特集 大学授業における生成AIの利活用と教育評価を考える

昭和大学における医学教育と生成AIの現状とこれから

村上 幸三(昭和大学 医学部放射線医学講座放射線学部門准教授)

鈴木慎太郎(昭和大学 医学部医学教育学講座医学教育推進室/医学部内科学講座呼吸器・アレルギー学部門准教授)

泉  美貴(昭和大学 医学部医学教育学講座教授)

1.はじめに

 本学医学部の学習内容に、現状では生成AIに焦点を絞った講義はありません。2025年度からは専門家を講師として招き、講義をお願いしようと考えていますが、現段階においては各講義で担当講師が自分の想いを語る程度です。そこで実際に医学生に対して行った生成AIに関する教育について、その背景と想いを交えて紹介します。

2.本学医学部における生成AIに関するリテラシー教育の実例

 全国の医学部では病態や治療方針に関するレポート記述を課題としていることが日常的です。以前から参考図書の書き写しが問題になり、とくに電子教科書が流通するにしたがい、PCでコピー&ペースト(以下、コピペ)する学生が目立つようになりました。医師や医学研究者にとっては引用のルール遵守は鉄則ですが、医学部卒前では剽窃や盗用、著作権侵害に関するリテラシー教育は不十分な状態と言えます。それらに加えて、昨今の生成AIの普及に伴い、学生による乱用が注目を浴び、利活用ルールに関する議論が盛んに行われるようになりました。2023年7月に文科省が発した「大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて」[1]では、各教育機関において行われている教育の実態等に応じて対応を検討することが示され、学生や教職員に向けて適切に指針等を示すように提示されました。また、大学における学修は学生が主体的に学ぶことが本質であり、生成AIはあくまでも修学の補助・支援ツールとしての役割が明示されました。一方で、今後のIT社会で生成AIが当たり前のように使用されることを想定し、その原理の理解、プロンプトに関する工夫、出力されたデータの正確性・信頼性の検証などを体験して学修できるような教育活動を採用することが推奨されていました。本学では2020年度から始動した新カリキュラムの一環で、学生があるテーマに沿った医学雑誌を作製するアクティブラーニング「ジャーナルクリエーション」を医学部2年生から4年生までの間に繰り返し行っています。過去2年間、教員から提供されてきた学修テーマは症候や疾患など真似しやすい媒体がWeb検索でヒットしやすく、総説論文や電子教科書からのコピペが散見され、ファシリテーターが必死に剽窃・盗用をチェックしていました。そこで2023年度はWeb検索が困難で日常診療上のナラティブなテーマ(例:「葬儀に出席したら息が苦しくなった…先生、これは霊による呪いでしょうか?」等)を提供しました。まず、生成AIによりSemantic Searchが行われるように発言者の背景や健康状態を討議の上、いくつかの解釈モデルを生み出す作業を学生に行わせました。つぎに、生成AIで重要なキーワードを散りばめたプロンプトを様々なパターンで繰り返し入力させ、プロンプトの最適化を経験的に学修させました。さらに、AIが生成したドラフトを学生が改めて推敲し、校正を重ね、引用元を探して文献リストを作成することでアカデミックライティングにおけるリテラシーやモラルを学ぶ機会としました。コピペしたがる学生達を逆手に取り、生成AIを積極的に使わせてみて、人間がそのアラ探しをします。プロダクツである雑誌にはAI生成論文と学生が校正した最終版の論文を併記し、生成AIのウイークポイントがどこにあるのか、を明らかにしました(図1)。

図1 本学医学部基礎臨床統合講義「呼吸器」ブロック・ジャーナルクリエーションにおける生成AIを活用することを学修するプログラムの作業フロー

3.臨床医が考える医学生に伝えたいこと

(1)臨床現場において

 医師として働いている際に聞いた話です。放射線科を研修している研修医が、胸部CTで認められた所見を生成AIに入力し、どんな疾患が考えられるか質問してみたそうです。その結果は、臨床経験を積んだ筆者が聞いても妥当であると考えられる内容でした。面白いと思いました。研修医が入力した単語が正しかったこともあるかもしれませんが、口語文での質問に対して適切な回答が導かれているのは、まるで指導医に指導されるかのような状況に思えたため、興味深いと思ったのです。
 日々の診療の中で突如浮かぶクリニカルクエスチョンがあります。これに対して日本語サイトで検索をかけても、適切な回答を得られることは少ないです。そのため、英語を使用してPubMedにて検索をかけることが通常手段となっています。英語が得意であれば問題ありませんが、不得意な筆者としては、検索結果でヒットしたabstractを読むだけでも大仕事となります。医療の世界に何年も過ごしている人間でも同じ状況である人は少なくないのに、医学生にとっても同様に大変な作業であることは想像に難くありません。その理由の一つとして、「医学英語には独特の言い回しがある」とよく言われることがあげられます。学生時代にその言い回しを学習できていることはほぼないです。臨床を続けていて初めて得られる経験的知識の存在は、決して少なくないです。この経験の差や、言語の壁を生成AIは超えることができます。英語の力が低下することを危惧する側面がある一方で、早期に臨床経験を積むことを求められている医学生にとっては、非常に有効なツールとなり得ると考えます。そのため生成AIを活用した文献検索方法や情報検索方法は、積極的に伝えるようにしています。実習中でも、学生に自身のスマートフォンなどを使用して検索方法を実践してもらっています。

(2)症例検討会において

 医師のプロフェッショナリズムに関する講義の中で、転移性脳腫瘍に対する治療選択の適応と限界を、家族の希望に注目した場合と医師の視点に注目した場合とに分けて説明した後に、それぞれの視点で学生に考えてもらい意見を出す、と言うことを行いました。意見の出し方としては、Google Jamboardに学生一人ひとりに付箋を作成してもらい、そこに学籍番号と名前、意見を記載してもらう、という方法をとりました。事前にこの付箋に書かれた名前と学籍番号で出席をとると伝えていたので、学生は大真面目でした。ほとんどの学生は真面目に求められたことを記載しましたが、名前と学籍番号だけで終わるものや、一部いたずら書きを行ったものもいました。ファシリテーターはMicrosoft Edge上でGoogle Jamboardを展開し、ある程度記載が済んだところでMicrosoft Copilotのプロンプトに、Webに記載されている内容をまとめて、と記載をし、その後さらに、Webに記載されている名前と番号を並べて全て抽出して、と記載しました(図2)。

図2 Microsoft EdgeとGoogle Jamboardを使用した授業の様子

 複数人でアイデアを出し合う方法として、付箋を活用したブレインストリーミングやKJ法があります。5−6人程度で行うのであればアイデアをまとめるのは簡単ですが、100人以上の学生がそれぞれ付箋に考えたことを記載するとなると、アイデアをまとめるのは一筋縄にはいかなくなります。このような際に、生成AIを活用して分類や要約を行うことは非常に有効な使用方法と言えます。さらにそこに記載されている学生情報から、出席をとるなどの方法も効率的な活用方法と言えるでしょう。
 100人近い学生のコメントは1分程度でまとめられ、それを見た学生達の驚きの声は大きいものでした。しかしこの後さらに、付箋に記載されている名前と学籍番号だけを収集するようにMicrosoft Copilotに指示し、その通りに行われた際の学生の驚く様は、ユーモラスと感じる程でした。授業終了後の学生のコメントにも、その活用方法が強く印象に残ったようで、AIを正しく使うことで自分の能力が拡張される未来を感じ取れたといった内容のコメントが多く寄せられました。

(3)学生に伝えたいこと

 近年の科学技術の発展はめざましいものがあります。その中でも、ここ数年間社会において強いインパクトを表しているものに生成AIがあります。これらの技術を正しく活用することで、自分の能力が拡張されることを知って欲しいと考えています。間違った使用は自分の能力を拡張させるのではなく縮小させることになりかねないということも、知って欲しいです。これらの技術を適正に活用する方法を身につけることで、日本が目指している未来の医療を実践できる医師になることが出来ると考えます。

関連URL
[1] 文部科学省
大学・高専における生成AIの教学面の取扱いについて(周知)
https://www.mext.go.jp/content/20230714-mxt_senmon01-000030762_1.pdf

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