事業活動報告 No.4
本協会では、私立大学における職員の職務能力の開発・強化を支援するため、業務改革DXの観点から日常の業務を振り返り、ICTを駆使して望ましい大学業務の在り方をイノベーションできるように、最新のデジタル技術導入事例などを踏まえて知識・理解の獲得、実践的な考察力の促進支援、主体的に取組む考察力の獲得を目指します。
本年度は、昨年度に引き続き対面での開催とし、以前からの合宿形式を移動や参加のしやすさを検討の上、集合型の研修として10月21日(月)〜22日(火)の2日間にわたりアルカディア市ヶ谷(私学会館)において実施した。
本年度の参加者は36大学1短期大学60名であり、前年度の参加者36大学62名と同様の参加となった。
所属部門では、情報センター部門33%、学事・教務部門が23%と多く、人事・企画・学生部門がそれぞれ10%、その他に総務、会計経理、広報、就職、図書館、研究部門の参加があった。年齢別では、20代が50%、30代が30%、40代以上が20であった。男女比は男性58%、女性42%であった。参加部門や年齢の比率はほぼ例年同様の傾向と考えるが、例年より女性の参加が増えたことから集合型による参加のしやすさが要因としてあったのではないかと思われる。
本コースでは、1日目の全体研修において、開会挨拶とイントロダクションで職員の役割を共有した上で、大学DXの観点から、それらを考察するためのICT利活用の意義・好事例について情報提供を受け、職員各自が果たすべき役割やそれを実現するための手段として、ICTを活用する意義・重要性について理解を深めた。グループ討議では、業務改革のDXについて課題を絞り込み、自らがどのように関与すべきか、ICTを活用した望ましい改善策の提言作りを通じて、主体的な考察力、イノベーションに取組む姿勢の獲得を目指した。
1日目の最後に中間発表を行い、他グループからの意見・感想を受けて、2日目の午前中にグループ討議を通じて振り返りを行った、その上で、午後に全グループによる最終発表を行い、グループ間による相互評価・意見交換を通じて、様々な課題や解決のあり方があることを体験する構成とした。
川瀬 友太 氏(関西大学学事局授業支援グループ教育開発支援室・教学IR室グループ長補佐)
関西大学では、2014年度に教学IRプロジェクトを設置し、大学全体の教育課程編成・実施の方針(カリキュラム・ポリシー)に掲げている「学修成果の評価」を実施するために、学事データや学生の学修活動、大学の教育活動、入試、キャリア等に係る根拠データを組織的に収集・分析、可視化し、計画立案や意思決定に資するデータとして活用している。
活用方法は、学内部局が独自に実施していた学生調査データを一元化し、学習行動(学習時間、意欲、満足度)に関する入学時アンケート調査、年次終了時パネル調査、卒業時アンケート調査結果に学業成果(学業成績や履修状況、正課外活動)を組み合わせ、学修成果として可視化している。
調査結果は、学部教授会等へ報告するほか、個別学生に対しては、大学ディプロマポリシーに掲げる「考動力」を具現化する「考動力コンピテンシー(自律力、人間力、社会力、国際力、革新力)」に関する調査をすべての項目で実施し、スコア化したものを所属学部平均値とともにレーダーチャート形式でフィードバックしている。学内各種プログラムをコンピテンシー伸長の観点から仕分け・整理し、推奨プログラムとして紹介もしている。
これまでの教学IRプロジェクト推進によるおもな成果として、「教学IRの浸透」「教学データの活用促進」「内部質保証の推進」をあげ、今後は、「学生の成長に導くIR」、「教育の質向上に導くIR」「組織の成長に導くIR」を展望し、データに基づく意思決定をしていく組織の醸成を図るとともに、個別最適化された学習者本位の学びの提供にむけた統合データベースを構築し、用途に基づき必要なデータを組み合わせて可視化・分析できる仕組みとして活用していくこととしている。また、プロジェクト推進を通じて顕在した様々課題解決にむけては、人材育成とデータリテラシー向上を図ることを標榜し、若手職員むけ研修プログラム実施事例として紹介するとともに、講習会参加者に対して、学び続けることの大切さ、持続的に学びあう組織づくりの重要性についてのメッセージが寄せられた。
鎌田 浩史 氏(上智学院IR推進室チームリーダー/上智大学基盤教育センター非常勤講師)
大学運営から大学経営への転換、因果と相関、データの前処理・分析・共有の勘所、価値創造について情報提供があった。
KKD(勧と経験と度胸)の大学運営からKDD(Knowledge-Discovery-Databases)の大学経営へ転換があり、ビジネス力・データサイエンス力・データエンジニア力を持ったデータサイエンティストの集団が必要となっている。データサイエンティストは様々な観点から質の高いエビデンスを持った因果関係を考察する必要があり、様々なデータが必要となる。データは扱う手法をフェーズに合わせて適切に選び、前処理では学内データ・オープンデータ調査を実施しデータの収集を行い、外れ値・欠損値、表記ゆれと名寄せ、ELTツールを利用してデータ洗浄し、データレイク・データハウス・データカタログの整備を行い、データを保管する。なお、データの取り扱いにおいて個人情報の事業所内利用は「個人情報保護法第23条」の適用範囲外となる。次に分析となるが「いきなり細部を見ない」ことが肝要であり、鳥の目で全体を俯瞰し、虫の目で詳細を分析し、魚の目で潮流を把握することを意識する。分析の3つの定石は内部比較、ベンチマーク、時間推移であり目的にあったデータ解析の型を選ぶ必要がある。最後のフェーズは共有だが、分析の際に会議資料はグラフ化すると直感的に分かりやすくなり、データの性質に合わせて適切なグラフ作成を心がける。グラフにおいては、「事実」をメッセージにすることが大切である。メッセージは一般的な話から始め、個別の事象、最後に一般的な話と、砂時計の形を意識する。最後に価値創造は、ユーザーの発言から真のニーズを理解することが価値の創造につながるとの説明があった。
前川 昌則 氏(近畿大学経営戦略本部デジタル戦略室課長代理)
近畿大学におけるこれまでの事務系・教育系のDXの取り組みと、生成AIプラットフォーム「Graffer AI Studio」のトライアル導入について情報提供があった。
DXの取り組みでは、電子決裁や電子契約の導入にともない、業務フローも見直すことで単なる電子化にとどまらず、業務効率と業務スピードの向上に努めたことが紹介された。また、ビジネスチャットツール「Slack」およびSlack上で提供される学生向けチャットボットについても紹介があった。今後は、学生のBYODを前提に、従来PC教室で提供されていたソフトウェアを仮想デスクトップ形式で提供することや、PC教室の削減が予定されている。
生成AIプラットフォームの職員向けにトライアル導入した際の準備から結果までが紹介された。生成AIサービスの選定においては、乗り換えやすさ、ユーザー管理、プロンプトの共有機能、セキュリティ機能などが重視された。トライアルの結果として、生成AIの利用効果が高い業務や利用例、また十分に活用できないケースの特徴などが紹介された。トライアルを通じて、生成AIの活用と定着には勉強会やコミュニティをはじめとする伴走支援が有効であることが報告された。
北 真一 氏(日本女子大学管理部システム課長)
日本女子大学における生成AI活用とDX人材育成の取組について情報提供があった。
生成AI活用では、会議の録音データをWordオンラインで文字起こしし、その後生成AIを用いて議事録を自動生成する仕組みをExcel VBAで開発、その仕組みが紹介された。さらに、Microsoft Teamsチャットを通じて最新言語モデル(GPT-4)を活用する学内専用の生成AIサービスを内製で開発し、全教職員に提供し業務効率を向上させた。今後は学内情報検索に特化したチャットボットの提供も予定している。
DX人材育成では、現場主導の改革を重視。現場がニーズを最も理解しており、大規模な改革には部門間の連携が不可欠との視点で、現場が主体となるボトムアップ型でDX改革を推進することを基本方針とした。
取組内容として、まず全専任職員を対象にDXリテラシー診断を行い、特に可能性の高いスタッフを各部で1名〜2名・中堅職員を対象にDXコア人材として選抜した。これら人材には問題解決フレームワーク研修を提供し、獲得したスキルを実業務に活かす支援を行った。彼らの業務改善案の実行により学内の課題が解決され、現場のアイデアを活かした業務効率の向上と発展に取り組んでいる。
(1)グループ討議は1グループ5〜6名で構成し、11グループ(3会場)に分けて行った。各会場には2〜3名の運営委員が常駐し、討議が行き詰まらないようにファシリテートを行った。1日目は、情報提供や自大学での課題等について情報共有しながら、グループ単位で業務改革DXの課題解決洗い出し、解決策構想の深堀をしつつ、解決すべきテーマを設定の上、具体的提案課題を決めて中間発表を行った。また、中間発表では、参加者から他のグループに対しての具体的なフィードバックを行い、多様な感想・意見を共有できるように配慮した。
(2)2日目は、フィードバック内容を確認・検討し、実現可能性を含めた提案の見直しを行い、発表資料を完成させ、グループ毎に最終発表提案を行い、相互評価や運営委員から講評を行うことで、講習会のまとめとした。
(3)グループ討議からの提案概要では、
① ICTの活用については、「チャットボット」、「電子決済・ペーパーレス」、「コミュニケーションツール」、「RPA」、「AI」、「BIツール」の提案があった。
② DX化に向けた課題解決としては、「環境づくり」、「安心感・コミュニケーション促進」、「プロジェクト化」など、対応や体制面から推進する提案も見られた。
③ 提案の一例として、「受験生と教員のマッチングアプリ」、「資料・データの検索時間削減」、「IR分析結果の活用」、「学生を巻き込んだペーパーレス化の取組み」、「窓口業務のスマート化」などがあげられた。
参加者には、本講習終了後、2週間程度の期間をとり研修事後レポート・アンケートの提出を求めた。レポートから今後の取組み姿勢の一部を紹介する。
① 業務DXにおけるSD研修を学内で実施したい。
② 紙申請書のデジタル化や手作業業務の効率化を優先的に進め、システム導入の基盤を整えたい。
③ 窓口業務の負担軽減をテーマにAIを活用した対応を構築したい。
④ 生成AIに関して、まずは情報システム課内で業務に活用できるか検証を行いたい。
⑤ データの見える化と生成AIの活用を検証するチームを構築したい。
⑥ チャットボット設置等により、単純作業を減らし、業務の質の向上に時間を充てたい。
⑦ 業務プロセスを洗い出し必要性を再評価することで、情報検索や確認作業のプロセスを改善し、RPAや自動化ツールにより業務の効率化を図りたい。
⑧ 上位者や学生を巻き込んだ改善活動を意識しながら、業務改善に取り組んでいきたい。
本講習会は、私立大学職員のICTを活用した業務改革推進を目的とし、DXの視点から実践的なスキルや考察力を養成する場である。全体研修やグループ討議を通じて、参加者はICT利活用の意義を深く理解し、現場の課題解決に向けた具体的な提案を行う学びの機会を得たと思われる。
本年度は、関西大学や上智大学、近畿大学、日本女子大学などの事例を通じて、教学IRや生成AI、データ活用に基づく意思決定の促進、現場主導のDX人材育成など、多岐にわたるテーマが提供された。参加者のレポートからは、学内でのSD研修実施、AI活用による業務効率化、ペーパーレス化推進など、今後の取り組みに向けた積極的な計画が共有された。
グループ討議では、チャットボットの導入や窓口業務のスマート化といったICT提案、安心感とコミュニケーション促進を重視した推進体制の構築など、多様かつ実現性の高い提案が数多くあげられた。また、発表とフィードバックを通じ、グループ間での意見交換が行われ、多様な解決策を共有する機会となった。
本講習会を通じて、ICTとデータ活用を基盤とした業務改革の可能性が広がる一方で、DX推進には人材育成と持続的な組織づくりが不可欠であることが再確認された。参加者には、得られた知見をもとに主体的にDX推進を進めていく役割が期待される。
文責:大学職員情報化研究講習会運営委員会