特集 数理・データサイエンス・AI教育の紹介

サイバー大学における「AIリテラシーレベル」について

安間 文彦(サイバー大学 IT総合学部学部長・教授)

1.はじめに

 本学は、2007年4月にソフトバンクグループが設立した日本初の株式会社立のフルオンライン大学です。本学では高度IT人材の育成を教育目標に掲げていることもあり、データサイエンスやAIの教育にも注力してきました。これまで数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度ではリテラシーレベル(2021年認定)、応用基礎レベル(2022年認定)、さらに2024年にはリテラシーレベルプラスの認定を受けました[1][2]。いずれの認定も、通信制課程としては初の認定となっています。今回はその中でもリテラシーレベルプラス認定を受けたプログラム「AIリテラシーレベル」の取り組みの概要を中心に紹介したいと思います。

2.本学の概要

 本学は、建学の理念として「場所や時間など個人の環境や条件を問わず、勉学に意欲のある多くの人に幅広く質の高い学修の機会を提供し、社会の形成者として有能な人材を育成すること」を掲げています。そのため、すべての授業がインターネットを通じてオンデマンド型で提供されるため、卒業まで通学が一切不要であるうえに、24時間いつでも学べる点が特徴です。このようにして場所だけでなく時間の制約も受けないため、社会人をはじめ多忙な人々にとって非常に柔軟な学習スタイルを提供しています。そのため、本学の多くの学生は仕事と学業を両立させており、高校新卒の学生から、社会人学生まで多くの学生に支持されています。社会人学生は、大卒資格をもたない方はもちろん、大卒資格はもっていながらもIT分野でのキャリアアップや、リカレント教育を目的に入学する学生も多数います。学部は、IT総合学部IT総合学科の1学部1学科体制で、「ビジネスのわかるITエンジニア」、「ITのわかるビジネスパーソン」をキーワードにしたカリキュラムを用意しています。カリキュラムの特徴としては、1学部1学科の中で専門領域の学修体系を明確化した履修上の区分として「コース」及び「プログラム」を設定し、各学生の学びたいテーマや希望する進路に応じ、より効果的かつ効率的な学修を進めることができるようにしてきました(2024年度からは後述する新カリキュラムに移行)。

3.本学における数理・データサイエンス・AI教育

 高度IT人材の育成を目指すカリキュラムをより強化するために、2018年度にはIT業界での社会的需要を踏まえ、人工知能(AI)の理論や技術を学び、それを具体的なビジネス課題の解決に応用できるIT人材の育成を目的とした「AIテクノロジープログラム」を新規に開設しました。それまでに存在した数理・データサイエンス・AI関連の科目(「ビジネス事例から学ぶ統計入門」、「統計解析とデータマイニング」、「IoT入門」など)に加えて、AIの各種手法の理論を学ぶ専門応用講義科目「AIアルゴリズム」や、機械学習手法をPythonで実装する専門応用演習科目「AIプログラミング」などを新規に開講することで、データサイエンスやAIをより専門的に学べるカリキュラムとして整備されていきました。
 専門性を重視したカリキュラムを整備する一方で、昨今、デジタル社会の基礎的な素養としての初級レベルの数理・データサイエンス・AI教育がすべての社会人にとって重要であるというニーズもあったため、数理・データサイエンス・AIのリテラシーを育成することを目的として、全学生を対象とした「AIリテラシーレベル」の教育プログラム(「AI入門」「ビジネス事例から学ぶ統計入門」「IoT入門」の3科目から構成)も開設しました。そして、同プログラムを2021年に数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度(MDASH)に申請したところ、リテラシーレベルの認定を受けました。さらに、前述したAIテクノロジープログラムで開講していたAI関連の専門科目や演習、卒業研究科目など必修8科目、選択7科目から構成される教育プログラム「AI応用基礎レベル」も、2022年に応用基礎レベルとしての認定を受けました。図1に本学の「AIリテラシーレベル」および「AI応用基礎レベル」の体系を示しています。リテラシーレベルの内容は、デジタル社会の基礎的な素養として文理を問わずすべての学生が学ぶことを推奨される内容となっていますが、リテラシーレベルのプログラムを構成する3科目は、いずれも本学のカリキュラム上では選択科目であったことから、本プログラムの修了率の向上は一つの課題となっていました。そのため、学内でも「AIリテラシーレベル」修了者に対して学習歴を証明するオープンバッジを発行するなどして、全学生に本プログラムの履修を促進してきました。その後、数理・AI・データサイエンス教育の体系をより強化するため、2023年度より新たに「データサイエンス入門」という科目を新規開講することにしました。この「データサイエンス入門」は企画段階から、「数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム」が定めたモデルカリキュラム[3]を参考に、モデルカリキュラムで定める「導入」(社会におけるデータ・AI利活用)、「基礎」(データリテラシー)、「心得」(データ・AI利活用における留意事項)を1科目ですべて網羅するように設計を進めました。このように、1科目でリテラシーレベル要件を満たす「データサイエンス入門」という授業科目を新規開講し、プログラムの修了要件を『従来の3科目全てに合格する、もしくは「データサイエンス入門」に合格する』としました。これにより、従来の3科目での構成に比べて、本プログラムの履修者および修了者が増加しています。さらに、本学で2024年度に開始した新しい教育課程では、「データサイエンス入門」を卒業要件の必修科目と指定していますので、さらに多くの修了者を見込んでいます。具体的には、2023年度終了時点では全学生に対する履修率は67.2%でしたが、今後、必然的にリテラシーレベルの履修率は100%に到達する見込みとなっています。

図1 サイバー大学「AIリテラシーレベル」と「AI応用基礎レベル」を構成する科目体系

4.「AIリテラシーレベル」の教育内容

(1)授業内容

 モデルカリキュラムに準拠した構成の「データサイエンス入門」の授業構成を表1に示します。モデルカリキュラムで定められた内容である「導入」(社会におけるデータ・AI利活用)は第1〜2回、第5〜6回、第8〜15回などで、「基礎」(データリテラシー)は主に2〜6回、8〜11回で、「心得」(データ・AI利活用における留意事項)は主に7回で学ぶようになっています。なお、これまでのリテラシーレベルの構成科目である3科目(「データサイエンスのための確率統計」、「IoT入門」、「AI(人工知能)入門」)も引き続き開講しており、「データサイエンス入門」開講以前から在籍する学生はこれらの3科目を履修することでリテラシーレベルを修了することができます。従来のモデルカリキュラムで定められた必須項目を学習できるとともに、図1に示すようにこれらの科目の一部は応用基礎レベルの必修科目の内容も含んでいますので、応用基礎レベルを目指す学生が上位の関連科目を段階的に授業選択できるカリキュラムを体系的に構築しています。

表1 データサイエンス入門の授業構成

(2)学習意欲を高めるための工夫

 本学の「AIリテラシーレベル」における、学習意欲を高めるための工夫や、特色ある取り組みについて紹介します。

・応用基礎レベルへの接続を意識した授業内容

 モデルカリキュラムのうち、リテラシーレベルではオプションとなっている学習内容(自然言語処理、画像認識、教師あり学習、教師なし学習)といった内容も授業の後半回(第10〜第14回)で採り入れている点も特徴です。これは、本学ではリテラシーレベルに続く内容として応用基礎レベルを用意しており、リテラシーレベルで学ぶ内容がどのように応用につながっていくかを学ぶことで今後の数理・データサイエンス・AI分野の学修への意欲、動機付けになることをねらっています。

・習熟度に応じた学習内容

 リテラシーレベルの教育では分かりやすさを重視した教育を実施することが求められますが、この点については、本科目では複雑な数式は極力用いず、図解による平易な説明を心がけて構成しています。また、本科目は高校新卒から社会人まで、さらに前提知識が様々な学生が受講することを想定し、GoogleのスプレッドシートやExcelなどの一般的な表計算ソフトなども用いて、プログラミング言語に関する事前の知識がなくても十分に理解できるような内容としています。後半ではGoogle Colaboratory上でPythonを利用した事例も紹介していますが、実行例の動画を視聴するだけでも十分に理解できるようにしています。また、同時にサンプルコードも提供しているため、様々な解析手法を学生の習熟度に応じて、実データを用いた発展的な演習として補完的に学習することを可能にしています。講義で紹介する分析事例では、総務省統計局のオープンデータ等を利用し、身近な社会課題についてデータ分析の視点を持つことの面白さを感じられるように工夫しています。

・組織的な授業制作と学習支援体制

 すべての授業をオンラインで行う本学では、授業制作は教員だけでなく、インストラクショナルデザイン課に所属するプロフェッショナルな教職員が教材の設計・開発に直接関与している点も特色です。担当教員以外の複数人の視点で授業の開講前に内容を評価し、反復的に改善を行うことで、分かりやすい授業を提供しています。すべての授業は学習管理システム(LMS)上でオンデマンド型の授業として開講されますが、本学では、「Cloud Campus」と呼ばれるLMSを独自に開発しており、教材の制作や配信、受講管理、小テスト・レポート・ディベート課題、授業評価アンケート、本人確認機能を搭載した期末試験、成績評価を一元管理できるようになっています。学生は受講中に質問がある場合はCloud Campus内に設置したQ&A掲示板や、メール等で授業内容に関する質問ができます。授業内での学習支援体制としては、科目担当教員に加えて、TA(ティーチングアシスタント)が科目内容や受講者数に応じて、必要数配置されています。授業内容に関する質問については、土日祝日等を除き、24時間以内に回答することを授業運用ガイドラインに定めて実施しているため、学習する曜日や時間帯が異なる様々な学生が受講する場合であっても、速やかに教員およびTAから助言を得られるような十分な学習支援体制を確保しています。

・学生による授業評価と定期的な授業改善

 授業改善については、学部で設置されているFD専門部会が中心となり、毎学期実施する授業評価アンケートにおける理解度や授業の実施方法に関する評価、学生からのフリーコメント等を分析しています。また、LMSから取得した学修履歴や成績を基に、BIツール(Amazon QuickSight)を活用してデータを可視化し、授業改善のための分析も組織的に行っています。そして、単位修得状況と照らし合わせて、内容・水準が適切になるように、インストラクショナルデザイン課の教職員とも連携しながら、科目担当教員が継続的に改善・向上に努めています。昨今の生成AIの急速な発展、普及に伴い、本科目でも2024年度秋学期から第15回の「データ・AIの利活用」の中で「生成AIの活用」というチャプターを追加し、最新の内容に更新しています。
 2024年度における本科目の授業評価アンケート結果では、「興味・関心」、「理解度」、「満足度」に関して、5段階評価でいずれも4.1以上の高評価を受けています。

・オープンバッジによる学修成果の可視化

 本学のMDASH認定プログラムを修了した学生には、デジタル証明としてオープンバッジを授与しています。オープンバッジは国際的な技術標準規格に沿って発行されるデジタル証明書で、本学では、一般財団法人オープンバッジ・ネットワークが発行するオープンバッジを導入しています。オープンバッジはブロックチェーン技術が取り入れられており、実質的に偽造・改ざんが不可能なため信頼性の高いツールとして利用できます。本学のオープンバッジは株式会社Lecosのオープンバッジウォレットに対応しており、学生はオープンバッジウォレットを利用することにより、学修歴をメールやSNSなどで共有および証明することができます。本学のMDASH認定プログラムのオープンバッジを図2に示します。

図2 AIリテラシーレベル(左)、
AI応用基礎レベルで授与されるオープンバッジ

・地域、海外との連携について

 本学は、福岡都市圏に位置する大学・自治体・産業界で形成する「福岡未来創造プラットフォーム」の一員として、2023年10月より完全オンラインによる単位認定可能な授業科目「データサイエンス入門」の無償提供を開始し、地域の人材育成に貢献しています。福岡未来創造プラットフォームは、福岡市を中心とする高等教育の振興と地域社会の活性化を目的に設立された組織であり、福岡都市圏に位置する大学・自治体・産業界の垣根を越えた取り組みを推し進めています。プラットフォーム参加校の学生は、図3に示すように本学の特別聴講生としてCloud Campusを通じて科目を受講するため、時間や場所を選ばずにオンデマンドで同科目を受講することを可能にしています。また、韓国で最大規模のオンライン大学である漢陽サイバー大学とも教育研究交流協定を締結し、双方のオンライン授業によって国境を越えた単位互換を実現しており、同大学にも「データサイエンス入門」を提供するなど、国内外を問わず、数理・データサイエンス・AI教育の普及に取り組んでいます。

図3 福岡未来創造プラットフォームへの科目提供

5.今後の展望

 本学では、2024年度にこれまでのコース・プログラム制のカリキュラムから、マイクロクレデンシャルを導入したカリキュラムに改編しました。従来の「IT総合学」の学士号を取得できる学位プログラムを維持しながら、開講科目を分野・レベルごとにグループ化し、グループ内のすべての科目に合格することで身に付けた学修成果をマイクロクレデンシャルとして認定するものです。マイクロクレデンシャルは、ブロンズからプラチナまでの4段階のランクを用意し、全29種類の積み上げ型の体系で構成されています。各マイクロクレデンシャルはオープンバッジにより証明しますが、オープンバッジには、マイクロクレデンシャル共同WGが策定するフレームワーク[4]と発行ガイドラインに完全に準拠した内容(学修成果、授業の方法、学習量、評価の方法等)のメタデータを詳述していることが大きな特長です。前述したMDASHリテラシーレベル、応用基礎レベルの修了者に授与されるオープンバッジについてもこのメタデータを記述したマイクロクレデンシャルとして授与することで学修成果の質を担保しています。全学的なマイクロクレデンシャル導入の取り組みについては、一般財団法人オープンバッジ・ネットワークが選出する「第2回オープンバッジ大賞」において、最高評価の「大賞」を受賞しています。

6.おわりに

 本稿では、リテラシーレベルプラスに認定された「AIリテラシーレベル」の取り組みの概要を紹介しました。高度IT人材を育成する目的を果たすために、デジタル大学としての強みを活かしながら、今後も数理・データサイエンス・AI教育を重視し、本取り組みを継続的に発展させていければと思っています。

参考文献および関連URL
[1] サイバー大学「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」,
https://www.cyber-u.ac.jp/about/mdash.html
(2024年12月16日URL参照).
[2] 文部科学省, 令和6年度「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」の認定等について,
https://www.mext.go.jp/content/20240823-mxt_senmon01-000016191-2.pdf
(2024年12月16日URL参照).
[3] 数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム, 「数理・データサイエンス・AI(リテラシーレベル)モデルカリキュラム〜データ思考の涵養〜(2024年2月22日改訂)」,
http://www.mi.u-tokyo.ac.jp/consortium/pdf/model_literacy_20240222.pdf
(2024年12月16日URL参照).
[4] マイクロクレデンシャル共同WG, マイクロクレデンシャルのフレームワーク(枠組み)1.0,
https://micro-credential-jwg.org/wp-content/uploads/2024/04/MC_frameworkver1.0.pdf
(2024年12月16日URL参照).

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