の分析が今後の課題である。

C-13 ICTを活用した組織的な英語運用能力向上プログラム
いわき明星大学   川井 一枝

 授業外学修時間を増やし英語運用能力の全体的な向上を図るため、今年度より全学的・組織的に、ICTを活用した英語学修の取り組みを行っている。ICTを活用した入学前課題・入学後の英語学修プログラムなどである。

C-14 理系学科における英語教育モデルの再構築:1年目の成果と2年目の課題
中部大学   小栗 成子

 平成26年に新設された工学部ロボット理工学科では、個別学修と対面授業をブレンドした英語コミュニケーション能力育成が開始されている。英語嫌いを克服するためのICTを活用し、教師の役割についても工夫した。

C-15 共通教育における中国語教学体系の確立(事前事後学習を含めて)
福岡大学   甲斐 勝二

 共通教育外国語科目中国語では今年度より1年次使用の教科書を全学共通にして教育内容を整えた。これによって、予習・復習作業のICT教材の共有化、その利用による課外学修時間の確保、2年次以降卒業までの4年間にわたる階梯的教育の構想が可能となった。

D-1 時系列表示とOCR連携を特徴とするLMSのタブレットインターフェイス開発
追手門学院大学   原田 章

 時系列表示とOCR連携を特徴とするLMSのタブレット・インターフェイスを開発。タイムラインに合わせて教材・資料が提示され、種類別に見ることができる。手書きのシートもOCR装置により読み取り、LMS上で評価することができる。学生、教員双方の利用率は向上している。

D-2 レーザ測域センサを活用した英語ライティング添削システムの開発と実践報告
芝浦工業大学   安藤 香織

 レーザ測域センサを用いた入力システムを用いることにより、既存の教室のモニター設備を電子黒板として活用することが可能となる。このシステムを英語ライティング添削システムとして応用・開発した。導入コストも安く、簡便である。操作性の向上と他の科目への応用が今後の課題である。

D-3 手書き漢字自動採点システムを利用した事前・事後学習の実践
岐阜経済大学   井戸 伸彦

 記述回答の自動採点を可能とするため、手書き漢字自動採点システムを開発した。Webシステム上に構築され、利用者はWebページにアクセスし利用できる。実際授業でも試行し、自動採点の有効性と正確性が確認されている。他の記述式テストへの応用も今後の課題である。

D-4 アクティブ・ラーニングとしてのPBLの学習支援ツール〜ATSSの開発と運用〜
同志社大学   山田 和人

 アクティブ・ラーニング(AL)の基礎にはアクティブ・シンキング(AT)の段階過程がある。ATの段階・進捗状況と代表的なALの形態であるPBLの成果を、個人として、チームとして検証、確認できるPBL支援ツールATSSを開発した。ATSSにより、個人の学修評価、チーム全体の成果の評価も可能となる。

D-5 ICT活用によるアクティブラーニングの学習効果の評価手法の構築に向けて
北海道医療大学   西牧 可織

 電子ノート、電子ペン等のICTツールを利用することで、リアルタイムに学生の学修行動に関する情報を収集し、可視化することによりアクティブ・ラーニングの学修効果を検証する評価手法を開発した。学修の主観的評価と時系列の客観的な学修行動の関係を検証し、学修指導に活用することができる。

D-6 ジェネリックスキルに基づくグループ形成方法の検討
北海道医療大学   二瓶 裕之

 ワークショップ形式のグループ討議では、その効果はグループ・メンバー構成に大きく依存する。「ジェネリックスキルに基づくグループ形成システム」の開発・活用により、学生個々のスキルが効果的に発揮され、グループ全体としてより大きな協働の成果、課題解能力の向上が可能となる。

D-7 学生のスマートフォン等を活用したアクティブ・ラーニング
大阪成蹊短期大学   福永 栄一

 これまで教員が解説していた授業中の課題を、学生に自分のスマートフォンを使って10分間で調べてまとめさせるアクティブ・ラーニングを実施した。それをケラーのARCSカテゴリー(注意、関連性、自信、満足感)で評価したところ、自ら学ぶことに慣れていない1年生よりも2年生の方が良い結果が得られた。

D-8 普通教室におけるICTを活用した英語授業の実践
広島工業大学   楠木 佳子

 普通教室で行う英語の授業で、学生所有のスマートフォンを使ってMoodleを利用する授業を実施した。主な機能は、語彙フラッシュカード(Quizlet)、小テスト、ミニッツペーパー(アンケート機能)、音声の録音と提出(課題)の四つである。その結果、9割以上の学修者から良い評価を得られた。

D-9 オンラインストレージとスマホを活用したPBLにおける主体的な授業外学習の試みーLINEアプリの新規導入とその効果ー
東海大学   広川 美津雄

 平成24年に実施したiPadとオンラインストレージによるシステムに加え、学生のスマートフォンを積極的にPBLに導入した授業を行った。具体的にはLINEとEvernoteを利用することで、学生の主体的な授業時間外学修を支援し、個々の学生の進捗状況をリアルタイムで把握できるようになった。

D-10 初年次情報リテラシー教育科目の現状ー履修者のスキル・意識・学習環境からの検証ー
広島修道大学   記谷 康之

 情報リテラシー修得に関連した2科目の効果の検証を54項目からなる情報活用の実践力尺度、タイピング測定、コンピュータ操作・用語アンケート、知識確認テストの結果をそれぞれ分散分析することにより行った。その結果、基本スキル修得に効果があること、実践力の一部に向上を示す評価が確認できた。

D-11 留学生と情報教育およびその役割
江戸川大学   Zhan Ping

 近年、非漢字系出身留学生が急激に増加している。これら留学生にとって一番の問題が日本語である。情報関連の科目は日本語を直接使わなくてもよい演習科目が多く、また、実学が多いため学修効果がわかりやすいので、ICTを利用した情報教育で日本語能力の向上とともにモチベーションを高めることができる。

D-12 家政系短期大学生を対象とした情報セキュリティ教育ー学びと実際の融合ー
中村学園大学短期大学部   有田 真貴子

 情報セキュリティ教育では、学修内容が実際の行動に結びつきにくいため、学生に身近なスマートフォンに主眼を置いて、学修前のアンケート調査と試験による特に不足している知識の把握など「現状に即した教育内容」と「学修成果の定着」を目指して教育方法の改善を行った結果、実際の利用に役立つ効果が得られた。

D-13 プログラミング教育におけるつながりを意識したテーマ設定とその展開
兵庫大学   森下 博

 プログラミングの授業では、問題やデータは文法の項目ごとに異なる内容であることが多い。今回、終始一貫して気象庁発表の気温や降水量をもとにデータ処理を行ったことで、学生は理解・工夫することに時間を有効活用でき、効率的なプログラムを作成し、自分のペースで進められるという効果が得られた。

D-14 ロボットプログラミング授業における教室内外でシームレスな実験環境の構築
立命館大学   松尾 直志

 ロボットプログラミングの授業において受講者一人ひとりにロボット1台を確保するのは難しいため、各受講者が授業時間外でも仮想空間でプログラムの動作確認や試行錯誤が行えるシミュレーション環境と、このプログラムをこのまま実機に転送して利用できる環境を構築し、有効活用されることに成功した。

D-15 グループワークを中心としたモバイル対応アプリプログラミングの取り組み
神田外語大学   石井 雅章

 学生に身近なスマートフォン等のモバイルアプリ制作によって、身近なICTの仕組みの理解、プログラミング的思考の修得、協調・協働学修を通じた実践的なコミュニケーション能力の向上を目的とした授業を行ったことで、プログラミングへの関心や課題発見・解決能力、集中度を向上させることができた。

E-1 視覚聴覚二重障害のある大学進学希望者のためのeラーニングによる入学準備教育の検討
拓殖大学北海道短期大学   庄内 慶一

 視聴覚二重障害のある大学進学希望者に対する特別支援学校高等部と大学の連携による入学準備教育、及びそれへのeラーニング活用についての意識調査した。被験者は特別支援学校の教員2名(先天盲、健常者)で、概ね肯定的な回答が得られたが、教員以外の支援者の必要性が指摘された。

E-2 三者協働型MOOCの実践例:入学前教育プログラム制作から運営まで
関西大学   佐々木 知彦

 今年度入学生を対象にした入学前教育プログラム「国語表現力」を開発した。教員、職員、大学生ラーニング・アシスタントの三者協働によるプログラムを運用し、今後はWiFiネットワークをベースとした学修環境の構築を目指す。

E-3 授業で必要な基礎学力向上及び学力の把握を目指したmoodleの改良について
九州産業大学   石田 俊一

 AO入試合格者に対する基礎学力向上のためのMoodleによる入学前教育を実施した。ヒント提示、個別指導等により課題提出率は高いが、入学時のテスト得点は一般試験合格者より低い。しかし、入学後の個別指導の有益な情報となっており、学びの継続支援からも授業でのMoodle活用が望まれる。

E-4 心理学系授業におけるLMSを活用したCan do checkの導入の試み
広島国際大学   宮崎 龍二

 能動的学修を促す振り返りと到達度のモニタリングを目的とした、心理学系授業におけるLMS運用下でのCan do checkを実施した。チェック項目は受講態度と授業内容理解である。今後は、実施結果、回答分析、受講者へフィードバック等を踏まえPDCAサイクルのCheckとActionの段階に入る予定である。

E-5 ICTを活用した学修支援の実証的研究
愛知産業大学   加藤 成明

 中央教育審議会答申、学校教育法の改正を受け、平成26年度より就業力育成を方針とした教育改革に取り組んでいる。授業では、学生が学修状況を確認できるよう、LMSを介して毎回の宿題、課題、受講ノートを評価している。結果として出席率、学修時間、GPAは向上したが、就業力については判断が難しい。

E-6 学生の人間形成を目的としたSNS導入に関する考察
秀明大学   田島 博之

 個々の学生に対する教育効果の向上支援ツールとして、SNSをクラス運営に活用した。学生のSNS利用状況からLINEを導入した。連絡時間短縮、友人からの情報取得、つぶやきからの問題検出等々の効果が得られたが、情報モラル、情報量等の問題から、Facebookをも補完活用した。

E-7 短期大学の情報系インターンシップと学習及び就職意欲に関する考察
湘北短期大学   小田井 圭

 インターンシップの参加者と不参加者で、本当に就職意欲や学修意欲に違いがあるかを調査した。就職内定率は平成24年度は差がなかったが、その後は参加者の方が8〜9%高い。学修意欲については、参加者の方が履修科目数は少ないものの、GPAは0.4〜0.6高いことが分かった。

E-8 デジタルノートとキャリア支援システムの融合による学習成果の有効利用に関する研究
城西大学   栗田 るみ子

 学生の主体的な学びを実現するために、学修の記録をデジタルノートに記録・蓄積し、振り返りを行うように指導している。また、完成したノートは学生生活の総括的記録であることから、キャリア支援システムと連動させることにより、キャリア活動へとつなぐことができる。

E-9 経営学部キャリア教育プログラムにおけるFacebook活用の試み
北海学園大学   関 哲人

 ポートフォリオシステムとしてFacebookを活用する試みを行った。学生が個人のFacebookページを開設し、内省的記録や学修履歴を投稿する。また、他の学生の記事に対してコメントや「いいね」をすることで、ピア・アセスメントや人間関係の構築といった機能が実現できる。

E-10 大学間連携における学習者特性の可視化システムの提案
千歳科学技術大学   山川 広人

 複数大学が連携して共通の到達度テストを実施している。結果は個票というシートで学生に返却しているが、経年比較が難しい、大学を横断した統計分析が難しいといった問題があった。そのため、クラウド上で大学ごとの暗号化データを管理し、可視化を行うシステムを構築した。

E-11 看護学生の主体的学習能力獲得を支援するe-portfolioシステム
東京慈恵会医科大学   嶋澤 順子

 E-portfolio活用の評価を実施している。このe-portfolioの特徴は、ループリックについてのリフレクション機能、試験などとの連動である。調査によると、学年が進行するにつれ利用頻度が高い。蓄積された成果物が増えることから、振り返りを主体的に行うことができるようになると考えられる。

E-12 グローバル人材育成プログラム支援システムeナビゲーションの開発
福岡大学   大津 敦史

 グローバル人材育成プログラムを支援するWebシステムを開発した。現在の履修状況から、修了までに必要な単位数を科目群ごとに表示し、到達度を可視化するとともに、履修を推奨する科目を提示する。さらに、就職活動時には登録したデータを個人レジュメとして活用することもできる。

E-13 質保証の実現を目指した科目間連携の試みー幼保人材の育成を題材としてー
江戸川大学   波多野 和彦

 情報リテラシーやメディア利用に関する異なる科目間の連携を図り、カリキュラムや育成すべき能力を意識した授業作りに取り組んだ。質保証のためには、授業担当者の間で、知識・技能、教育目標、領域特有の見方・考え方、という三層についての合意形成が必要である。

E-14 授業評価アンケートの学内実施による授業改善への取り組み
清泉女子大学   有田 亜希子

 授業評価アンケートの集計を業者委託で行っていたが、データ活用の幅を広げるために完全な学内実施に切り替えた。選択式の設問はOCRでデータ化し、ある程度の誤認識は許容する。自由記述の設問は単純なPDFとして保存する。これによりFD委員会による教員の顕彰などが可能となった。

E-15 教養教育における講義とe-Learningの望むべき関係
豊橋創造大学短期大学部   伊藤 圭一

 公務員試験対策のためにe-earningを活用している。問題の演習ができる環境を整備するだけでは学生は積極的に取り組まないので、講義との接続性を強化した。講義時に理解促進テストを行い、解答をグループで討議することで理解度の差を実感し、次回への意欲につなげられる。

文責:教育改革ICT戦略大会運営委員会


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