事業活動報告No.4
本協会では、私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、主体的な学びを促す教育環境の工夫等、情報通信技術(ICT)を活用した大学改革の基盤づくりについて認識を深めることを目的として、基礎講習コースとICT活用コースの講習会を実施している。
本年度の基礎講習コースは、参加者が、ICT活用の可能性や工夫について基礎的な理解を深め、大学の経営戦略や教育活動の充実に向けて主体的に取り組む考察力の獲得を目指して平成27年7月6日〜8日の3日間、加盟校・非加盟校合わせて61の大学・短期大学から120名(昨年度比14%減)の参加者を集め、昨年度までと同様、静岡県浜松市の浜名湖ロイヤルホテルにて開催した。
参加者の内訳としては、所属部門別では、学事・教務部門が36%、情報センター部門が17%と、この2部門で過半数を占めるが、学生、広報、就職、図書館、総務、管財、図書館、広報、財務、管財と、大学における業務の全部門に亘っている(図1)。在職年数別では3年以下が76%、また、年齢別では20歳代が82%を占めており、本講習会を職員の初年次研修に組み込んでいる大学もあり、またICT系分野を中心に経験者採用者の参加が多いことも特徴である(図2)。これに加え、勤務年数は浅い中途採用者が多く占めていることも近年の傾向であると言える。近年、私立大学が新卒者に限定することなく、経験者の採用を積極的に行っていることが伺える。
図1 参加者の部署別構成比
図2 参加者の年齢別構成比
本講習会は、開会時間前から参加者間で積極的に挨拶や名刺交換が盛んに行われ、講義、大学による最新事例報告の情報提供、グループ討議形式の研修に加えて、他大学間の交流の場として活用されている。
また、本講習会のねらいを達成するために、全体研修とグループ討議の2部構成にて実施した。
基礎講習コースのねらい
大学を取り巻く環境、社会が大学に求めること、ICTを活用した学修環境など、参加にあたり事前に把握しておくべき基礎的情報は、本協会Webに掲載のコンテンツや昨年度の本講習会グループ討議成果等により提供され、理解を深めた。加えて、本年度の自大学の事業計画書に目を通すとともに、現場の問題点を捉え、大学改革及びICT利活用のキーワード等(41項目:昨年度より約20%増)についても、事前に学修した。なお、本年度は、ICT利活用のキーワード等に本協会が提供している用語集等を連携させることにより、参加者の利便性を図ることができた。
研修を進めるにあって必要となる大学を取り巻く環境、大学改革や大学教育の質的転換の必要性、情報通信技術(ICT)活用の意義などについて、基礎的知識や情報を提供するとともに、事前研修の成果を確認しつつ、課題を共有し、課題に対する理解を深めることができた。
説明者:木村 増夫 氏(学校法人上智学院人事局付主幹、運営委員会委員長)
イントロダクションでは、大学の経営戦略や教育活動の充実に向け、大学を取り巻く環境や大学教育への社会的要請を踏まえ、課題解決に向けて大学職員の果たすべき役割と求められる能力について説明があった。
はじめに、開催の趣旨・ねらいや大学を取り巻く環境の変化について確認した上で、参加者の基本的な姿勢について説明があった。
次に、大学を取り巻く環境、大学改革を巡る昨今の動向について、文部科学省の答申や審議まとめ等による紹介があった。特に、文部科学省中央教育審議会については、設置の経緯、主な所掌事務、構成、分科会等について詳細に説明があり、大学分科会については、同分科会内の7部会について報告があり、理解を深めた。
同審議会に対する諮問事項は、各分科会あるいは部会にて検討され、諮問に対する答申として、文部科学大臣に手渡されることになる。この答申がそのまま法令化されるもの、あるいは通知として各大学に送付されるものがあり、大学送付の場合は、各大学はこれに迅速に対応しなければならず、この内容が補助金等に影響を与える場合もあると説明があった。
また、我が国が直面する課題、将来想定される状況から、我が国が目指すべき社会や求められる人材像、目指すべき新しい大学像についての説明があり、激しく変化する社会における大学の機能の再構築、そのための大学ガバナンスの充実・強化について説明が加えられた。
大学職員に求められる能力(職員力)について、職員一人ひとりが自律的に取り組み、「情報」を収集・分析し、それに基づき解決策を考え行動に移す「情報活用能力」と「実行力」が重要であるとした。
事前学修の成果を確認しつつ、解説を加えて課題を共有し、課題に対する理解を深め、またグループ討議で参考にしていただきたい2大学からICT活用事例について情報提供があった。
講師:石橋 博道 氏(創価大学総合学習支援オフィスシステム支援課長)
創価大学において、平成19年度から導入・運用を開始している学習支援ポータルシステムの機能概要について、説明があった。
学習支援ポータルシステムは、学生と教職員が時間と場所に制約されず、正規の授業と学生の自学自修、そして学生生活をトータル的に支援する、学生のための学修支援Webサービスである。
導入目的としては、対面で手が届かない部分を補うきめ細かな教育・学修サポート、ならびに学修機会を拡大し時間や場所にとらわれない効率的かつ効果的な学修環境の提供である。
本システム導入前は、教育サービスの乱立とシステム分化により、情報が分散していたのが課題であった。
情報の効果的な利活用、問い合わせのワンストップ化、直感的に分かりやすい操作性、情報伝達手段の集約、ログイン認証の統合化をコンセプトとして、統合化したポータルサイトを導入した。導入へ向けた取り組みとして、学生・教職員のニーズを意識し、効果的に情報・サービスを提供することで利用率の向上を目指している。また、利用向上のためにも教員の理解が不可欠である。
今後の課題としては、コンテンツのスマートフォン対応、多言語対応、入学前学生への利用拡張、蓄積された情報を学生の学修意欲向上・進路決定に活用したいとのことである。
講師:正田 浩三 氏(大手前大学事務局長補佐、キャリアセンター部長、学修支援・社会連携室長)
大手前大学では、建学の精神である“STUDY FOR LIFE”の下、リベラルアーツ型大学を目指している。リベラルアーツを単なる教養ではなく、その主目的を「問題解決力」の伸長であると定め、問題解決力を養成する本学独自のC-PLATS®能力開発教育体系を構築し、知識偏重教育から能力開発教育への転換を目指す教育改革を行っている。
このC-PLATS®能力開発教育における能力の伸長度(学修成果)とその評価、さらには能力の質保証のエビデンス機能を担うのがeポートフォリオ・システムである。
知識教育における学修成果とそのエビデンスについては、知識修得状況を確認する試験を実施すれば足りるが、能力開発教育においては評価とそのエビデンスのための新たな仕組みの構築が必要となる。これが能力開発型教育において最も困難な課題である。
この困難な課題に挑戦すべく、C-PLATS®能力開発型教育への転換と同時に「el-campus」と称する独自のLMS機能とeポートフォリオ機能を融合したシステムeポートフォリオ・システムel-campusを平成23年に開発し、運用している。
el-campusのLMS機能としては、教材等の保管・蓄積、学生への教材の配布、学修進捗管理、質問やお知らせなど教員と学生のコミュニケーション、課題の配布と提出・採点管理、授業アンケート機能等がある。
eラーニングは教材に基づき自己学修を行い、学修内容に関する課題についてレポート等を提出する典型的なPBL+SDL型学修であることがその大きな要因である。
PBL+SDL型学修の促進機能については、LMSと連動したマイノート機能がその役割を果たしている。マイノート機能には「活動ノート」「アイデアノート」「授業ノート」機能がある。
また、外部評価については教育ボランティアによる評価にeポートフォリオを活用している。教育ボランティアは直接学生のプレゼンテーションに参加して評価をする他、映像ポートフォリオによる評価を行っている。学生は入学時と毎学年終了時のプレゼンテーションを映像ポートフォリオとして映像データでel-campusに蓄積している。映像の比較により、学生の成長を教育ボランティアなどの外部評価員に評価していただくと同時に、本学の教育の質保証の重要なエビデンスとなっている。
全体討議は、冒頭に20分程グループ内での自己紹介を行う時間を設定し、その後、30分程のミニグループ討議の時間を設けた。その際、グループごとに情報提供に対する情報交換を行い、その上で情報提供者に対する質問事項をまとめ、それに対する回答・補足を情報提供者から説明をする形で進行した。
グループごとで情報交換することにより、質問事項や疑問点等も共有することができ、活性化した討議に繋がり、能動的に討議を進めることにより、さらに理解を深めることができた。
本報告の冒頭に掲げた、本講習会のねらいを再確認した上で、グループ討議でも念頭に置いて意見を交わし、成果を持ち帰っていただきたいと全体討議は締めくくられた。
グループ討議では、自らがどのように教育改革や大学改革に関与すべきか、対話と議論により望ましい改善案の提言作りを通じて、主体的な考察力、イノベーションに取り組む姿勢の獲得を目指した。概ね6〜7名を1グループとし、3グループを1班として、グループ討議を行った。本年度は、6班(18グループ)に別れ、討議のサポート役として、1班(3グループ)に1〜2名、研修運営委員を配置した。本年度は、経験した運営委員が交替したことにより、昨年度とは異なり、2階の4部屋に1班(3グループ)から2班(6グループ)構成として、討議を進めた。
「グループ討議『見える化』シート」により討議のポイントを明示することで、限られた時間内で効率よく、実質的な討議が交わされるよう配慮した。また、参加者に修得していただきたいスキル(能力)について6項目を設定し、3段階の自己評価により到達度の確認を図った。
(1)課題発見能力
大学が抱える諸問題について、その本質的な課題を探るため、多様な観点から事象を分析しようとする態度を持つ。
(2)創造的思考力
課題解決を図るため、積極的にアイデアや意見を述べて、創造的な議論を促そうとする態度を持つ。
(3)コミュニケーション能力
他のメンバーの意見やアイデアを尊重し、議論を発展させるためにお互いに協調しようとする態度を持つ。
(4)スキルを使う姿勢と態度
討議を通じて学んだ成果を認識し、これを常に磨きながら、自身の大学の教育改善に使おうとす態度を持つ。
(5)プレゼンテーション能力
グループでの討議内容を他のグループに分かりやすく伝えるため、相互に協力しながらスライドを作成する。
(6)発展的思考力
質疑応答や他グループの発表から、新たな着眼点や改善点を発見して、それを相互のブラッシュアップにつなげようとする態度を持つ。
「ステップ1:気づき、発見の時間」
第1部(事前研修、イントロダクション〜全体討議)より、大学改革の必要性、職員に求められる能力、ICT を活用して教育改革及び業務改革に関与することの重要性と主体的な取り組み姿勢について、各自がどのような“気づき”を得ることができたか、グループ内で発表し、共有した。
「ステップ2:討議と成果のまとめ」
大学改革や主体的な学修環境を構築するにあたり、職員各自が果たすべき役割や、それを実現する手段としてICT を活用する意義、重要性について確認、共有し、教育活動や大学の管理運営のイノベーションの実現に向けてICTを活用した望ましい改善策の構想作り等について、以下のステップを踏んで議論を行った。
1)テーマ設定
2)問題点の深堀り
3)解決策の検討
4)討議結果のまとめ
5)発表準備
「ステップ3:発表会と意見交換」
割り当てられた部屋ごとにグループ討議の成果発表、グループ間での質疑応答ならびに相互評価、意見交換を行った。
「ステップ4:省察(アンケート記入)」
グループ討議、発表会・意見交換会を踏まえて、各自、省察を行った。
なお、本年度は、2日目の夕食時に各班の代表が中間報告を行う場を用意した。昨年度までのアンケート結果では、初日のみ参加者全員での討議を行い、2日目以降は、各部屋の運営に任されていたことにより、他グループの討議状況や全体を把握できないといったコメントが数多く寄せられていた。このため、全体の日程(スケジュール)を勘案し、各班代表の6組が報告し、情報共有を図った。
コメントには、最終日に再度全体で集まり、総括的な要素(プログラム)を組み入れて欲しいとの意見もあったが、ホテル会場の予約状況と最終日に各グループの発表時間や他グループからの質疑応答時間を少しでも長く確保したいことから、次年度以降の課題とした。
グループ討議の進捗や成果については、それぞれのグループにより異なるが、その一例を紹介する。
「学生一人ひとりが自主性を身につけるために〜学生総合窓口“Q&Way課”の設置とICTを駆使した学生プロフィールデータベースの作成〜」
学生総合窓口“Q&Way課”設置の目的は、Question(質問)に対するWay(道筋)を回答する部局であり、すべての学生は疑問点や不明なことがあった場合には、原則Q&Way課の窓口に問い合わせる。
また、窓口をより有効にするため、各学務関係担当部署からの情報を吸い上げ、情報を一つに集約する。
このような新たな部局を設置することにより、学生は一つの窓口ですべての問題が解決するようになる。
これに加え、ICTを活用し蓄積したデータベース「学生プロフィールデータベース(仮称)」をもとに対応することにより、より学生目線の対応が可能となる。
単に学生からの質問等に答える「Q&A」の対応ではなく、学生の主体性等を育むために、その問題解決をするための「道筋」(Way)を示す役割を果たすことが必要となる。
そもそも、新たな部局を設置しなければならない背景としては、
1)主体的に行動できない学生が多い
2)大学に対する愛着が少ない(不本意入学者が多い)
3)学生に情報を与えすぎて自主的に動かない悪循環
4)事務組織が縦割りであり、スムーズな情報共有ができていない
5)教職員の対応が必ずしも均一ではない
等が挙げられる。
これらの問題を解決するため、答えをそのまま教えるのではなく、解決の道筋を案内する教育的な職員が必要である。
組織図は、図3の通りである。
図3 グループ討議発表スライド(抜粋)
Q&Way課の職員は、対応した学生の情報を担当部署に繋いで学生支援をバックアップし、部署の対応をフォローする各部署の担当者は、日々情報を集約し、互いの連携を図る。
この取り組みを実現するためには、次の点を踏まえなければならない。
1)様々な部署に習熟した人材の育成(経験豊富なベテラン職員を配置)
2)Q&Way課に権限を与える
3)個人情報の取り扱い方法の検討
4)定常的に各職員が学生情報を提供するように働きかける。
各大学の風土や、意思決定手順の違いにより、アプローチは様々である。したがって、「Q&Way課」を目的とするのではなく、学生対応をする際に「Q&Way」(質問に対し「道筋」を示すこと)の対応を職員一人ひとりが意識して対応することに意義があり、その対応を具現化するために、ICTの機能は非常に有効なツールになりうる。
本年度の基礎講習コースは、全体研修では大学を取り巻く環境、ICTを活用した大学改革や大学教育の質的転換の重要性などに関する情報提供があった。
グループ討議では、参加者自らが大学改革の課題を発見し、その解決について討議し、大学のイノベーションの提案、ICTの活用についてまとめた。「大学の役割」について論じた結果として、「次代を担う人材育成」が全グループの共通の見解であった。
具体的な改善の対象としては、学生支援を扱うグループと、授業改善や教育の仕組みに対する改善といった、教員・大学へのアプローチについて議論したグループに分かれていた。
研修という限られた時間の中で、すべての課題を網羅することができたわけではないが、様々な大学の、様々な部門の職員が集まり、多角的視点から大学改革に関する議論されたものと推察している。
研修終了後、討議のまとめと発表内容をもとにして、グループとしてのレポートと発表スライドを提出した。限られた時間の中では議論を尽くせなかったこと、相互評価や質疑応答から気づいたこと、発表までにはまとめきれなかった部分等について、電子メールによる討議により洗練度が上げられており、合宿研修の成果を職場に戻って振り返り、改めて報告書としてまとめることで、成果をより着実に自身のものにされた方も多いと思われる。
事後のアンケート結果から、入職から日の浅い者にとっては情報提供の内容や課題が難しかったとのコメントも見受けられたが、問題に気づき・発見し、課題を洗い出し、解決策を考えるという日常では経験できない研修は、大学職員として一段の飛躍につながり、日常業務でも実践していきたいという前向きなコメントも寄せられていた。昨年度の同アンケート結果には、スケジュール設定や運営体制側への要望・改善事項等も数多く寄せられていたが、本年度、運営委員会等で課題を整理し、改善可能なところから見直しを図ることができた。
昨年度は、3大学からの情報提供を受けていたが、過密スケジュールよる参加者側の負担、それに加え情報量が多く消化不良になってしまったことから、一部スケジュールを見直し2大学からきめ細かく情報提供を受けるよう改善した。
さらに前章に記載した通り、中間報告の場を設け、検討状況を全体で情報を共有することができた。
また、これまでPCや情報端末機器等の持参については参加者個人に一任していたが、各自積極的に持参するよう周知したことによって、従前より課題とされていたPCや情報端末等の持参者がそのまま記録者として固定化することがなくなり、グループでの負担を分散することができた。
本年度アンケート結果には、改善した点に対して、評価を受けた記述も見られたが、次年度以降の新たな課題等も受け彫りになったため、引き続き改善を進める必要がある。
2泊3日の研修の場でできることは限られているが、研修で得たことを各自が実践し、自大学内に広めることで、自己と大学全体の職員力の向上に繋げていただければと切に願っている。
文責: | 大学職員情報化研究講習会運営委員会 |