事業活動報告 No.3

平成27年度 短期大学教育改革ICT戦略会議 開催報告

 平成27年度の本会議は、9月4日にアルカディア市ヶ谷(東京、私学会館)にて開催された。出席者数は59名(1大学、43短期大学)であった。実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関(職業大学)の誕生を平成31年度に控え、会議では、短期大学教育の強みをいかに発揮していくべきかが議論された。
 高等教育のユニバーサル化、グローバル化の進展、雇用環境の変容に伴い、社会から職業人材育成機関として大学・短期大学に明確なアウトカムを求められている。その一方で、専修学校専門課程(以下、専門学校)では新産業に対応できる人材、地域再生に有為な人材を育成しているにもかかわらず、必ずしも適切な社会的評価が得られていないなどの課題が指摘され、職業大学の制度化が教育再生実行会議や、中央教育審議会(以下、中教審)で審議されている。
 大学の教育改革も進んでいる。「大学教育改革実行プラン」の最終年度にあたる平成29年度に向け、各大学では教育の質的転換を行いつつ地域の人材育成機関として多様なニーズに応え、その役割を果たすべく、質保証の観点から学修成果の可視化などの教学マネジメントへの取り組み、教員全員の危機意識と改善・改革意識の醸成、社会人基礎力の育成など、様々な取り組みがなされ、それらに対する評価・検証、改革の深化発展の段階を迎えている。
 本会議は、教育の地域社会や産業界のニーズに応えられる有為な人材の育成機関として、短期大学がその特徴を発揮できるようにするために組織的な改革をどのように行うべきか行動計画の在り方を構想し、実践に向けての課題などの認識を深め、解決に向けた対応を探求する場となった。詳細は以下のとおりである。

基調講演

「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化を踏まえた短期大学の新たな役割」

中央教育審議会
実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化に関する特別部会 専門委員(筑波大学大学研究センター特命教授)

金子 元久 氏

 大学には二つの流れがあり、医学・法学・神学など高度専門職の養成機関としての中世の大学と、19世紀初のフンボルト理念に基づいた学術型大学である。日本では、19世紀後半の産業化に伴い、大学は工学、農学、医療、教育などの職業教育を行う機関となった。さらに、第2次大戦後の急激な経済発展は、企業の増大と組織的拡大をもたらし、これに対応するため高等教育は大衆化して多数の「ホワイトカラー」が生み出された。ここでは、一括採用、終身雇用という日本独自のシステムが構築されて経済成長を支えた一方、職務に必要な専門知識・技能は職場で共有・伝達されるため、個人に帰属するこれら能力は評価されなくなった。
 この体制はしかし、1990年代から崩れつつある。大学収容力が拡大する一方で、製造業の海外移転や情報技術の発展によって高卒の雇用機会が縮小したため、大学就学率は5割を超えるに至った。他方では、従来型の大学卒業生の一括採用枠は30万人台で停滞しており、枠外者は様々な雇用形態・職種で就業している。産業構造の変化は、就職先の変化ももたらした。製造業から商業金融、多様な業種からなるサービス業へとシフトしている。これにより、大学教育と職業の関係がさらに見えにくくなった。
 このような現状を踏まえ、21世紀型の新しい社会・産業構造を支えるために実践的な職業教育を大学で行うべきだという声が強まり、教育再生実行会議で、「大学、高等専門学校、専門学校、高等学校等における職業教育を充実するとともに、質の高い実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化が求められている」と指摘されるに至った(第5次提言、平成26年7月3日)。中教審においても、これを受け、従来の専門学校を母体とした新種の職業高等教育機関2年から4年までの修業年限の設定を可能とするいわゆる「職業大学」、を創設する制度改革の検討を始めている。
 中教審での主たる論点は以下である。1)四年制の場合、学士号を認めるかどうか。2)短期の場合をどうするか。3)質保証、設置形態をどうするか。1)、2)に関しては、いずれも学位を認める方向にあるが、実習を主に行っているのであれば、単位制にできるのか、という問題が残る。また、短期の場合の学位名称も未定である。最大の問題は3)である。質保証制度をどうするのか、設置基準に相当するものをどうするか、学校法人とするのかどうか、などが議論されている。特に、専門学校の特徴である細分化された職業分野でどのようにして第三者評価をするのか未定である。世界の高等教育は、「制度としては一元化」、「機能としては多様化」の方向にある。既存の大学においても職業教育は重要ではあるが、職業/学術の2分割はむしろ非機能的であろう。多様で流動的な職務で必要となるのは、学術的知識だけでも、職業知識・スキルだけでもない。大学の経営・ガバナンスにおいても、一律型の教育モデルではなく多様な社会のニーズに対応できる教育課程を企画する能力、教育の実効性の恒常的な把握と修正、が求められることになる。
 専門学校と比較すると、短期大学は現状の文部科学省管理下の枠組みでは、健康・保健やサービス職など新しい教育分野の開発に時間がかかる、という弱点がある。また、現行の学校教育法104条、108条上では短期大学制度には無理があり、むしろ、短期大学が新種機関に移行することも考えられる。今後、短期大学がその力を発揮するためには、総合的な教育と職業教育の二分法で考えるのではなく、図1に示すように、それらの組み合わせによって重層的な能力の形成を目指す教育を行うことが必要となろう。

図1 これからの職業人育成のイメージと短期大学の役割

話題提供

「短期大学としての強みを発揮するための教育イノベーション」

「地域と共生する短期大学としてのアクションプラン」
富山短期大学 副学長、経営情報学科教授

安達 哲夫 氏

 富山県民の強い要望を受けて創設され、地域のニーズに応える有為な人材を育成してきた本短期大学では、さらなる教育改革を行うために、平成26年度の第三者認証評価にあたって、平成27〜29年度のアクションプランが策定された。まず、改革の方向性を合せるために、大学・学科の教育目標、アドミッションポリシー、ディプロマポリシー、カリキュラムポリシー等に対する共通理解を形成した。これにより、教職員の協働を促す具体的なアクションプランと到達目標の作成と共通理解を行った。さらに、PDCAサイクルの実質化と不断の改善・改革を行うために、可視化された指標・データに基づく到達目標の具体的なチェックと改善・改革案を作成した。また、効率化・省力化による「より良い効果・成果」の追及のためのシステム化を推進し、教育・学生支援と事務の合理化を図った。
 教育改革のベクトル合わせをするための「5つの指針」は、1)教育、2)学生支援、3)地域貢献、4)入学者確保、5)マネジメント体制、からなっており、それぞれの指針に対して2〜4、計12の行動指針に細分されている。行動指針はさらに細分され、計145のアクションプランが設けられている。これらアクションプランは、各部局、学科、専攻科の年度別計画に盛り込まれ、実行に移される。
 平成26年度大学教育再生加速プログラム(AP)事業では「学修成果」を数値化・可視化するためのシステムの構築を行った。1)Webシラバス・システム上に学修成果評価システム(LOAS)を構築、2)Webシラバス・システム上での4種のアンケート(毎回の授業アンケート、期末の授業アンケート、新入生アンケート、学修行動・生活調査)を実施、3)第三者アンケートと外部評価委員会による第三者評価をPDCAに反映、4)学生情報ファイル・システム(SIF)を構築し、学生へ情報をフィードバック、5)情報共有・協働支援システムにより教職員協働のPDCAサイクルを実質化した。
 AP事業遂行には、達成目標を必ずやり遂げる、という学長主導の強力なマネジメントが不可欠である。今後の課題としては、1)学修成果、ルーブリックの具体的内容と、その妥当性・社会的通用性の浸透、2)学修成果向上のための、真に実効性ある教育・授業内容と形態・方法の研究があげられる。

「アクティブ・ラーニングによる社会人基礎力と専門分野人材の育成」

京都光華女子大学短期大学部
ライフデザイン学科講師

小山 理子 氏

 本短期大学のライフデザイン学科はブライダル、デザイン、インテリア、トラベル、ファション、フード、ビジネスコミュニケーション、医療ビジネスの八つの学びの体系からなり、地域総合科学科に認定されている。この幅広いカリキュラム体系から学生が何を学ぶかを明確にするためのアクティブ・ラーニングの導入と、学修成果の可視化を軸とした事業が平成26年度文部科学省の大学教育再生加速プログラム(AP)に採択されている。
 この取り組みは、地域総合科学科に適合したアクティブ・ラーニングの活性化、地域総合科学科に適合した学修成果可視化システムの導入、そしてその根底となっているエンロールマネジメント(以下、EM)とIRの三つを事業全体に置いている。
 EM政策の人材育成目標は「思いやり」をもった社会に貢献する女性の育成であり、このために修得すべき能力は何か、この能力を育成するにはどのような教育が必要なのかを体系化した。体系化することは教員のFD、グループワークの素材となるが、暴走してしまうこともある。それを防ぐためにIRが不可欠となる。つまり、IRは学生支援のEMの目標を達成するためのものと位置付けており、オープンキャンパス開催の見直しや退学防止施策に役立てている。
 アクティブ・ラーニングはすべての教員に「アクティブラーニングマスター」になるための研修を行っている。また、社会人基礎力を養うためには「プレゼンテーション演習」にてPBLによるプレゼン大会を実施して育成している。
 学修成果の可視化については、ミドルレベルのディプロマポリシーを導入して各分野に属する科目の到達目標にひも付け、ディプロマポリシーに到達できるよう工夫をした。
 次に、総合的評価提示システムでは、担当科目毎に各学生に対し、5段階で評価するシステムで学生も自己評価している。この評価がディプロマポリシーにひも付き、高評価の学生はシステムの画面上で花が開くなどのしかけをしている。
 最後に、社会人基礎力の育成を重視したカリキュラム編成では、外部評価として全国の短期大学と比較できるPGOGテストを実施し、社会人基礎力を図った。この結果から本学学生は、「協働力」が高い反面、「自信創出力」「感情制御力」「実践力」が低いことが分かり、相関関係は分かったが、因果関係までは確認できなかった。このテストでは、学生が「これから何をやるべきかわかった」など、学生へフィードバックできることができた。卒業生評価はアンケートでは回収率が5%で、「はい」「いいえ」の2択ではどのように改革にフィードバックしてよいかわからないため、聞き取りアンケートを採用した。その中で在学中では面倒だと思ったことが、社会に出ると役に立ったと感じたなどの意見を得ることができた。
 次年度以降は「地域総合科学科サミット」の開催を計画している。

意見交換

「短期大学の強みを発揮するための教育改革の方向性を探る」

中央教育審議会専門委員
金子 元久 氏
富山短期大学
安達 哲夫 氏
京都光華女子大学短期大学部
小山 理子 氏

Q:自分の専門にこだわらずに教育の範囲を広く捉え直し、他分野と連携する努力の必要性を学内に広めていく工夫、専門学校との差別化、社会にアピールする工夫はどのようにしているのか。

A(安達氏):富山県は実学を重視する地域のため、経営情報学科では商業系など資格取得をさせ、資格系の職種に就職させている。APの目標達成を起動力として少数精鋭で全員一丸となっており、毎週、教員が会議を開き、方向性を共有している。

A(小山氏):汎用的な能力として社会人基礎力を育成するには、各教員が専門分野に専念して教育できる環境でないため、教員も幅広い内容を教育しなければならない状況にある。短期大学としての存在価値は就職率を高めることしか答えは見つかっていないが、家政にとどまらず教育内容を見直し、社会から求められる人材を育てなければならないと思っている。専門学校との差別化については、専門分野に特化してその分野に就職していくのが専修学校である一方で、本学では広く学修することを通じて、一般企業に就職できることを目指して、教育改革の方向づけをしている。産業界の構造変化の中で短大生が就職できる業界を探していく必要性がある。また、短期大学では社会人基礎力などにつながる資格を広範囲で取得できるので、他分野の資格も取得できる学科を選びたいという高校生のニーズに対応した教育が展開できる。

Q:短期大学が新しい職業大学に対して危機感を持っていることの声が審議会に届いていないのはなぜか。

A(金子氏):審議会では、既存の大学・短期大学の問題点が先に出てしまっており、本会議の事例のように短期大学が教育改革に前向きに努力し、地域・社会の発展に貢献していることが社会に伝わっていないので、取り組んでいる姿勢を積極的に主張していくことが重要である。

Q:短期大学として生きていくためには、地域との連携が重要と思われるが課題は何か。

A(金子):産業界の構造変化や地域のニーズを捉えて教育改革を考える必要があることから、常に地域の動きに配慮していく体制を構築することが重要である。

Q:学内で広く教員に教育改革を実践させるためには、どのような努力が必要であるか。

A(安達氏):全員一丸となって改革できている大学はないと思う。研究主体と思っている教員に対して意識まで変えることはできないが、組織としての動きを周知する努力は必要。

A(小山氏):専任教員は9名であることと、短期大学存続の危機感もあって、教育改革には全員参加し役割は明確であるが、教員の負担をできるだけ公平にする努力をしている。

文責:短期大学会議教育改革ICT戦略運営委員会


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