巻頭言

Society5.0に向けた日本大学教学DXの取組み

大貫 進一郎(日本大学学長 理工学部教授)

 本学は、教育理念として「自主創造」を掲げ、社会の礎をつくり、新機軸の開拓に挑む人材の育成を目指しております。学祖である山田顕義は、岩倉使節団による欧米視察から帰国した後、日本の風土にあった法律整備の必要性を唱え、その教育機関として本学の原型である日本法律学校を創立しました。その後に開設した各学部も実学を旨とし、現在は16学部86学科を有する総合大学へと発展しました。卒業生の総数は126万人を超えております。
 現代社会は、現実空間と仮想空間とを高度に融合したSociety 5.0へと歩みを進めつつあります。そういった中、文系・理系・医歯薬系のありとあらゆる学問分野が<共存>している本学は、デジタルでつながることにより、学生自身が所属する学部・学科の専門性を高められるのはもちろんのこと、周辺分野あるいは関連分野に広く触れることができるようになりました。また本学は、「世界最大級のデータ駆動型教育機関」という目標を掲げて教学DXを推進しており、その三つの柱として「日本大学教学情報収集・分析基盤(Data Collection and Analysis System: D-CAS)」、「学修管理システム(LMS)」及び「ポータルシステム」の整備を図っております。
 第1段階では、教学データを一元的に集約するデータウェアハウス機能、集約データの分析機能も併せ持つD-CASの開発を行いました。具体的には大学本部が所有する入試・学籍・就職などのデータと各学部が所有する履修・成績等のデータを自動連携により収集し、システム内で各種分析を行うことができるよう開発を進めています。これまで各学部でシステムが「サイロ化」してきたことから、データ統合に当たってはデータクレンジング作業が想像以上に大変な作業であることを実感いたしました。
 第2段階では、教員が授業コンテンツ及び受講生である学生の学修状況を管理するだけでなく、D-CASと連携させることで学生の学修進捗を把握することが可能なLMSを全学導入いたしました。導入に当たっては、1年間の検討の末、世界中の大学で幅広く利用されているCanvas LMSを採用いたしました。各学部での授業だけでなく、本学の特徴である全学部の学生が混在してグループワークを行う「日本大学ワールド・カフェ」や相互履修科目での活用も検討しています。また、付属高等学校での利用も可能としており、特に高大接続施策での利用も期待されています。
 第3段階として、ポータルシステムの構築を予定しております。全学共通システムとして開発するシステムは「ポートフォリオ機能」を有することで学生が自分自身の各種履歴を確認できるだけでなく、教職員が学生一人ひとりの学修進度や個性に合わせた各種支援ができるようなシステムの開発を目指しております。具体的には、大学からのお知らせや履修情報等の表示に加え、D-CASの分析結果から学生個々に対して学修のフィードバックができるシステムを目指しています。
 この三つの柱は、単にシステム同士をつなぐのではなく、有機的な連携を前提として設計しており、利用者である学生や教職員が有効活用できるかが今後重要になります。AIの利活用も視野に入れながら、学生の教学情報を多角的に収集・分析し、一人ひとりの学びの実情に合わせた「個別最適化」の実現を目指します。その上で、豊かな教育リソースを活かした国内外でも類のない教学の新機軸を拓きながら、本学の教育理念である「自主創造」を体現する「自ら学び」「自ら考え」「自ら道をひらく」ことのできる人材、Society 5.0をリードするイノベーション人材を丁寧に育成いたします。


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