巻頭言

文理融合のデータサイエンス教育を模索して

毛利 進太郎(神戸学院大学教授 図書館・情報支援センター所長)

 本学は、近く創立60年を迎え、神戸港に面したポートアイランドに第1・第2ポーアイキャンパス、明石海峡大橋を望む神戸市西区に有瀬キャンパスを持ち、学生数が1万人を超える神戸市内最大級の私立大学です。栄養学部から始まり、経済学部や法学部などを含む10学部、13学科を擁し、幅広い学問領域を提供しています。
 本学には数理・情報系の学部は存在しませんが、2023年度には経営学部に経営情報学コースを発展させる形でデータサイエンス(DS)専攻を新設しました。この専攻では、企業や自治体のマネジメント方法を扱ってきた経営学を基軸とした教育を展開し、経営に必要な情報を正しく抽出し、マーケティング戦略に活用する力を身につけることを目的としています。さらに、マーケティングだけでなく、気象情報やスポーツなど、あらゆる場面でビッグデータの解析が重要となる今、企業が求めるこれらの能力の習得を目指しています。
 また、2022年度には全学部の学生を対象とした共通教育科目として「データサイエンス基礎」(2単位)および「データサイエンス」(2単位)を1年生向けに新たに開講しました。これらの科目は、理系・文系を問わず、すべての学生がデータの分析や活用について学ぶ重要性を理解し、その知識を身につけることを目的としています。本学には、薬学部、栄養学部、総合リハビリテーション学部、心理学部といった医療系の学部がありますが、情報・データサイエンスを専門的に学べる学部は存在せず、経営学部のデータサイエンス専攻がその中心的な役割を担っています。そのため、学部を横断した講義として数理的な内容をできるだけわかりやすく解説し、学生がデータサイエンスの基礎を学ぶとともに、自分の専門分野でデータ分析の重要性を認識できるような内容となっています。本学では毎年約2,500名の新入生が入学し、データサイエンス科目の受講が推奨されています。開始当初は受講率が期待よりも低く15%ほどでしたが、2023年度には約40%にまで向上し、当初の目標を上回る結果となりました。数年前には「データサイエンス」という言葉自体がまだ馴染みのないものでしたが、近年の急速な普及により、その重要性が広く認識されるようになったと感じています。
 本学では、これらの「データサイエンス基礎」や「データサイエンス」の科目を中心に、文部科学省の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(リテラシーレベル)」の認定を受け、さらなる発展と拡充を目指しています。また、2020年度からのコロナ禍を契機に、LMS(学習管理システム)の活用や遠隔講義、オンデマンド講義の導入が進められました。この動きに対応するため、第7次情報環境整備としてネットワークインフラの強化も行いました。しかし、ポストコロナの時代に入り、多くの取り組みがコロナ前の状態に戻りつつある一方で、コロナ禍で得られた知見が十分に活かされていない状況が見受けられます。今後の大学での教育においては、こうしたデジタルツールやリソースをより積極的に活用することが必要だと考えております。そこで大学全体としてこの経験で得た知識を活かす方向で推進すべきだと考えています。
 ここ数年におけるITの飛躍的発展を経て、社会の中でデータサイエンスの重要度が高まっており、専門性にとらわれない活用が望まれる分野です。本学では「地域とつながる大学である」という理念を大学憲章に定め、その実践に努めています。各学部の専門教育の中で、地域や自治体、企業との協力を通じてデータサイエンスの実践を学び、またその成果を地域へ還元することを期待しています。
 今後、新しいカリキュラムのもとで「情報T」を必修として学んできた高校生が2025年度より入学することで、大学でのデータサイエンスの学びが、さらには多くの専門分野における教育内容に大きな変化をもたらすでしょう。それが大学での学びに対する苦手意識を持たない良い影響を与えることを願っています。


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