事業活動報告 No.2
本大会は、「学びの転換期、変革に挑む覚悟を問う」をテーマに、大学としてどのように変革に向き合うべきか考察するため、国の教育政策を共有する中で、変革の世紀を成就する教育DX、リカレント(社会人学び直し)教育の推進、生成AIを活用した授業の取組みと成績評価、生成AIを活用した業務DX、生成AIと著作権、ICTによる学びの個別最適化と質向上を目指す取組み、AI時代におけるアントレプレナーシップ教育、データサイエンス・AI授業のワークショップなど喫緊のテーマをとりあげ方向性を共有するとともに、ICT利活用による授業改善の研究発表などを通じて、理解の促進を図ることにした。
1日目の「全体会」では、向殿政男会長から、「変動が激しく不確実で、予測できない複雑な問題を抱える現代社会では、これまでの常識が通用しなくなるとも言われており、新しい物事や変化に適応する能力が求められている。AIの存在感が増せば増すほど、学生同士、学生と社会、教員とのインタラクティブな学びが一層求められ、教育のオープンイノベーションが急がれるのではないかと考える。」との挨拶の後、9月4日から6日に亘るプログラムがオンラインで実施された。
文部科学省高等教育企画課高等教育政策室長 見 英樹 氏
急速な少子化が進行する中で高等教育がどうあるべきかについて、昨年9月から中央教育審議会の大学分科会特別部会の下で議論されている。その背景として、18歳人口は1992年の205万人をピークに減少し、2022年には約半分になっている。一方で、大学進学率は上昇しており、現在は56.6%であり、今後さらに上昇するという推測もある。こうした状況の中で、大学進学者数も右肩上がりで増えており、現在63.3万人、その後2・3年増えた後は進学者が減少していく。留学生、社会人を増やせばいいという議論があるが、学部段階では外国人留学生は1.2万人(1.9%)、社会人は0.2万人(0.4%)しかいない。昨年度7月の試算では、2040年には51.0万人になると想定され、10万人減少していく。この10万人の減少を外国人留学生や社会人で埋めることは現在の割合を考えると相当厳しい状況を認識しなくてはならない。
次に、大学・短期大学の機関数を見ると、国立大学が法人化前の100校から現在86校になり、今年10月には東京工業大学と東京医科歯科大学が一体となり85校になる。公立大学は、私立大学が公立化していることもあり近年増加している。私立大学も増加している。一方、公立短期大学と私立短期大学は減少している。さらに、大学進学率を都道府県別に見ると、専門学校までを含めた進学率で最も高いのは京都府の86%、最も低いのは山口県の62%となっている。また、性別で進学率に差がある県もある.最も差があるのが山梨県で、男性と女性の大学進学率がそれぞれ79%、63%となっている。徳島県では男性が51%、女性が53%と逆転している。2000年と2023年世界の留学生の割合は、米国(28→17%)、英国(14→11%)は減少、日本も4→3%に減少。
こうした状況を踏まえて、昨年9月に中央教育審議会に「急速な少子化が進行する中での将来社会を見据えた高等教育の在り方について」という諮問がなされた。この中で(1)2040年以降の社会を見据えた高等教育が目指すべき姿、(2)今後の高等教育社会全体の適正な規模を視野に入れた地域における質の高い高等教育へのアクセス確保の在り方、(3)国公私の設置者別等の役割分担の在り方、(4)高等教育の改革を支える支援方策の在り方、といった4つの内容について議論を重ねている。
議論の中間まとめでは、まず、高等教育を取り巻く状況について、社会的変化(少子化、生産年齢人口の減少、DX・GX等の進展に伴う人材需要の変化、東京圏への一極集中など)、高等教育を取り巻く変化(「個別最適な学び」と「協働的学び」の初等中等教育への導入、進学率の地域間格差、リカレント教育やリスキリングの必要性の高まりなど)をあげ、次に、今後の高等教育が目指すべき姿として、「我が国の『知の総和(数×能力)』の維持・向上」、高等教育政策の目的を「教育研究の『質』の更なる高度化」、「高等教育全体の『規模』の適正化」、「高等教育への『アクセス』の確保」をあげ、この3点を地理的・社会的・経済的視点からバランスよく効率的に達成するために、制度や資源配分を検討することが重要であるとしている。
その上で、質の更なる向上に関する具体的施策としては、学修者本位の教育をさらに推進すること、外国人留学生や社会人をはじめとする多様な学生の受け入れを促進すること、博士号取得者の増加など大学院教育の充実化があげられている。規模の適正化については、大学間の連携、再編・統合の推進、縮小・撤退の支援に向けた具体的な方策を検討するとしている。一方で、高等教育の地理的アクセスを確保するために、地域の支援や制度の整備を進める必要がある。この他に、機関別・設置者別の役割や連携に関して、国立大学・公立大学・私立大学の本来的な役割に関する議論が進んでいる。また、高等教育改革を支える支援方策について、公財政支援の在り方、個人・保護者負担の在り方、企業等からの寄附金や社会からの投資拡大等多様な資金調達を通じた経営基盤の確立・強化の方策といった3つの観点から議論が進められている。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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日本で学位取得者が増えない要因について文科省はどのように考えているか。 | |
【回答】 | ||
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大きな要因としては、博士号取得者のキャリアパスが限定的に考えられている。日本では「博士=研究者」のイメージが強く、欧米のように多様な分野で博士人材が活躍できていない。この点について、政府および経済界は問題意識を持っており、経団連が提言をまとめたり、経済産業省が手引きやガイドラインを作る会議を設置したりしている。また、大学院において、トランスファラブルスキルの育成を意識した専門人育成ができていなかったと思う。文科省では、より幅の広い視点を持った博士人材を増やす取組みを進めている。更に、博士課程に進学した後の経済的支援も問題で、欧米のような経済的支援が日本ではできておらず、現在ようやく充実するような方向でむかっており、まだ地についたところである。 |
日本学術振興会顧問、慶應義塾大学顧問・名誉教授、本協会副会長 安西 祐一郎 氏
ここでは、次の5つの内容、A.少子化とデジタル化による近代教育制度の崩壊、B.学びのデジタル革命-どう学びどう教えるか、C.「学びの産業革命」から「学びのデジタル革命」へ、D.領域・制度の壁を突破する創造性と社会性、E.「帰国後の仕事を保証する国費留学生毎年1000人計画」で説明する。
A.少子化とデジタル化による近代教育制度の崩壊
1990年代から18歳人口が急減し、1990年代半ばにインターネット・携帯端末が普及したことで、日本の近代教育制度が崩壊に向かったと、考えている。新卒採用や終身雇用、年功賃金といった制度が崩壊し、就職先企業や雇用形態も多様化している。小中高等学校では、教員不足や教員の多忙が問題となっている。大学も、受験生が狙う大学と経営難の大学に二極化しつつあり、大学受験のシステムも壊れつつある。国立大学が、明治時代以来続いている階層制を維持している一方で、私立大学の競争や経営は厳しくなっている。また、大学院が低迷している。このようなことから、日本の教育制度は揺らぎ始めていると考えられる。
B.学びのデジタル革命-どう学びどう教えるか
「学びの産業革命」は、18世紀から19世紀にかけての産業革命による工業化社会に適した人材を育成するために、近代の学校制度が作られてきた。一人の先生が、大量の標準的な学生を育成してきた。これに対して「学びのデジタル革命」とは、1990年代以降のデジタル化によって、多様な人々の個性と力を引き出すインタラクションが大事になり、AIを道具として人間としての価値を高めていく、その創造と実践の経験を積む場に学校が変化したことを言う。大学教育がこの変化に対応できていないことが問題である。
C.「学びの産業革命」から「学びのデジタル革命」へ
ナマのデータを世界中から比較的簡単に集められることが大きい。学生にとっては、教科書や参考書に書いてあるおもちゃのようなデータを写すというような学習をしていたが、世界中からナマのデータを自分で集めることができる。自分のやる気とコミュニケーション能力があれば、いつでもどこでも、大学を超えてグローバルに世界中と繋がって学ぶことができるようになっている。ナマのデータを大量に手に入れられることで、教員は大量の問題を体系的に作ることができる。おもちゃのような問題を例題として解かせて、試験でちょっと違う問題を出し「できました」といった学びではなく、想定外の問題に対応するといった社会的な経験の場でないとできないシミュレーションをさせることができるようになっている。社会にいるかのようにいろいろ違った問題を大量にシャワーのように学生に浴びせることができるというところが、AI、インターネット時代で可能になっている。教員は学生のコーチ役になり、コミュニケーションをとっていくことができるよう、スキルを身に付けていく必要がある。
どう学び、どう教えるか、何を教えるかについて大事なことは、「学びの12の基本項目」として「教育の未来」の中に示している。その中からいくつか触れる。まず、「知識を鍛える」ことが大事で、「覚える知識」から「使える知識」にするために、「やり方の知識」を身に付ける必要がある。国語や数学などの科目の学び方を学ぶということが決定的に大事で、ChatGPTでは学ぶことのできない(書いてあっても実際に身体を使って自分で覚えていく)体育、芸術、技術、家庭科といった実技科目が重要になる。学び方を学ぶということについて、大学教育ではあまりとり上げられてきていないが、これを体系的にどう教えるかが大事になる。 また、大学であまり学んでいないものに、「合理的思考のスキルを身に付ける」がある。合理的思考は、勝手に自分で勉強しなさいではなかなか身に付かないもので、思考の仕方もさまざまあることを体系的にはっきり教えることが大事だと思う。さらに、「『社会的関係を築く力』をつける」も大事である。大学で議論しながら学ぶということが増えており、フォロワーとかリーダーとかいろいろなことが言われるようになってきた。この力を具体的にどう身に付けるかはここでは触れないが、目標の共有をどうすればよいかといったことから、社会的関係を分析し、身に付ける方法を標準化していく必要があると思う。
D.領域・制度の壁を突破する創造性と社会性
日本では「ご専門は?」と聞かれるが、欧米の主要大学の研究者からは、“What are you doing?”と聞かれる。現代社会の超領域問題を解決するには、伝統的な学問分野一つだけでは難しく、問いを立てることさえできない場合がある。大学教育では、領域に囚われない人材を輩出していく必要があるが、大学教育に携わる教員は領域の中で生きている。但し、さまざまな領域を広く浅く学ぶというのではなく、今までの領域を学んだ上で、それを超えていくということが必要である。これを実現するには相当なエネルギーが必要であるが、文理融合が進み、そうした人材が育ってきてほしいと願っている。
E.「帰国後の仕事を保証する国費留学生毎年1000人計画」
最後に、国際交流の施策は数多くあるが、世界に国費で留学していく人の心配は、帰国してから仕事がないのではないかということにある。そこで、それを全部保証するような施策ができないかという提言がEである。明治時代に日本を担っていたのは、海外に留学して戻ってきた人達である。大げさな話に聞こえるかもしれないが、そのくらいの危機感を持ってこれからの大学を考えなければならない時代に来ていると思う。
文部科学省高等教育局専門教育課専門官 今川 新悟 氏
1.我が国のデジタル人材を取り巻く現状−数理・データサイエンス・AI教育の推進−
最新の先端ITスキル等を活用できる人材が2030年までに54.5万人不足する試算があり、世界におけるデジタル競争力が年々落ち、2023年度ランキングでは64か国中32位、特にデジタル技術スキル、ビッグデータとアナリティクスの活用は64か国中63位、64位と低迷している。企業におけるDX推進人材が質量ともに非常に不足し、デジタル化の加速によりニーズが増加しているのに対し、供給が追い付いていない状況である。採用の観点から文理の枠を超えた知識・教養、数理・データサイエンス・AI・ITの専門知識の習得が期待されている。これらを受けて学修者本位の大学教育の実現に向けた今後の振興方策として、主専攻・副専攻制度の活用等を含む文理横断・文理融合教育の推進、専攻分野を問わず新たなリテラシーとして数理・データサイエンス・AI教育を推進する。
2.文部科学省における取組み −数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度−
デジタル社会の読み・書き・そろばんである数理・データサイエンス・AI教育をすべての国民が育み、あらゆる分野で活躍するという人材育成目標「AI戦略2019」に基づいて具体的に進めている。初等・中等教育におけるGIGAスクール、一人ひとり生徒が端末を持つ環境整備、高校の学習指導要領改定による科目「情報T」の必修化、大学共通テスト科目「情報」の今年度からの導入等でデジタル人材育成の強化を図っている。大学等では、認定制度等を構築している。数理・データサイエンス・AI教育プログラム認定制度は、開始後4年目であるが、令和6年度の認定状況は8月27日に公表され、エキスパートレベル、応用基礎レベル、リテラシーレベルの3つのレベルに応じて、それぞれの段階で育成を進めている。
リテラシーレベルは、494件で半分以上の大学等が認定を受け、年間50万人を対象とする目標達成にほぼ近づいた。応用基礎レベルは、243件で、25万人の目標に向けて約19万人、まだ6万人足りていない。リテラシーレベルから応用基礎レベルにレベルアップをするための体制面等の課題がある。応用基礎レベルは、大学単位、学部単位どちらかで申請が可能なので、モデルカリキュラム等で、2025年度の育成目標に向け加速化するよう申請をお願いしたい。
また、デジタル人材の育成目標の実現に向けてデ ジタル田園都市国家構想基本方針を設けた。これは文科省だけではなく現役の社会人も含めた経産省によるもの、厚生労働省のリスキリング、リカレント教育など各省庁も協力をしながら進め、デジタル人材育成推進協議会において5年間で230万人の育成目標をたてて連携推進している。
3.数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアム
11の拠点校(国立大学)、全国各地区9ブロックで数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアムを形成している。具体的には、教材作成・公表、モデルカリキュラムとなるシラバス公開、実施例紹介・共有、シンポジウム・ワークショップの開催などにより活動している。大学の規模、理系・文系など体制が違う約300校以上の大学が加盟し、コンソーシアム活動を通じて、拠点校を中心に生成AIなどの最新の技術の取り込み、モデルカリキュラムを策定・改訂し、それに準拠した教材を文科省と一緒に策定する。例えば、国家資格等に繋がるなど、特定分野のカリキュラムが固まっている分野(特定分野校)、それぞれの分野に沿った教育を導入できるようなモデルシラバスを今年度策定予定であり、各大学の好事例だけでなく、それぞれの分野で取り入れやすく実際に使えるようなシラバス、教材整備を進めている。コンソーシアム活動から情報を仕入れて課題をクリアして欲しい。
4.数理・データサイエンス・AIモデルカリキュラムの改訂
初等中等教育段階でのプログラミング学修の導入や「情報T」の必修化、生成AIを始めとする技術の進展など、モデルカリキュラム策定(リテラシーレベル R2.4/ 応用基礎レベルR3.3)以降、大きく変化した社会動向に対応するため、数理・データサイエンス・AI教育強化拠点コンソーシアムにおいて、リテラシーレベル・応用基礎レベルのモデルカリキュラムの改訂が本年2月に実施された。なお、各レベルの基本的な考え方や位置づけには変更はない。具体的には、リテラシーレベルでも生成AIの活用などの内容に触れる、応用基礎レベルでは生成AIの項目が追加され、これを授業内に取り入れることが大きな変更点である。
5.成長分野をけん引する機能強化に向けた基金
大学・高専機能強化支援事業としての特定成長分野(デジタル・グリーン等)、学部・学科レベルでの理系転換の取組みに関して、公私立大学の学部学科設置に向けた基金を運用し、理系人材の収容定員の増加、学部再編等の促進を図っている。更には、大学院研究科レベルでのデジタル分野に関わる定員増と体制強化に関する基金も置いている。人文社会科学系においても、クロスプログラムという、デジタル×ダブルメジャーの大学院教育に関する支援事業も行っており、データサイエンス分野が、文理横断的に理系だけではなく、文系の大学院に進んで専門性も持ちながらもデジタル分野とかけ合わせた学位プログラムの構築を支援する。クロスプログラムの支援事業、DXハイスクール選定など、高校のデジタル教育をさらに加速し、高大連携の一つの取組みも進めていただきたい。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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MDASHプログラム認定でリテラシーレベルが50万人の達成に近づいている一方で、応用基礎レベルについては19万人と、76%の達成率。本年2月にカリキュラム改訂があり、リテラシーレベルも生成AIのキーワードが追加された。認定制度が継続される中、生成AIに係る学修項目が追加された応用基礎レベルの教育に、シフトしていかないと最先端IT人材養成が達成されないのではないか。 | |
【回答】 | ||
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リテラシーレベル教育はもう誰もが知っておくべきものとなっている。応用基礎レベルとの違いというのは、自分の専門分野で活用できるかというところが非常に重要。社会に出た後も活用できる人材が求められている。正にデジタル人材というところでは、応用基礎レベルもしっかり学び活用できるようになり、更に卒業するまでに自分の研究分野の幅を広げ、社会に出て活用できる人材に育っていくことが非常に重要なポイントになっている。文理を問わず文社系、特に導入がしにくいという場合の体制面等で支援もする。同じような課題を抱えている大学同士、コンソーシアム活動等で、導入に向けて必要な支援を受けることができるので、声をあげていただきたい。 |
文部科学省総合教育政策局生涯学習推進課リカレント教育・民間教育振興室課長補佐 野 智志 氏
私情協発行「大学教育と情報」2024年度版第1号に掲載した「リカレント教育の推進に関する文部科学省の取組について」(以降、本記事参照部分はJuce2024No.1、と書く)の内容に触れつつ骨太の方針2024、令和7年度の概算要求について説明する。
リカレント教育の現状
大学等における社会人受講者数は2022年度約38万人、内、7割が正規課程で通信学修が64%であった。短期プログラム、履修証明プログラムの受講者数が増加し、履修証明プログラムは50%、科目等履修生が40%であった。学校種別では大学・大学院が51%、専修学校が46%の履修率であった。
なぜ、今リカレント教育が必要か
高等教育機関入学者の平均年齢は18歳、OECD各国の中では一番低い。一方、今年上半期の新生児出生数は35万人と過去最低を記録した。日本の生産年齢人口は2030年に57.3%まで下がるのでOECD中で最下位となる。日本は少子化により生産年齢人口が減少する中で労働生産性を上げる必要がある。労働生産性の向上は仕事関連の成人学習参加率の向上と相関関係がある。従って今、リカレント教育が必要である。
世界から取り残されている日本の現状
日本では企業の人材投資(OJT以外)も諸外国と比して低下傾向で社外学修・自己啓発を未実施の個人の割合も著しく高い(Juce2024No.1図2参照)。また、我が国の企業経営者に占める修士号・博士号の取得者の割合は諸外国の経営者に比べて少ない。継続して働きたい人の割合は日本で52%、転職志向のある人の割合、独立・起業志向の割合も諸外国に比べて低い。継続して働きたい意向は少ないが、転職や独立志向も少ないのが現状である。
なぜ、大学等教育機関を活用しないか
企業が大学等を活用しない理由は、大学等を活用する発想がない37.2%、大学等でどのようなプログラムを提供しているか分からないなど、大学を選定するための情報不足、企業が求める講座を大学等が提供できるかをコーディネーターが入ってしっかり設定しないと安心して利用できない、などがある。一方で、今後必要とされる知識・スキルは、大学アンケート同様マネジメント、リーダーシップがともに高く、問題設定力、問題解決力、IT・デジタルリテラシー・スキルなど、企業の求めているスキルと大学が提供するプログラムで育成するスキルは近いところにある。
「三すくみ」の状態から「三方ヨシ」へ
リカレント教育が進まない理由として、企業又は団体ではスキルを身につけさせると退職されるという懸念、教育機関では企業や社会人のニーズが分からない、社会人では学びが処遇に反映される不安などにより、「三すくみ」となっている。
リカレント教育推進に関する政府の取組み
そこで、文部科学省は専門学校・大学・大学院、経済産業省は企業又は団体、厚生労働省は社会人に「三方ヨシ」の関係を構築し、日本社会の恒常的な発展を実現することになった。具体的には、大学等における「リカレントプログラム」の開発・拡充に向けた支援に補助金の交付、リカレント教育推進のための学習基盤の整備(社会人の学びの情報アクセス改善に向けたポータルサイト「マナパス」の改良・充実)に取り組むことになった。「三方ヨシ」にしていく取組みが求められており、学びの可視化等を通じて産学官連携協働体制によるリカレント教育モデルの構築を進めていく。一方、経産省は、我が国の競争力強化に向けた機運の醸成・環境整備、企業に対する支援なども行っている。厚生労働省も、個人の主体的な学び直しに対する支援ということで、教育訓練給付金の制度の拡充、一部企業に対する助成なども行っている。
令和7年度文科省概算要求について
令和7年度リカレント教育と社会人の学び直しの総合的な充実に関する概算要求は、「リカレント教育と社会人の学び直しの総合的な充実に関する予算」の中で、116億円を計上している。新規に「リカレント教育エコシステム構築支援事業」として、地域や産業界と連携・協働して、経営者を含む地域や産業界の人材育成ニーズを踏まえたリカレント教育プログラムを開発し、産学官連携プラットフォームや産学連携の協働体制の構築を促進し、産業界・個人・大学によるエコシステム構築を支援するとして、5年間、25か所に5千万円、また、産学連携の協働体制の構築を促進し、リカレント教育エコシステムの構築を推進する大学等に5年間、18か所に5千万円の補助を要求している。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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リカレント教育とリスキリングとアップスキリングとの違いや関係性について教えてほしい。また、中堅社員のリスキリングはニーズがあるので大学の窓口を広げたいが、入学定員確保や正課授業等にかけるマンパワーが精一杯でリカレント教育まで手が伸びない現状の打開策を教えてほしい。 | |
【回答1】 | ||
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文科省で言うリカレント教育は、リスキリングや、アップスキリング等も含めたものになる。リカレント教育を生涯学習推進課で担当している理由は、職業と結びつかない個人の学び、いわば文化的な学びと、リスキリングやアップスキリングなどの学びも広く学びという概念でリカレント教育の中に含まれるものとして捉えている。一方で、リカレント教育に力を入れさせていただいたのは、政府でもリスキリング人材投資が大事だという中で、文科省でそういった取組みを進めさせていただいているところになる。また、リカレント教育に回す余力が難しいことについて、例えば、ハーバード大学では、リカレントエクステンションセンターの収入が全体の約8%あり、学部生の収入が10何%に比べて結構高い割合でリカレント教育でもしっかり収入を得て、その範囲内で独立して雇用活動している。リカレント教育エコシステムで求めている「三方ヨシ」は、継続的に受講者がいて安定した収入がとれ、かつ安定して人を採用できるということ。今回の予算では1カ所につき5千万円という助成金予算を5年間要求する。内訳は、ほとんど人件費となっている。このプログラムでは、5年間支援して、その体制をしっかり作ることにしているので、大学の中でリカレント教育基盤組織を作り、自らの資金で運用していける仕組みを産業界と連携しながら作っていただきたい。 産業界との連携で一番重視したいのは、企業が人を出すというところを重視したい。企業が安定的に人を出していただく。そこでしっかり学んで戻っていくと、戻った時に企業ではそれを評価していただく。また、教育プログラムは随時見直しを図っていくことも必要になってくる。そういう仕組をこの新規予算要求の中で作っていただければと考えている。 |
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【質問2】 | ||
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リカレント教育を推進する時に、大学施設を借りるのがほとんど少なく、民間が多いという中で、リカレント教育と社会人の大学への受け入れについての検討会の方向性と、両者の関係あるいはどういうかかわりがあるのか。一方では生涯学習、高等教育の話になっているが、私立大学の大学院の場合では、理工系・情報系よりも法文系の方が多い中で、社会企業の実装化にどれくらい貢献するか可能な範囲でお答えいただきたい。 | |
【回答2】 | ||
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短期プログラム、科目履修等があれば興味のある社会人は一定数いる。学びを深めて大学院で学びたい、博士課程、修士課程で学び直したいという人の可能性もある。リカレント教育の短期プログラムを充実するということは、土台というか裾野を広げるという意味でとても重要。その中からリカレントの学び直しをきっかけとして、修士課程、博士課程への進学の可能性が増えていくのではないかと考えている。 |
東北大学高度教養教育・学生支援機構教授 大森 不二雄 氏
大学教育におけるChatGPTの取り扱いに関する議論を深めることを目的に、昨年5月から6月にかけて全国の学部生を対象に、インターネット調査を実施した。調査対象の学生が4,000人に達するまで続け、統計分析に必要なサンプル数として設定した。調査の背景として、2022年11月30日にChatGPTが公開され、ユーザー数が1億人を超え、大学教育において期待と懸念が交錯する状況があった。当時、日本国内で大学生の利用実態を把握するデータはなく、海外の先行研究でもエビデンスが不十分であったため、実証的な知見を提供することを本調査の目的とした。
調査結果によると、大学生全体のChatGPT利用率は約40%に達している。回答者の32.4%が使用経験あると答え、男性は44.8%、女性は27.1%と性別で大きな差が見られた。また、理工農系の学生の利用率が高く、医歯薬看護系では低い傾向が確認されたが、学年による大きな差はなかった。
レポート作成や授業提出物における利用状況について、学生全体の約15%がレポートや提出物作成にChatGPTを利用しており、43.2%が予習・復習に活用していた。その内、92%が内容の正確さを確認し、必要に応じて修正を行い、85%が自分のアイデアを活かすために文章を編集していた。単にAIの出力をコピーするのではなく、積極的に活用し、懸念されているような使い方はしていないことを示している。
使用区分ごとの利用率では、日常学習で使用していてもレポート等では使用していない学生が結構いる反面、レポート等で使用しているけど、日常学習では使用していない学生は非常に少ないという結果が出た。
また、ChatGPTの利用が学生の能力形成に与える影響についても調査を実施した。77%の学生が「文章力の向上に役立った」と回答し、71%が「思考力の向上に寄与した」と述べている。この調査では、ChatGPTが批判的思考や創造力を妨げるという懸念とは逆に、学生自身のスキル向上に役立つと認識していることが示された。また、これらの評価は学年や大学の難易度にほとんど関連していないことも確認された。肯定的な結果になると予想していたが予想以上であった。
これらの結果を踏まえ、ChatGPTや生成AIは、大学教育における有効なツールとなり得ると結論づけられる。調査の結果、ChatGPT活用者は昨年5月から6月時点で「アーリーアダプター」に該当していたと考えられる。しかし、このままでは他の大学生全体に効果的な活用方法が普及する保証はない。大学におけるChatGPTの有効な活用のためには、大学側や教員の積極的な教育姿勢が重要であり、成績評価の方法についても改善が必要である。特に、従来のレポート提出による評価は適切ではないと考え、教室内試験で生成AIを使用せずに、評価する方法が現実的だと考えられる。
個人的な意見として、日本の大学教育では、学生の文章力や思考力の育成が不十分であり、ChatGPTを活用することで、その向上が期待される。具体的には、ライティング教育の改善や、生成AIを活用した教材・教授法の開発が必要である。また、学生が主体的に生成AIを使いこなせるよう支援することが重要だと考えられている。最後に、生成AIには様々限界があり、人間と同じような直感があるとは思えない。それはそれとして、まずは使ってみることが重要先決ではないかと考える。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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AI活用は、20年前のGoogle検索登場時と同じ状況に似ているのではないか。 | |
【回答1】 | ||
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不正行為は過去にも可能だったが、日本では大きな問題とはなっていなかった。不正防止は公平なルールを整備して対応するべきだと考えている。 | |
【質問2】 | ||
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短いレポート(数百字以下)では、コピペ問題が発生しやすいが、それをどう考慮した調査なのか。 | |
【回答2】 | ||
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分量の少ないものも当然学生は意識するような設問にしている。 | |
【質問3】 | ||
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経年変化が重要だと思うが、定期的に実施する予定はあるのか。 | |
【回答3】 | ||
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予定はないが、やることは重要だと思う。 | |
【質問4】 | ||
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理工農系の利用率が高いのは、文章を書くのが苦手だからではないか。 | |
【回答4】 | ||
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ICTになじんでいるのが要因だと考えた。 | |
【質問5】 | ||
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日本語で利用したか、英語で利用したか、は質問しているか。 | |
【回答5】 | ||
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それはしていない。英語で質問した方が良いと考えている学生はいたとしても、多数派ではないと考えている。 |
立命館大学生命科学部教授 木村 修平 氏
2021年度から、立命館大学の言語教育改革と全学DXにも関わっている。今回の発表では、私が担当している英語プログラム「プロジェクト発信型英語プログラム(PEP)」について紹介する。
探求型学習(PBL)は、学生が自ら課題を設定し、情報収集や分析を行い、その成果を発表することを重視する教育手法である。日本の教育政策は、Society5.0やVUCA(変動性・不確実性・複雑性・曖昧性)の時代に対応するため、こうした探求型学習を推進している。これにより、大学でも知識暗記型から創造的な問題解決能力を重視した教育への転換が求められている。
立命館大学のPEPは、2008年度から生命科学部と薬学部で導入され、現在4学部に展開している。特徴としては、学生の興味に基づいたプロジェクトを英語で実施し、ICTを活用した学習を推進している。これにより、英語の4技能(読む・核・聞く・話す)だけでなく、新しい「4技能」(リサーチ・オーサリング・コラボレーション・アウトプット)を重視している。
国内でこの規模で行っているのは本学が最初で、近年やっと日の目を見ている感じがある。正直言って英語授業の業界ではかなり邪道のような扱いを受けてきた。PEPでは、自主的に調べ、情報をまとめ、他者と協働し、成果を英語で発信するというシンプルなことを行っている。この過程でICTを積極的に活用し、Google検索や機械翻訳、オンラインツールなどを駆使して学習効果を高めている。さらに、英語教育における従来の試験中心の評価から、実践的な英語の運用能力を重視する方向へシフトしている。大学の英語授業が2年生で通常終わるが、3年生春学期には英語と専門科目の先生が協働して行っている。
また、英語教育における「教養か実用か」の議論を超え、「汎用性」を重視する立場をとっている。試験で「辞書、スマホ禁止」してスコア化してきた従来の英語教育を、英語で表現・発信ができるという、その達成感や自信から始まる語学教育の可能性があるのではないかという、英語の運用力へと切り替えて行きたい。新しい4技能はアカデミックリテラシーとしても有用であり、大学卒業後の多様なキャリアや再学習にも役立つと考えている。
PEPの成果として、学生の英語力が年々向上している。TOEICのスコアも入学時よりも大幅に改善しており、特に1年生の英語力の初期値が上がってきている。これにより、大学の英語教育はさらに高い運用能力の育成に向かうべきだと提言している。
最後に、立命館大学のPEPは他大学からも注目されており、多くの授業見学が行われているが、非常に多くの反応は、英語の教員以外からである。本学で新しく教える先生方も、教科書もマニュアルもない何が飛び出すか分からないPBLの授業は、すごい恐怖だと言っているが、教員自身が探求型教育を主導しているのであれば、心配いらないという立場をとっている。既存の英語教育の枠を超えた専門科目の先生を含めたチームで、コラボレーションしていく探求型教育のモデルとして、今後もさらに発展させていく予定である。
北海道医療大学情報センター長、薬学部教授 二瓶 裕之 氏
次世代医療人育成を目指して、コミュニケーションスキル(討論力・論述力・発表力)の向上を図るため、文章指導や情報科学などの初年次科目において、生成AIと共生した文章表現基盤教育プログラムを実施している。このプログラムの特徴として、生成AIに学生、教員、画匠の役を演じさせてロールプレイを行い、生成AIが作り出した創造力、表現力を学生が検証することにより、批判的視点を体感する生成AIと共生できる学びの場を作った。例えば、生成AIに本学にない医学部、栄養学部の学生を演じさせて、ディスカッションを通じて、アバターの学生と異なる視点からの意見を模索させることで、討論力を醸成している。また、AIを用いたアバターに、ルーブリック評価表に沿ったレポートの添削を行い、「考察」が深まってきている。更には、生成AIに自分がプレゼンしたい画像を書かせ、自分のイメージとの違いを検証させている。
これにより、生成AIをどういう役割で使うのか、利活用の目的を明確に定めることが大切であり、その上で、批判的視点を体感できるようなプロセスを組み込むことが大切と考えている。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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複数のアバターが同時に登場するシーンなども作れるのか。 | |
【回答】 | ||
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今は1シーンにつき1つのアバターだが、今後の技術発展により可能になると思う。 |
東京大学大学院総合文化研究科・教養学部附属教養教育高度化機構 Educational Transformation 部門特任准教授 中澤 明子 氏
生成AIの活用方針は、答えを得るために使うのではなく、自分の考えを可視化するために使う、思考材料を得るために使う。
一つの事例は、グループディスカッションでより多くの議論や気にかけていない視点に気づいて欲しいという意図から、「視点を得る」ために、教員が生成AIを使用している。
二つの事例は、学生が研究活動(「プロジェクト」)を行うときに、TAのように生成AIと対話することで、考えを深めるために、生成AIを使用している。
三つの事例は、生成AIの回答を批判的に考える、授業で学んだことを振り返ることを意図して、「考えるきっかけをつくる」ために、生成AIを使用している。
授業デザインの注意点・課題としては、教員が生成AIを使ってみて、強みと弱みを理解した上で、授業をデザインする、思考を深められるようなワークシートや授業設計の工夫が必要となる。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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対象とする学生の学年による効果の違いは何か。 | |
【回答】 | ||
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上の学年の方がAIになれており、効果的に使いこなしている。 |
福山大学大学教育センター講師 前田 吉広 氏
かねてより、ChatGPTを用いたレポート分析により、学生の自己理解を促進する効果を確認してきた。2024年度は、キャリアプランをイメージで表した「キャリアデザインツリー」をChatGPTに分析させ、制作した学生の目標や目的に基づくアドバイスの提供を試みた。ChatGPTの画像認識機能も精度が上がり、一定の効果が認められた。
生成AIを利用した学習成果物の分析は、学生のみでは難しい深い自己理解を促すキャリア支援の方法として一定の効果がある。生成AIの更なる改善と進化によって、キャリアカウンセリングや専門家の手を借りることなく、学生が自己理解を深め、自己肯定感を高めることができるようになることが期待できる。
今後の課題は、生成AIの進化によって分析結果が変わる可能性や他の科目や学習成果物に対しても同様の効果があるのかどうかを確かめるために、より多くの学生を対象に更なる調査が必要となる。なお、学生の将来のビジョンに適した分析結果を得るためには、プロンプトの改善や追加情報の入力が求められる。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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1、2、3年生など他の科目のデータも全て入れてみることで、学年による効果の違いもわかりそうか。 | |
【回答】 | ||
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興味深い視点であり、今後検討もしてみたい。 |
仁愛女子短期大学生活科学学科教授、福井大学客員教授 澤崎 敏文 氏
生成AIの活用に際しては、答え探しをしないだろうかなど、大きな議論になった。本学でも東京大学の例に倣い、「検索」ではなく「相談」するシステムと考え、生成AIに指示するプロンプトのやりとりに着目して、学生がAIとの対話を通じて商品企画のアイデアを導き出す過程に注目できるような授業設計をPBL活動の中で実践した。この中で、学生たちは生成AIを利用して商品開発のアイデアを考案し、そのプロセスを詳細に記述して、評価を受ける形式がとられた。
生成AIとのやりとりを対話型に指定することで、これまで授業内で学習したマーケティング等の知識を活用しながら、商品開発へと応用することができたため、実務経験のない学生たちによる商品開発という視点では、十分に相談役として機能していたと考えている。
生成AIを利用するには、最初に、十分に長いプロンプトを使うことで、プロジェクトに応じたアシスタントとしての役割を生成AIに演じさせることが可能である。また、PBLの最後に、学生が自身の生成AIの活用方法と入力したプロンプトを発表し、共有したことで、目的の理解がさらに深まった。学生から提案のあった紙素材による最終商品企画案としては、生成AIの活用がなければ発想しにくかった商品提案があり、協力企業や他の参加者からも、実現性・実用性にも問題の少ないリアルな商品企画であるとの高い評価を得ることができた。ビデオ講演のため質疑はメールで受け付けるとした。
大阪電気通信大学情報通信工学部教授 竹内 和広 氏
2023年から、学科全体でChatGPTを導入して、学生がSlackを介し、自由に質問できる環境を設けた。2024年には、ChatGPTの個別利用を積極的に指導し、プログラミングや情報収集における学生の支援を強化した。
教員や上級生によるサポート体制を整え、ChatGPTの有効な使用方法を教えた。この結果、多くの学生がChatGPTの利用を有益と感じた一方で、適切なプロンプトの設計やプログラミングの基本知識、実装するためのシステムの問題を理解し、それを伝える力が必要とされる課題も明らかになった。
ChatGPTを使うためには、ChatGPTのプロンプトで何ができるかを理解していないと使いこなせないので、そのための教育事例を紹介した。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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Chat GPTのサポートに対して、更に教員がTAによる支援が必要であった事例を教えてほしい | |
【回答】 | ||
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Chat GPTが提示するコードを再構成する必要がある場合などが該当する。 |
東北大学情報部デジタル変革推進課デジタルイノベーションユニット 鈴木 翔太 氏
2023年5月に全国の大学に先駆けて生成AIサービスを導入した。事務職員、技術職員、教員など全員200名が本システムを利用し、様々な業務に活用されている。導入に当たり外部講師を招き、学内外から約900名の教職員及び学生が参加し、生成AIの活用方法や懸念点を学んだ。
導入した生成AIの活用様態を調査した結果、文章生成や文章の作成補助、議事録の要約、部署横断的な業務から、コーディング、データ分析などの専門的な業務にまで活用され、また、英会話や専門用語の理解補助など、生成AIをいわゆる教師として活用するような利用方法も確認された。更に、活用を促進するため学内データをマルチモーダル化して業務効率化を行った。また、LLMが有する知識を拡張するために、事前学習データ以上の広範な内容を回答可能とする、RAGを活用した業務の効率化を行った。今後、RAGを活用した様々な応用をさらに拡張して、東北大学アプリを開発し、本学の教職員・学生のみならず、地域の方などに 向け、適材適所の情報提供を行っていくことを計画している。他にも、大学DXアライアンスでは、ニューノーマル時代にふさわしい教育環境の実現に向け、フラットな関係でDXに関する情報交換を行っている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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システムは内製されているようですが、専門の知識・技術を持たれた職員がおられるのか。 | |
【回答1】 | ||
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業務のDX推進プロジェクトは、自分にこの大学を変えさせてくれという意識の高い職員が参画している。システムに詳しくないものが90%以上になっている。その中に情報部の職員が中核的にプロジェクトを推進しているが、10%はシステムをよく知っている職員が中心となって作っている。なお、RAGを自動連係するプログラムは、人事系の職員が生成AIを使ってプログラムを作る事例が、かなり広がりを見せている。 | |
【質問2】 | ||
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議事録作成アプリを活用することで、要約が1時間弱くらいに短縮されることにより、何か新しい業務が広がったなどの事例等あるか。 | |
【回答2】 | ||
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何か新しいところというところはまだないけれども、本学国際卓越大学院に採択されたことから、今後多方面でいろいろ発生してくるであろうなということが強く予想されている。その為に人員等の確保を現在進めている状況ではあり、こういうものを活用して職員のリソースを可能な限り確保して、計画を履行できるように今後は期待をしている。 |
近畿大学経営戦略本部デジタル戦略室課長代理 前川 昌則 氏
2024年1月22日から3月31日までの期間に、AIプラットフォームの試験導入が行われた結果が報告された。試験導入の対象部署は全て事務組織で、64名の職員に向けて行われた。業務で利用した割合は、全体の55%程度に留り、4割以上の職員は利用しなかった。利用35名の利用頻度から、ほぼ毎日使うHeavy User、週に2、3回程度使うModerate User、週に1、2回程度使うLight User、月に数回しか使わないVery Light Userに分類できた。
機能に対する満足度としては、チャット機能の満足度が一番高く、一括処理機能やナレッジベース機能を上回った。全体としては満足という回答が約半数という状況であった。業務効率化への効果では、自己評価ではあるが、全体で業務の削減率は28.2%という結果が得られた。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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Heavy Userの方は、どういった業務に活用されていたのか。 | |
【回答】 | ||
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法人系の企画室、広報などで特殊な業務を行っている部署が非常に多く、アイデアの壁打ち、マクロのプログラムの先生というところが目立った。 |
ICTに不慣れな学生・教員のために設置しているヘルプデスクに、2019年度から導入されていたシナリオ型のチャットボットを生成AI型のチャットボットに切り替えるというプロジェクトが実行された。
AI型チャットボットの導入とその他の取組みにより、毎月4千件程度の問い合わせが半減した。チャットボットへの問い合わせは、BYOD、Microsoft365、PCのトラブル、プリンタ等の利用、学内ネットワーク、Google workspaceの6つに分類される。チャットボットをAI型に変更すると同時に、ヘルプデスクのホームページを更新し、情報を整理して見やすくしたことにより、問い合わせ数を減らすことができ、学生へのサポートが向上したと考えられる。
今後の目標は、学生が自分一人で、自宅にいても解決できるといった体制であり、これによって、問い合わせが減り、学生の満足度も上がり、教職員の業務負荷の軽減にもつながる。AI型チャットボットのみの導入ではなく、ホームページ、教員や学生への案内を総合的に判断して、学生や教員の負荷軽減を実現する必要がある。
今後の課題は、情報のアップデートを行い、学生のサポートはチャットボットのみによることが理想で、電話や対面を減らすことにより、業務の効率化を図っていくことである。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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ヘルプデスクの対応者もいろいろあり、対応履歴をどう入れれば、学習を効果的に行えるか、課題と思 っている。いろいろなマニュアル類は食べさせることできるけれども、より精度を高くするにはどういう形で実施されているのか。 | |
【回答】 | ||
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マニュアル類を学習させた後に、実際に学生を約5人程度、1週間から3週間かけて、一人最低20から30問程度の質問をさせ、100問マラソンのようなものを行った。普段学生が何に悩んで、どのような場合に躓くかを100から150問考えて、それを食べさせて覚えさせた。その結果、マニュアル類だけを食べさせた時の正答率は90%までは持っていけたものが、100問マラソンを導入することで、98から99%程度の回答まで持って行くことができた。 |
大阪大学全学教育推進機構教育学習支援部准教授 浦田 悠 氏
生成AIを不適切に利用させないようにするにはどうすればよいか。大阪大学では、教育学習支援部において、国内外のサイトや記事を収集し、その対策集を生成AIに投げてカテゴライズし、「生成AI教育ガイド」に掲載して、対策を公開している。
例えば、問題作成と試験の形式では、「授業内でディスカッションをした内容を書かせる」、「短いライティング、課題を頻繁に課す」、「口頭試問にする」ようなリアルタイムで出すことが対策としてあげられている。
オンライン試験では、コピペしにくいよう「問題文を画像にする」ことも有効である。
評価とフィーバックでは、「ピアや教員の対面ミーティングを組み合わせて段階的に評価する」、「手書きか口頭でリフレクションを提示させる」、「生成AIの回答を批評させる」。
課題の提出では、「課題を作成するプロセスについての考察を課す」、「手書きのレポート課題にする」、「引用文献のスクリーンショットを提出させる」。
方針の明示と周知では、「剽窃チェックツールが存在していることを学生に伝える」、「学問的誠実性を強調し、不正行為の結果を理解させる」。
なお、推奨されない対応としては、ChatGPTに剽窃チェックをさせて判断する、手書きでの課題提出を強制する(合理的配慮が必要な学生がいる場合もある)、学生に生成AIの利用を強制するなどがある。
学生と共有すべきこととしては、出力が信頼できない、倫理的・法的リスクをしっかり伝える、抑止効果は少ないが、学問的誠実性も伝えておく、学生が興味を持つような授業設計をすることが大事になってくるので、生成AIの対策とともに授業設計も見直しておくことが有効であり、授業改善に生成AIが活用できるかもしれないと思っている。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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大学1年生のアカデミックスキルを扱う授業で、生成AIをどのようにとりあげるのが適切か。 | |
【回答】 | ||
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学生の生成AIに対する態度は、現在さまざまなものがあるので、生成AIの特徴や留意点を適切に伝えるような授業を行うことが大事である。 |
獨協大学外国語学部教授 木村 佐千子 氏
生成AI時代の成績評価は、生成AIが使えない課題と生成AIを使ってより高い成果を目指す課題の2方向に分けて考えている。
生成AIを使わせないようにする方向としては、学生が生成AIを使っているかどうか分からないオンライン試験や電子機器使用可の対面筆記試験では、学生の実力を正確にはかりにくいので、筆記試験は対面で、電子機器の使用を禁止して実施する。授業内で短めの文献を対面で要約させる方法も考えられる。
生成AIの使用を認め、これまでより質の高い成果を生み出させる方向としては、レポート作成時では、自分では思いつかないようなアイデアを得る、レポートの構成案を複数出させ、検討させるなどの活用法が考えられる。コピー&ペーストで提出できない課題にするには、引用ページ数を脚注に明記させ、それを教員が確認することを伝える。ハルシネーション対策として、ファクトチェックを徹底させ、情報の誤りや実在しない内容・参考資料が書かれていれば、大幅減点することを伝える。文科省では、レポートに口頭試験を併用することが提案されていたが、レポートの内容だけ頭に入れて口頭試験に臨めば判別しにくく、学期末に大人数の口頭試験を行うのは負担が大きい。
そこで提案したいのが、アクティブ・ラーニング型授業で、学習プロセスを見る方法が有効であると思われる。「学科横断演習〜対話型生成AIについて知ろう」を外国語学部1年生20名で実施した。レポートで評価する科目であれば、学期始めにレポート課題を提示し、授業内で文献検索・調べ学習、グループワークなどを行い、中間発表させる。中間発表の準備段階で、生成AIに構成を相談したり、文章添削をしてもらったりすることで、AIリテラシーを身に付け、期末発表で質疑応答を行った後、レポートを作成させる。このようなやり方で、実際に授業したところ、AIリテラシーについて、学生はある程度身に付けることができ、AIを活用して発表スライドを作成することも達成できた。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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この発表で説明のあった授業は、少人数で行うことができたということで効果もあったと思われるが、大学全体で生成AIを前提とした質の高い教育を行うためには、カリキュラムから見直すようなことをすべきではないだろうか。 | |
【回答】 | ||
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カリキュラムを変えることは、大変で時間がかかるので、今後どうなるかは分からない。現状は大人数授業でのレポート不正対策は難しいので、大人数授業は対面試験で基礎的な内容の定着を図り、少人数教育でレポート作成やプレゼンテーションをきめ細かく見ていくというメリハリをつけることがよいと思う。 その際、生成AIに関する情報を教員間で共有していくことが重要で、本学ではFD研修会などを通じて積極的に行っている。 |
東北学院大学情報処理センター長、情報学部教授 松本 章代 氏
学生が生成AIを利用してレポートを作成する場合、教員はそれを見抜くことに多大な労力を割く必要がある。そこで、プログラミングに必要な知識を教える科目において、あえて生成AIを使用させ、欠点を認識する中で、正しい使い方を促すよう、生成AIの利用を前提とした3つのタイプの課題を考案し実践した。
「タイプA」は、学生自身に書かせた後、ChatGPTにも同じテーマのレポートを書かせ、両方をセットで提出させることにした。「タイプB」は、最初からChatGPTでレポートを書かせ、その内容について正しいかどうか検証させた。「タイプC」は、ChatGPTで未経験のプログラミング言語 (VBAなど)を作成させ、レポートとしてまとめさせるものであった。
その結果、「タイプA」は、ChatGPTが出力した文章が、自分の書いた文章と比較して分かりやすいかどうかということに関して言及したコメントが多かった。限られた字数の中でのまとめ方についての検討に、ChatGPTの出力が役立つと感じた学生が多いことが分かった。「タイプB」は、正確性の検証を行わせるために、正誤に関連する語が多く出現していた。また、ChatGPTの出力について、その真偽を検証する必要性を強く実感していることがうかがえた。「タイプC」は、あっという間にプログラムが作れることに、まず驚いたことがうかがえ、プログラミング能力・技術の向上にはつながらないようなフォローを行った。
学生の感想では、「やはり便利だ」、「使い方に気を付けつつ活用していきたい」などが多く見受けられた。タイプAとタイプBについては、他の様々な科目で適応可能であり、「生成AIを使いこなすという観点を教育活動に取り入れること」も達成できていると考えている。
こうした課題を通して、生成AIの便利さと留意点を学生が理解することができたと思われる。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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タイプCの課題で、VBAのプログラムを作るところで、どんなものを作るか、といった条件は指定しなかったのか。 | |
【回答1】 | ||
![]() |
プログラムを生成させる方法から、学生に調べてもらうために条件は何もつけなかった。生成AIへの指示の出し方を工夫できるようになる可能性もあると考えた。 | |
【質問2】 | ||
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タイプAの課題で、自分で書いた文章も実は生成AIで、別のプロンプトから出させたという可能性はないか。 | |
【回答2】 | ||
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その可能性はあるが、学生の様子を見た感じでは、そのようなことはしていなかったと思われる。 |
金沢工業大学大学事務局共創教育推進室長 西川 紀子 氏
社会人と学生がともに学びあう共創教育の中で、社会人個人の学びを企業に生かすリカレント教育の取組みとして、3つの授業 (「社会人共学者」、「情報技術教育」、「組織活性化と倫理」)を紹介する。
最初に、「社会人共学者プログラム」の事例として、3年次学部共通科目の「科学技術者倫理」では、学生とのアクティブ・ラーニングに取締役が参加し、企業現場での倫理活動を紹介する中で、若者とのコミュニケーションの接し方、問いかけ方について、深く体験し、学ぶことができたと聞いている。また、大学院の「臨床心理査定演習」では、オンライン形式でグループディスカッションに企業の心理士が参加する中で、学生は実際の検査方法を学び、社会人共学者は学生との接し方や新しい検査方法も学ぶことができた。
二つめの「情報技術教育プログラム」の事例として、1年次学部共通の「AI基礎」は、履修証明プログラムで、AI、IoT、プログラミングなど1年生向け授業として開講しており、本学学生の他に、一般企業、自治体職員、連携協定短大、高校教員が参加し、双方話し合いを通じて学び合った。
三つめの「組織活性化と倫理プログラム」の事例として、1年次学部共通の「ポジティブ心理学と組織活性化」では、社員のコミュニケーションの取り方がポジティブになったという。
以上、正課授業におけるリカレント教育を紹介したが、もう一つ、学生と連携した実践型・実課題解決教育を通して、企業の課題解決にチャレンジし、社員の成長を促す取組として、「KITコーオプ教育プログラム」がある。企業と大学(教育・研究)が産学連携して推進するものという位置付けで、約4か月間、学生が有償で企業に雇用されながら、企業の一員として企業が抱えるリアルな課題を解決する活動に参加するというもので、4年間で30社、50名の学生の派遣実績がある。企業側からも、改めて業務のプロセスを見直すきっかけができ、社員の人間力向上につながったという感想もある。このような取組みは教員側の自己点検に大いに役立っている。また、研究においても、共同研究を通して将来いつかは企業の発展に繋がるのではないかと思う。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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KITコーオプ教育はいわゆるインターンシップ研修だと思うが、一方、単位化、外部講師身分の承認、履修生等々、本来は教務課や教授会など各部局内管理等の業務を共創推進室で業務基盤をつくり、包括してマネジメントしているということですね。 | |
【回答】 | ||
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本学では、科目等履修者とは違う社会人共学者という身分をあえて規定した。授業支援として授業に参加するが、給料、謝礼は支払わず、その代わり授業の中で学んでいただく。協力と学びを組み合わせた形の規定をあえて別に作った。原案は共創推進室で作り、教授会等を経て、全学的に統一して運用している。 |
日本女子大学生涯学習センター所長、文学部教授 梨 博子 氏
本学創立者である成瀬仁蔵先生の生涯教育の理念に基づき、2007年に日本の高等教育機関としてはじめてリカレント教育課程プログラムを設置した。キャリアブレイクのある女性のための学び直しと、再就職支援を行うプログラムからスタートした。現在は、以下の3つのコース、一つは、就労中の女性のためのスキルアップのコース(働く女性のためのライフロングキャリアコース)、二つは、DX推進人材育成のコース、三つは、女性のリーダーシップ養成のためのコースを運営している。
2023年には、DX推進事業実施委員会を設置して、次世代リーダーを目指す女性のためのDX人材育成コースを新設し、オンライン形式の授業も導入して対面との混合型により課題提出、教員への質問や教員からのフィードバック等に活用している。(3コースの詳細は、私情協機関誌「2024年度No.1」を参照)
リカレント教育課程は、再就職コース、働く女性コース、DX人材育成コース(文科省事業採択)を開講している。特に、DX人材育成コースは、DX人材不足、ジェンダーギャップを解消するために、デジタル分野におけるDX推進人材の育成と、女性のリーダーシップ推進を目的として開設し、就業中の女性を対象として、平日の夜間と土曜日にオンライン開講、半年間で65時間の履修が修了条件となっている。ICTのリスキリングによって職場に変革をもたらし、社会をけん引していこうという気概にあふれる女性達が中心である。3コースは、全て文部科学省職業実践力育成プログラム(DP)に認定された履修証明プログラムである。
参加者からの声では、「DX推進だけでなく幅広い日常業務への応用が効く内容だった」、「受講生同士がディスカッションするなど参加型の授業が多い」、「実践に即したきめ細やかな再就職支援をしていただいた」など好評を得ている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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そもそもの始まりと、働く女性コース、再就職コースが始まって、新しくDX人材コースと3つのコースの受講者実績を教えてください。 | |
【回答1】 | ||
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結婚等によりキャリアブレイクが長い卒業生の社会復帰支援として通信教育から始まったが、すぐに全ての女性たちに門戸を広げ、建学の精神である生涯教育プログラムを実施した。3つのコースは、実績として全部で800人以上の修了生を輩出している。 | |
【質問2】 | ||
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これから男性を受け入れるということはあるか。 | |
【回答2】 | ||
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男女平等ということはあるが、まだ女性に特化したリカレント教育も必要だと考える。女性だけという環境が受講生にとってはとてもいいという声があり、効果があると思うので、今のところは女性のみとする。 |
学校法人中村学園経営企画室係長 石井 沙耶香 氏
「フード・マネジメント学科で学ぶような授業を社員に受けさせたい」という声がきっかけとなり、産学官38団体で組織の「福岡食育健康都市づくり地域協議会」と連携してプログラムを開発した。食のイノベーション人材を育成することを目的に、即戦力となるマネジメント力を修得する「食マネジメント領域」、調理や栄養科学の知識・技術を含む「食技術領域」、食文化を通じたグローバルな視点を学ぶ「食文化領域」の3領域でベーシック、アドバンス、プロフェッショナルの3コースでプログラムを実施している。
授業は、原則オンデマンド配信のため自分のペースで受講でき、講義もテストもオンラインで完結している。1つの講義動画は最短15分、コース修了者には証明書としてオープンバッジを授与している。受講者からは、「育児休暇中をうまく活用した学びを深めたい」、「起業の相談ができた」、「もっとこうしてほしかった」などの声を踏まえて、翌年度以降への改善を図っている。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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担当する講師は、基本オンライン、オンデマンドということは、正課授業の学生との関係は両者独立しているのでしょうか。 | |
【回答】 | ||
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正課の学生も受講できなくはないが、一緒に学ぶことはしていない。担当教員による社会人向けの動画作成は、学部レベルよりも少し高い(実践的である)が、そのコンテンツを学生にも授業で見せて活用することで、学部生への教育的な効果も生まれている。 |
早稲田大学グローバルソフトウェアエンジニアリング研究所所長、理工学術院教授 鷲崎 弘宜 氏
スマートエスイーは、超スマート社会を国際的にリードするイノベーティブ&DX人材を育成するAI・IoT・ビッグデータ技術分野の社会人学び直しプログラムとして、早稲田大学を代表に14大学、21の企業・団体の産学連携によるコンソーシアムで運営されている。
プログラムの内容は、AI、デジタルトランスフォーメーション、サスティナビリティという国際的な技術のトレンドと合致する形で更新しており、ビジネス上の価値やイノベーションを促進する力を育成する「IoT/AIコース」と、ビジネス上の課題からデジタルを理解し、ビジネスデザイン・DXを推進する人材を育成する「DXコース」で進めている。
履修は、平日の夜と土曜日開講し、全てオンラインで修了できる形にしている。重視している点は、1つは、各科目において大学での理論と産業界での実践との産学ペアでティーチングを行う。2つは、産業界から実題材を提供する。3つは、実際のニーズを把握していくよう産学連携のフォーラムを積極的に開催してプログラムの質保証を進めている。また、卒業研究に相当する受講者自身の課題を持ち込んで取組むという修了政策の機会を重視している。履修後は、大学院へ進学、共同研究、IoTシステム技術検定上級資格の獲得の機会を設けており、質保証としての講義・演習評価改善、FD・ノウハウ共有に取り組んでいる。
人材育成の効果としては、JMOOC/オンラインに無料で毎年2〜3万人が履修登録している。また、有料の各コースでは、20代から60代と幅広く受講し、毎年25名〜30名程度終了し、活躍している。学生が理解することができたと思われる。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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大規模プロジェクトのカリキュラム制作・意思統一、とりまとめは大変な努力とご苦労があるかと思う。質保証のための評価指標SFIAの参照はすごく重要だと思った。SFIAはこの大規模プロジェクトだからこそ、でしょうか。 | |
【回答1】 | ||
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大規模なものだけでなく、1科目からであっても小さな取組みでも、業界あげてそれぞれの立ち位置、どういう範囲を扱っているのか、あるいは扱っていないのか、というのを大きなものも小さなものも、同じ参照モデルに基づいて、整理・共有していくということが、これからの時代益々必要になると思う。 | |
【質問2】 | ||
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大規模組織によるコンソーシアム、プロジェクトの中で、例えば、AIツールなど個々の組織で利用するものを共通にして、さらに、新しい版が登場する中で、きちんとそろえていく難しさや工夫はあるか。 | |
【回答2】 | ||
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表面的な手法やツールは目まぐるしく変わる。本当に革新的な、5年、10年と変わらないような考え方を大学が中心のカリキュラムで、理論に裏付けされたところで、まずしっかり学んでいただく。5年、10年変わらないというところは大事だけど、明日使えるツールを学びたい。その部分は、産業界側の講師が得意なので任せて、毎年その都度アップデートしていく。目まぐるしく変化する業界だからこそ、産学で変わらない本質と、一方で移り変わりやすい所と両面をリカレント教育で扱っていくということが重要と考える。 |
芝浦工業大学工学部教授 角田 和巳 氏
現在、「ラーニングアナリティクスを活用した反転授業の質向上」に取り組んでいる。長年、反転授業を行っているが、学習効果や授業内容の関連性を明確化することで授業改善が図れると考え、学習分析ツールを導入した。具体的には、学習者のデータを収集・分析してフィードバックすることで、学習プロセスの最適化を目指している。
反転授業では、事前学習としてビデオや課題提出を通じて多くのデータが得られるため、ラーニングアナリティクスとの相性が良い。具体的に、本学で導入した「BookRoll」と「ログパレ」というツールを活用しており、学生が教材にマーカーを引く、メモを残すことで学習活動を記録し、それを可視化して分析し、授業内容を改善している。
授業では、予習課題に自己添削のプロセスを追加し、学習活動を可視化。その結果を授業冒頭で共有し、小テストやアクティブ・ラーニングに活用することで、学生の理解度が向上している。また、実験科目でも音声付きPDFを活用して事前学習を促し、その効果を分析することで、授業の質が向上した。教材の閲覧時間やマーカーの数と成績の相関も分析し、予習活動の重要性を確認している。これにより、学生の学習プロセスが可視化され、成績の改善が見られた。今後、この取り組みを広げることで教育マネジメントの強化や、大学全体の学習改善につながると期待している。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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反転授業では、やらない学生が問題視されてきた。どのようにフォローしているのか。 | |
【回答1】 | ||
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授業の途中であれば、どの学生かとわかる。個別にフォローせざるをえないが、途中で分かることが大きい。 | |
【質問2】 | ||
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分析ツールを、貴学ではどのくらい使用しているのか。 | |
【回答2】 | ||
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まだまだ少ないというのが正直なところ。普及させるには時間がかかる。 | |
【質問3】 | ||
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学生の反応はどうか。 | |
【回答3】 | ||
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アンケート結果では好評で、否定的な回答はなかった。 |
本協会医療系分野フォーラム型実験小委員会主査 片岡 竜太 氏
7分野の教員が連携してICTを活用して授業準備を行い、双方向型遠隔授業を運営した。「コロナ禍時代の持続可能な医療・健康生活を考える」という、社会課題をテーマにした授業は前例がないため、2つの異なる方法で実施し、成果を比較検討した。
1つは、2021年に多分野グループ(医学、歯学、薬学、看護学、栄養学、社会福祉学、情報コミュニケーション学)7分野の4、5年生2グループで問題発見・整理から課題設定、課題解決を行う方法と、2つは、2022年に分野別グループ(7分野の3、4年生2グループ)で問題発見・整理までは多分野グループで行い、課題設定と課題解決は7分野のグループで行う方法を試みた。
分野横断型遠隔授業の成果としては、幅広い視野で、医療・健康生活を考えることができた。自職種についてのアイデンティティを深め、他職種の役割を知ることができた。専門性を活かして、多職種と連携し、社会の問題に対応・解決する経験をすることができ、通常の大学では経験のできない体験ができた。
今後の課題としては、1つは、大学、学部が異なる学生が遠隔授業で緊張を和らげるのに時間がかかるので、教員がアイスブレイキングで心理的安全性の向上を図る役割を確認した。2つは、教員がすべての専門分野にアドバイスするのは難しいので、曖昧さやエビデンスの有無について指摘することが重要であること。3つは、多分野の学生グループで、「グループの課題」を設定するのが難しいので、全ての分野の学生が専門性を活かせる課題かを考えさせる必要性を確認した。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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教育効果を考えた場合、どちらの方法で実施するのが望ましいか。 | |
【回答1】 | ||
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分野横断型授業では、初めて経験する学生には分野別グループで行い、分野ごとの作戦的、会議的な場を与えてあげて、本番は多分野の学生たちでやるという2段階で行うのがよい。 | |
【質問2】 | ||
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7分野がほとんど医療系で、1つだけ情報コミュニケーション学だけが異質だが。 | |
【回答2】 | ||
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最初はハードルが高かったが、コロナ禍でのデマとか、メディアのあり方から、情報をどういうふうに獲得するかはタイムリーだった。お互い良い刺激になって成果が出た。 |
大学の国際化促進フォーラムJV−Campus運営委員会委員長、筑波大学JV−Campusプロジェクトリーダ 大庭 良介 氏
日本の高等教育の国際化を目指すオンライン教育プラットフォームであるJV-Campusは、約60以上の大学が参加し、海外留学生の受け入れ促進や日本の学生の海外留学支援を行っている。オンライン学習だけでなく、対面教育と連動し、インバウンド・アウトバウンドの留学を活性化することを目指している。
これは、文部科学省の国際化推進の一環として、東北大学、筑波大学、立命館大学の協力により始まった。目的は、日本の大学が国際教育の玄関口となり、留学生の増加や日本人学生の海外派遣を推進することである。現在、約130以上の教育機関が参加している。
現在、大学個別に機関BoX(ブース)を設け、LMS、動画配信サーバー、デジタルバッジ、eポートフォリオなどの機能を提供している。特に、日本文化や日本語教育、データサイエンスやAIリテラシーのコンテンツが充実しており、留学生向けに英語で提供されている。さらに、企業や地方自治体とも連携し、教育コンテンツを発信している。マイクロクレデンシャルや単位付与コースを通じて、各大学のユニークな教育プログラムを提供している。今後は、デジタルバッジや履修証明の発行を強化し、メタバースやセミナー機能も導入予定である。また、「日本語ひろば」というサブポータルを新設し、日本語学習者と教師を支援する予定である。
大学は、JV-Campusを通じて、自大学のPRや教育コンテンツの提供が可能であり、留学生の獲得や教育コンテンツビジネスの展開が期待できる。また、学生に対して多様な学習機会を提供し、キャリア形成を支援することができる。さらに、海外大学との共同プログラムの構築も可能であり、ダブルディグリーなどの新たな教育モデルも検討されている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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海外から見たとき、良いコンテンツが重要になると思うが、どのように集めるのか。 | |
【回答1】 | ||
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世界展開力事業のコンテンツも積極的にJV-Campusで配信するようにしている。コンテンツが集まると、JV-Campusをポータルとして位置づけ、多くの大学が集まるので、利便性が高まるプラットフォームを目指している。 | |
【質問2】 | ||
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理系の留学生は、技術的な目的で留学してくるが、コンテンツは? | |
【回答2】 | ||
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例えば、カーボンニュートラルは技術だが、具体例が伊勢神宮の遷宮であったりすると、魅力的に見えてくる。 |
京都大学学生総合支援機構DRC/テクニカルスタッフ、HEAP/プロジェクトスタッフ 大前 勝利 氏
京都大学の障害学生支援部では、障害のある学生がより良い学びを実現するための支援機器の活用をサポートしている。具体的には、機器の提案や使用方法の指導を行い、他大学からの相談にも対応している。また、文部科学省のHEAP(Higher Education Accessibility Platform)事業も受託し、障害学生支援の相談や支援技術に関する情報発信をWebやSNSで行っている。
日本の高等教育機関における障害学生数は、増加傾向にあり、2023年度には5万人以上に達している。2016年に施行された障害者差別解消法により、合理的配慮の提供が国公立大学では義務化され、私立大学でも2023年4月から義務化された。支援には、「障害の社会モデル」を重視し、ICTを活用して社会的障壁を取り除くことが求められる。
具体的な支援例として、聴覚障害のある学生に対して音声情報を文字に変換するノートテイクの導入や、自動音声認識アプリ「UDトーク」の活用がある。また、補聴援助システム「ロジャー」を併用して、音声を補助することも行っている。これにより、講義中の情報アクセスを支援し、学びやすい環境を整えている。
HEAP事業では、障害学生支援に関する体制整備や教職員研修の依頼、ICTを活用した支援技術の相談も受け付けている。更に、ATライブラリーでは支援機器の貸し出しを行い、購入前の試用や技術相談を提供している。また、大学入学から就職までの支援プログラムも実施している。京都大学の支援部門では、障害学生の権利に関するノウハウの発信やネットワーク構築に取り組んでおり、随時WebサイトやSNSを通じて情報を公開している。
【質疑応答】
【質問】 | ||
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機器もそうだが、ボランティア学生が重要だと思うがどうか。 | |
【回答】 | ||
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その通りで、マンパワーがどうしても必要な部分がICTを活用する中で出てくる。大規模大学では学内で人数が確保できても、小規模大学では難しい。マンパワーがないから終わりにするのではなく、できる限りのことを行い、日々の工夫や努力が必要になってくる。 |
生成AIに対する著作権問題に入る前に、Google検索結果の冒頭に、資料文章を引用して表示するのは、著作権的に議論の余地がある。日本の著作権法はEUと異なり、AIの自動学習に関しては、著作権法上の複製を無許諾で許し、かなりAI寄りである。著作権は細かい権利の総称であり、著作者人格権、著作財産権、著作隣接権の3つのセクションに分かれている。利用者が他人の著作物を正当に利用する限り、著作権者から過度なコントロールは受けなという権利と、著作権者を保護する権利とを調整するのが著作権法であり、 権利の主張が曖昧な部分は、ガイドラインとして調整している。
保護の対象となる著作者人格権は、コンテンツを作った人にだけ生じる権利で、絶対に制限することができない。著作財産権は、著作物にかかる経済的活動を他者から妨害されないための権利で、コンテンツの複製権、ネットを使って著作物を配信する公 衆送信権などがあり、著作者から他人に譲渡できる。
保護される著作物とは、思想や感情が表現されているものだが、判断が難しいので、他人が創作したものは全て著作物だと思ったほうがいい。
一方、利用者は、著作権法35条で授業目的に利用する場合には、著作者の許諾を得ずに利用できるが、例えば、本からかなりのページを複製し配付する、購入が前提となっているテキストや問題集の複製など、不当に害する場合はこの限りではない。公衆送信では、他人の著作物をサーバーにアップロードし、教室内の学生に配付する場合や、学生がデータをダウンロードして勉強する異時授業公衆送信も補償金制度により無許諾で利用できる。しかし、授業外で大学機関が他者の著作物を管理している場合、経年で利用する、共同利用するなどの場合には、補償金の支払いが必要となる。なお、他人の著作物を大学の設備を用いて教員がアップロードすることは授業利用であって、機関管理には該当しない。また、引用は、公正な慣行に合致していないといけない。全体から一部を取り出すのは許されているが、内容を変えてしまうことは許されていないので注意が必要。
大学が毎年5月1日の在籍学生数に720円と消費税をかけた額をSARTRASという団体に支払い、プールされた補償金は、SARTRASから活動団体を経由して著作者に分配される仕組みになっている。
生成系AIに関する著作権法上の問題として、3つのカテゴリーに分かれる。
一つは、AIが機械学習をして学習済みモデルを作るときで、著作権法上の問題は基本的にない。
二つは、AIをユーザーが利用するためにプロンプトを入れる際、プロンプトには著作権があるか。翻訳を依頼する場合、他人の著作物をそのままAIに投入する。素材として捉える場合は著作権法違反とはならないが、使うこと自体が思想感情の享受とする場合は著作権法違反となるなど、今まだ議論されている。
三つは、生成AIによる出力結果は誰の著作物なのか。出力結果に対し、ユーザーがプロンプトを通じて、どれだけ創作的寄与性を有するか、他人の著作物を似せてAIが出力したものがオリジナルと言えるのか。依拠性の問題もあり、他人の著作物を似せて、AIが出力したものがオリジナルと言えるのか。これが、冒頭で議論の余地ありと提起した問題点である。
京都産業大学法学部教授 嶌 英弘 氏
今後、社会では生成AIを使いこなす知識と技術の体得は必須となる。大学教育ではこの社会の要請に応じて生成AI教育を積極的に進めるべきである。生成AIに関しても第二のデジタルデバイド が生じる。GoogleによるGeminiではRAG(Retrieval-augmented Generation)という機能拡充により、内部保有の知識情報に加えて外部の知識ソースの知識・情報から拾い出し結果を生成している。東京都の文章生成利用AI利活用ガイドラインは初心者向けで非常に有用かつ参考になる。教職員向けの今後著作権教育も含め、ビジネスベースでの著作権規制の概要も身に付ける必要がある。EUの包括規制法では生成AIを使った文章や画像には「AIで作成した」との注意書きを要請している。
学習利用における注意点としては、著作権法上の問題だけではなく、個人情報保護法との関係での問題も存在している。生成AIについては、オプトアウトがほぼ完備されており、プロンプトに含まれる個人情報は収集しないようになっている。今後は、AIサービス提供者側でシステムとして対応される方向に進むと思う。著作権侵害の例として、学生が大部分自分で書いたけれども、一部だけ生成AIが出力した文章が使われている部分には、他人の著作物を元データの一部に用いて文章を作っても引用が明示されないので著作権侵害の危険は残る。こういう危険を回避するために、生成AIが出力した文章について、元データを追跡して表示するシステムもあるので、使う必要があると思う。特に、画像生成AIで既存のキャラクターを出力させる場合は、非常に問題点が出る。授業内での学習利用を超えて、外部への公表や自己の著作物として、公表・利用する場合には、同一性保持権侵害になる場合があるので、注意が必要になる。最後に、デジタルコンテンツの真実性の判別は急務で、詐欺的利用から身を守る教育の要請も喫緊の課題である。
文部科学省科学技術・学術政策局産業連携・地域振興課産業連携推進室専門職 南 佑輝 氏
大学発スタートアップ等の現状は、大学発ベンチャー数は、毎年増加傾向にあり、企業数及び増加数は、過去最多で4千社を超えている。しかし、スタートアップへの投資額は、米国37兆円(第1位)、中国6.3兆円、欧州2.4兆円、日本は0.35兆円となっており、米国の約100分の1と低いのが課題となっている。
そのため文部科学省では、起業人育成のためのアントレナーシップ教育の普及充実、スタートアップ創出とその起業支援として、「アントレプレナーシップ教育」、「企業支援」、「ファンド」の3本立てで展開している。
アントレプレナーシップ教育では、学生の受講が3%程度にとどまっており、指導教員の不足、大学同士の成功事例が横展開できていないという課題がある。希望する全ての学生が受講できる環境整備、好事例等の横展開に向けたガイドライン等整備を進めている。具体的には、7地域 で約100大学等が参画するプラットフォームで、①大学生・大学院生を対象に、スタートアップ・エコシステム形成支援「START事業」として、5万人以上のアントレ教育を展開。②小中高生を対象に、「EDGE-PRIME事業」として、2万人強のアントレ教育を展開。③希望する全ての学生等がアントレ教育を受講できる環境整備としての「アントレプレナーシップ醸成促進事業」によるモデルプログラムの公開を展開している。④起業家54名が「アントレプレナーシップ推進大使」となり、小中高校への出前授業やイベント参加を行っている。
起業支援では、起業・事業化に向けた研究開発資金と起業支援体制が不十分なため、地域一体となった環境整備が課題となっているため、2つの事業を展開している。①「大学発新産業創出基金事業」の基金で、研究から起業までを支援するギャップファンドプログラム(3年間で6千万円支援)の運営、スタートアップの経営者候補・事業化支援人材の確保・育成、産学官連携体制の構築など、エコシステム作りの総合的な取組みを行っている。②「ディープテック・スタートアップ国際展開プログラム」として、特に、フラッグシップ的な起業を目指すプロジェクトに原則3年間で3億円の支援を行い、起業まで後押ししている。他方、ディープテックに関心を有する起業家は少ないことから、有望な人材を発掘・指導し、研究者とともに事業化を目指すチーム作りを支援するプログラムとして、本年9月に「早暁プログラム」の広報をスタートしている。
成長・発展支援(ファンド)では、2つの事業を展開している。①価値創造につなげていくため、「官民イノベーションプログラム」として、4国立大学法人に出資し、4大学に所属するベンチャーキャピタル(VC)を設立し、民間のVCが投資できないところに投資活動を行い、現在217の会社に投資して今後の成長が期待されている。②科学技術振興機構(JST)の研究・開発成果を事業化する大学発等ベンチャーに対して、「出資型新事業創出支援プログラム(SUCCESS)」として、50億円のファンドを造成し、出資を行う事業も実施している。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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アントレナーシップ教育と高校の「探求学習」や大学の企業との協働型PBL学修などは共通点が多く、各プログラムの項目を整理する必要はないか。 | |
【回答1】 | ||
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重要な指摘で、重複部分は一つにまとめることは必要と思っており、アントレプレ教育の幅広い部分は他の教育である程度カバーできるところもある。それらをすみ分けることで、アントレ教育のカバーする範囲を狭くできるのではないかと思う。 | |
【質問2】 | ||
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最終的には起業人育成を目指すことなので、専門学修が進む学部上級学年、あるいは大学院での実施が自然ではないか。 | |
【回答2】 | ||
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かなり時間がかかるかとは思うが、個人的にはそうなるのではないか、という印象をもっている。 |
京都産業大学イノベーションセンター長、経営学部教授 具 承桓 氏
京都産業大学では、学生が自ら変革していくためのキーワードSHIFT(Sustainability、Human、Intelligence、Frontier、Talent)を意識し、失敗してもよいから何かにトライすることに期待している。そのためにアントレプレナー育成プログラムでは、共通教育に「アントレプレナー科目」を設定し、1年次に基礎科目、2年次に応用科目を配当している。また、ベネッセ社と共同開発した実践的なビジネススキルを学修する「Udemy Business」を提供している。最終的には、メンター教員の伴走を受け事業化・起業に挑戦する起業実践へ結びつけることを目標としている。京都市内に構える「町家学びテラス・西陣」に加え、起業活動の拠点となるイノベーションセンターを設置し、起業支援の充実に向けて産業界との連携も進めている。ここでは正課外のイベントとして、卒業生ベンチャー起業家や学生ベンチャーのトーク、2ヶ月ごとに開催するビジネスアイデア・プランに関するプレゼンテーションの練習「ピッチイベント」、ビジネスアイデアを競う「アイディアコンテスト」、新たな価値を創造し社会に貢献する「ビジネスプランコンテスト」、グローバルな視点での起業や連携を図る海外研修など、体系的なプログラムで支援している。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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2年生の演習科目の履修選考は、どのようなものか。 | |
【回答1】 | ||
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起業プランの提出と面接を行い、20〜25名を選出する。 | |
【質問2】 | ||
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イノベーションセンターのサポートは、正課科目の履修者だけが対象なのか。 | |
【回答2】 | ||
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サポートは科目の履修とは関係なく、全学生にオープンしている。 | |
【質問3】 | ||
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教員発ベンチャーに対して、活動場所や運転資金などの支援はあるのか。 | |
【回答3】 | ||
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大学が直接支援することはない。今はKSAC(関西スタートアップアカデミア・コアリション)と連携しているが、将来的には卒業生を含めてのベンチャーキャピタル機構設置の必要があると考えている。 |
名城大学社会連携センター長 田中 武憲 氏
名城大学は、新たな価値を生み出すマインドとスキルを学び、課題に立ち向かい解決策を実行し、自ら社会の課題を発見して自発的に行動できる人材育成を目指すとともに、起業のスタートアップを志す学生・教職員のための環境を整備・支援する「アントレプレナーシップ教育・企業支援推進プロジェクト」を進めている。
正課教育では、全学共通配当が困難なため、正課外プログラムを充実させている。具体的には、動機形成・意識醸成のための「起業家育成プログラムEXPLORERベーシック」「動機形成セミナー」など、アイデア検証のための「起業家育成プログラムEXPLORERアドバンスト」「DONUTS〜社会課題に挑む学生起業家向けプログラム」など、共創と実践のための「リーダーシップ開発プログラムImpact」「産学連携プログラム」など、合計13のプログラムを用意している。これらは社会連携センターが運営することで、シラバスに捉われずに柔軟に、かつ起業に関心を持つ学生が協働することができるという。また、起業活動拠点ものづくりスペースの「M−STUDIO」を設置し、起業に関心をもつ学生のための「MEIJO STARTUP CLUB」、テクノロジーに関心をもつ学生のための「Idea×Tech」など新たなコミュニティが形成されている。さらに学びのコミュニティ創出支援として、各部署での施策のスタートアップ費用を支援する「MS−26戦略プラン」、学生のプロジェクト立ち上げに対する助成金を支給する「Enjoy Learning プロジェクト」など、有益な制度が整っている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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正課外で単位化していないアントレプレナーシップ教育を担当しているのは、実際に行っているのは、M-STUDIOのメンバーか。 | |
【回答1】 | ||
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運営は基本的にはその通りだが、プロジェクトによっては、学部教員や外部講師に指導を依頼しているのが実情である。 | |
【質問2】 | ||
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M-STUDIOは、コミュニティの場であり、学生プロジェクト活動の場であり、指導を受ける場、という理解でよいか。 | |
【回答2】 | ||
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基本的にはその通りだが、現状は学生主体でようやくプロジェクトが立ち上がり、自走し始めている段階で、次のステップのための全学的な議論を進めるとともに、さらなる予算要求をしている。 |
大阪公立大学研究推進機構特任教授、本協会データサイエンス教育分科会アドバイザー 辻 智 氏
情報教育研究委員会データサイエンス教育分科会
大学においては「数理・データサイエンス・AI教育プログラム」の展開が必須になっているが、今回の教育内容の改訂に伴い、データ解析ツールとして、スプレッドシートに加えて、BI(Business Intelligence)ツールが追加された。これは、企業などで実際のデータ処理や分析ツールの利用技術を求められていると考えられる。
BIツールに関して馴染めがない教員も多いと考えられるので、BIツールの活用、特に文系学生を対象とする講義での活用法について、実践的な内容を説明することにした。
ワークショップの進め方としては、初めに渡邉主査から、今年度の分科会の意図について説明が行われ、次に、本協会分科会の辻アドバイザー(大阪公立大学)より、BIツール活用の実践例を踏まえた説明や方法が例示された。また、大学で利用可能なBIツールについて、今泉委員から紹介が行われ、最後に、分科会参加者との質疑応答が行われた。以下に、辻アドバイザーからのビッグデータ利用によるBIツール利用の実践例の説明を中心に概要を報告する。
① 文系学生個々人が履修した数理・データサイエンス・AI関連科目において、大学データサイエンスの授業にBI ツールが必要な理由として、実務的なビッグデータ分析スキルの習得、リアルタイムなビッグデータ分析の経験、産業界とのつながりの理解強化、教育の質の向上などがあげられる。私の授業で力を入れているのは、ビッグデータを実際にデータマイニングすることにより、宝探し的な発見をする楽しみを学生に味わっていただく。正解を求めるのではなく、自分ならではの視点で考えられるようにBI ツールに慣れることを目指している。
15回の授業では、サブテーマとして、BIとAIを1回から15回まで織り込でいる。BI選択のための仕様としては、ソーシャル分析のためのクラウド・アプリとして、検索データと位置情報データを履修生全員が活用する。検索データは月間数千万人規模、位置情報データは月間1千万人規模のビッグデータを用い、それらの前日までのデータを分析に活用できることにより、AI による 拡大推計を踏まえた実際のボリューム感で分析できるとし、ヤフーのデータソリューションのDS.INSIGHTを採用した。DS.INSIGHTは、検索データから生活者の興味関心やトレンド、ニーズなどを可視化した「People」と、検索データから話題のトピックやこれから流行りそうなものを把握する「Trend」、位置情報・検索データから人口動態・特徴検索などを可視化する「Place」の3つのアプリで、様々なデータをビッグデータから調べることができるようにした。
BIツール使用に関する学生の受けとめは、「DS.INSIGHTを使って実際に自分で考える機会があったことが良かった」、「様々なことが考察できて面白かった」、「1日単位や1週間単位で見ればちゃんと傾向が読み取れたため、また新たな発見となりました」などの感想が見られた。また、BI ツールを用いた結果をフォーラムでディスカッションしたところ、「検索エンジンの分析〜考察までを体験できたことが良かった。データを読み解き、その考察を誰かに共有するという経験が今までにあまり無かったため、私の中の情報を発信するハードルが下がった。」、「実際に使ってデータ分析の雰囲気がつかめてよかった。 Forumでは、他の人の分析の仕方や考え方が分かり、自分が思いつかなかった考え方もあって面白かった。」などの感想が見られ、学生間の学びが活発となり、受講学生について教育的効果をあげることができた。
DS.INSIGHTに関する課題と改善点としては、認証手続きのフォローが大変で、簡素化の方法を見つけないといけない。クラウドで便利だがスマホで使えるようにする。授業ごとのアカウントの設定・管理が大変で対応策を考える必要がある。使用料が年間100アカウントで60万円の負担になるので、学内ポータルから使えるような工夫を考える必要がある。
② 多摩大学の今泉氏より、大学が無料で利用できるBIツールについて、概ね次のような説明が行われた。BA (Business Analytics)、 Exploratory、Statistics、jamoviなどあるが、授業では、ExploratoryをAcademic選択して使用している。このソフトのメニューは、サマリ(タン変数の要約)、テーブル(データ表)、チャート(2変数間の関係)、アナリテッィクス(ビジネスための分析、目的変数vs 予測変数の枠組み)となっており、データを読み込むと自動的に要約が出てきて、回帰モデルであるとか、図式、ピポットテーブル、散布図、ヒートマップなどが作られ、視覚化されるので、学生は「そうか、こういうふうになっているのか」と、チャートを用いて例えば、箱ひげ図など可視化して理解できるようになっている。そういう中で、自分の仮設とのズレを検証するために、学生一人ひとりに原因を考えさせ、その違いをディスカッションしてモデルを進化させている。
③ 意見交換は、渡邉主査の司会で行われた。いくつかのやりとりを報告する。
③−1 マイクロソフト365の中にPower BIが実装されているが、データを使って学生に体験させる有効性ってどのくらいあるのか。
少なくともエクセルだけで授業をやるよりは、ずっといいと思う。BIツールの使い方として大事なことは、「自分のデータをどんなふうに見せたらいのか」相談に来る学生が多いので、Microsoft AzureのPower BI、Exploratory、Tableauなどについて、先生方にデータを分かりやすく見せる事例を示して頂けると、とっても役に立つと思う。
③−2 BIツールは、一つのグラフを作るとか、手順の話ではなく、問題全体をダッシュボードとして、どういうグラフとグラフを重ね合わせて、どの指標を画面上にどう描くかというのが大事で、その時に使う手法なのだと言われるが、これなかなか教えるのが難しいのだが。
最初に、ダッシュボードの使い方を教え、それで興味が出てきたら、どうやって作っているのだろう、どうやって可視化しているのだろうと、進めていく方が文科系の学生には非常に理解しやすい。例えば、ロサンゼルス市など、ボランティアに関する行政のダッシュボードを見せて、興味を引くようにするといい。最初に使い方を教え、それから逆戻りした方が興味がもっとわくのではないかなと思う。
③−3 結局のところ、私達は、可視化が一度にすぐできることで、可視化のための手順、ソフトウエアの手順、エクセルからグラフに至り回帰分析するための手順は教えなくても、分析が民主化されると思っているのですけれども。そういう感覚でBIツールに取り組むというのでよろしいでしょうか。
そう思う。先生方も、自分の持っているデータを学生がうまく使えるように、BIツールは便利というところをやってみせて、面白いと思っていただけると、どんどん広がってくるのではないかと思っている。
神戸大学大学院医学研究科脳神経内科学分野准教授 関口 兼司 氏
これまでの臨床教育は、診療見学型の臨床実習であって、医学知識の使い方・技能・態度は、卒業後の研修で培われていた。現在は、診療参加型の臨床実習が増加し、印象深い実習体験として、患者に触れずに技能を習得するシミュレーションが求められている。一方で医学生の学修量は年々増えており、能率的な医学知識の習得が課題となっている。教員の負担も増加する中でこれらを両立するには、知識習得の授業はオンデマンドとし、実習ではダイナミックな経験と豊富な医学知識にもとづく模擬症例のディスカッションを可能とする教育方略の構築が課題となっている。
コロナ禍での対面授業の制限を契機に、実習体験を通して自己学修意欲を高める動機づけとなる授業を、担当の臨床実習「筋電図検査実習」において試みた。その構成は、順に①事前の説明を行わず短時間の対面実習(印象付け+学習動機)、②理論的背景と臨床で得られたデータなどをオンデマンド動画の視聴学修(効率的な能動的視聴)、③Horizon Workrooms®を用いたメタバース内で、模擬症例を用いた小グループでのディスカッションである。通常は、反転授業として②→①→③の順序で行うが、事前学修が浸透しないため、②を実習後のオンデマンド学修に変更し、③をVR(Virtual Reality:仮想空間)教育(令和2年度文部科学省「デジタルを活用した大学・高専教育高度化プラン」)で実施した。
この取り組みで得られた気づきとしては、1つは、「実習→知識補塡(オンデマンド)→模擬症例ディスカッション(VR)」のプロセスは、反転授業よりも体験の記憶定着がある。2つは、ゴーグルを装着してのディスカッションは、視界を遮るため、スマートフォンで調べることができず、ディスカッションを行うに必要な知識の不足を覚え、自己学習への動機付けを高める可能性がある。3つは、アバターでのディスカッションは照れることがなく進めやすいが、参加者の表情がわからないとの評価もあり、「対面>VRメタバース> Zoom」の順序でディスカッションに取り組みやすい。4つは、臨床医学実習自体のVR・AR化は、個人情報の関係で患者の映像をネットワークに載せることができないため、シミュレーション教材自体の充実が先決であること、更に、ヘッドマウントディスプレイの準備と管理も大変で、デバイスの進歩がないと難しいことなどが課題として分かった。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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「実習→事後学修(オンデマンド)→ディスカッション(VR)」による授業構成の学生の評価はどうか。 | |
【回答1】 | ||
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反転授業の逆順での授業構成について、「非常に印象に残っている」と評価する学生が多く、効果があると考えている。 | |
【質問2】 | ||
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小グループでのディスカッションは、複数のグループを同時ではなく、時間帯を分けて先生が参加しているということか。 | |
【回答2】 | ||
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毎週6人から7人の1グループを対象として、ディスカッションを行う。 |
東海大学教育開発研究センター所長、理系教育センター次長 及川 義道 氏
東海大学では、理系教育センターでオンラインによるライブ型の配信授業として、2Dメタバースを使用している。2Dメタバースを用いている理由として、個人学習にWeb会議システムを使うと、個人学習や個別指導に依存しがちになり、学生との間接的なやりとりなど、クラス全体による学びの一体感を作り出すことが難しい。グループ学習においても、教員から、各グループの様子が見えない、学生同士が互いにどのようなことをしているのか認識できないなど、一体感が薄れ学習活動にマイナスと感じている。2Dメタバースを使うと、クラス全体の活動を俯瞰しながら、学習を見ることが可能で、学生同士の各グループの取組み状況を簡単に把握することができる。
2Dメタバースは、PC・スマホから手軽に安価に使用できるが、没入感が限られる。3Dメタバースは、ヘッドセットつけることで、高い没入感が得られ、感情やアイデンティティを表現できるが、高い技術力、高速の通信環境が必要になる。大学では、oViceのサービスを利用して2Dメタバースの授業を試行している。特徴は、安価で、画面共有や資料提供が容易で、コミュニケーションがとれ、ディスカッションやグループ学修などに利用しやすく、積極的に会話に参加できなくてもメンバーの近くで見聞きできること、などである。
oViceを試行する授業形態は、「講義型オンデマンド授業」と「反転型遠隔リアル授業」としている。オンデマンド授業(「基礎化学」)では、LMS上で音声付きPowerPointを個人学修し、それに不安のある場合はライブ講義に参加する。また、教員のアバターに接近し、質問するように指導している。その結果、課題の未提出とドロップアウトの減少、孤立しがちな学生が発見(脱落防止)できた。また、質問しても学生間での「晒し者感」はなく、友達と会話ができるなどの利点を確認できた。反転型授業(「データサイエンス入門」) では、個人で教材を事前学修し、次にoVice上で応用問題に取り組み、まとめの授業では指定されたグループで共通の応用問題を解き、教員は巡回して質問等に対応している。個人学習では、oVice上で教員が学生の近くに移動して積極的に声かけをして質問・相談を促したところ、近くの学生にも質問・相談を促す効果が生じた印象があり、個別対応をした学生の満足度は高かった。また、グループ学習では、Zoomなどのブレイクアウトルームで教員が入室して参加すると学生が緊張して自由な発言を妨げる可能性があるが、oViceでは入室の必要がなく、活動状況が外からわかるため、必要に応じて助言等ができた。
授業以外の応用例として、学生指導の場に応用する検討も進めている。学生・院生・教員がいつでも集える仮想空間の場を構築し、学生の帰属意識の向上と孤立防止指導に生かす試みをしている。
【質疑応答】
【質問1】 | ||
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「講義型オンデマンド授業」、「反転型遠隔リアル授業」は、コロナ禍が一段落した現在でも実施しているのか。 | |
【回答1】 | ||
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一部の授業を除いては対面に戻しているが、時間割の都合で履修できない学生のために、オンデマンドの授業は残している。情報系の「データサイエンス入門」は、oViceを使用した「反転型遠隔リアル授業」を継続している。 | |
【質問2】 | ||
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oViceでは、グループの近くに寄ると誰にでもその会話を聞くことができるので、これは少々問題ではないか。 | |
【回答2】 | ||
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問題はあるが、授業ではオープンな形で使用している。但し、学生の指導では、個別ルームを用意してその学生とだけの会話しかできない環境を作っている。 |
参加者アンケートの感想・意見(一部を紹介)
全体会について
分科会について
A-1 | 京都女子大・関西外大のゼミ・授業におけるSTEM系ものつくり教育の成果と課題 | ||
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成果として、プログラミングを言語ではなく文章として解釈する教育の可能性が示せたこと、文系大学において、IT系企業に就職する学生の就職活動に役立つこと、理工系的教養教育は、文系学生にとっての一つの有効な教育機会の提供であることが発表された。課題として、自分独自の発想による作品作りが時間不足もあり、できていないことがあげられた。
A-2 | メディア芸術データベースを用いたデータサイエンス教育の統合的アプローチ | ||
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数理・データサイエンスAI教育プログラム(リテラシーレベル)の基幹科目において、「公的統計データを用いたデータ分析と可視」の授業の中で、メディア芸術データベース(MADB)を活用した実践について、発表があった。アンケートの分析から、MADBのデータセットを用いたデータ可視化手法を学生が理解することで、その「有用性」を実感し、「興味関心」が高まる傾向にあることが示唆された。今後の課題として、他のデータセットの活用や他の分析ツールの導入があげられた。
A-3 | 人文社会系私立大学における有効なMDASH課程−山梨学院大学の事例− | ||
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この教育プログラムは、データサイエンス、ICTリテラシーA、ICTリテラシーBの3科目から構成されており、「知識」、[データ分析技能]、「グループワーク」の各要素に目標と重要点が設定されている。履修者総数が1,000人規模で30〜200名程度のクラスを複数開講し、複数教員が担当する。2021年度入学定員に対し51%が修。全学展開となった2022年度では、定員の47%が修了した。2023年度では、一部の学部で強制履修の対象となるなどの変更があり、修了率は39%となっている。
A-4 | 探究と創造の往還を通じた協調学習の支援を実現するフレームワークの提案 | ||
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この取組みでは、探究と創造の往還を通じた協調学習を支援する「Collaborative AI Assistant」のフレームワークについての提案があった。これは、IRLのアルゴリズムを組み込んだ協調人工知能を用いた学習支援を通じ、学生の興味や関心、特性に合わせた創造的な学びを協調学習の中で実現するものである。また、探究と創造のそれぞれのバランス等が可視化されることにより、教員が学生の学習状況を容易に把握することができる。このフレームワークの導入により、学生一人ひとりの特性に合わせた柔軟な学習支援が可能となり、探究と創造の往還を通じた深化した学びの実現が期待できるとしている。
A-5 | 大規模言語モデルへの回路図入力の試行 | ||
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電気・電子回路の教育でLLMを活用することを想定し、現時点での主要なLLMが回路図を認識できるかどうかについて発表があった。主要なLLMであるChatGPT、Claude、Geminiは、回路図が描かれた画像ファイルを正しく認識でき、SPICE形式の記述を正しく認識できたのは、Gemma 2とQwen 2のみであった。今後は、トランジスタ等の能動素子、又はANDやORといった論理ゲートを含むデジタル回路を正しく認識できるかを確認し、周波数ドメイン解析や、ブール代数などの数式を用いた解析についても確認する。さらに、同教育における学習効果を高めるLLMの活用について検討する。
A-6 | デザイン教育における生成AIの活用 | ||
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AIの使用を前提とした課題を設定し、コンテンツの制作デザイン行為を分析し、生成AIを活用できる内容を見極め、その利用における可能性について発表があった。
生成AIによりデザインプロセスのサイクルを短時間で検証できること、成果物を評価する「ディレクション」行為をAIに対する指示でシミュレートできる可能性は大きいことが成果であった。課題として、生成AIの進化は著しく、過去の技術的なノウハウの積み上げが困難であること、受動的な学生によっては生成AIの出力を「答」として受け取り、深めようとしない傾向があることがあげられた。
A-7 | 検索拡張生成(RAG)で実現する生成AI型チャットボット導入に向けた取組 | ||
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生成AIの応答範囲を組織内の情報に拡大する技術である検索拡張生成(RAG)を適用した生成AI型チャットボットを内製開発し、従来のシナリオ分岐型チャットボットと比較し、質問に柔軟な応答を実現できたことが発表された。システムの基本構成および仕組みについて、APIからの利用は、従量課金であることが利用コスト削減につながったこと、情報流失リスクがないことが報告された。今後は、実運用に向けた体制の確立、運用に向けた準備や評価の実施、評価結果に基づいた改善、さらには、学生目線での評価および開発にも注力することがあげられた。
A-8 | 翻訳サイト等で生成した英作文と自作文の比較による英語力の自己認識 | ||
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学生が作成した英文と生成された英文とを比較し、履修者およびツールの理解が困難な点を教師が認識できないかの検討について発表があった。翻訳サイトの場合、日本語を直訳する傾向にあること、生成系AIツールの場合、高いレベルの単語を含む文章が生成される場合があること、日常的な表現および慣用的な表現の英語翻訳が成功していないこと、英文法について理解が及んでいない学生が多数いること、そして、正確な翻訳の生成には科学技術分野で求められる論理に矛盾がなく、文法面でできる限り正確であるとともに、一意に解釈できる文章作成が必要であることが指摘された。
A-9 | ITリテラシーとしてのコンパクトなプログラミング入門教材の提案 | ||
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大学入学前のプログラミング経験や、入学後のプログラミング関連科目の履修歴のない学生を対象とし、最低限のプログラミング能力の育成を目標とするデータサイエンスやDXなどの理解や活用につながるコンパクトなプログラミング入門教材が提案された。Scratchに似たEduBlocksを利用している。ゼミの授業で実践し、データサイエンスに繋がるトピックを取り上げ、統計と関連付けながらの教材は、プログラミング経験の少ない学習者の入門として、一定の効果がある可能性が示された。今後は、この後に続く本格的なテキストプログラミングへと繋がる教材の開発を進める。
A-10 | プログラミング言語学修に向けた入学前教育2 | ||
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情報系や理工学系の学部・学科の学修基盤の構築に重要視される数学・英語・情報のうち、数学の入学前教育を実施している。その際のアンケートをもとに、Pythonの入学前教育も開始した。LMS[manaba]とプログラミング言語習得環境TechFULの活用に特徴がある。入学前教育に取り組んだ学生148名の内、34名がプログラミング言語学修を行った。34名の中で、1週間で30分以上取り組んだ学生は、Pythonの基礎を50%以上理解しており、プログラミング講義の成績も70%以上のスコアであった。今後は、manabaの使用法を周知し、より受講者を増やすことが課題である。
A-11 | 公務員試験対策とICTの活用(活用のその後の報告と展望) | ||
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地域貢献のために、11年間継続して高校生に公務員受験指導を行っている。コロナ禍でオンライン授業を行って録画した動画をオンデマンド配信可能にしている。その活用を目的に動画の短縮版を作成し、反転学習への利用も可能にした。また、オンデマンド教材、同期型遠隔授業、LMSによる進捗管理など様々な機能が、部活動やアルバイトとの両立を目指す受講者へのメリットを生み出した。その結果、受講者アンケートで、「今回の講座を他の受講者に勧めたい」、また「自分の目標に近づけた」という肯定的回答を全員から得ることができた。今後はコミュニティスペースやPDFによる可搬性や利便性の高い教材開発を行っていきたい。
A-12 | 仮想教室活用による反転授業における事前学習の動機づけ | ||
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本研究では、2次元メタバースに仮想教室を設けてライブ授業時間外にも開放した。その仮想教室には、事前学習教材、課題の解決技法の関わり、他受講生の活動状況や質問、教員コメント等を直接配置する工夫を行った。これにより事前学習時に、取り組みを先行する他受講生の状況や、教員からの個別指導内容が自然と共有されることで、各学生が動機付けされ、ドロップアウトの防止を狙った。仮想教室での反転授業には、毎回の授業に対応した背景画像及び各オブジェクト配置に手動作業のコストが掛かる点が課題の一つである。解決に向け、日次バッチ処理やRAGを用いたスプレッドシートを組み合せた半自動化の開発、簡易サービスへの移行や独自開発を検討している。
A-13 発表中止
A-14 | JIU日本語オンライン授業の開発と実践 | ||
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城西国際大学(JIU)では、留学生の増加に合わせて、日本語教育のためのオンデマンド授業の需要が高まっていことから、先行する国内7校の事例を調査し、①オンライン専用の授業内容と教材、②アクティブラーニングの実装工夫、③評価・フィードバック方法の明確化、④トラブルシューティングプロセスの確保が重視されていることを確認し、海外協定校に限定したオンライン・オンデマンド日本語講座の提供および留学生用のオンライン・オンデマンド日本語教材の提供を実装することにした。これらの目的を実現するために、無償で使えるLMSの利用を検討している。学習成果の可視化では、授業前と終了後のテストを実施し、得点の伸びを達成度として測定している。また、事前・事後のアンケートで満足度調査も行っている。教材は、入門から初級レベルを対象とし、日本の大学生活や授業に慣れることを目的に開発中である。2025年度中には、パイロットスタディを踏まえて改善を行い、2026年度には完成させる計画である。
A-15 | 理工系大学の学生実験における配線試験の遠隔化 | ||
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電気電子分野で必要な回路配線技術の習得には、学生実験が重要視され、その習得状況の評価として配線実験を行う。本研究では、この配線実験をルーブリックで分解することで、ICT化による遠隔実施を可能にした。具体的には、シュミットのスキーマ理論を適用することで、「認知段階」として回路図上での機器写真配置、「連合段階」として機器間の接続ケーブルを選択させる。ケーブル接続には複数の方法があるため、選択肢には工夫を加えた。「自動化段階」の確認は理論や測定手順などを記述回答させることで実現した。この実装システムにより合理的配慮が必要な学生の試験実施、学修機会の増加に寄与できた。
A-16 | 「気づき」による「意識化指導」を行うICT使用の日本語教員養成プログラム | ||
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異文化コミュニケーションにおけるオンライン双方向授業と reflective Journal の活用は、質的分析での有効性が実証されているが、本研究では更に学習者オートノミーを育む教育プログラムの構築を行った。まず、本学の学生とAUTの学生のグループで、学生生活や長期海外滞在などをテーマにブログを相互に作成する。そのブログに書き込まれた質問には、インタービュー動画を使って双方向で回答する。このプログラムのポイントは、教員がブログに書き込まれた日本語の文法誤用例を整理して学生に伝え、意識化タスクを通して「気づき」を促すことで、学生の自律性を導くことである。今後は、文法面だけでなく、音声面での意識化指導についても研究を継続する。
A-17 | ICT活用による国際的修士育成プロジェクト:世界がキャンパス | ||
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Zoomによる国際オンライン交流による専門教育の充実とVR・MRによる大学院生の専門レベル・コミュニケーション能力の向上に向けた取組みを行った。学部教育では、「オンライン海外留学」として、ハーバードの学生に校舎や研究室などをリアルタイムで中継案内いただいた。また、「オンライン海外探訪」として、JICAと協力してボツワナの青年海外協力隊の活動を紹介いただいた。これらに触発されて、海外留学した学生からも現地紹介する機会が得られるようになった。大学院教育では、化学実験TAに住化分析センターと協力して、VR教材による危険な化学現象などを体験させた。また、講義では東京大学の佐藤特任教授より、VR-MDを使った分子運動を疑似体験できる授業を提供いただいた。更に、WBDエウレカとは、Zoomアバターを使ったグループディスカッションも実施した。顔を出さないため、学生は気兼ねなく積極的にディスカッションでき、自己表現力の強化が行えた。課題としては、オンライン海外訪問の時差や大人数授業の際のVR機材の用意が指摘された。
A-18 | 不完全なSSO化と不統一な強制BYOD化等の経験に基づく課題と提言 | ||
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専修大学では、2024年度初頭に不完全なSSO化と不統一な強制BYOD化を経験したことを踏まえ、課題と提言を行う。
コロナ禍の際のアンケートで、学生のPC所有率が9割であることが判明し、2024年度から学内PCの9割を撤去した。実質的なBYODへの移行であったが、通達の浸透度の低さ、学生が所持するPCのOS不統一、Office未インストールなどから混乱を生じた。また、同時期に教員用メールアカウントの保存容量上限が加わった。SSOの状況としては、MS Officeダウンロード用アカウント、LMS、Gmail等のアカウントが混在し、複数系統の認証が残っていることが課題である。
B-1 | 大学での自主的な学習習慣づけに向けた教育の取組におけるICTの活用 | ||
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初年度教育の問題として、入学時点での履修暦の差、学習習慣構築の遅れ、講義科目と演習科目の連携の不足があげられる。これらの問題点の改善のために科目間の連携を強化し、講義・演習の関係性を統一するという講義デザインの中で、教員の負荷を軽減するために ICT の活用とともに独自ソフトの作成を行った。学生は、講義後「まとめシート」を作成し、それをスマートフォンで撮影してMS Formsで提出する方法を採用した。その提出物をpdf でまとめ、更に提出状況を Excel シートに出力するソフトを開発した。今後の課題としては、シート評価作業の軽減があげられる。
B-2 | 精読と思索を促すICT活用の模索:比較文化の授業における試み | ||
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従来の文学講義の授業を、ICTツールの適切な導入により活性化できると考え、最初の試みとしてワードクラウド機能やフリーフォーマット入力機能を用いた授業改善を試みた。受講生の予習成果を共有できるようにするために、ワードクラウドとして Slido を利用した。購読範囲の頻出語の抽出には、ワードクラウドとして Voyant の Cirrus を利用した。また、授業終盤では「購読範囲に関する問」に対して Slido を利用した。学生の評価としては、テキスト理解に役に立つという意見が多く、特に頻出語の抽出は満足度が高かった。今後は、履修生の多寡に応じて、ICTを有効活用できるような工夫があげられる。
B-3 | PPTのスライドを活用した、日本語学習者への助詞の指導 | ||
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日本語が母語でない日本語学習者に助詞を指導する方法として、PPT のスライドを活用するのが効果的であることを具体例をあげて示す取組みである。スライドのメリットとしては、母語の影響を受けにくい、リアリティを高めモチベーションを高め、意味や用法の違いを際立たせることができる。具体的なイメージを抱かせ実感を持って練習させることができる。 場面を提示した上で、言葉を言わせることができる。具体例として、「は/が」の違いについて、旧情報/新情報、主題/主語、主節/従属節という切り分けで提示した。今後は、様々な教室活動にも広げていくことが考えられる。
B-4 | 教職科目における「ICTを活用して指導する能力」の育成の試み | ||
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本発表は、教職科目の「情報通信技術を活用した教育の理論及び方法」が必修となり増加した授業時間を活用し、多様なICT機器やツールを用いたグループワーク・体験・実習を通じて、学生のICTを活用して指導する能力の育成を目指したものである。授業の実践として、ICTを活用した協働学習を体験する。授業で活用できるICTツールを知る。スライド教材を作成・改善するといった取組みである。学生の反応としては、ICTを活用した指導に対する知識が深まるとともに、ICTを前向きに取り入れようとする姿勢が見られ、一定の効果があったと判断した。今後は、履修者数に左右されない授業設計を検討する。
B-5 | ICTを利用したレベルアップ形式の問題演習による、学習意欲向上効果の検証 | ||
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1年次生物のリメディアル科目は、高校での履修状況の差が大きく、以後の学習習慣に大きく影響している可能性がある。そこで、学習意欲の向上を目指す、ICTを利用したレベルアップ形式の問題演習システムを考案し、「生物補強演習」で実施し、その前後にアンケートを行い、学習意欲の変化を測定し、効果の評価・検証を行った。システムには Microsoft Teams, Forms, Excel, Power Automate を組みあわせて利用した。初回と最終日のアンケート集計の結果、意識・理解度・自信を問う回答では、ポジティブに変化した回答が多く、ネガティブの回答は得られなかった。今後も継続して評価していく必要がある。
B-6 | AIを活用した英語スピーキングテスト測定回数増加の効果 | ||
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AIを活用した英語スピーキングテストとして PROGOS (PROGOS社)を導入した。このテストでは、スピーキング力を Spoken production とSpoken interactionで測定し CEFR でのレベルがわかり、レベルアップのためのフィードバックをしてくれる。47名の学生に4月中旬から8月中旬の4ヶ月で毎月1回(最大5回)の PROGOS の受験を指導して、39名は4回以上の受験があった。初回受験時と比べ、その後のベストスコアを比較して1レベル以上アップした学生は90%以上いたが、受験回数の多寡によるレベルアップへの影響ははっきりとは言えない結果であった。今後も引続き実践を継続し結果に注目したい。
B-7 | 「ひとりDX」を実現するミニマムな個人開発:語学教育での経験 | ||
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報告者自身の語学授業のために、複数のウェブアプリケーションを構築した経験から、身近な範囲でできる「ひとりDX」の方法と課題について発表する。実践の内容としては、ロシア語(キリル文字)タイピング練習、合成音声による教材作成、音声録音・提出などを開発した。開発には、 Vue.js, Laravel フレームワークを活用し、バックエンドには Firebase を利用した。それぞれのアプリケーションは、報告者にとって授業を効果的・効率的に運用することに寄与している。課題としては、情報管理の問題があり、学生の個人情報を極力取得しないシステム設計等の対策が求められることや、システムの管理、メンテナンスコストの課題、学習効果の検証の課題が考えられる。
B-8 | 資格取得に向けた個別学習支援のための教育システムの開発 | ||
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資格試験合格のために、低学年次から学生それぞれの能力に合わせた学習支援システムの開発と適切なフォローアップが急務であると考えた。学生間における知識と理解力に個人差が生じており、対策として、科目履修状況に応じて利用できるよう資格試験の過去問題と科目シラバスを連携し、さらに学生の取組み状況や理解度を把握することで、個別学習支援へとつなげるシステムの構築を目指した。本システムは、学生の科目内容の理解の手助けとなり、事後学習時間および復習時間の増加とモチベーションアップにつながった。また、教員は学生の取組み姿勢、解答状況を把握することができた。今後の課題は、利用頻度の向上である。
B-9 | 韓国語授業におけるDuolingoの活用 | ||
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本発表は、韓国語の授業における Dualingo 活用の報告である。発表者の週1回の1、2年生の韓国語入門で初心者のクラスを担当しており、Dualingo for schools はクラス管理ができるのが利点である。実際に教員も学習を試行した後に、各クラスを設け、13回、毎週75ポイントで約30分程度の課題を与えた。利用している学生の85%以上が役に立つと考えており、聞き取りやハングル読解の向上に役立ち、授業についていくのが楽になったと回答した。Dualingo 学習についての理解が得られていないことや、実際に成績向上の効果があるかを検証することが今後の課題である。
B-10 | VRにより没入感を高め安全に多職種業務を体験学修する医学教育プログラム | ||
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医療現場における医師の医行為に関する実践的な学修において、仮想現実を導入することにより、医療現場における看護師や臨床検査技師などの多職種プロフェッショナルと連携した業務を体験学習する試行結果について、学生が反復的に演習可能であることなどの点で、有効であることが発表された。今後の課題としては、仮想現実でのシミュレーション教育を受けた学生が、実際に患者での手技を正確かつ安全に再現できるかどうかを検証することが残されている。
B-11 | VRを活用した看護基礎教育の深化−ログデータを用いた評価の可能性− | ||
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看護基礎教育において、仮想現実を活用して作成した小児への看護を題材とした教材を演習科目に導入した実践結果についての発表である。実施後の調査で、学生から好意的な感想が得られ、理解を深めることへの有効性が期待されることが分かった。更に、ログデータを活用することにより、看護実践における思考力・判断力・表現力を強化し、教員にとっても診断的評価・形跡的評価・総括的評価が可能になることが期待される。
B-12 | タンパク質分子構造を巨視的に示した仮想空間による学習・理解の促進 | ||
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タンパク質の分子構造の学習に仮想現実を導入し、理解を促進する試行結果に関する発表である。複雑な形状の構造を持つ分子は、3次元コンピュータグラフィクスによる内部構造の観察や相対的な大きさや距離感を得ることが難しいという課題があった。既知の分子構造のデータを用い、広視野没入型ヘッドマウントディスプレイとコントローラを組み合わせ、タンパク質分子を仮想空間表示できるようにし、今後、その学習効果を評価する。
B-13 | AI・IoT・DS分野における社会人の学び直しPBL講座の実践その2 | ||
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社会人の学び直しのためのPBL講座の実施結果についての発表である。大学では、産学連携で組織活性化に向けたDXリスキル教育プログラムとして、オンデマンド学習と講義・演習の受講後に、グループワーク形式の5日間のアイデア創出演習を受講するPBL講座が実施されている。今後の課題としては、参加企業からのアイデア創出演習の学習フィールドの分野変更などの要望に応えながら、企業との協働のプログラム改善がある。
B-14 | 学修記録の可視化「学びのアルバム」の試み | ||
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「学びのアルバム」と称するポートフォリオシステムの構築のため、学内にノーコードツールを導入して大学DX化を推進する取組みの発表である。アルバムのプロトタイプの開発にノーコードツールを利用するとともに、個々の教員が科目の特性や各自の授業スタイルに合わせたアルバムアプリを作成することを期待したが、現状では十分な機能の実現は困難で、教職員の操作スキルやDX化への理解の向上に向けた取組みの必要性が課題となっている。
B-15 | ミニッツペーパーのICT化における工夫とその検証 | ||
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ミニッツペーパーのICT化を検討した発表である。従来手書きでの提出を課していたミニッツペーパーを、LMSに回答する形式にすることが試みられた。この結果、学生の授業への出席回数は有意に減少したが、最終成績の平均点および授業満足度については、継続的に調査する必要があるという結論に達した。手書きの場合、代筆が困難であるという点があり、ICT化に向けては本人の所在の確認方法など検討を要するという課題がある。
B-16 | 情報活用とアクティブ・ラーニングを通した深い学びの実現に向けた教職課程の授業構想 | ||
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教職課程の科目で深い学びを実現するために、情報活用とアクティブ・ラーニングを導入した取組みの発表である。ブレーンストーミングやKJ法を用いたアクティブ・ラーニング、およびテキストマイニングや統計分析への情報活用を取り入れ、振り返りや自己変容を認識する授業を通して、教師力を向上させることを目的とした授業構想案が提示された。学生の自己変容の把握に関する検討が、今後の課題である。
B-17 | 地域児童のヘルスリテラシー向上の食育支援プロジェクト推進のICT利用の可能性 | ||
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児童のヘルスリテラシーを向上させることを目的とした食育教育を行うため、小学校と大学が連携して実施したプロジェクトの発表である。大学授業において、ヘルスリテラシーを向上させる健康教育として、KJ法やブレーンストーミングを用いたアクティブ・ラーニングにより、小学生の健康に関する問題を抽出し、健康教育プログラムを考案した。成果として、受講した学生による食育とダンスを中心とした運動の健康教育が児童を対象に実施された。
B-18 | Microsoft365を活用した出席管理システム | ||
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出席管理システムを、Microsoft365を基盤として学内で開発した取組みの発表である。出席管理システムの機能として、e-出席カードによる出席提出は、学内WiFiに接続した端末のみから可能で、GPSにより教室への在室確認も可能となっている。教員は、出席データのダウンロードに加え、提出された学生コメントのリアルタイム表示ができ、授業の双方性が改善される。2024年度から本稼働を開始し、2024年4月は、前年同月の約2倍の利用率となっている。
B-19 | 学生自身による学習振り返りのための視覚的なスケジュール管理と出欠システム開発 | ||
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理系大学における卒業論文・修士論文に学生が主体的に取り組むのを支援することを目的として開発された、スケジュール管理・出欠システムの発表である。毎月の初頭に、卒論・修論の取り組みの目標として、研究室への滞在予定を入力し、実際の出席データを照合して比較し、自身の目標達成度や研究室の他メンバーの頑張りを確認できるようにしている。このシステムの使用により、学生の目標の達成状況を教員も把握でき、研究指導に役立てている。